『月姫』を識る者   作:マジカル赤褐色

14 / 15
月下の誓い

 

 

 

「だーかーら!俺はただの目撃者なんだよ!俺が見た苑持寺の生徒が犯人だっての!」

 

 

俺は結局、警察に捕まって事情聴取を受けるハメになった。

警察は俺から「ビルで事件が起きてる」ということしか聞いていなかったため、現場に俺しかいなかったのを捕らえるしかなかった。

 

 

「どうだ、葦原(あしはら)、」

 

「先輩、さっきからこの少年わけのわからんことをずっと………」

 

「おい!アンタも調べてくれよ………!通報したのは俺だ!声残ってないのかよ!」

 

「そんなんアリバイとして不十分だ。だいたい、あの建物は進入禁止になっているはずだ」

 

「ちがっ、鍵が壊されてたんだよ!」

 

「鍵が壊されてたからといって、あんな薄気味悪いところになんの用事があったんだ」

 

「それはうちのメイドが攫われてたって聞いたから………!」

 

「…………と、ずっとわけのわからんことを並べてます」

 

 

おかげで俺は人生で初めて手錠(ワッパ)をかけられるという貴重な体験をした。

尋問室に閉じ込められ、さっきから数時間もの間ずっと警察と話してるんだが、コイツ頭悪すぎて話が通じない。

 

 

「なぁ。俺この後用事あるんだけど、これいつ帰れるんだよ」

 

「何言ってるんだ。お前はまだ釈放していいなんて言われてないぞ」

 

「オイオイふざけんなよ…………なんか、証拠の一つでもあんのかよ?」

 

「それを今から調べるんだろう」

 

「いーや。何も分かってねぇな。俺から話すことは全て話しただろ。俺はメイドの林檎ってやつが攫われて、電話もかけられたんだ。居場所を突き止めて、そこに来たら殺人鬼が女を殺しまくって死体を保管してる廃墟に出た。そして、奴が逃げたと同時にチンタラやってきたお前らに捕まったって。ずっと言ってんだろ!?さっさと俺を解放しろ。逮捕状の請求はそれなりな証拠が出てきてからにしろ。現行犯でもねぇんだぞ、本来ワッパかけられてる時点で頭イカれてんだよテメェら」

 

 

俺は手錠されたまんまの両手で机をぶっ叩く。

 

 

「こんのガキィ……なんも反省してねーじゃねーかよ!自分が何したか分かってんのか!?あぁ!?」

 

 

逆に取り調べをしている警官が机をぶっ叩いた。

さすがに俺は今ので怒りが頂点に達した。

 

 

「──────うるッせェッ!!!証拠はあんのかって聞いてんだクソ警官が!!!」

 

 

俺はスチールの机を脚で横薙ぎに蹴り倒した。

 

警官は椅子から飛び降りて腰を落とし、俺に対して警戒態勢を向けた。

イラついた俺は、警官が座ってた椅子をこっちに引っ張り出して両足を置く。

 

 

「な、なんなんだこのチンピラ坊主は…………」

 

「誰がチンピラだ、テメェらの無能さを棚に上げて俺の文句ばっか言いやがって。俺ぁ何もやってねぇのに、現場の何も見てねぇテメェらに勝手に殺人犯に仕立てられてんだぞ。こっちの気持ちの一つも汲めねぇくせによく警官なんかになれたな」

 

「な、貴様…………」

 

「テメェらの方こそ、自分が何やってんのか客観的に見つめ直せよ。テメェらが報告書に俺のことをただの殺人犯とでも書きゃ、大事な市民が1人不当にも犠牲になるんだぞ。仕事舐めてんじゃねーぞ、真面目に働けよ」

 

 

俺はケッ、と唾を吐く。

態度悪い?知るかよ、何もやってねぇのにやったことにされて、キレない人類連れてこいよ。

こんな薄気味悪い狭いし、温室見てぇに生温い場所にずっと縛られて。キレねぇほうが無理なもんだ。

 

 

「先輩、なんなんすかコイツ…………」

 

「────中村白夜。ジバ高の2年生、住所は………これ………アレか?あの、東西の丘繋ぐ橋の上の?」

 

「そーだよ、だったら俺を見逃すとかか?偉い人には尻尾振る国家の犬の必殺技か?まぁ、そうしたほうがいいと思うぜ。どうせ俺は無実なんだからな。逮捕したきゃやってみろよ、真実は裁判所が示してくれるんだからな。もし何も出なかったら、一家総出で徹底的にお前らのこと叩き潰すぞ」

 

「クソガキが…………舐めやがって…………」

 

 

──────警官は俺につかみかかる。

 

 

「─────テメェ、あんま大人舐めてっとロクでもねぇ目に遭うぞ…………」

 

「お前こそ高校生舐めんな。だいたい、こんなの刑訴法違反だろーが。暴行で吐かせた自白は証拠にならねぇし、この取り調べも全部無効になるだろーが」

 

「チッ……………」

 

「こっちだって暇じゃねーのにお前らの警察ごっこに小一時間割いてやってんだ。ここでこの無駄な時間を覆水にすんのは勘弁してくれ」

 

 

警官はうなりながら俺の首元から手を離した。

 

 

「──────で?俺はいつ釈放?」

 

 

 

すると、部屋の隅の電話が鳴った。

先輩警官が電話に出る。

 

 

「はい、こちら東苑持寺署………は?………はい、」

 

 

警官が電話の相手と何やら話している。

なんの話だろうか。姉貴が署に電話して俺を解放するよう脅迫してくれたりしてねーかなという僅かな希望をぼんやりと考えていた。

 

 

「────はい、いや…………しかし……………」

 

 

警官は電話しながら俺のほうを向いてきた。

 

 

「……………?」

 

「─────はい………分かりました。でしたら、そのように………はい、失礼します」

 

 

警官は電話を戻した。

はぁ………とクソでかいため息をついてきた。

 

 

「──────釈放だ。中村白夜、」

 

「は?」

 

 

そして、なんかあっさりと俺を釈放すると宣言した。

 

 

「ちょ、先輩!?いいんすかこんな怪しいガキ解放しちまって!?」

 

「予定が変わった………そちらの中村少年については、現場に居合わせ、犯人の顔を目撃したというふうに記録しておけ。手錠(ワッパ)外せ葦原、」

 

「はぁ!?…………チッ……なんなんだよ、」

 

 

葦原という若い警官は嫌々そうに俺の手錠の鍵を外した。

彼なりの嫌がらせなのか、鍵だけ空けて手錠を外すのは俺にやらされた。

 

 

「どうも。ご苦労さん、」

 

 

俺は手錠を脱ぐと、わざと葦原の靴に当たるように乱雑に投げた。

 

 

「─────フン。顔覚えといたぜ、葦原サンよ。次からは上手くやりな?」

 

「チッ……………こんのガキが……………」

 

「あばよ、」

 

 

俺は悠々と警察署を後にした。

 

 

しかし、いったい誰が俺を解放してくれたんだ─────?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────夕刻、中村邸。

 

 

 

「──────────────」

 

 

中村邸のダイニングには縦長のテーブルが敷かれ、そこを挟んで姉貴と俺が向かい合っている状態。

姉貴は大学生だが、今日の事があって早くに上がって帰ってきたらしい。

 

姉貴の左右には専属の舐瓜さんと─────

 

 

「…………………………………………………」

 

 

何事もなかったかのように帰ってきていた林檎が座っていた。

─────もうお察しだと思うが、たのしいたのしい家族会議の時間だ。

 

なんの件で呼び出し食らったのか、そんなの言うまでもない。

 

 

「お、お茶を淹れてきました─────あだぁっ!!!」

 

 

檸檬がお茶を運んできたかと思ったら、机に足をぶつけてガッチャーン、とティーセットをひっくり返して転んだ。

 

 

「ひ、ヒィィィぇぇぇぇぇっ!!!ご、ごめんなさいごめんなさい!!!」

 

「あら?何の音ですかー?って、檸檬ちゃん!?たいへん!申し訳ございませんお嬢様!すぐに片付けて新しいものをお持ちしますから!」

 

 

蜜柑さんが騒ぎを聞きつけて飛び出したかと思えば、落ちたティーセットを回収して、掃除用具を取りに走り去った。

 

 

「良かったー!1個も割れてなかったー!神様ー!」

 

 

檸檬は命が助かったことに安堵すると、蜜柑の後を追ってダイニングから去った。

 

──────その一連の流れを、俺と残りのメイド姉妹たちは見ていたが、姉貴の視線が俺からズレることはなかった。

 

イギリス人の四千倍はお茶が好きな姉貴が、檸檬がお茶をこぼしたことについて見向きもしないということは、相当怒ってる。

 

 

「─────言いたいこと、分かる?長話になりそうだから、先にそっちが言いたいこと先に言いなさい」

 

 

うーわマジのマジのマジマジに怒ってる。

 

 

「す、すんません…………」

 

「……………………警察からうちに電話があったわよ。お宅の中村くんが、連続殺人の現場にいて補導されたって。どういう事?もはやどういう事?まさか貴方が人殺ししたとは思ってないけど、あんな真っ昼間から何してたのよ?」

 

「──────いやその、」

 

 

俺は林檎に目線を送る。

お前のせいだからな!?お前が攫われたりなんかしたせいで俺、こんな事になったんだぞ!?

あんな目に遭わされて、あんな気色悪いもん見せられて、怪我までさせられて、あんなくっさいモン嗅がされて、クソみたいな警察のところで数時間拘束されて。

 

挙句の果てに今俺、姉貴に大説教食らってんだぞ?

 

舐瓜さんもちょっとは俺のこと助けてよ!?

見限らないでよ、悲しくなるから!!!

 

 

くそっ!!!蜜柑さんと檸檬だけが状況を知っているのに、あの2人よりにもよって…………!!!

 

 

「じっ、実は…………今日の昼間…………林檎が行方不明になったって、蜜柑さんから連絡があって」

 

「はぁ…………?なんですって?」

 

 

姉貴の視線が林檎を向いた。

林檎は顔色一つ変えない。

 

 

「それで俺、林檎探そうと番号にかけたんだよ電話。そしたら、知らねぇ奴が「林檎を攫った」って俺に言ってきて。そして、なんとか場所突き止めて、入っちゃいけねぇところに侵入したら、林檎がいるなんてのはウソで、こんな事に」

 

「酷いもんね…………いくらなんでもこんなシナリオ頭で組めるかしら…………」

 

「──────なぁ林檎、今日の昼、誰かと会ったか?」

 

 

俺は林檎に問いを投げてみることにした。

そうすれば、この不可思議な俺の証言にも信憑性が増してくるだろう。

 

 

 

 

「──────いいえ、私は誰とも………」

 

 

 

 

な──────っ!?

 

 

 

「ウソだろ…………林檎!?お前、今日の昼、買い出し中に行方不明になったって蜜柑さんから聞いたんだが!?」

 

「坊ちゃまはさっきから、何をおっしゃっているのですか?私は蜜柑お姉様と檸檬の3人で屋敷へ帰り、普通に清掃業務に戻りました」

 

「───────────────」

 

 

 

何が…………どうなってるんだ…………!?

 

颯と名乗ったあの少年は、林檎の偽物を作った。

でもそのためには、赤い髪の毛をこさえる必要があった。そんな特徴的なパーツ、俺を脅かすための当てずっぽうで用意できるわけない。

 

なにより、林檎の番号の携帯電話からアイツが出てきた事に繋がらない。

 

 

 

「───────────っ!!!!」

 

 

俺は林檎の携帯電話に電話をかける。

 

 

 

 

 

───────すると、林檎のエプロンの中から着信音が鳴った。

 

 

「ど────どうなってんだ…………コレ……………」

 

「白夜?様子がおかしいわよ、さっきから?」

 

「─────────────」

 

 

 

おかしい……………おかしいおかしいおかしい!!

 

そんな筈はない………!!

嘘だ…………嘘だ嘘だ嘘だ、嘘だ!!!

 

な────なんでこうなるんだ!?

ど、どうなってる!?

 

 

林檎が誰にも会ってなくて…………颯は林檎を知っていて、颯が林檎の携帯電話を所持していて、今は林檎のところに戻ってる!?

 

蜜柑さんは林檎が行方不明になったと言っていて、林檎は実際は行方不明になっていない!?

 

落ち着け…………どうなってんだ…………考えろ、

 

考え───────

 

 

 

「それで?白夜、結論はなに?」

 

「──────────────」

 

 

ダメだ…………このからくりを、説明できるわけがない……………

俺がわからないものを、一体どうやって姉貴に伝えるっていうんだ。

 

 

「───────悪い………実は、死体発見現場があるって聞いて………それで、好奇心半分に乗り込んじまったんだ。そしたら、そこを見てた警官に捕まったんだよ、」

 

「なんてこと…………坊ちゃま、お怪我はなさらなかったのですか…………?」

 

 

舐瓜さんはとても心配そうに俺を見つめてくる。

俺はテキトーな嘘使って、この場を収めようとしているのに、舐瓜さんは俺の言葉を信じて心配してくれている。

その事実が俺の胸を締め付けた。

 

 

「───────貴方がそんな物好きな気はしないのだけど…………」

 

 

姉貴はだいぶ疑っている。

だが、俺に説明できることがない。

俺は無実で捕まった。でも、その無実を証明する手立てがないし、真実すらもそこにはない。

だから俺には、捕まったという事だけが事実にのこっている。これを説明する方法はない。だから、俺が悪いということにするしかない。

 

 

「──────まぁいいわ。釈放されたのだったらなんでもいい。とは言え…………また仕事を増やしてくれたわね、今度は警察の相手をしなければならないなんて、」

 

 

はぁ…………と姉貴は大きくため息を付いた。

 

 

「私も忙しいのだけれど…………まぁでも、一回捕まればもう流石に懲りたでしょう?これからは変な気なんか起こさないことね。次はもうないわよ。仮にも貴方は名家である中村の長男。ホントは一発で勘当してやってもおかしくないのだから、気をしっかり保ちなさい。最近の貴方、ヘンよ」

 

 

姉貴はダイニングを去った。

結果、思ったより説教は長くならなかった。

 

だが……………まったく安堵も嬉しさもない。

 

 

 

だってそれは─────姉貴は俺のことを、完全に見限ってしまったってことなんだから。

いちいち怒る価値もない、なんて思ったんだから。

 

 

 

 

「──────────────」

 

 

くそ、俺がアイツを捕まえれたなら、状況は違ったかもしれないのに。

自分で自分の弱さを嘆くしかないのか。

 

 

「……………………俺、学校に戻るわ」

 

 

俺は学校へと引き返すことにした。

鞄は学校に置き去りだ。警察署からは姉貴が手配したのか、車でこちらまで強制送還された。

鞄を取りに学校まで戻る時間なんて、どこにもなかったのだ。

 

いちおう時刻はまだ16:40。

今から頑張って戻れば、学校が閉まる前には教室に戻って鞄を持って帰れるだろう。

財布とか電車の定期も入ってるから早く取るに越したことはない。

 

 

「坊ちゃま……………」

 

 

舐瓜さんは小さく呟き、去っていく俺を見ていた。

 

 

 

 

 

「はぁ……………………」

 

 

俺って酷いやつだよな。

メイドを騙して、こんなのに騙されて…………姉貴の仕事増やして、またみんなに心配かけて…………挙句の果てに警察に捕まって。

 

状況が悪かったとはいえ、ぜんぶ、みんな、俺の引き起こしたことだ。

 

 

「……………バカなんですね、坊ちゃまは」

 

 

玄関で靴に履き替えようとした時に、背後から林檎の声が聞こえてきた。

 

 

「林檎か、」

 

 

いきなりバカ呼ばわりされても、怒り返す気力もない。そもそも今日は疲れてる上に、俺がバカなのはもう事実だ。

 

 

「私がまさか、本当に誰とも会ってないと思ってたんですか?」

 

「─────何言ってんだ、お前…………」

 

 

林檎は、信じられないことを口にして俺のところにやってきた。

 

 

「全部嘘ですよ。当たり前じゃないですか。お嬢様に怒られるのダルいので。いい身代わりがいるなーって思って、坊ちゃまに怒られてもらっただけです」

 

「林檎……………テメェ………………」

 

 

コイツ、こっちがどんな思いでお前を心配して駆けつけたと思って…………!!!

 

 

「─────私は、買い出しが終わったあと、お姉様たちから離れて単独で行動してました。こんな誰も私の味方をしてくれない家なんて捨ててしまえと思っていたので。ですけど、少し歩いたところで出会った学生様に「家族が心配しているから帰ろう」と言われました」

 

「学生………?誰に会った、どんなやつだった?」

 

「それは…………………あれ。よく思い出せないですね。でも、少しお茶をして別れたと言うことは覚えています。特徴のない方だったのでしょうか、あんまり外見等の記憶はないです」

 

 

───────どういう、ことだ?

 

 

つまり林檎は、攫われることはなく、颯と思われる少年と会ったのか?

 

 

───────ダメだ。

今の俺には考えるだけの材料とカロリーがない。

 

今は鞄取ってさっさと家に戻るので精一杯だ。

 

 

 

「坊ちゃま、何があったんですか。私がどうかしたのですか?」

 

「──────うるせぇ。お前にはもう関係ねぇよ。明日からお前は専属外れるんだろ。だったらお前は、もう俺にかまうな」

 

 

もう俺は、この女と話したくない。

こいつがいるとロクな事にならない。

 

今朝は俺に怪我を負わせて、昼間は道草食って場を混乱させて、夕方にゃ姉貴に怒られたくないからって、俺を売って自分だけ助かった。

 

もう俺はコイツのこと前々から気に食わないと思っていたが、これでもう終わりだ。

コイツのことはもう知らん。

もう今日のことなんてなんでもいい。終わったことはもう無視する。

 

俺はもうこいつとは関わらない。

明日からは専属を離れるから朝からこんな嫌味ったれの話を聞くこともない。

だったらそれていいじゃないか。

 

───────それで終わりでいいんだ。

 

 

 

「──────今まで坊ちゃまに仕えて世話を焼いてきた恩を返せとはいいませんが、迷惑をかけたお詫びくらいはないんですか?」

 

「──────うるせぇ…………お前の顔なんか、もう二度と見たくない」

 

 

俺は屋敷の戸を開けて、飛び出すように外へと行った。

 

 

「………………………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は家を出てから学校に行き、鞄を持って外に出た。

 

 

「……………………………………………………」

 

 

だが、駅まで戻ってきてから…………俺は帰れなくなった。

 

 

「───────くそ………」

 

 

林檎にあんな酷いこと言っちまった。

それに、姉貴からの信頼も地へと落ちた今、俺にあの家に居場所なんて…………もうない。

 

 

「ちくしょう…………」

 

 

己の無力に腹が立ってきた。

気がついたら、俺は公園のベンチで座り込んでいた。

 

 

「くそ………くそっ…………」

 

 

俺はこれから、どうすればいいんだ。

往く当ても居場所も分からない。

これなら、さっさと捕まって少年院にでも送られたほうがマシだったかもしれない。

 

 

「はぁ……………」

 

 

もう希望も潰えて空を仰いだ。

紫色の空に月が昇っている。

 

 

「みんな、俺を助けてくれない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────あら?わたしは貴方を助けてあげたけど?」

 

 

シャリン、と鈴がなったような気がした。

俺の背後から、俺の両肩に優しく手が添えられる。

 

 

「アルク………ェイド…………」

 

 

俺は首だけ後ろを振り向き、やってきた人物の名を呟く。

 

 

「わたしの名前、覚えていてくれたのね」

 

 

その腹立たしいくらいの無垢な白い顔と金髪に、俺は救われたような感じすら思った。

 

 

「クッソ……………ちくしょう…………!!!ちくしょう…………!!!」

 

「あら?どうして涙を流しているの?人間は、悲しい時に涙を流すものじゃないのかしら?」

 

 

うるせぇ………黙れ………クソ女………っ………

 

俺は今、クソ悲しいから………こんなに涙が出てくるんだろうが…………

 

 

 

「それで?返事はどう?決意は決まった?わたしに協力するって今朝の話、忘れたとは言わせないわよ」

 

「─────くっ、ぐっ………うっぐ、」

 

 

空気読めねぇのかよ、この女…………人が追い込まれてるって時に自分の話ばっかりしやがってよ!!

 

 

「───────ふう、」

 

 

とりあえず、こみ上げる感情は流しきったからもう未練なんてない。

 

 

「─────あぁ。覚悟は決まった、」

 

 

どうせ俺はもう、どこにもいけないんだ。

どこにもいちゃいけないんだ。

 

でも、ここには最後の一人、俺を見捨てなかった奴がいる。

今の俺には、コイツについていく以外、やることがねぇ。

 

 

 

 

 

「────アルクェイド、」

 

「なに?」

 

 

その少女は、可憐な見た目をしながらもどこか人間らしさのない冷たい見た目をしていた。

まるで、好奇心や幸福を知らない無垢な令嬢のように。

 

 

「まずは、俺を助けてくれた事、礼を言っとくぜ」

 

「その礼は昨日貰ったわよ?」

 

 

当たり前だ。そんなのもう礼言ってるよ。

今の話をしてるんだよ。

 

 

「────俺は………やっぱり、お前が吸血鬼を倒すその手伝いをする。俺にできることがあれば、なんでも言ってくれ。必ず力になる」

 

 

俺は立ち上がり、アルクェイドと向かい合って決意を打ち明けた。

俺は、アルクェイドと行動することにした。

 

 

 

「そう。声からして、昨日とは別人ね。色よい返事が聞けてよかったわ。これで契約は成立ね────よろしくね、白夜!改めてだけど、わたしのことはアルクェイドって呼んでちょうだい!」

 

 

そしてこの瞬間、

 

 

「あぁ。よろしくな、アルクェイド」

 

 

俺は手を差し出す。

 

 

「ん?なにそれ、」

 

「握手だよ握手────そうか、吸血鬼は握手とか知らないんだな。約束したり、よろしくって気持ちを伝える時、あとは感謝する時。人間はこうやって手を握るんだよ」

 

「ふぅん。人間とは不思議な生き物ね。こうやってコミュニケーションを取るんだ」

 

 

アルクェイドはぎこちなく右手を俺と同じかたちに差し出してきた。

握手を知らないアルクェイドが手を握ることはなかったが、俺の方からアルクェイドの開いたままの手を握った。

 

 

「─────でもなぜかしら。触れられているのに、不思議と悪い気はしないわ。握手とは素敵ね。互いの懐に入るほどの間合いから、手を握ることで友好関係を築きたいという意志を示す。興味深いわ。ねぇ、もういっかい握手してよ」

 

「はぁ?2回も握手する人間なんているかよ?」

 

「いいから。わたしがやりたくなったの、」

 

「そーかよ、」

 

 

今度こそ俺とアルクェイドは手を握った。

 

太陽と月が目の前で重なり触れ合う瞬間。

 

 

 

俺達はついに契約上の関係になった。

 

そして、この一件を機に─────俺は、苑持寺を取り巻く数多くの怪奇事件と、それにつながる巨大な一つの大事件へと巻き込まれることになるのだった。

 

 

 

 

 

そこにいる、俺の新しい友人、アルクェイド・ブリュンスタッドと共に。

 

 

 




もう一つの物語に舞い降りた『真祖の姫』

アルクェイド・ブリュンスタッド

性別 女性   年齢 17歳(自己申告)
属性 中立・善   クラス 真祖の姫
誕生日 12月25日(自己申告)  血液型 不明
身長 167cm   体重 52kg
好きな物 なし
嫌いな物 蛇、血
主武装 真祖としての身体能力
イメージCV:長谷川育美さん

『月姫』のメインヒロインとしてお馴染みの、最強の吸血種。
金髪に白い服に紅の瞳を持つ、純粋な吸血種・真祖のなかでも王族に位置する存在。
後天的な吸血種である死徒の弱点である日光などをほとんど克服しており、限りなく無敵に近い存在として描かれている。
苑持寺で起こる吸血鬼事件の真相を追いかけるために奔走する中で、たまたま白夜の命を助けてやったことが縁で協力関係になる。
彼女の人物像は『月姫』における彼女のものとは大きく異なっている。
彼女の性格を大きく変えた事件から19年も前。天真爛漫であった彼女もこの時代では冷徹で人間味のない少女となっているが、決して普段から威圧的なわけではなく、味方である白夜に対しては友好的であることがうかがえる。
また、同じ事件によって力を大きく弱体化されてしまった彼女も、この当時はまだ力が有り余っているため『月姫』における彼女よりも出力がかなり上がっている。
…………はずなのだが、特殊な結界でもあるのか、現在は苑持寺町の中でのみ彼女の能力は大幅に低下するという状態になっている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。