『月姫』を識る者   作:マジカル赤褐色

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白夜とクロエ

 

 

─────日光を浴びたことで体調を崩した俺は、紀庵と福原さんに連れられて食堂に搬送された。

 

 

「あ…………ア゙ぁ……………」

 

「まったく………世話の焼ける友人だ…………」

 

「大丈夫?中村くん………顔色はだいぶ元に戻ったみたいだけど………」

 

「う、うぅ…………そうだな…………の、紀庵………飲み物………」

 

「あぁ、これだな?」

 

 

紀庵に飲み物を差し出されて俺は飲み干す。

 

 

「まったく………虚弱体質は今に始まったことじゃないが、最近の中村はやけに調子が悪いな。何かあったのか?」

 

 

まったく紀庵の天眼には恐れ入る。

馴染みとはいえ5年程度の付き合いで俺の体調をしっかり把握できるあたり流石としか言いようがない、

 

たしかに昨日の晩から明らかに体調が悪い。

昨日の事で処理が追いついていないのか、右肩の怪我のせいなのか、それは判断できない。

しかし、この妙に重たい倦怠感はちょっといつもの不調とは違う。

昨日の夕方も、不自然な立ちくらみを起こしたし、ここしばらく俺の身体の何かがおかしい。

 

 

「……………なんでだかな。季節の変わり目だからか?」

 

「最近ちゃんと寝てるのか?寝ている間も神経の切り替えは起きてるんだぞ。お前の場合、最低でも8時間以上の睡眠は必須だ。睡眠時間が短いと交感神経が休まらんからな」

 

 

俺の主治医かお前は…………

そんな常に気を配られなくたって、自分の身体のことは自分で管理できてるんだっての。

まぁ、それとは別のところで、気を配ってもらえていることに関しては悪い気はしないが。

 

 

「まぁ、いい。せっかく食堂まで来たしなんだ、軽食でも摂るとするか?かけうどんくらいなら奢ってやるぞ」

 

「それはただの昼食だろ…………」

 

「まぁ………中村くん結構食いしん坊だもんね」

 

「身体は弱いのに胃袋は無限とは、随分と随分だよ、お前は」

 

「あのなぁ………人によって食う量は違うんだよ………俺が食い意地張ってるみたいに言いやがって………」

 

 

身体が弱い分、より多くエネルギー摂らなきゃいけないんだよ俺は。

でもたしかに腹減ってきたな…………紀庵のお言葉に甘えて、ちょっとなんか昼飯奢ってもらおうかな…………

 

 

 

「─────あら?中村くんじゃないですか」

 

 

すると、俺の背後からジュージューと肉汁の弾ける音とともに誰かが背後から歩み寄ってきた。

 

 

「──────あっ、あんたは」

 

 

俺の背後からやってきたのは、ハンバーグのプレートを持って歩いてきた、昨日の青髪の先輩だ。

 

 

「昨日ぶりですね、中村くん。こんにちは」

 

「ハンバーグの先輩………どうもっす、」

 

 

しっかり今日もハンバーグ4枚乗せて、飽きないのか。

あれ!?昨日より1枚増えてねーか!?

 

 

「はい。元気な挨拶で何よりです。今日はお友達と一緒なんですか?」

 

「えぇ、まぁ。そうだ、紹介しますよ先輩。友人の菊山紀庵と福原萌香さんです」

 

 

紀庵と福原さんは先輩に軽く会釈をした。

 

 

「えぇ。知っていますよ、会長の菊山くんと、書紀の福原さんですよね。お二人とも、とても優しい方です」

 

 

俺のぎこちない他己紹介に先輩はくすっとした笑顔で返してきた。

 

 

「あれ?紀庵、この人と知り合いなのか?」

 

 

なんか、二人のこと知ってる的なこと言ってたぞ今?

紀庵は俺の疑問に疑問で返してきた。

 

 

「それはそうだろう。おや?まだ伝えてなかったか、生徒会のメンバーが増えたって話」

 

「聞いてねーよ…………」

 

「そうだったのか。中村も『クロエ先輩』と知り合いだったか」

 

 

なんなら、紀庵は俺も知らない彼女の名前を知っていた。

クロエ。それがハンバーグ先輩の名前だった。

 

 

「クロエ先輩って言うんですか」

 

「はい。私の名前は永月(なつき)黒依(クロエ)といいます。転校生なので分からないことだらけだった私に菊山くんが色々と学校のことを教えてくれたんですよ」

 

「そうだったのか…………」

 

 

流石紀庵だな、アンテナは広いしすぐ頼りにされる。

 

 

「昨日の放課後に転校関連の書類を職員室に出している彼女の姿をみたのでな。余計なお世話ではあるがつい声をかけてしまった」

 

「余計なお世話だなんてとんでもないですよ菊山くん。私、昨日はとても助かりました」

 

「いえ、お気になさらず。会長として当然の務めでございます故、」

 

「やけにギア違うな、紀庵」

 

「そ、そんなことは無いとも。俺はいつでも全力だ」

 

 

嘘ッそつけ。クロエ先輩にお礼言われた途端に目の色変わっただろーが今。

 

 

「そうだクロエ先輩。中村のやつ、今具合悪いんですよ。それで────」

 

「なんですって!!!」

 

 

紀庵が言い終わる前にクロエ先輩はハンバーグのプレートを真上に投げ捨て、机を両手でバァンと叩いた。

 

─────その机の叩き方はリーガルサスペンスの裁判パートでしか見ないんだよ…………

 

 

真上に投げられたハンバーグプレートは垂直落下し、クロエ先輩の手元でキャッチされた。

肉汁の一滴すらこぼしてない。

 

──────やってること化け物。

慣性と空気抵抗を無視してる。

 

空中に料理投げてなんともないって、それサッカーボール無回転で投げるのと同じだぞ。

 

 

「大丈夫ですか中村くん!体調が悪いなら、保健室に行かなければなりません!どうして食堂に来ているんですか!」

 

「あぁ、発作は収まりましたよ。こいつ、昼間に体調崩すんで『ゾンビ』ってあだ名ついてますから」

 

「ついてねーよ、お前が今考えたんだろふざけんな」

 

 

俺は紀庵の頭をひっぱたく。

 

 

「それで、中村くん今お腹が空いているようなので、私と菊山くんでご飯にしようとしていたんです」

 

「よかったらクロエ先輩もいかがです?仲良し4人組の歓迎会としましょう」

 

「おいお前、勝手なこと…………」

 

 

クロエ先輩にも事情とか用事いろいろあるのに。

そんな断れないような感じの誘い方は…………

 

 

「もちろん喜んで!中村くんはお腹が空いてるようですね?なら、このハンバーグを1枚差し上げましょう」

 

「だー!もう………!結局そうなるのかよ………!」

 

 

どんだけ俺にハンバーグ食べて欲しいんだよこの人…………!!

 

 

「いえ。先輩のものをいただくなど畏れ多いです」

 

「そうだそうだ。いくら遠慮知らずの中村とはいえ、厚意は若輩者から目上の方に向けられるべきものだ」

 

 

紀庵が珍しく同調してくれた。

仲はいいがとにかく気が合わないのでこんなことは非常に稀だ。

しかし、紀庵1人が味方にいるだけでだいぶ違う。

 

 

「よって、中村のぶんのハンバーグは俺に奢らせてください。福原もハンバーグでいいな?」

 

「うん、今日はハンバーグパーティだね。あっ!私、ちょっと今ダイエット中だから小さいのでお願い!」

 

「了解。中村はどうする?まぁいいや、テキトーに選んでくるか」

 

「オォイ!!!」

 

 

俺ハンバーグ食うなんて言ってねーぞコラ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなわけで、中村の家は随分と広いんですよ。何より、お抱えのお手伝いさんが皆、可憐で………」

 

 

机には俺たち4人が座り、紀庵が俺んちに遊びに行った時のエピソードを語りながら時間がすぎていった。

俺の机には紀庵とお揃いでチーズハンバーグが一つ。

…………ふざけんな。お前が食いたかっただけだろ紀庵。

 

 

「あの緑髪のお方なんて、随分と優しいお方だった。あれで御年20代とはにわかに信じがたい」

 

「まぁ…………それは同感。舐瓜さんすごく優しいからな」

 

「中村くんのおうちにはメイドさんがいらっしゃるんですね」

 

「えぇ………まぁ。一番上のが5月15日生まれの二十歳で1年ずつ遅れて生まれて姉妹で5人です」

 

「中村くんのおうちのメイドさんたち、みんなそれぞれ個性があって素敵な女性ばっかりなんです!お姉さんもすごいきれいな人で………私の憧れなんです!赤髪のメイドさんもクールで素敵ですし、」

 

 

ぶっふぉ……(笑)

あの姉貴のどこに憧れる要素あるんだよ。

まして林檎にクールビューティー………福原さんの目は節穴だな。

 

 

「どうなんですか?中村くん、メイドさんたちのなかにお気に入りの方とかはいるんですか?」

 

「んがぁぁぁっ!?」

 

 

クロエ先輩が急に爆弾質問をぶっかけてきた。

 

 

「な、なにを急に!」

 

「ダメだな中村。このとき咄嗟に『全員が好き』と答えられないということはお前はすでに答えをお持ちのようだな!」

 

 

紀庵が眼鏡を持ち上げた。

もう嫌な予感しかしない。

 

 

「中村のタイプは歳上お姉さんだ。長女が御年20歳ということは1年ずつで三女までが中村より歳上だ。長女が清楚系メイド長、次女がクールで寡黙な少女、三女が元気少女………中村はこれでも女子ウケがいい。元気な女の子に集団に囲まれても平然としているどころかむしろ鬱陶しそうにしているということは、元気少女は好みには入らないだろうな。となると答えは二択。だが、甘え好きな中村が、身持ちの堅そうなクール系の女子に惹かれるとは思えない。よって、答えは清楚系の二十歳長女で決まりだなどうだ中村!これ以上詮索はしないから、この一回だけ正解か正直に答えたまえ!」

 

「ハイハイ正解だよ良かったなクソ野郎」

 

 

なんで当てるんだよ。

 

 

「たしか全員フルーツの名前だったな。葡萄さんだったか、あの紫のお方。俺はあの人を見たときに感じた。『この人は磨けば光る』とな、」

 

「メガネの度が合ってねーんじゃないのかお前」

 

 

あの葡萄のどこに素材の良さがあるんだよ。

そりゃ性格はいいけど、あんな見た目無愛想で暗くて影の薄い…………

 

 

「今度メイド服以外の服も着せてやれって。メガネっ子図書委員とか、明らかに適性も需要もある」

 

 

需要はねーだろ。

暗いところで一人でずっと本読んでばっかで話しかけられても全然反応示さないやつだろ?恋愛小説によく出てくるぜそーいうやつ。

それ女になったお前のことだよ紀庵。

いつもの慧眼もだいぶ調子悪そうだな。

 

天地がひっくり返ろうと、葡萄が可愛いだけはない。

 

 

「ねぇねぇ、放課後時間あったらどこか遊びに行く?」

 

 

福原さんが珍しく遊びに誘ってきた。

確かにこのメンバーで遊びに行く事ってあまりかないかもしれない。

 

 

「それは良いな。先輩はどうです?」

 

「お気持ちはうれしいですけど、いいんですか?私はこのお昼の歓迎会でも十分なのに」

 

「遠慮しないでくださいよ。いっつもこの3人しかいないんですから。新しい仲間が増えて嬉しいです、だろ?中村」

 

「まぁな。上級生の友達っていうのは、確かに頼れる存在だし俺も歓迎したい。友達と遊ぶときは金に糸目なく行くべきだな」

 

 

俺も友達はこの二人しかいないし、他のと話すのは慣れない。転校生なうえに上級生なんてな。

でも、友達がいないのは彼女だって同じだ。

それに、俺たち全員知り合い同士なんだったら仲良くなれそうだ。

別に、ぜんぜんクロエ先輩はいい人だしな。

 

さて…………遊びに行くってなると、必ず毎回といっていいほど俺が飯を奢らされるんだよな…………

そりゃあ、こん中じゃ俺の家のほうがぶっちぎりで金持ちだから当たり前っちゃ当たり前なんだが…………別に中村家の財力が無尽蔵なだけであって、俺の小遣いは無限じゃねーぞ。

そろそろ何かバイトでも始めようか。

 

 

「だが悪いな、俺は今日帰ってから用事があるんで歓迎会は別の日にして貰えると助かる」

 

「そうか。それにしても中村、行く気まんまんじゃないか。まぁ無論、こちらとしても財布がなくては遊びに行く事もできないのだが」

 

「今俺のこと財布つったろ」

 

 

この男は…………会長のくせに俺の前ではほんとに人間を疑うような…………

まぁ、それくらい気の置かなくていい関係性なんだが。

紀庵以外に財布呼ばわりされたら普通にぶん殴ってる自信がある。

 

 

「中村くん、このあとおでかけ行くの?病院とか?」

 

「いや。姉貴におつかい頼まれてて教会に行ってくる」

 

「教会ですか?」

 

「なんだ中村、お前もいよいよ信仰持ち始めたか?お前、神様とか嫌いなんじゃなかったのか?」

 

「神なんか誰が信じるかよ。教会で仕事してる人に用事があるんだ」

 

 

まったく、宗教ってのはホントにバカバカしいもんだ。

なーにが神が世界を作っただ。

神を作ったのは俺らだろうが。秒で矛盾したこと言ってくる団体になんか、誰が信仰持つかよ。

 

俺は吐き捨てるようにそう言うと、目の前にあるチーズハンバーグを平らげた。

 

 

紀庵のやつ、なんでこんな重いもん持ってきたんだよ。お前が食いたかっただけだろ。しかもがっつり800グラム持ってきやがって。

 

 

「それじゃあ、いつにしよっか。クロエ先輩の歓迎会。どこでやるの?」

 

「この街はなんもないからな。駅か…………あ、そうだ。中村邸は?」

 

「おい待てなんでそーなる!」

 

「構わんだろう?俺たちの知ってる限り一番楽しいところだからな。料理も美味いし、中村邸だったら実質無料であるしな」

 

「お前よぉ………そんなとこでなんの歓迎会になんだよ………」

 

 

生徒会長とは思えない論外意見を耳にして呆れていた俺だったが、クロエ先輩の目はキラキラ光っていた。

 

 

「先輩ごめんなさい、こいつの言うことはほっといて…………」

 

「いいですね!中村くんのお家!」

 

「えッ…………?」

 

 

まさかの食いついた。

 

 

「中村くんのお家、あの大きさの豪邸。一度入ってみたいと思っていたんですよ!」

 

「ちょっ、ちょ!いて!なんでだよ!!!」

 

「私も夏からご無沙汰しているし、久しぶりにお姉さんたちにご挨拶に行きたいな〜。それに、あの時に食べた料理ぜんぶ美味しかったし!」

 

「ダイエット中の福原は来なくても差し支えないぞ?」

 

「そ、それは別!私、蜜柑さんの料理好きなんだもん」

 

 

いやいや、お前ら…………勝手に話進めるんじゃねーよ…………

 

 

「中村よ、今度お前の家に邪魔しても良いか?」

 

「おねがーい、中村くん!」

 

「今回の主役の私も中村くんのお家、お邪魔したいです!」

 

 

クソ………3人満場一致ってか、しゃあねーか………

 

 

「あー…………うん…………わかった、ちょっと聞いてみるわ」

 

 

俺は携帯電話を出して、テキトーに誰かに電話をかけることにした。

この場でOKが出るとは思ってないが、別に困るのは俺じゃない。俺も別にパーティ好きだし。

ちょっと。というか結構楽しみだし。

 

よし、そんな事だったら俺もノっていくか。

電話先はメイド5人姉妹と姉貴の6択。

いかなる連絡でも姉貴は基本的に論外。

こういうお楽しみ事を積極的にやってくれる人はもう一人しかいない。

 

 

 

 

「────もしもし、蜜柑さん?俺だけど、」

 

 

そう、蜜柑さんに決まってる。

蜜柑さんならパーティを断るわけがないし、なんなら姉貴たちに内緒で準備するぐらいだ。

その時々に合わせて、一番都合良い相手に電話するのがこの家に生きるコツだ。

 

 

 

 

『坊ちゃまですか?そっちに、今林檎ちゃん来ていますか?』

 

 

だが、蜜柑さんの声がやけに震えていた。 

どんなときも元気で、ミスしたときも「あちゃー」と笑ってる蜜柑さんが焦っているのは久しぶりに見た。

 

 

「蜜柑さん?なんかあったのか?林檎なら居ないぞ、ここ学校だからな」

 

 

蜜柑さんは「まぁ!」と小さく悲鳴を上げた。

 

 

「おい、蜜柑さん?もしもーし?蜜柑さん?」

 

『…………ご、ごめんなさい坊ちゃま。帰ってからでいいんです、』

 

「いや、蜜柑さんが焦ってるって。相当なんかあった時だろ?何でもいいから言いなって」

 

 

蜜柑さんが気を遣ってくれているのを見抜かれたと思ったのか、蜜柑さんは恐る恐る口を開いた。

 

内容からして林檎の事で何かあったのだと思うのだが。

もしかして林檎のやつ、またなんかやっちまったのか?

 

 

『じっ………実は、今日の朝に私と林檎ちゃんと檸檬ちゃんの3人で駅前に買い出しに行っていたのですが、林檎ちゃんだけ帰ってこないんです………』

 

「林檎が帰ってこない?どこではぐれたんだ」

 

『帰っている途中で突然いなくなったことに気が付きました。最初のうちはちゃんとついてきていた筈なのに………』

 

『どどどどどどーしよう!!!林檎お姉様、今朝のことで嫌んなっちゃって、家出しちゃったー!!!』

 

 

電話の向こうから檸檬の慌てふためく声が聞こえてきた。

 

 

「なんだって………!?おい、蜜柑さん!林檎には連絡したのか!?」

 

『は、はい…………ですが、メールには既読もつきませんし、電話も繋がらないんです…………坊ちゃまからの電話だったら、もしかすると出てくれるかもしれません』

 

 

なんと、林檎が行方不明になったという連絡だった。

まだまだお昼時だが、今の御時世この街のなかで行方不明になって夜までに帰れなかったら翌日にはたいてい死んでいる。

 

あの野郎…………!!!今の街の状況わかってんのかよ!?

 

 

「わかった。林檎に電話かけてみる。蜜柑さんと檸檬はもう一度駅前までの道を探してきてくれないか?」

 

『かしこまりました、坊ちゃまもよろしくお願いします』

 

『えーっ!?やだー、また歩くんですかー!?』

 

「……………檸檬は引っ張ってでも連れて行って」

 

『はい!お任せください!……………お願いします、坊ちゃま、』

 

「あぁ。あとで俺もそっち行くよ」

 

 

俺は電話を切った。

 

 

 

「なんの電話だったの中村くん?」

 

「────────────」

 

 

福原さんの質問を聞く間もなく俺は林檎の番号に電話をかけてみる。

 

 

 

 

「────────────」

 

 

あの馬鹿野郎…………お前が帰ってこないんだったら、誰が俺の面倒見るんだよ。

そこまで考えてから一人で突っ走れよ…………クソふざけやがってあのダメメイド。

 

 

「────────────」

 

 

蜜柑さんたちは駅前ではぐれたって言っていた。

だとすると、林檎は駅周辺の何処かにいるはず。だが、最悪の場合電車に乗って隣町まで消えたという可能性もなくはない。

 

そうなると、もしこれからの電話に出なかったら捜索はかなり難航する。林檎が夜までに勝手に一人でノコノコ帰ってくればクソ怒るだけで済む話だが、あの頑固者の林檎が家出して1日そこらで帰ってくる気がしない。

 

だから、ここの電話に出なかったら─────

 

 

 

「──────、」

 

 

電話のコール音が止まった。

外からは何やらザワザワとしたノイズが聞こえてくる。

 

 

「繋がった………もしもし俺だ、林檎か?」

 

 

俺は電話の向こうにいる林檎に呼びかける。

 

 

 

 

『──────へぇ………可愛い名前。彼女、林檎さんっていう名前なんだ』

 

「───────────」

 

 

しかし…………

向こうから聞こえてきたのは、林檎の声じゃなかった。

 

 

「──────誰だ、お前」

 

『電話の向こうの人に向かってお前はないよ。さすが、チンピラ風情は違うね』

 

「答えになってねーぞ。…………お前は、誰だ」

 

『ふふっ………さぁ?誰だと思う?ちなみに僕の勘違いじゃないなら…………君の声、僕たちもう既に会ってると思うんだけど』

 

 

俺の声、知ってんのか。

じゃあ、既に俺たち会ってるって………?

 

でも、こんな声のやつ会った事あっただろうか………?

 

 

『ふふふ……………』

 

「なんで林檎の電話から違う奴が出てくるんだ。林檎は今どこにいるんだ」

 

『そう逸らないの………安心して。【まだ】彼女には何もしていないから。今は僕の後ろで静かにお昼寝しているよ』

 

 

林檎は仕事中に昼寝なんてしない。

弱みが増えるような行動を彼女はやらないし、隙を晒すこともない。

その林檎が見知らぬ奴の前で寝るってことは、なんか一服盛られたとしか考えられない。

 

 

「林檎に何する気だお前!今からそっち行く、どこにいる!?」

 

『あっはっはっはっは!!!』

 

 

電話の向こうの奴は高笑いしてきた。

 

 

『今からチンピラに攻め込まれるかもしれないっていうのに、自分がどこにいるか教えるやついるわけないでしょバーカ!!!あっはっはっは!君、頭わるいね〜』

 

「ッ……………テメェ…………!!!!!」

 

 

俺は携帯電話を机に叩きつけた。

食堂じゅうに響き渡る爆音に全員の視線がこっちに向いた。

紀庵と福原さんが跳ねて驚いたが関係あるか、んなもん。

 

 

「……………林檎さんはね、自分の意思で僕についてきたんだよ。僕は無理やり彼女を攫ったりなんかしていない。ちょろい女で助かったよ。ちょっと声かけて会話しただけで、すぐに『信頼』してくれたんだからね、あははっ…………」

 

「──────────────」

 

 

俺はもう何も聞いていない。

こいつの話なんて聞くだけ無駄だ。

変な挑発に乗ったりするな。でも電話を切らない理由が一つだけある。

 

───────俺は聞かない代わりに、【聴いている】。

 

 

 

 

「───────紀庵!!!」

 

「おおっ!?な、なんだ今度は!?」

 

「お前、電車のことは何でもわかるつったよな!」

 

「ま…………まぁ…………ある程度はだがな、」

 

 

俺は聞き逃さなかった、奴が会話している所に電車の通る音がしたのを。

 

 

 

「今この瞬間、5秒ぐらい時間かけて通過する長さの電車が通った場所、わかるか!?」

 

「ええ、えぇぇぇぇっ!?なんだその妙な質問は!?」

 

「いいから急いで計算しろ!!車両の長さぐらいは分かるだろーが!!」

 

 

電車のことは鉄道ファンのこいつに聞いたほうが速い!!!

 

 

「ま、待った。もしJR線の話をしているのなら、5秒で通過するということは通常編成より女性専用車両が付いているぶん長いはずだ。となると、快速電車の可能性が高い。福原、今何時だ?」

 

「えっ!?私!?えーと………10分!13時10分!」

 

「なるほど。この時間に特急が通る駅は苑持寺中央だな。俺が乗ったことがあるので保証できる。そこから少し登りの線路のどこかにお前の言った座標があるぞ中村」

 

「どこかって………隣駅まで歩いてしらみつぶしってか!?」

 

「快速電車は時速100〜120キロ。苑持寺中央に快速登りが到着するのが13:08で時間通りならばそう遠くまでは行ってないはずだ。だいたい駅から3、4キロだろうか」

 

「そうかよサンキュー!!例なら明日にでもなんか奢る!!!」

 

 

俺は蹴っ飛ばすように席を立つと、食堂の外に向かって走り出した。

 

 

「ちょっと中村くん!?どうしたの!?」

 

「悪い!具合悪くなったから帰るわ!!!」

 

「お、おう……?めちゃくちゃ元気そうだが!?」

 

「き、気をつけて帰ってね中村くん!!!」

 

 

俺はこんな真っ昼間から学校を飛び出した。

 

 

「……………………………………………………」

 

 

俺を見送るクロエ先輩は無言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ…………!!!」

 

 

俺は学校を出て駅まで向かった。

 

いつの間にか、林檎への電話は切れていた。

まぁ、もう必要ない。どこにいるか分かったのならこれ以上話を聞く必要はない。

 

 

 

「ぜってぇブッ飛ばしてやる…………」

 

 

 

林檎に手を出したうえに俺をチンピラ呼ばわりしてきやがって、散々挑発してきた。

こんなん、何発かぶん殴ってやんねーと、わざわざ学校を抜け出してこんな走らされた苦労にまったく釣り合ってねー。

 

 

 

待ってろ林檎…………帰ったらクソほどケツぶっ叩くから覚悟しとけ!!!

 

 

 

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