「朝から大胆に15分の遅刻とはヤンキー殿下のやる事は違うな、中村。俺が拾ってやらなかったらヤバい事になってた。こりゃ一つ貸しだな」
「余計なお世話をしておいて借りは厚かましいってもんじゃないのかよ優等生。いや、私立
今朝、遅刻した俺は生徒会室に匿われている。
「中村くん、今日はどうしたの?また体調が悪かったとか……?」
「福原………過度な同情は禁物だぞ。体調が悪いのは致し方ない。だが、彼と何年も苦楽を共にした俺にはわかる。今朝の中村は至って快調だ。どうせそこいらで道草でも食ってきたんだろう」
「はぁ………ちげぇよ。チンピラに絡まれたんだよ、苑持寺の」
「だ、大丈夫中村くん!?ケガとかしてない!?」
「あぁ………なんとか、な。ったく、勘弁してほしいぜ。ホントは喧嘩なんてめんどくせぇだけなのによ」
俺の仕方なさそうな返答に対して、俺の5年来の親友は大笑いで
はっはっはっはっは!!!
と返してきた。
「ふふふっ…………だったら髪色を変えろよ中村ぁ。その髪色じゃ、どこ行ってもチンピラ風情と変わりないぞ?」
「ちょっと菊山くん…………髪のこといじった時の中村くん怖いんだよ…………」
「いいって、福原さんも気ぃ遣わなくていいよ。もうこいつからのイジりには慣れたからな。今でもクソムカつくがな、」
俺の前にいるのは生徒会のメンバー。
一人は四角い眼鏡の男、もう一人は薄い茶髪にツインテールの女子。
「とはいえ、中村がいて助かった。こっちは朝会議が長引いてその後片付けをしようとしていたんだが、お前が手伝ってくれたおかげですぐに授業に戻れそうだ」
会長の
なぜ俺とつるんでるのだと疑問されるくらいの優等生だが、俺とは中学1年から今にかけての付き合いだ。
中1の頃はちょっと授業の中で言葉を交わした程度なのだが、案外気が合うものでそのまま友達になった。
こいつは今でこそ生徒会長として全校生徒を引っ張るカリスマだが、昔は教室の隅でずっと一人で本を読んでいる退屈で陰気な奴だった。
そのせいで性根の腐った奴からはよくイジメの的にされてた記憶がある。
ま、その度に俺がそいつらボコボコにして黙らせてたがな。
俺の影にいることしかできなかったあいつが今じゃこんな立派なやつになる。5年の歳月は人をここまで変えるもんだな。
「うん、私も助かったよ。今日の授業すごく大事な範囲だから、中村くんがいて助かったよ。ありかとう、中村くん」
そっちにいるのは
茶髪だが生まれつき。
茶髪ツインテールとかいう男子のクソ憧れというか、クラスのヒロインと言うか。
ぶっちゃけ、髪が赤色の俺のほうが目立つと思うんだが、同じクラスの俺たちだと福原さんのほうがよく知られているんだよな。
真面目で人当たりがよい、ま、一学年に一人はいるタイプのやつだよな。みんな密かに福原さんのことを狙ってるが、どいつもこいつも下心がバーレバレだ。
高嶺の花には、自分のいる高さを見てから手を出すもんだっつーの。
───────ここは梶葉学院高校。
私立のいちおう進学校に分類される高校だ。
地元じゃあ、ジバ高なんて呼ばれてる。
偏差的にはそんな特別賢くもないが、普通よりは上ってぐらいだろうか。
まぁ、ホントに普通だ。
俺は規律にうるせぇのは嫌だし、普通に過ごしたいし、なにより快適な校舎で勉学に励みたいと思っていたので姉貴の反対を押し切ってジバ高を選んだ。
名家の長男として名門の公立を狙えとうるさい姉貴を説得するのは骨が折れたぜ。偶然居合わせた舐瓜さんが肩を持ってくれなきゃ通せなかったろう。
大学受験の時もおんなじような目に遭わされるのだろうか。やれやれ、三年生になったら舐瓜さんに積極的に差し入れとかして株を上げとかないと。
この高校は比較的新しい事もあって校舎は綺麗だし、食堂とかの設備も充実してるし、今のところ学生生活に何一つ不自由していない。
金銭感覚がバグってる家に住んでるとはいえ、俺みたいな小市民にあんな大豪邸は高尚だ。
俺は普通の高校に通って出て、普通の大学に行って、普通の仕事をしたいんだよ。
…………まぁ、ちょっと姉貴の手伝いもしながら。
「だが、生徒会に朝会議なんてあったか?なんだってそんな急に」
「あぁ。近頃の街の治安が悪いもんでな………部活動やサークル活動の運営をどうするかって話をしていた」
なんだ、意外と真面目な話するんだな生徒会。
「運営をどうするかって、臨時で中止?」
「うん。やっぱり、最近の街で起きてる事件って夜に起きてるんだって。もう今年も10月の下旬だし、日が落ちるのも早いから…………」
「ただのオカルト話だろ?そんなん真に受けてちゃ、やってけないだろ…………まして私立なんて人を取らなきゃなんだから部活動は実績残しとくべきだ、練習時間は多いほうがいいと思うんだが?」
「オカルト、ねぇ。まぁ、そうだと良いんだが」
紀庵は言葉を濁す。
「────なんかあったのか?」
「…………いや、それが。苑持寺の生徒がすでに何人か行方不明になっててな。亡くなったって報告こそ受けてはいないものの、もういなくなって1週間も経つ」
「人攫いか?いったい何人消えたんだ?」
「男女混合の8人。彼らはクラスも別々で、調査によると接点もないらしい」
「8人……ちょっと普通じゃねぇ数だな」
「まったくだ。てっきりなんか悪い遊びでもしてんのかと思ったんだが、福原並みに真面目な学生も消えたという話なものでな」
俺の親父くらいの世代の話だが、どこぞの大学で学生運動が起きて、機動隊と衝突したりもした。
そういった籠城の真似事でもしてるのかと思いきや、行方不明になった人間の情報からしてそういうことでもないようだ。
接点のない男女が8人で目的があって1週間お泊りとは思えない。
なるほど…………たしかにこれは『臭い』な。
「駅またいでいるとは言え、いちおう苑持寺町の出来事だ。とうてい無視はできんということで、生徒会では部活動の臨時停止を結論づけた。今日この後、顧問に提出して後はお上で検討する次第だ。まぁ、この話は教員方でも話には挙がっていたんで十中八九通るだろうがな」
「ふーん………まぁ、仕方ねぇか………」
「中村くんちは苑持寺だよね。中村くんは帰宅部だけど、帰りは気をつけてね?」
「あぁ。ありがとな福原さん」
「そうだ中村。お前も生徒会来たらどうだ?今なら俺のコネで選挙スルーさせてやるぞ」
「やらねーよ、これで通算29回目の勧誘だぞ。俺みたいなヤツに生徒会とか、やっぱりどっかネジ飛んでんだろお前……………」
「そうか?お前はけっこう物事を俯瞰で見れるタイプだから会議にはぜひ出てきてほしいんだが………それに、元高校球児の堅牢な肉体は組織において大きな戦力となると思うんだが、」
「お前………絶対パシりてぇだけだろ………はい、こっちは終わったぞ」
そうこう話している間に、生徒会室の机椅子等々の片付けが終わった。
「助かったぞ中村。ま、これでお前も遅刻したとてお咎めなしだ。これでお互い貸し借りナシだな」
「こっちこそ助かったぜ紀庵。やっぱ持つべきは友だろ」
「うむ、そうだな。さて………授業に戻るとしようか」
「そーだな、福原さんも行くだろ?」
「う、うん!もちろんだよ!」
そうそう。
この二人なんの因果か、俺と同じクラスなのだ。
休み時間になるとだいたいこのメンバーで会話したり昼食を摂ったりしている。
なんで、他の生徒から福原さん絡みのあらぬ噂をかけられる事もあるが、まぁいちいち気にすることもない。それに、それでも悪くないしな。
「─────そういや、中村には言ってなかったな」
廊下を三人で歩いていた時に、紀庵はふとこんな事を言いだした。
「ん?なんの話だ紀庵?」
「いやなに。別に深い意味はないんだが、念のため言っておこうと思ってな」
「なんだよ、勿体ぶらずにいいなよ」
紀庵はメガネをくいっ、と上げると得意げに語り始めた。こいつは大事な話をするときはメガネを上げる癖がある。
例の行方不明事件絡みで、何か情報があるのか。
「実は、三年生に転校生の先輩が来ていてだな。ぜひともこの際、紹介しておこうと思って」
「転校生?ここ高校だぞ?わざわざ受験してきたってか?」
「まぁ………なんなんだか。俺も詳しい事情は分からんのだが、色々とお家の都合で苑持寺に住むことを余儀なくされたようでな。色々と難しい手続きを踏んで、ここに来れたようだ」
いや、色んな事情って…………どういう事だ。
高校で転校生とはまた珍しい要素だ。
ないことはないだろうが…………よほどの事情なのだろう。社会人というは難しいものだ。
「あっ。私、知ってるよ!その人って、あの蒼髪の人だよね!すっごい美人だって噂の、」
「はぁ?蒼髪美人だ?」
「そうそう。おかげさまで、初日からメアド交換のお願いが後を絶たなかったらしい。中村も行ってきたらどうだ?転向したてで心細い時に力を貸してくれる他学年など、一発で好印象だと思うのだが?」
「お前が
お前、俺が未だ彼女の一人もできたことないことを完全にイジってるだろ。
お前だって遊び人な女子とつるんだら「つまらない人だから」つってものの数ヶ月で捨てられた身だっつうのに。
あとさっきのメガネ上げはなんだ。まったくどうでもいい話だったじゃねーか。
「俺と福原は今日の昼も仕事があるのでな。今日の昼は悪いがパスさせてもらうとする。お前は一人で時間を潰してもらう事になるため、せめてものヒントを与えてやった次第だ」
「あのな…………俺はそんなアプローチかけるタイプじゃないんだよ、」
「そうだった中村はウブだから恋には奥手だったな」
「テメまじブッ飛ばすぞ」
「な、中村くん…………」
福原さんが俺の袖をぐいぐい引っ張ってきた。
「ん?」
「えっと……その…………な、なんでもないっ!ご、ごめんね、変なこと言っちゃって」
「は?え? あ、あぁ………」
俺の隣では紀庵が「はぁ………」とため息をつきながら目頭を押さえていた。
俺はそれがどういうイミかよくわからんまま、3人仲良く教室に戻った。
あとで知る事になるのだが、紀庵の言ってた昼休みの仕事なんてのはないらしい。
俺に気を遣ってきたようだ。
っ───余計なお世話だ………!!!