「――たとえ見えなくても、すべてを観測し、『あたかも私の思い通り』になりますよ」
暗黒の独房。視界を失ったるーあの声が、冷たく、そして鋭く響く。それは強がりではない。
視覚という最大の情報を遮断されたことで、彼女の脳は残されたすべての感覚。
――空気の振動、湿度、床から伝わる微かな重心の移動――を異常な速度で演算し始めていた。
「言ってくれるじゃぁないか! 目が見えないお前に何ができる! この距離、この暗闇でボクのドローンを避けきれるわけがない!」
ロボ太の嘲笑と共に、数台の小型ドローンが駆動音を上げ、るーあを包囲する。
「……できるよ。この命が尽きるその時まで!」
るーあは迷いなく、闇の中へと飛び出した。
弾丸の風を切る音、モーターの回転数。それらすべてが彼女の脳内で「点」となり「線」となって結ばれる。引き金を引き、一発。背後でドローンが火花を散らして沈黙した。
「なっ……!? まぐれだ! 偶然に決まってる!」
一方、喫茶リコリコでは、かつてないほどの緊張感が漂っていた。
「あぁぁ、まずいよ! どうやってるーあちゃんを助けよう!? まずいまずい……考えろ、考えろ私!」
千束がカウンターを激しく叩きながら、落ち着きなく歩き回る。彼女の予知に近い回避能力ですら、DAの最深部に囚われた仲間を救い出すビジョンを見せられないでいた。
「落ち着いてください。焦ってしまえば、本当に救えるものも救えないですよ」
たきなが静かに、しかし力強く千束の肩を掴んだ。その瞳には、焦りではなく、冷徹なまでの決意が宿っている。
「状況把握といこうかな」
クルミが複数のモニターを高速で操作しながら口を開いた。
「現在、DAの本部は外部からの大規模なハッキングを受けて完全にブラックアウトしてる。ラジアータ(DAのAI)も沈黙。……でも、これを利用しない手はない。セキュリティが死んでるってことは、今のあそこはザルだ」
「……クルミ、るーあの位置は特定できるか?」
ミカが低い声で尋ねる。
「独房エリアだ。でも、そこにはロボ太だけじゃない……。もう一人、変なバイタル反応がある。おそらく、武装集団の親玉だ」
「……千束、たきな。準備はいいな。観光客としてではなく、『リコリス』として突入する」
「……もちろん。あの子、まだお給料全額渡してないしね!」
千束が銃のチェックを終え、不敵に微笑む。
「……はぁ、はぁ……」
独房の壁に背を預け、るーあは激しく呼吸を乱していた。
三台目のドローンを落としたが、代償として左肩に掠り傷を負っている。脳の過負荷により、耳の奥からも出血が始まっていた。
(……限界、かな。でも、まだ……足音が聞こえる)
闇の向こうから、ゆっくりと近づいてくるブーツの音。それはロボ太ではない。圧倒的な強者の足音。
???「……素晴らしい。視界を失い、脳が焼け付こうとしている中で、まだ『意志』が死んでいない。君の観測能力、その本質は『絶望への抵抗』か」
「……誰、ですか……。姿が見えないのは、お互い様、でしょう……?」
るーあは、震える手で最後の一発を装填する。
「私の……引き鉄を引く理由は……もう決まってるんです。……美味しい、コーヒーを……みんなで、飲むためです!」
闇の中で、るーあの「心の眼」が、最後に捉えたのは――。
追記ログ:まだいけます、るーあ、まだ戦えますよ