今日は厄日か何かの悪夢だ。ああ、本当に酷い。
臭いし、空気淀んでるし、薄暗いし、早くおじいちゃんに会わないといけないのに。
吐いたばかりの口腔の気持ち悪さを何とか歯噛みして収めながら、支給されたあてぃしのスマホを取って操作していた。
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遠 野 ハンナ
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こんな薄暗い所でスマホなんて使ったら目悪くしますわよ?
今後陽の光を浴びる機械も少なくなるでしょうし……
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遠 野 ハンナ
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こんな薄暗い所でスマホなんて使ったら目悪くしますわよ?
今後陽の光を浴びる機械も少なくなるでしょうし……
同室の「ハンナ」って名前の、同年らしい貴族が二段ベッドの上から憂い気なことを話し出した。
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沢 渡 ココ
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あん?そんときはそんとき!
あてぃし暗い部屋でスマホ使うのなんて日常茶飯事だし。
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沢 渡 ココ
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あん?そんときはそんとき!
あてぃし暗い部屋でスマホ使うのなんて日常茶飯事だし。
益体のない会話がぽつぽつとしながら時間は15時32分を経ていた。
どうもこのスマホ、魔女図鑑やメモ帳なんかの他に録音、録画はもちろん、【【配信】】や動画編集、音響操作までできてしまうらしい。ははーん、なるほどぉ?
しかも連絡先が分かれば囚人間でメールや電話なんかもできそうだ。
オーバースペックって感じ?もしかしなくても中々のブツが支給されちゃったって感じ??
それを引き換えにこれからの人生奪われてちゃたまんねーっつーの。
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遠 野 ハンナ
_______
この後の予定は、スマホに書かれてる通りだと……
食事、になるんでしょう?
こんな屋敷から出される食事、不安が過ぎますわ。
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遠 野 ハンナ
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この後の予定は、スマホに書かれてる通りだと……
食事、になるんでしょう?
こんな屋敷から出される食事、不安が過ぎますわ。
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沢 渡 ココ
_______
どーかん。
もしかしたら毒でも入ってんじゃね、ハン——
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沢 渡 ココ
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どーかん。
もしかしたら毒でも入ってんじゃね、ハン——
魔女図鑑で囚人達の記録を見てはこれから呼ぶ渾名を決めているが、何人かは語呂の問題で既にあてぃし並みの呼び方から逸脱している。
マーゴとか、シェリーとか、メルちゃんとか。
ハンナのこと【ハンナっち】って呼ぶのはちょっと安直だと思った。だってこんなキャラ立ってんだもん。変えない方が無礼だって!
そうだなぁ……。やっぱりド定番の——
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遠 野 ハンナ
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……構いませんわよ?
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◆
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遠 野 ハンナ
_________
……構いませんわよ?
お嬢のニヘラ付いた顔が浮かぶような声色で、心底嬉しそうに承諾をくれた。おもろ。
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遠 野 ハンナ
_______
【お嬢】、【お嬢】……
お嬢様って良いですわよねぇ……
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遠 野 ハンナ
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【お嬢】、【お嬢】……
お嬢様って良いですわよねぇ……
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お上品なフ○ッシーサイエンスみたい。
お上品なフ○ッシーサイエンスみたい。
——とか、そんな風に二人して他愛もない会話を続けること、今は15:51。
ガシャン!
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ひぃっ!落ち着いてください!
ひぃっ!落ち着いてください!
鉄格子を思い切り殴りつけるような音と、その後に悲鳴が、監房の廊下に響き渡った。
その急な異変にほとんど全ての監房から困惑の声が上がり始める。
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沢 渡 ココ
_______
な、なんだってーの……?
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沢 渡 ココ
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な、なんだってーの……?
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遠 野 ハンナ
_______
今の……メルルさんの声ですわ……
◆
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遠 野 ハンナ
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今の……メルルさんの声ですわ……
お嬢はそう言って慌てた様子で上体を起こしてから、鉄格子を引っ掴んでメルちゃんの方へ叫び出した。
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遠 野 ハンナ
_______
メルルさん!?どうかいたしましたの!?
返事してくださいまし!
◆
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遠 野 ハンナ
_________
メルルさん!?どうかいたしましたの!?
返事してくださいまし!
その声に乗じてか、他の監房から次々と異変への反応が響いてくる。
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メルルさーん!何があったんですかー?
メルルさーん!何があったんですかー?
遠くからあの探偵の声、そして続々と——
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メルルちゃん!何があったの!?
メルルちゃん!何があったの!?
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メルルちゃん、セリアちゃん!聞こえるかい!?
メルルちゃん、セリアちゃん!聞こえるかい!?
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メルル君!?返事してくれたまえ!一体——
メルル君!?返事してくれたまえ!一体——
隣から例の王子系の声が響くと同時に、再びメルっちのいる監房から——
ガシャン!
再び鉄格子に何かが叩きつけられるような音がする。しかし今度の悲鳴は明瞭だった。
メルちゃんが襲われているような音。
牢屋敷で、囚人が、囚人を、襲ってる。
それは……。
―◆―
◆
◆
ゴ クチョー
_______
魔女になりつつある者は、
抑えきれない殺意や妄想にとりつかれてしまいます。
◆
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ゴ クチョー
_________
魔女になりつつある者は、
抑えきれない殺意や妄想にとりつかれてしまいます。
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ゴ クチョー
_______
面倒なことに、いずれ囚人間で
殺人事件が起こるんですよ。
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ゴ クチョー
_________
面倒なことに、いずれ囚人間で
殺人事件が起こるんですよ。
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ラウンジでゴクチョーが言うには、ストレスによる魔女化したものは抑えられない殺意に取り憑かれる……。
つまり今……
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沢 渡 ココ
_______
(……同室のセリアっち魔女化してるとか!?)
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沢 渡 ココ
_________
(まさかっ……同室のセリアっち魔女化してるとか!?)
内心穏やかではなかった。
隣の監房で魔女化したやつが同室を襲ってるとか、スリラー映画かよっ!
それに……。
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◆
沢 渡 ココ
_______
な、なぁ……お嬢?
セリアっち魔女化してんだとしたら、次に襲い掛かってくるのって……。
◆
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沢 渡 ココ
_________
な、なぁ……お嬢?
セリアっち魔女化してんだとしたら、次に襲い掛かってくるのって……。
そういう間に意味を理解したお嬢の顔から、どんどんと血の気が失せていく。
あてぃしも第二の爆弾が胃の中から煮えくり出しそうになっていた。
その会話の刹那、
◆
◆
氷 上 メルル
_______
い゛ッ、痛いですっ!!あ゛っ——
◆
◆
◆
氷 上 メルル
_________
い゛ッ、痛いですっ!!あ゛っ——
ズシャ。
パシャパシャ、パシャ。
柔らかい者が突き刺されるような、何かが漏れ出て地面を叩くような、嫌な音が響いた。
その瞬間、まだ虫が出ただけなんて楽観的な発想は消え失せた。
他の皆も、その音が聞こえた数秒間、声が一切退いた。
そして——
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◆
遠 野 ハンナ
_______
やっべぇですわぁーッ!!!
◆
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遠 野 ハンナ
_________
やっべぇですわぁーッ!!!
お嬢の叫び声と共に、監房は恐慌状態に陥る。
同じ室内にいる人間の内一人が魔女化し、同室の一人を殺した。パニックホラーの代名詞とも言えるような典型的な恐怖をもしも実際に経験するとしたら、それはどれほど恐ろしいことだろう。
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どうしよう……!どうしよう、どうしよう!!
どうしよう……!どうしよう、どうしよう!!
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これは……少し、マズいかしら。
これは……少し、マズいかしら。
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誰か……誰か強い魔法を使える者はいないのか!!
誰か……誰か強い魔法を使える者はいないのか!!
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私なら【怪力】が使えますが……。
私ならこの程度の鉄格子は壊せますが……。
混沌の狂騒にまみれた監房の廊下に、凛とした声が響く。
◆
◆
蓮 見 レイア
_______
皆、落ち着くんだ!
緊急時ほどパニックになってはならない!!
ひとまずは皆隠れて、それからゴクチョーの指示を待つんだ!!
◆
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蓮 見 レイア
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皆、落ち着くんだ!
緊急時ほどパニックになってはならない!!
ひとまずは皆隠れて、それからゴクチョーの指示を待つんだ!!
今レイアっちなんつった?
【隠れる】……?
は……?
◆
◆
蓮 見 レイア
_______
皆も聞いたと思うが、魔女化は理性を失う代わりに身体能力が著しく向上する!
堅牢な壁はともかく、鉄格子を破る可能性は十分ありえる!
だから——。
◆
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蓮 見 レイア
_________
皆も聞いたと思うが、魔女化は理性を失う代わりに身体能力が著しく向上する!
堅牢な壁はともかく、鉄格子を破る可能性は十分ありえる!
だから——。
ガシャン!!
カラン、カラン。
◆
◆
◆
沢 渡 ココ
_________
ぎゃッ!!!
猛烈な破壊音と共に小さ目な金属の破片とかが監房の床を転がり落ちる音が響いた。
鉄格子は破られた。皆がそれを確信するのにさほど時間はかからなかった。
監房に静寂が訪れると同時に、元々人だったとは思えないような獣の咆哮が耳をつんざいた。
化け物の声で完全に沈静化した監房の空気を伝って、ひたひた、いやそれよりかは、かさかさ、というべきか、そういう苔むした岩肌を忍ぶように踏む足音が鳴る。
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沢 渡 ココ
_______
っ……!ひ、ぃ……
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◆
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沢 渡 ココ
_________
っ……!ひ、ぃ……
ふざけんな……こんなの、ただのホラーだろ!
ああもう心臓がバグってうるさい、せっかく声殺そうとしてんのにッ……!!
てかあれもう明らかに人間の声じゃねーし……。
やだ……死にたくない……死にたくない、死にたくない……!
で、でも……隠れ……!
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◆
沢 渡 ココ
_______
ひ、ひっ、ひぃっ、ひッ……
◆
◆
◆
沢 渡 ココ
_________
ひ、ひっ、ひぃっ、ひっ……
やばい……やばい、やばいって……!
声、声、声抑え、抑えな、抑……。
そういって、過呼吸が口からそのまま吐き出されるあてぃしの口をふさぐ手。同時に思い切り格子から死角の壁際へと引き込まれる。
チラ見したお嬢の顔も恐怖が張り付いてる、でもあてぃしのことも心配してくれてるのが分かって……。
邪魔、邪魔……でも……払いのけたら、死ぬ……。
これ……
これってぇぇ……
暗闇とか、足音とか、知らないとこで顔見知りが隠れてるのとか……
【あの時】みたいな、みた……。
◆
◆
遠 野 ハンナ
_______
一体、どうしちまいましたの——
◆
◆
◆
遠 野 ハンナ
_________
一体、どうしちまいましたの——
そう囁いてあてぃしの顔を覗き込んだお嬢が、弾かれたようにいきなり口元の手を外して後ずさり、そして追い詰められたかのように取り乱す。
その顔は恐怖で歪んでいた。
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遠 野 ハンナ
_______
な、ぁ、ああッ……。
◆
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遠 野 ハンナ
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な、ぁ、ああッ……。
お嬢が青い顔をして後方に下がっていく。
……というか、あれ?
なんか壁とかすり抜けて皆見えてね?
なんでお嬢あてぃしのこと見て怖がってんだろう。
逃げないでよ。
見えるとこにいてよ。
何故か監房にアリサさんがいませんでしたが、恐らく幸運の持ち主なんですね。
何の琴線に触れたか、セリアさんは魔女化して同室にいるメルルさんを殺してしまったようです。
それどころか、先ほど猛烈な破壊音と共に鉄格子を破ってしまったようで、私含め皆さんが見つからないよう隠れる羽目になってしまいました!
なれはては不死ということで、先のヒロさんの件でその再生力と攻撃力は実感していますが……。
あんな化け物の力を発揮されてしまえば、どんな人間でも木っ端微塵になってしまうでしょう。
ともすると、やはり気になるのがハンナさんの安否です。
隣の監房なんですから、やっぱり助けに行った方が良いと思います。ただ廊下から行くとどうしてもなれはてに近づかなければなりませんね。
であればやることはこうです!
もちろん、監房の壁を破壊することですね!
撃力を与えるときに方向を誤ると隣人が壁に埋もれてしまいますので、そこは上手いこと調整しましょう!
例えば——
ギィィッ ガシャッ
パラパラ
◆
◆
黒 部 ナノカ
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うわっ、うそっ……。
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黒 部 ナノカ
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うわっ、うそっ……。
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◆
宝 生 マーゴ
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あら、壁から可愛らしいお顔が出てきたわ♡
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宝 生 マーゴ
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あら、壁から可愛らしいお顔が出てきたわ♡
①壁は切石積みなので、石を一つ粉々に割った後、そこからところどころの石を半分に割ったりしてバランスよく取り除いていけば良いですね。もちろん、極力音は立てない形で、です!
②しかもこの壁同士の間もかなり厚みがありますから、隠れる方法は更に増えますね。
③これで監房を通ってハンナさんのところまで辿り着きましょう!
※ついでに、もしものことがあると心配なので私の監房の鉄格子も破っておきましょう。バコーン!
パラパラ、パラパラ。
パラパラ、パラパラ。
パラパラ、パラパラ
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えっ!?えっ、えぇっ!?何が起こってるのそれ……!?
えっ!?えっ、えぇっ!?何が起こってるのそれ……!?
レイアさんが目を丸くして固まってしまいましたがモーマンタイです!
セリアさんのなれはてはどうも監房廊下の隅で止まってるみたいですね……なぜだかは分かりませんが。
とはいえハンナさんの危険が無くなったわけではないので、いざ監房突入で——
……
……はれ?
……
…………な——
石の破る音が聞こえた。
◆
◆
ゴ クチョー
_______
——と、言った感じで、初日から全滅でした。
今回の唆すやり方はあまり効率的ではなさそうですね……。
◆
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ゴ クチョー
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——と、言った感じで、初日から全滅でした。
今回の唆すやり方はあまり効率的ではなさそうですね……。
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ゴ クチョー
_______
ああ、それと、脱出を試みた方がいらっしゃったのですが、一人だけ残っても虚しいでしょうから、
主にはなれはてに襲われたと言うことにしておきました。
◆
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ゴ クチョー
_________
ああ、それと、脱出を試みた方がいらっしゃったのですが、一人だけ残っても虚しいでしょうから、
主にはなれはてに襲われたと言うことにしておきました。
あらゆる可能性を含有し、同時並行的に進んでいく確率論的環境、いわゆるタイムライン。
ゴクチョー達は囚人の始末を終えた後、主人にも秘匿されたこの時空を超えるネットワークによって情報共有をしている。
◆
◆
ゴ クチョー
_______
こちらでは囚人を拷問し無理やり魔女化させようとしたのですが、
発見のリスクや死体処理など鑑みると、こちらも得策とは言えません。
勤務は早く済むんですけどね……?
◆
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◆
ゴ クチョー
_________
こちらでは囚人を拷問し無理やり魔女化させようとしたのですが、
発見のリスクや死体処理など鑑みると、こちらも得策とは言えません。
勤務は早く済むんですけどね……?
今や魔女因子の拡散が世界に輪をかけて致命的な課題となっている。
着実に一人当たり検出される因子の質量、その指数が増していく状況に、牢屋敷のバッキングを担う機関も焦りの色を見せていたのだ。
大魔女は発見されていない、だが死亡したことを確認する術がないあまりか、もし死亡していたとした場合その依代を探す必要がある。
加えて、屋敷への調査の結果明らかとなった【魔女を殺す魔法】は、事実上大魔女を殺す魔法と同義である。すなわち大魔女の死は世界の滅亡を意味する。
そういった事情から、効率よくストレスを与え囚人達の生活サイクルを巻きに早めなくてはならなかった。
今の所あらゆるタイムラインの中で魔女因子が完全に消失した例は少ない、いや、全くないと言って良いだろう。
◆
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ゴ クチョー
_______
機関も主も、こぞって鳥使いの荒い……
やれやれ……。
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ゴ クチョー
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機関も主も、こぞって鳥使いの荒い……
やれやれ……。
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ゴ クチョー
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旅に出た
水精の大魔女様が送った手紙がありますでしょう。
主はあの方の手紙を今も——
◆
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ゴ クチョー
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旅に出た
水精の大魔女様が送った手紙がありますでしょう。
主はあの方の手紙を今も——
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ゴ クチョー
_______
それにしても……今も忘れられません。
まさか健忘症状に罹患するなど、考えもしませんでした。
元々大魔女様探しに躍起になっていたところで、さらに焦燥しだしたときはどうなるかと……
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ゴ クチョー
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それにしても……今も忘れられません。
まさか健忘症状に罹患するなど、考えもしませんでした。
元々大魔女様探しに躍起になっていたところで、さらに焦燥しだしたときはどうなるかと……
粗方の仕事内容について説明し切ったゴクチョー達は、いつの間にか昔話や世間話、仕事の世知辛い愚痴を雑談する雰囲気になっていた。
そこに出る名前に、それがどれだけ特徴的であったかを除いては、囚人の話題が介在する隙間は全くない。
エマ達囚人の全ての記録は地下の暗闇へ永遠に保存・封印され、外の世界から全ては隠蔽される。
それは大魔女が見つかるまで永遠に繰り返される。
そのうち、一人は必ず因子を埋め込まれているような、魔女因子が十分に行き渡ったこの世界で、誰かがその起爆装置に手をかけるその時まで。
BAD END