アメリカ西海岸――
青く広がる空と、無数の歓声が響くスタジアムの街…
その街で一人の男が生まれた。
父はメジャーリーグを代表するスラッガー…【ウィルソン・カーター】
スタンドの誰もがその名を知るロサンゼルスにおいて“伝説級”の白人の男である。走攻守全てを兼ね備えた天性の肉体にリーダーシップ…長年チームを牽引してきた実績から殿堂入り間違いなしとまで言われる男である。
そんなスーパースターが惚れた女は日本出身の女性…【香織・神谷・カーター】。気品と慎ましさを兼ね備えた大和撫子のような女性であり、夫の波乱万丈である野球人生を静かに支えていた。(実は名家出身のお嬢様である)
そして、そんな2人の元に誕生したのが…【レオン・神谷・カーター】
父は偉大なスタープレイヤー…母は異国から嫁いできた、由緒ある家系のお嬢様というサラブレッドである。髪色は母親からの遺伝である黒髪なのに対して、瞳の色は父親と同じ蒼眼である。
メジャーリーガーの息子という事もあり、生まれて間も無く初めて触れたのが野球ボールという事もあり、次第に大好きな父がやっている野球にのめり込んでいくのは必然であった。
そして今日も…
『試合は9回裏2:3…2死ランナー満塁…一打逆転の場面で打席に立つのはロサンゼルス・ダイナーズの主砲・ウィルソン!!サヨナラを決めることは出来るのか!?』
その様子を興奮しながら球場の上空…関係者専用VIP席にて観戦する子供と女性がいた。
「パパ〜!!うてぇぇぇ!!」
「ほぉ〜ら、椅子に立っちゃダメでしょ?」
興奮しながら腕を振って大好きな父を応援するレオンとそんな愛する夫と愛息子を微笑ましく見ているのが香織である。
2人は父の家族という事もあり、選手関係者専用のVIPルームにて毎日応援する事が可能であり今日も父とダイナーズの応援をするために駆けつけていた。
ーーカキィィィィィィィィン!!
そんな時、溢れんばかりの大歓声を掻き消す乾いた金属音がスタジアムを一閃した
「いっけぇぇぇぇ!!」
『行ったか!行ったか!打った張本人であるウィルソンはその手応えに確信歩き!!行ったぁぁぁぁ!!サヨナラ逆転グランドスラム!!チームの窮地を救う完璧な一振りで勝利に導きました!!』
「やったぁぁぁぁ!!ママぁぁ!みた!パパの!」
「ふふ。見てたわよ〜。レオンのパパは凄いね〜」
「うん!!」
鼻息を荒くさせながら興奮する息子を見ながら香織が呟く。
『そしてこの勝利にてダイナーズ!10年連続のポストシーズン進出が確定しました!!』
『いや〜今年もダイナーズは強いですね〜』
『そうですね〜。ウィルソンという生え抜きのスーパースターを抱えている今がダイナーズの全盛期なのは間違い無いでしょうね!』
『おっと…やはり今日のお立ち台!ヒーローはウィルソンです!さぁ何を話すのでしょうか!』
試合後のヒーローインタビュー…今日のヒーローは間違いなくこの男である
『今日のヒーローは我らがスーパースター…ウィルソン・カーター選手に来てもらいました!まずはチームの勝利…そして10年連続のポストシーズン進出おめでとうございます!!』
『ありがとう。…まぁ、やるべきことをやっただけさ』
軽く汗を拭いながら、余裕すら感じさせる笑みを浮かべるウィルソン。
スタンドからは歓声が鳴り止まない。
『いやぁ〜しかしあの打席、2アウト満塁という極限の場面でしたが…何を考えて打席に?』
マイクを向けられ、ウィルソンは一瞬だけ空を見上げる。
『別に難しいことは考えてない。ただ――』
その視線が、ふとスタンド上部…VIP席へと向けられる。
そこには、小さな体で必死に手を振る愛息子の姿。
『“俺の背中を見てる奴”がいるからな』
――スタンドがどよめく。
『おぉっと!?今の発言は…!?』
『ははっ、ただの独り言さ』
軽くはぐらかしながらも、その視線は確かに一点を捉えていた。
ダイナーズ専用VIP席にて――
「……パパ?」
父が自分を見た気がした。
幼いながらも、レオンはそれを直感で理解する。
胸の奥が、ドクンと大きく鳴った。
『では最後に!ファンの皆さんへ一言お願いします!』
マイクを握り直し、ウィルソンはゆっくりと言葉を紡ぐ。
『このチームはまだ終わらない。いや――ここからが本番だ』
歓声がさらに大きくなる。
『必ず、頂点まで連れて行く』
その言葉には一切の迷いがなかった。
『だから…これからも熱い声援お願いします!!』
――その偉大な姿を、レオンは目を逸らさず見つめていた。
「……ママ」
「なぁに?」
「ぼくも……パパみたいになれるかな?」
幼い声ながらその瞳は真っ直ぐだった。
香織は一瞬だけ驚いたように目を細め――
すぐに、優しく微笑む。
「なれるわよ」
迷いのない、柔らかな声で香織が断言する。
「だってレオンは――パパの子だもの」
その言葉を聞いた瞬間。
レオンの中で、何かが“決まった”。今まで薄らと思い浮かべていたイメージから、自分の目指すべき理想の形として…
だが、この時のレオンはまだ知らない。
この先、自分と同じように――
“野球に選ばれた存在たち”と出会うことを。
そしてその出会いが、
運命を大きく動かすことになるということを。
――4歳。
運命の歯車が、静かに動き出す。