『月姫』を識る者   作:マジカル赤褐色

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10月18日/  19年後の責任、取ってもらうんだから

 

 

「──────てください、坊ちゃま」

 

 

「──────起きてください、坊ちゃま」

 

 

今朝、俺は林檎の声に起こされた。

 

 

「うぅ…………ん……………」

 

 

起きろって、起きれるかよ…………

 

 

「───さっさと起きてください、ヘタレ童貞」

 

「───おいコラ、今なんつった!!!!」

 

 

俺はシーツを蹴っ飛ばして飛び起きた。

 

 

「あら、やっぱ起きてたんじゃないですか。二度寝とは感心しないですね。私が朝早くから起きて自分の仕事してからわざわざここに来て坊ちゃまの面倒見ているのに良いご身分ですね」

 

「起きて早々に嫌味を聞かされるくらいなら、わざわざ起こさないでくれて結構だよ、林檎」

 

 

時計を見るとちゃんと今日はいつも通りの時間に起きれているようだ。

 

 

「ふーん。昨日自分の力で起きようとさせてみたら盛大に遅刻して。さすがに情けなさで懲りたと思ったら、まだ何も理解してないみたいですね。まぁ、坊ちゃま頭悪いから当然なんだけど、」

 

「そっちは朝っぱらから元気で羨ましいぜ。んじゃ。さっさと俺は飯食って学校行ってくる」

 

 

ダルいっちゃダルいが、この手の挑発は無視するに限る。

 

俺は林檎が持ってきた制服を取り、その場で着替える。

俺が着替えている間、林檎は手元の医療日誌を書いていた。

 

 

「…………たかだか病気の一つや二つでチヤホヤされて。こっちがどんだけめんどくさい思いをしているのか分かってないくせに偉そうな。坊ちゃまのそういう所が私は嫌いなんですよ、」

 

 

とにかく林檎は嫌味ったれなもんで、こんなだからマジで朝は億劫になる。

体調良くても気分はいつも最悪だ。

 

 

「そーかよ。だったら俺の専属から降りればいい話だ。別に朝ちょっと早く起きて俺を起こすだけの簡単な仕事、お前じゃなくてもできるからな」

 

「………………………………………」

 

「お前も忙しくてムカつくのもわかるがな、忙しいのはお前だけじゃねーんだよ。舐瓜さんも蜜柑さんも檸檬も葡萄もな。姉貴なんて学校行きながら執務やってんだ。お前なんかより100倍忙しいがそれでも誰かにあたったりしたことはねーよ。お前だけだ、グチグチ一人で文句言ってやがんのは」

 

 

俺は着替えを終えて寝間着を畳み、鞄を持つと林檎の横を通り抜けた。

 

 

「文句つけれんのは普段からちゃんとこなしてる人間だけなんだよ。お前が言ってんのはワガママって言うんだよ。もっと周りを見ろ、自分だけが忙しいと思ったら大間違いだぞ。じゃ、俺は学校行くから」

 

「くっ…………………」

 

 

俺は何事もなく部屋を出て、普通に蜜柑さんと朝食を取る予定だった。

 

だが、今朝も予定が大幅に狂った。

 

 

「くぅ……………っ!!!」

 

 

ダンッ、と俺は背中を強く突き飛ばされた。

 

 

「うぉっ…………!?」

 

 

林檎は日誌とペンを投げ捨て、背後から俺に体当りしてきたのだ。

 

喧嘩慣れしてる俺ならこれくらい軽く受け流せたのだろうが、朝だったこともあるし、なによりまさか林檎から攻撃されるとは思っておらず、まともに体勢を崩した。

 

足を捻り、その場で変な体勢で倒れる。

 

 

 

そして──────不幸にも、倒れた先にあったのは、俺のデスクの角。

 

 

 

 

 

 

「大丈────坊───ま!?今、大きな物音──────」

 

 

 

 

「いやぁぁぁぁっ!!!血────さまの額────」

 

 

 

 

 

「────檬──ん、葡萄────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ……………うっ……………」

 

 

俺はまた眠りから覚めた。

おかしいな…………今朝はもう起きたはずなんだが、

 

 

俺は居間のソファで目が覚めた。

 

 

すると、目が覚めると同時に真横からパシィン、と何かが何かを叩く音がした。

 

目が覚めたばかりで視界がズームイン・アウトを繰り返す顕微鏡のようにぼやける中、窓際からした音の先には、姉貴と林檎がいた。

 

 

「………………………………………」

 

「ふざけないで。白夜にもし何かあったらどうするつもりなの?白夜、昨日は夜遅くに怪我をして帰ってきて………ただでさえ今は安静にしなければならない………今朝は特に、慎重に様子を見ないといけない。そんな事もいちいち説明しなければ理解できないの!?」

 

 

ヒステリー姉貴陛下が怒鳴っているのはわりとよく見る光景だが、俺以外にビンタ食らわせている様子は結構久しぶりに見たかもしれない…………

 

 

「お嬢様………!その、手を挙げるのはいくらなんでも………!」

 

「なに檸檬?何か言いたいことでもあるわけ?あなたも林檎の肩を持つの?」

 

「ひィッ………!!な、なななんでも………ない、ですよ!!」

 

「だったら余計な口出しは止して」

 

「は、はいぃっ!申し訳ございませんでした!!!わわわわわ私………洗濯物、干してこないとー………!!!」

 

 

檸檬は逃げ去るようにして居間から退出していった。

 

─────いやその…………気持ちはわかるんだが、もうちょっと弁護してやれよ…………

 

 

「お嬢様………どうかお願いします………林檎を罰するくらいなら、どうか私めが代わりに罰を受けます………妹の様子を気づいてやれず、管理しきれなかった私に責任があります!」

 

 

舐瓜さんは意志が強く、なにより姉貴の専属なだけあって姉貴のプレッシャーに慣れている。

あくまで姉として林檎を助けようとしてくれているようだ。

 

 

「お黙りなさい舐瓜!!これは林檎の問題であって、貴女が代わりになった所で何の意味もないわ!!それとも、貴女が林檎の代わりに白夜の専属も兼ねるとでも言うわけ?却下します。貴女の仕事は私の専属と庭園の管理です!!」

 

「そ………それは、どういう意味ですか………?」

 

「林檎は本日付けで、白夜の専属から降りてもらうという事よ。明日からは檸檬、葡萄、蜜柑のうちの誰かから新たに選抜するわ。もちろん、いきなり全任せさせるとは言わない。しばらくのうちは私が監督のもとサポートをします」

 

 

な、なんか知らんうちに大ごとになってら…………

 

 

「……………白夜」

 

「うぉぉぉぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

俺が様子を見ていた所、ソファの背もたれの後ろから葡萄が俺に声をかけてきた。

いつからそこにいたんだまったく…………

 

 

「あたま………平気………」

 

「ど………どういう意味で言ってんだよ………」

 

 

その言い方はさ………ちょっと、あるだろ………他の言い方。

 

 

「ケガ………ちいさい………血、とまった………もう、へいき………」

 

「そっか、葡萄が診てくれたんだな。ありがとう、あと悪いな仕事増やして」

 

「ううん………いい………悪いの………林檎………」

 

 

葡萄はてくてくと歩いていなくなってしまった。

 

額に手を当てると、たしかになんだか包帯のようなものが巻かれていた。

どうやら、転んだ拍子に机の角に額をぶつけて割ってしまったらしい。

 

たしかにさっきから妙に具合が悪く、額が痛む。

ちょっとだが、目眩がするな………

 

 

「────────────」

 

 

林檎は黙って姉貴の話を聞いていた。

反論もしなければ返事もない。

 

やれやれ、姉貴が相手となった途端にこれだ。

 

小物なんだよ………根が…………

 

とはいえ、これ以上見てるのも悪いし、ここはいちおう助けに入っておくか。

 

 

「あ………なぁ、姉さん。そのくらいにしてやれよ………なにも、ぶっ叩くこたぁねーだろ?」

 

「白夜………起きたのね。無事なようで人まずは安心したわ。…………でも駄目よ。これは決まった事、貴方が許す許さないは関係ないわ。これは貴方を守る為の話なんだから。これについては当主である私に全面的な決定権があります」

 

 

……………自分に全面的な決定権とかよく言い切れるよな。

 

独裁者としての適性高すぎるだろ…………

 

 

「いやだから、ぶっ叩かなくてもいーだろって。専属が変わるって話だろ?だったらそれでいいよ俺も。ただ、これ以上叱ってやるのはやめてやってくれ」

 

「白夜……………」

 

「それと、林檎を外すかわりに、もう誰も俺の専属に入れないでくれ。俺はこれから自分で起きて、自分の身の回りは自分でやるって決めたんだ。ほかのみんなの仕事を増やさせるわけにはいかねー………やるなら毎朝の健康日誌だけにさせてくれ。それが条件だ………俺の専属だ、俺にも多少選ぶ権利はあっていいだろ」

 

 

姉貴は少し唸る。

そこへ蜜柑さんがやってきた。

 

 

「そーですよそーですよ!せっかくの朝ごはんなのに、お嬢様もそんなプリプリ怒ってたら、朝ごはんが美味しくなくなっちゃいますよ!今朝は坊ちゃまの復帰祈願ということでフレンチトーストを焼いたんですよ!」

 

「マジで!?ありがとう蜜柑さん!!ほら、姉さんもいつまでも怒ってねーでさっさと飯食おうぜ、な?俺ははじめから怒っちゃいねーし、多少自分に甘えていた俺の責任もあると思ってる。だから、俺に免じて林檎のことは許してやってくれよ、たのむ!このとーり!お姉ちゃんならよ、弟のお願いの一つや二つ、聞いてくれるってのが器じゃあないかなァ………な?」

 

 

俺は必死に姉貴に林檎の助命の嘆願をする。

クソ、なんで俺がこんなことして林檎なんかを庇わなきゃいけねーんだ………!!

 

だが………さすがにひっぱたくのは違うと思ったんで身体が勝手に動いた。

 

蜜柑さんも来てくれたことだし、ひとまずここは2体1でこっちの有利だろう。

 

 

「はぁ…………いいわ、もう。被害者の貴方がそんなに言うなら…………」

 

「またまた〜、そんな事言っておいて、ホントは可愛い弟のお願いを断れなかっただけなんじゃないですか〜?」

 

「蜜ー柑ー?」

 

「あやー、えんがちょー、退散退散っ」

 

 

蜜柑さんは厨房へと逃げ去っていった。

姉貴も蜜柑さんを追いかけていった。

 

居間は林檎と俺だけになる。

 

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

 

─────気まずい。

 

 

「………………ふん………恩を売ったつもりですか。そういうところが狡猾なんですよ、坊ちゃまは」

 

 

林檎も背中を向けて居間を去ってしまった。

 

 

「………………………………………」

 

 

──────まいったな。

 

家族なんだからもうちょっと仲良くやりたいってのに。

 

 

俺は林檎を追いかけるのは悪手だと判断し、素直に朝食を摂る準備をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、行ってくる」

 

「はい、坊ちゃまもお気をつけていってらっしゃいませ」

 

 

今日は蜜柑さんが見送ってくれた。

 

 

「あ、そうそう。昨日の今日なんだけど、今日は少し帰るの遅くなるかもしれない。姉さんにおつかい頼まれててな。帰る前には必ず連絡する」

 

「そうですか、かしこまりました。どうかお気をつけていってらっしゃいませ」

 

「あぁ。ありがとうな」

 

 

今日は学校が終わった後に教会に行かなきゃならないからな…………

飯の途中で姉貴にメモを貰った。

この場所に教会が建っているんだな。別に特別詳しくはないが、この街に住んでまぁまぁ長い俺が知らないなんて………新しくできたばかりなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────────────」

 

 

通学の途中、俺はあの路地裏にやってきた。

 

昨日俺はここで屍鬼………力の弱い吸血鬼に遭遇し、死にかけた。

そこを助けてくれた一人の少女は、気が向いたら今朝この路地裏に来いと言っていた。

連中が吸血鬼なんだったら、太陽の下では動けないはずだ。

だから路地裏は安全だと考えて、俺は迷わずあの場所へと戻ってきた。

 

今の今まで、わずかな可能性で幻覚か夢だったという可能性を残していた。

だが…………俺の肩には相変わらず怪我が残っている。

 

それに…………あの少女がつけた、路地裏の建物の外壁の深い深い爪痕もそのままだった。

なくなっていたのは、屍鬼を含めた人影の一切と、昨日まではあった繭とその死体。

 

あの繭は一体何だったのだろう。

生ける屍の存在を知る謎の少女も、繭の事は知らなかった。

あれは一体──────

 

 

「この街は──────」

 

 

 

 

 

 

「─────あら。本当に来ていたのね、」

 

 

すると、俺の背後から聞き覚えのある女の声が聞こえてきた。

 

 

「…………お前は……」

 

 

俺は誰か分かりながら振り向いた。

 

昨晩は闇で見にくかったが、こうして見るとなかなか明るい人影だった。

夜を照らす明かりのような金髪、鮮やかな紅の瞳に純白の長袖シャツ1枚。なんなら下はミニスカート…………この時期の服装にしてはやけに薄着すぎる少女だった。

死者を相手取れる時点で化け物だが、耐寒性まで人外クラスかこいつは。

 

 

「昨日貴方を助けた女よ。覚えているかしら?」

 

 

少女は明るい声と可憐な容姿をしていたが、その割にはどこかつかみどころのない空気を纏っていた。

なんだか、昨晩とは様子が違うような。

昨日より少し物腰が丸くなってる……だろうか?

 

 

「あぁ…………その節は………どうも、」

 

「律儀にどうも。……………昨日の出来事は全て事実よ…………この街はいま、吸血鬼に犯されている。人間の血肉を喰らい、街を支配する強大な吸血鬼がね」

 

 

俺はこの日─────運命に出会った。

 

 

月は星に周期を重ね、太陽は己を周し続ける。

 

 

────太陽()(彼女)はよく似ている。

 

 

いつも、空から地上の星を見下ろす。

昼間さと夜にそれらが存在し合うことはなく、空にいる限りいつもすれ違うばかりである。

 

だが……………時が経てば、太陽と月は必ず重なる。

 

 

 

2014年、時は太陽と月を巡り合わせた。

 

その19年前すなわち今日この日、この場所で…………

 

 

───『月と太陽』が、重なるときを迎えた。

 

 

たとえ、どこの(ソラ)で交わろうとも、たとえどの(てんき)で巡り合おうとも、

 

 

「自己紹介がまだだったわね。わたしは【アルクェイド・ブリュンスタッド】────吸血鬼よ、」

 

 

 

月と太陽が重なったのなら──────

 

 

 

「俺は中村白夜……………ただの高校生だ、」

 

 

 

 

 

 

街には、影が落ちる─────────

 

 

 

 

 

 

 

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