読んで下さる方、本当にありがとうございます。
「そんな……、本当に“個性”がないんですか?」
白い壁、薬品の匂い、冷たい空気。診察室に響いた母さんの声は、震えていた。
俺は椅子に座ったまま、医者の話を黙って聞いている。
「失礼。奥さんは元プロヒーローの第四世代、でしたか?」
「ええ。私のは風を操る“個性”です。夫はヒーローではないですが、一応“個性”持ちです」
母さんは落ち着いて答えようとしていたが、指先がわずかに揺れているのが分かった。
医者は机に置いてあったカルテを手に取ると、淡々と説明を続けた。
「本来なら、4歳までに父親か母親のどちらか、あるいは二つが組み合わさった複合的な“個性”が発現するんだけどね。採取した血液を遺伝子検査にかけてみたけど、雄次郎くんの遺伝子には“個性”因子が認められなかった」
「……まだ発現していないだけ、という可能性はないんですか?」
医者の診断に食い下がる母さんの声は必死だった。きっと俺のことを思って少しでも可能性を見出したかったのだろう。
ただ、医者が続けた言葉は、それを否定する。
「残念だけど、それもないだろうね」
デスクに設置されたモニターに、レントゲン写真が映し出される。そこには小さな足の骨が白く浮かび上がっていた。
「昔、超常黎明期に一つの研究成果が上がって、『足の小指の関節があるかないか』ってのが流行ったの。人間進化の過程で使わなくなった部分は、必要ないってことで消えていくもの。無い方がまあ型としては新しいってことだね」
医者はレントゲン写真の小指の位置を指さしながら話を続ける。
「これは雄次郎くんのレントゲンだけど、見ての通り
それを聞いて不安げな表情を浮かべる母さんとは対照的に、俺は静かにその言葉を受け止めていた。
俺は、“個性”が発現しない、いわゆる“無個性”。
それが、医者の下した揺るぎない診断結果だった。
―――――
診察室を出て、俺と母さんは待合室の椅子に並んで座った。そこには、さっきまでの診断の余韻が、まだ空気に残っている気がした。
「……雄次郎、大丈夫?」
母さんは俺の肩にそっと手を置き、覗き込むように心配している。どうやら“無個性”の診断を受けて、俺が相当ショックを受けているのではと思ったようだ。
俺は母さんを心配させまいと、微笑みながら答える。
「……うん。大丈夫だよ、お母さん」
当の俺はというと、母さんほどではないものの、“個性”がないことについては、重く受け止めていた。
前にいずっくんとも話したが、俺が元実力派プロヒーローの母さんの“個性”を受け継げば、将来ヒーローとして『仮面ライダー』の名に恥じない活躍ができただろう。
その将来設計が今回の“無個性”という診断結果で一気に白紙になってしまった。これはヒーローを目指す上で、かなり大きな痛手だった。
それに、ヒーロー云々を抜きにしても、母さんや父さんの“個性”を全く受け継げなかったという事実は、まるで俺の家族との繋がりそのものを否定されたようで、胸の奥がじわりと痛んだ。
だが不思議なことに、今回の診断結果について事実として受け止められる程度には、心が落ち着いていた。それはきっと、俺が“個性”のない世界から転生したことが大きいのだろう。
俺が前にいた世界では“個性”という特異体質はもともと存在しない。なので、自分に“個性”がないと言われても、前の世界の人間の感覚からすれば、それはごく当たり前のことに過ぎない。むしろ、特殊な力が宿っていると思えなかった自分の感覚が正常であったことに、俺はどこか安堵すら覚えていた。
(……まあ、結局俺は前の世界と変わらないってことか)
俺は、結果としてプラマイゼロだったと、自分に言い聞かせるようにそう思った。
―――だが、それは大きな間違いだった。
この時の俺は、“無個性”がこの世界でどういう意味を持つのかを、まだちゃんと理解していなかった。
「……あれ?」
「どうしたの雄次郎?」
その時、視界の端に診察室から“見覚えのある親子”が出てくるのが見えた。
俺は椅子から立ち上がって二人に近づくと、子どもの方に声をかけた。
「いずっくん?」
見間違いではなかった。診察室から出てきたのは、いずっくんと彼の母親―――
引子さんもようやく俺たち親子だと気づいたのか、少し疲れた笑顔で優しく話しかけてきてくれた。
「……雄次郎くん、こんにちは。陽さんも、いつも出久がお世話になってます」
「こちらこそ、雄次郎がお世話になってます。今日はどうされたんですか?」
「それが……」
母さんが丁寧に返すと、引子さんは困ったように視線を落とした。その先には、未だ黙ったままのいずっくんがいる。
何かあったのだろうか。
再度声をかけようとしたとき、いずっくんは顔を上げて俺を見てきた。
「……ゆうちゃん」
「どうした、いずっくん?」
いずっくんの弱々しい小さな声が聞こえた。
その目が真っ赤に腫れていることに気づいた次の瞬間、彼は大粒の涙をぽろぽろと零しながら、堰を切ったように泣き出した。
「僕……! ぼくぅ……!!」
「い、いずっくん!?」
声にならない嗚咽で喉を震わせるいずっくんを、俺は戸惑いながら支えるように背中をさすった。
―――――
病院の待合室で泣き出したいずっくんを何とか落ち着かせた後、俺たち4人は外に併設された小さなカフェに移動した。
座るテラス席では風鈴の音がかすかに響き、風が紙ナプキンを揺らす。
「……そうですか、出久くんも“無個性”と」
母さんが静かに言うと、引子さんは膝の上で手を握りしめた。
「はい……、先程担当の先生がそのように……。……雄次郎くんもですか?」
「ええ、同じく……」
母さんたちの声は落ち着いていたが、表情はどこか険しい。俺はストローを指で転がしながら、二人の会話を聞いていた。
引子さんの話によると、どうやらいずっくんも“個性”が出ないことを疑問に感じて、病院で診断を受けることにしたらしい。
ところが診断結果は、俺と同じく“無個性”。彼もまた『諦めたほうがいい』と医者に言われたそうだ。
いずっくんは、それが余程衝撃的だったのか、診察室で手に持っていたオールマイトのフィギュアを思わず床に落とすほどだったと引子さんは語った。
そして診察室を出たところ、たまたま同じ病院で同じ日に“個性”の診断を受けに来ていた俺たち親子と遭遇した。これが待合室で俺たちが出会うまでの経緯だった。
「ゆうちゃんも……、“個性”なかったの……?」
「ああ、そう言われたよ」
いずっくんが不安そうにこちらを見る。
俺が淡々と答えると、いずっくんは唇を噛みしめ、俯いた。
「……ゆうちゃん、ごめん」
「……なんで謝るんだ?」
突然のいずっくんからの謝罪に、俺は困惑してしまう。彼は震える声で続けた。
「だって……、一緒にヒーロー目指そうって言ったのに……、“個性”がないって分かって……」
「……いずっくんのせいじゃない。謝る必要なんてない」
いずっくんはどうも、俺との約束に責任を感じているらしい。その言葉に少しだけ胸が痛んだが、俺が言ったように謝られる理由なんてどこにもない。
“個性”は生まれ持った体質なのだから、それは俺たちにはどうにもできない。約束した後で“個性”がないのが分かったからといって、それであの時抱いた『ヒーローになりたい』という想いが嘘になることはないのだ。
俺は冷静にそう考えていたが、いずっくんの方は違った。彼はぎゅっと手に持っていたオールマイトの小さなフィギュアを握りしめた。
「でも……、“個性”がなかったら……、オールマイトみたいになれない……」
いずっくんはフィギュアを見つめたまま、ぽつりとつぶやいた。
「超かっこいいんだよ……、どんな時も笑顔で助けちゃうんだ……」
その声は、憧れと絶望が混ざっていた。
「ねえ、ゆうちゃん……」
「……!」
いずっくんは目尻に涙を溜めながら、俺を見る。
俺は言葉を失った。
その瞳には、ヒーローを夢見る少年の希望に満ちた輝きはどこにもない。ただ絶望という真っ黒な闇に包まれていたから。
「僕たち……、ヒーローになれないのかな……?」
その瞬間、いずっくんの隣で俺たちの話を聞いていた引子さんが、椅子を引いて立ち上がり彼を抱きしめた。
「ごめんね! 出久ぅ!!」
引子さんは震える声でいずっくんに謝罪する。その心の中にあるのは恐らく、ヒーローになりたいという自分の息子に“個性”を与えられなかったという罪悪感。
それが同じ母親として伝わったのか、引子さんの肩に手を置く母さんの目もどこか悲しみと悔しさが垣間見えた。
いずっくんはまるで魂が抜け落ちたかのように、延々と涙を流すだけだ。
俺は、ただその光景を見ることしかできなかった。
―――――
『おい聞いたか? デクと雄次郎、“無個性”なんだって』
『え、“個性”がないってこと?』
『てかあいつら、ヒーローになるって言ってなかった?』
『それなのに“個性”がないとか、だっせぇな』
病院で診断を受けてから、数日が経った。俺は幼稚園の廊下で、俺といずっくんのことをこそこそと陰口をたたきながら話す園児たちの声を聞いた。
どこから聞きつけたのか、気づいた時には俺といずっくんが“無個性”だという情報は周囲に知れ渡っていた。俺もいずっくんもそれを幼稚園で口にした覚えは一切ない。母さんたちにも聞いてみたが二人とも誰にも伝えていないとのことだった。
別に情報源を特定したいわけではないが、とにかく俺は、“無個性”だと分かってからの周囲の人間の変わり様に、悪い意味で驚かされていた。
勝己を始めとした幼稚園の園児たちは、先の会話のように俺といずっくんに対してバカにするような態度をとるようになった。幼稚園の先生は、彼らのその行為を咎めつつも、俺たちに憐れむような目で「無理しなくていい」、「“個性”がなくてもいいんだよ」などの言葉をかけてきた。
それは他人のみならず、身内の人間にも言えた。あの日以来、母さんや引子さんは、俺たちの前で少し暗い表情を浮かべることが多くなった。二人とも、自分の息子が“無個性”であることに何かしらの負い目を感じているようだった。
(……そうか、これが“無個性”なんだ)
まるで腫れ物に触るような周りの様子で、俺はようやく理解した。
いずっくんがあれほどまで“無個性”であることに絶望していたのは、“無個性”ではヒーローになることすらできないから。超常社会となったこの世界において、“無個性”とは社会的に大きなハンディキャップを背負ったマイノリティなのだと。
「……本当に、なれないのか?」
幼稚園から帰った俺は、自室で一人呟く。
部屋の様子は、俺が転生したことを知った時からかなり変わっていた。
『仮面ライダー』の痕跡すらなかったこの部屋には、今では段ボールや厚紙、紙粘土で作られた変身ベルトや人形が置かれている。
これも全部、俺がいずっくんと出会ったからこそできたことだ。
そんな彼は今、“
『ねえ、ゆうちゃん……。僕たち……、ヒーローになれないのかな……?』
(……情けない。なんであの時、俺は黙ってたんだ……!)
俺はあの日、いずっくんの問いかけに答えられなかったことを後悔した。
あれ以来、いずっくんとはまともに話ができてない。彼も俺と会うのが気まずいのか、最近は幼稚園でも接触する機会はなく、家に遊びに来ることもなくなってしまった。
いずっくんはこの『仮面ライダー』が存在しない世界で、仮面ライダーをカッコいいと言ってくれた。そして無気力だった俺に、
俺にとっていずっくんは、闇に飲まれかけた心を救ってくれたヒーローで親友だった。なのに俺は、助けを求める顔をする彼に、手を差し伸べることすらできていない。彼は俺にヒーローになれると言ってくれたのに、なんて情けないことだろうか。俺は自分の愚行に怒りが込みあがり、机の上で拳を握っていた。
「……ん?」
するとその時、壁に立てかけてあった仮面ライダーのお面が、何かの拍子で床に落ちてきた。
それはいずっくんがこの部屋に遊びに来た時、一緒に作ったライダーグッズの一つだった。
俺はそれを拾ってしばらく見つめていると、気づけばそのお面と、いくつかの仮面ライダーグッズをリュックに詰めて家を飛び出していた。
(……行こう。いずっくんのところへ)
正直、いずっくんの心を救い出す言葉はまだ見つかっていない。だが、まずは何でもいいから話をしないといけない。そんな気がした俺は、いずっくんの家に向かった。
―――――
いずっくんの住むアパートに着いた俺は、階段を上って彼の部屋のインターフォンを鳴らした。
「あら、雄次郎くん。いらっしゃい」
出迎えてくれたのは、引子さんだった。
「こんにちは。いずっくんいますか?」
「あら? 出久と一緒じゃないの?」
「え?」
引子さんの答えに、俺は一瞬戸惑った。どうやら彼女は、いずっくんが俺と一緒にいると思っていたらしい。
「さっきいつもの公園に行くって言って出て行ったのよ。だから私、てっきり雄次郎くんと遊んでいると思ったんだけど……」
「公園ってことは、行き違いか……。分かりました、俺も公園に行ってみます。ありがとうございます」
俺は引子さんに一礼して、アパートを出た。そしていつものいずっくんと遊んでいる公園にたどり着く。
「……あれは」
公園の前についた俺は、その広場の真ん中で子どもたちが数人集まって何かをしているのを目にした。気づかれないように茂みに身を潜め、その様子をそっと覗き込む。
「や、やめなよかっちゃん……。な、泣いてるだろ……!」
(……いずっくん?)
その中心にいたのは他でもない、いずっくんだった。彼はガタガタ震えながら、後ろで座り込みながら泣く男の子を庇うように立つ。
対峙するのは、勝己と取り巻きの子どもの三人だった。
「こ、これ以上はぼ……、僕が許さゃないへぞ!!」
いずっくんは涙声で噛みながら、彼らにそう言い放つ。かなり勇気を振り絞って出た威勢のようだが、当の三人はまるで珍しいものでも見たような表情を浮かべる程度だった。
そして数秒の間沈黙が流れると、勝己は口角を上げながら胸の前で左手の掌と右手の拳を力強くあわせた。“個性”の『爆破』を使って、ボムッという大きな爆音と火花散る爆炎を伴いながら。
「……はっ、“無個性”のくせに、ヒーロー気どりか? デクゥ!?」
「ヒィ……!」
勝己が見せる不気味な笑顔に、いずっくんは腰が引ける。取り巻きの二人もそれぞれ“個性”を使って臨戦態勢に入る。一人は翼を生やし、もう一人は手の指を伸ばす。
そして三人は、そのまま慌てふためくいずっくんへ向けて突撃を敢行する。
―――その時、俺は足が勝手に動いていた。
「待てえええええぇぇぇぇぇーーーーー!!!」
「「「「!!??」」」」
彼らの注意を引き付けるように、俺は大声で叫びながら茂みを突き破って駆け寄った。スライディングをするようにいずっくんの前へ飛び込み、その場で土煙が立ち上る。
「……雄次郎! てめぇもヒーロー気どりかぁ! ああぁ!?」
勝己は最初驚いた顔でこちらを見ていたが、目の前にいるのが俺だと気づくと怒鳴り声をあげた。俺は一切臆することなく、その瞳をにらみ返す。
「……そうだ。俺は今、いずっくんを守るヒーローになる!」
そう宣言すると、俺は皆が注目する中で“あるポーズ”をとった。足を肩幅に開いて立ち、両腕を手先まで伸ばした状態で水平に揃えて右に向ける。
「キュイーーーン!!」
口で効果音を鳴らしながら行うその姿は、傍から見ればきっと滑稽だろう。現に俺を見るいずっくんや勝己たちの目の色が、それを物語っていた。
だが、俺は何も恥じることなく、そのまま次のステップに移る。両腕を弧を描くように動かし、真上を向いたタイミングで両手で拳作りながらそのまま胸の前で構える。
「変身っ!!! とぉーーー!!」
俺は叫びながら、渾身の力でジャンプした。そして地面に足がつく前に、服の中に隠し持っていた“アイテム”をさっと身に着けると、着地した瞬間に再度ポーズをとる。
「な、なんだてめぇ?」
勝己が俺の姿を見て、一瞬たじろいだ。それもそのはず。彼の目の前にいる俺は、異様な格好をしていたからだ。
腹部には段ボールで作ったベルト。首元には赤い布切れで作られたマフラー。そして顔には厚紙と色紙で作られた緑色のバッタの顔をしたお面。
皆が好奇の目で見つめる最中、俺は公園の中心で自らの名を高らかに名乗った。
「仮面……ライダー!!」
「……仮面ライダー、だぁ? ……上等だコラァ!! お前からやってやる!!」
勝己が掌を構える。取り巻きたちも一斉に俺へ向かってきた。
「ライダーファイト!」
俺は叫びながら、地面を蹴って彼らに立ち向かった。
もちろん俺に“個性”はない。ライダーたちのような改造人間でもない。
だがそれでも、俺は前の世界で見たヒーローたちの動きを真似しながら、必死に拳を振るった。
―――――
それから、どれだけ時間が経過したのかは正直分からないが、俺は勝己たちの“個性”の力に圧倒されながらも、まだ何とか自分の足で立てていた。
既にベルトは勝己の爆破により、焦げ付いた状態でぺしゃんこ。お面も目元の部分が破れている。いつ紐のところが外れて、地面に落ちてもおかしくはなかった。
対する勝己たちはというと、俺が防戦一方だったのもあって大きな怪我こそしていないが、“個性”の使用が体に負担をかけたのか、かなりヘトヘトになっている。
俺はいずっくんと、その後ろで泣いていた男の子には、指一本触れさせなかった。
「ゆ、ゆうちゃん……」
「雄次郎……、てめえなんで折れねぇ!」
いずっくんが心配するように声をかけ、勝己が苛立ったように叫ぶ。
俺は息を切らしながら、ゆっくりと顔を上げて、力強くポーズを構えて答えた。
「仮面ライダーは……、負けない!」
するとその言葉に、勝己の表情が一瞬だけ揺れた。彼は突如舌打ちしたかと思うと、構えていた両手を下ろして後ろを向いた。
「……お前ら! もう行くぞ!」
勝己は、そう言って取り巻きを連れて走り去った。残されたのは、俺といずっくん、そして泣いていた男の子だけ。
それを確認できた瞬間、俺の顔を覆っていたライダーのお面は限界を迎え、紐の結び目ごと厚紙がビリッと裂けた。お面がぱさりと落ちて視界が開けた途端、張りつめていた力が抜け、俺はその場に崩れ落ちた。
「ゆうちゃん!」
「……いずっくん、大丈夫?」
「僕のことはいいよ! どうしてこんなことを……!」
いずっくんが駆け寄ってきて、俺に詰問をしてくる。その目には涙が浮かんでいた。きっとかなり心配させてしまったのだろう。
「……そんなの、当たり前だろ」
だが、俺はそれに申し訳なさを感じつつも、どこか誇らしげに答えた。
「
俺が少し微笑みながらそう言うと、いずっくんも理解したのか涙を浮かべながら笑ってくれた。それを見た俺は思わず、彼に向けてサムズアップをする。
「あ、あの!」
そうしていると、後ろから小さな声がした。そこには、いずっくんが守ろうとしたあの男の子が、涙を拭いながら頭を下げていた。
「あ、ありがとう……!」
「……どういたしまして」
男の子は恥ずかしかったのか、感謝の言葉を告げてそのまま去っていった。俺はその姿を見届けると、立ち上がって戦いで乱れた身なりを整え始める。
体のあちこちに付いた砂を払い落とす俺に、いずっくんは興奮気味に賞賛の言葉を送ってきた。
「ゆうちゃんすごいよ……! 僕と同じ“無個性”なのに、ほんとにヒーローみたいだった……!」
「……“無個性”で、……ヒーロー」
―――その瞬間、俺は自分の中にある決意を固めると共に、一つの答えを見つけ出した。
自分がこれから何をすべきか。
自分がやらなきゃいけないことは何か。
俺はようやく、それが分かった。
「……ねえ、いずっくん」
「何? ゆうちゃん?」
神妙な面立ちで話しかける俺に、いずっくんは不思議そうな表情を浮かべている。俺は彼の反応を他所に、さらに言葉を続けた。
「……大事な話があるんだ。今度のお休みにうちに来てくれる? いずっくんのお母さんもいっしょに」
―――俺の腹の奥底で、赤く光るダイナモが静かに回り始めていた。
【次回予告】
我らが風岡ライダー、次のお話は……。
雄次郎からの誘いで、母と共に風岡邸を訪れた出久。
ヒーローになる夢を諦めかけた出久に、雄次郎は覚悟を持って、ある提案を行う。
次回
『
に、ご期待ください。
不定期投稿としていましたが、今後は週1回(19:30)の定期投稿に切り替えようと思います(話のストックがある際は随時更新します)。ベースとなる「更新曜日」について皆様の希望を伺わせてください。
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月
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火
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水
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木
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金
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土
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日