『月姫』を識る者   作:マジカル赤褐色

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月姫 零刻・新月

 

「私の名前はアルクェイド・ブリュンスタッド。吸血鬼よ、」

 

 

昨日俺を助けてくれた女はそう名乗った。

 

 

「俺は中村白夜………ただの高校生だよ…………」

 

 

自己紹介とも言えないような自己紹介の交換が終わると、特にそれ以外に会話は発展しなかった。

 

 

「…………………なぁ、お前………今、吸血鬼って言ったのか?お前が?」

 

「そうよ。わたしは貴方たちで言うところの吸血鬼…………昨日貴方が遭遇した連中の超上位の存在だと考えたら分かりやすいかしら」

 

「いやいや、お前………どこが吸血鬼だよ………」

 

 

俺には今のところ、マジで無害そうな可憐な少女にしか見えない。

 

 

「な、なんで吸血鬼が吸血鬼を殺すんだ、なんで俺の血を吸いに襲わないんだ。あと、どうして真っ昼間から太陽の下にいるのに生きてんだ」

 

「……………あぁ、そういうコト。貴方たちにとって吸血種とはそういう認識なのね」

 

 

合点が行った、とアルクェイドという名の女は髪を掻いた。

 

 

「……………な、何言ってんだ?」

 

「わたしは『真祖』という分類に区分される特別な吸血種。ただし、吸血鬼と違って血は吸わないし、日光を浴びても害がない。………つまり吸血鬼というより、精霊と思ってもらったほうが早いかもね」

 

「じゃあ、アイツらは?」

 

「あれらは『死徒』と呼ばれる吸血鬼で、吸血鬼に血を吸われ、傷口などから吸血鬼の血を浴びた存在。こっちが貴方たちの言うよくある吸血鬼ね。人間の生き血を吸い、日光を嫌う異形の怪物…………わたしたち真祖は人類に明確に敵対する存在ではないけれど死徒は目に映る人間すべてに襲いかかる明確な『敵』よ」

 

 

な、なに言ってるのかわからん………急に言われても。

 

 

「えーっと………つまり?真祖ってのが自然に生まれた吸血鬼で、死徒はあとから吸血鬼になったもの………ってことか?」

 

「まぁ、そういう感じね。意外とついていけてるわね」

 

 

いや…………わからんけどな。

 

 

「そして、わたしはある死徒を追ってこの街に来た。そいつがこの街で吸血殺人事件を起こしている犯人」

 

 

いきなりさらっと大事なこと言ってくるんだな………

まぁなんとなく、そう来るとは思ってたが、やはりこの街を騒がす事件の元凶は死徒によるものだった。

 

真祖は血を吸わない。なら、この街に巣食う吸血鬼はアルクェイドとは別、死徒に分類される吸血鬼ってことか………

 

んで…………このアルクェイドはその吸血鬼を始末しようとしている……………

 

 

「要するに、お前はこの街の人の味方ってことだな」

 

「いえ、別に?わたしは人助けのためにそいつを探してるわけじゃないから………でも、まぁわたしがアイツを仕留めれば街から吸血鬼の事件は消えるというのは正しいわね」

 

 

そこは嘘でも「人のため」って答えるべきだろ………変な所で正直者なんだな。

 

 

「んで…………俺をここへ呼んだ理由はなんだ?礼ならもう言ったぞ。それとも、何か返礼の品物が欲しいってことか?」

 

「いいえ?別に欲しいものなんてないわよ」

 

 

アルクェイドは当然のように首を振る。

欲しいものがないって…………そんなつまらないことあるか…………?

 

ほんとに言ってるのかよ………?

 

俺ですら欲しいものは色々あるんだぞ…………

 

 

「ただ、わたしは貴方のことが凄く気になったからお話をしてみたいと思ったの。ちなみにだけど、貴方以外にもわたしに助けられた人、わたしが死者を殺す所を見た人間は何人かいた。けど、わたしが全員からその記憶を消している」

 

「ま、まてどうやって記憶消してんだよ………」

 

「ちょっとした暗示よ。まぁ催眠術みたいなものかしら。大丈夫、身体や脳にダメージは与えていないわよ。ただ、わたしを見たことを忘れさせたくらいのこと」

 

 

………………消したと言うよりは、曖昧になるよう忘れさせたということ?

 

じゃあ、この街のオカルトの一つ、スーパー怪力女ってこの女のことなんじゃないか…………

 

 

「じゃあ………どうして俺は…………」

 

 

俺の疑問に対してアルクェイドは微笑みで返し、さらに一歩こちらへ近づいてきた。

腕を伸ばせば触れられるほどの距離まで接近してきたが、こちらに敵意はやはり感じられない。

 

 

 

「貴方は今から………私の協力者になるからよ!」

 

 

そして、とんでもないことを告げてきた。

 

 

「は…………!?」

 

 

仲間って…………そのまんまの意味か!?

 

 

「待て待て!話が見えねーぞ!なんで俺がお前の仲間になるんだ!」

 

「貴方、この街の地主か何かでしょ?街のことなら何でも知ってそうに見えるもの。それに………」

 

 

アルクェイドは俺の目の前に来ると、白く細い指で俺の髪に触れてきた。

 

 

「うん。間違いない、これは『持ってる』わね、貴方、」

 

「な、何すんだ急に!!!」

 

 

俺はアルクェイドの手を払いのけて後ずさる。

 

そうだったコイツいちおう美少女なんだった…………不自然なくらいに顔が熱い。

 

 

「昨日の貴方が見せた『能力(ちから)』。アレは間違いないわ、生粋の………東洋の鬼の妖力ね」

 

「な………、」

 

 

コイツ、中村が鬼の末裔って知ってるのか!?

いや、そんな様子は見られなかった。

テキトー言って当たったとも思えない。

 

俺の髪に触れただけでわかったとでも言うのかよ………?

 

 

「わたしは本来、最も位の高い吸血種。強大な力を持ってはいるんだけど、ワケあって力を奪われているの。しかもこの街、誰が仕組んでるのか知らないけど、この街の中限定でわたしの出力が下がっている…………一人でできないこともないけど、さすがに骨が折れるわ。そこで、貴方のような能力者がいたら都合がいいってコト」

 

 

都合がいいって…………俺を利用しようって魂胆かよ…………

 

 

「待て、お前のためにあんな連中と命張って戦えってか………?そんなの飲めるほど、俺はお人好しじゃないぞ………だいたい、俺になんの得があってこんな…………」

 

「あら?見返りは前払いで渡してあげたじゃない。わたしがいなかったら今頃、貴方はあいつらとお仲間だったのよ?」

 

「うっ…………………」

 

 

まさかここでそのカードを切ってくるか…………

ダメだ、断るに断れる理由がない。

こいつ、ここぞとばかりに俺の命をダシにしやがって………

 

だが………俺に何ができんだ………?

 

昨日は彼女に守られてばかりで何もできなかった俺が………

 

 

「──────今日1日、考えさせてくれ」

 

「いいけど………なんで?」

 

「今日はちょっと帰りに寄るところがあってな。俺の家は昨日来たろ。日付が変わる前に来てくれ。答えはそこで言う」

 

「拒否権なんてないんだけど………まぁいいわ。覚悟決める時間があったほうがいいものね」

 

 

断られると思ったが意外とすんなり通った。

 

アルクェイドはそれ以上の言葉もなく後ろを向いた。

 

 

「それじゃ、今日の夜そっちへ向かうわ。いい返事を期待しているわよ、白夜」

 

 

アルクェイドはその場で高く飛び上がり、路地裏の4階建てビルの上に飛び乗って消えていった。

 

 

「…………………………………………」

 

 

やっぱり、怪談なんかじゃないか。

はぁ…………と俺はため息をつく。

 

 

まいったな…………昨日助けられたはずが、また命を張らされるなんて。

 

まぁ…………アルクェイドがいれば死ぬことはないだろうが、怪我するのは痛いし面倒だ。

 

 

「皆には心配かけちまうよな…………」

 

 

これから先、また俺が負傷して帰ってきたら、皆は何ていうか。

 

でも………もう、後には引けない。

俺には、やらなきゃいけないことができた。

 

 

俺は、俺のすべきことをする。

 

俺のすべきこと、それは…………アルクェイドと一緒に、この腐った街から吸血鬼どもを追い出すこと。

 

半ば強制でやらされることになったが、これが俺に課せられた運命であって、昨日の夜に生き残った代償だったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────吸血鬼だと?」

 

「…………さっきの奴らは貴方たちでいう『吸血鬼』と呼ばれるモノよ。この街は今、吸血鬼による事件が相次いでいる」

 

 

19年前の世界で語られるもう一つの『月姫』。

 

 

 

 

苑持寺の運命を握る5つの鍵。

 

 

 

──────真祖って区分けされる吸血鬼の他にも、祖と呼ばれる強大な吸血鬼が27柱、これが、死徒二十七祖と呼ばれる存在よ。

 

 

 

 

──────あの金髪の真祖から、代行者について聞きましたか?

 

我が手は主の代行────とはいえ、お金さえ弾んでいただければ。お布施みたいなもんですよ。

 

 

 

 

──────我々は古くからこの国に巣食う『魔』を狩る退魔の血族の一派です。

 

我々両儀一派について、知らない事が沢山あるようですね………中村くんは、

 

 

 

 

──────アトラス院から参りました。呼び名は…………覚えやすさも兼ねて、『紫苑』でお願いします。

 

 

 

 

──────私は貴方の姉よ。貴方よりも、中村の内情についてはよく知っています。

 

 

 

 

 

 

 

『早くしないと、大変なことになっちゃうよ?』

 

『本気で俺を怒らせたらどうなるか試そうってか…………?』

 

 

 

 

『アルクェイド!加減すんじゃねーぞ!俺が───お前に合わせてやるから、』

 

『うん!私が貴方を殺す気でやってあげるんだから!』

 

『真祖の姫君でも殺せぬ『私達』が崩れていくのは、何故だ………あの血は…………』

 

 

 

『魔は斬る…………一人残らずな────!!!』

 

 

 

『喧嘩は気持ちよくやろーぜ………中村ァ!!!』

 

 

 

『苑持寺をいただくのは、この伊賀見財閥よ!』

 

 

 

『夜を止める方法────それは私を止める方法以外にありません』

 

 

 

『我が名はリーズバイフェ!そしてこの盾は───』

 

 

 

『人は都合悪い事実から目を背ける………お前だって、何か重大な事実を忘れたことにしてるんじゃないか…………』

 

 

 

『千年にわたる巡礼の中に、このような結末が待っているとは、私にとってはこれ以上となく失望できるものだよ、』

 

 

 

『アルクェイド・ブリュンスタッドを獲るのは─────この私だ─────!!!』

 

 

 

『私は引けません────貴方がそうであるように、』

 

 

『たとえ何を差し引かれようとも、私の従者に手出しさせるものですか!』

 

 

『俺は街の人々を殺す奴なんかよりも、俺がムカつくと思った奴が一番ブッ飛ばしたくなる………』

 

 

 

 

 

戦うんですか?────貴方からすれば、街の人々のために己を削る理由なんて、ないはずなんですけどね。

 

 

 

 

決めた。やっぱり、貴方には私の手伝いをしてもらうわ────

 

 

 

─────これで契約は成立ね!

 

よろしくね、白夜!

改めてだけど、私のことはアルクェイドって呼んでちょうだい!

 

 

 

10年前の事件の原因が、あの死徒のせいだって言うんなら──────

 

───────俺が皆の代わりに、吸血鬼と戦ってやる。

 

 

 

 

 

『太陽』と『月』を巡る、伝奇ノベルスピンオフ────

 

 

 

 

 

『決着を付けようぜ…………七夜────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『月姫』を識る者

 

Chapter.1

【真祖の姫君】

 

 

 

  【了】

 

 

 

 

 

 

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