たきな「睡眠不足は、判断力を低下させます。寝てください」
るーあ「...今日も仕事があるんですけど、寝れるんですかぁ?」
たきな「30分程度は休憩時間があるはずです」
るーあ「それは休むとはいえないですよ!?」
DA指令室は、かつてない緊張感に包まれていた。モニターに映し出されているのは、建設現場でのるーあの「異常な動き」の解析データだ。
「……彼女がこれほど膨大な力を秘めていたなんて」
「セカンドの枠に収まる器じゃない。あの観測能力、リリベルのトップクラスに匹敵するぞ」
ざわつくオペレーターたちを、楠木司令の冷徹な声が切り裂く。
「彼女の経歴をすべて調べ上げろ。必要に応じてDAに連れ戻せ。手段を選ぶ必要はない。……錦木千束というイレギュラーに加え、この『るーあ』という不確定要素を野放しにはできん」
「……何者なんだ、るーあは」
一人のスタッフが呟く。その出生、過去、そして力の起源。すべてが謎に包まれていた。
「あと、武装集団の親玉を見つけ出せ。時間はそれほど経っていない。必ず見つけ出せ。……彼らがるーあの力に接触した形跡があるなら、事態はさらに深刻だ」
その頃、喫茶リコリコ。
ベッドから起き上がれるようになったるーあは、店の手伝いをしようとエプロンを手に取った。だが、その瞬間。
「……え?」
視界の右端から、じわじわと漆黒のノイズが広がっていく。
昨日までは小さな点だったものが、今は視界の4分の1を覆い隠していた。
「るーあちゃん? どうしたの、固まっちゃって」
千束が心配そうに顔を覗き込む。
「……あ、いえ。なんでもないです。ちょっと立ちくらみがしただけで」
咄嗟に嘘をつく。だが、千束の顔すら、ノイズのせいで半分しか見えない。
「因果の観測」の代償――それは、脳の処理能力のオーバーヒートによる、視神経の物理的な崩壊だった。
「……るーあさん。嘘は無用です」
たきなが背後からるーあの腕を掴んだ。その手には、DAから極秘に持ち出した特殊な眼圧測定器が握られている。
「視界に異常があるはずです。あのレベルの観測を行えば、無傷で済むはずがない。……見せてください」
「たきなさん……。……大丈夫ですよ、これくらい」
「大丈夫なわけないでしょ!」
千束が声を荒らげる。
「もし、るーあちゃんの目が……その力のせいで見えなくなっちゃったら、私……!」
「……。……。……やっぱり、隠し事は苦手ですね...」
るーあが力なく笑う。その時、店の外に不自然な数台の黒塗りの車が停まった。
DAの「回収班」だ。
「4050番(るーあ)。楠木司令の命により、精密検査のため本部へ移送する。……抵抗は無意味だ」
スピーカーから響く無機質な声。
千束とたきなが即座に武器を構える。だが、るーあは二人の前にふらりと歩み出た。
「……待ってください。行きます。私が行けば、この店には手を出さないんですね?」
「るーあちゃん、何を言ってるの!? 行かせないよ、あんなところ!」
「……千束さん。今の私の視界じゃ、もう銃を撃つどころか、コーヒーを淹れることもできません。……本部に行けば、何か治療法があるかもしれない」
るーあは、ノイズで欠けた視界の中で、必死に千束の笑顔を思い出そうとしていた。
「……リコリコの新人、ちょっと出張してきます。……店長、給料……前借りでお願いしますね」
るーあがDAの車に乗り込む。
連れ去られる彼女の背中を、千束たちはただ見送ることしかできなかった。
遠く離れた廃ビル。ロボ太の端末に、るーあ連行のニュースが入る。
「ヒヒッ! DAも必死だね。あんな壊れかけの観測者を回収してどうするつもりだか」
???「……いいや、これでいい。DAの施設内で彼女が『完全な暗闇』に落ちた時……僕たちの出番だ。バランスを崩すための、最高のスパイスになる」
男は、チェスの駒を一つ、盤上から弾き飛ばした。
追記ログ:視界が悪い、ぼやけてしまう