「千束さん!? 千束さーん!!」
無線から返ってくるのは、ノイズと激しい崩落音だけ。たきなの焦燥しきった声が耳を刺す。
「……千束と連絡が取れません。爆発の直撃を受けた可能性があります。るーあさん、私は正面から突入します。バックアップを!」
「たきなさん、待って! 今の爆発、ただのトラップじゃない。……意図的に千束さんの回避ルートを塞ぐように配置されてた。これ、相手は千束さんの『読み』を知ってる!」
るーあは緑茶のペットボトルを地面に置いた。その瞬間、彼女の周囲の空気が、物理的な重圧を伴って変質する。
「……あーあ。店長には、これを使う時は『リコリコを辞める時だ』って言われてたんだけどな」
るーあが静かに目を見開く。
その瞳の奥で、無数の光の糸が交差するように明滅した。
彼女の「力」――それは、弾丸を避ける反射神経ではない。
「因果の観測」である
風、熱、音、そして敵の殺意。あらゆる事象を極限まで計算し、数秒先の未来を「確定事項」として視認する能力。
「……。……見えた。千束さんは地下3階、瓦礫の隙間。生存。……ただし、敵の増援が30秒以内に到達する」
「なっ……なんだ、今の動きは!? 映像が追えないぞ!」
DA指令室でモニターを凝視していたスタッフが叫ぶ。
画面の中のるーあは、もはや「走って」いなかった。崩落する瓦礫を足場に、まるで重力を無視するように跳躍し、最短距離でビルの深部へと吸い込まれていく。
「……楠木司令。彼女のバイタルが異常です。脳波が……通常の人間の処理能力を遥かに超えています!」
「……それが、奴の『力』か。観測し、最適解を導き出す。……だが、その代償は安くないはずだ」
楠木の言葉通り、るーあの視界は真っ赤に染まり始めていた。
「……げほっ、ごほっ……。……あちゃー、さすがに今の派手すぎ……」
暗闇の中、千束が瓦礫を押し除けようとしていた。そこへ、数人の武装兵が銃口を向けて近づいてくる。
「……動くな、リコリス」
「あはは……。ちょっと、タイム、くれないかな?」
絶体絶命。千束が目を閉じた瞬間。
――「そこ、私の先輩の席なんですけど。どいてもらえます?」
静かな、しかし氷のように冷たい声。
次の瞬間、武装兵たちの銃が、るーあが放った「一発の弾丸」の跳弾によってすべて粉砕された。
「……えっ? るーあちゃん……?」
千束が見上げた先には、青い制服を翻し、肩で息をしながらも圧倒的な存在感を放つ後輩の姿があった。
「お待たせしました、千束さん。……さあ、帰りましょう。美味しい晩ごはんが待ってますから」
るーあが千束の手を取る。その手は、隠しきれないほど激しく震えていた。
その様子を、遠くのビルから眺めている影があった。
「……ほう。未来を視るスナイパーか。バランスが悪いな……非常に悪い」
???は不敵に笑い、ロボ太に向かって告げた。
「ロボ太。あの女の『限界』を調べろ。どんな時計も、巻きすぎれば壊れるものだ」
追記ログ:エラー12:メモリ破損、、、修復を試みます...