たきな「調子に乗りすぎないようにしてください」
るーあ「はーい。わかってますよ~」
「よぉーこそ、喫茶リコリコへ~」
「千束さんテンション高いですね」
「これぐらい高くないとやっていられないよ~」
「それは千束さんだからできるのであってわたし(ry」
「ご注文をお伺いしまーす!」
「おぉぉい!? 私の話を聞いてくれ~」
「はい!団子三兄弟ですねー、500円でーす」
「・・・千束はいつもあんな感じです。」
「たきなさん!いつのまに!?」
「さっきからいましたが?」
「そういうことじゃなく(ry」
「るーあー!注文!!注文!!」
「えっ、私が作るんですか!?」
「当たり前でしょ?、修行だよ、修行!」
千束はるーあの背中をぐいぐい押して、カウンターの奥へと追いやった。そこには、エプロンの紐をキリッと締め直し、すでに「職人の目」になったたきながスタンバイしている。
「るーあさん、まずは基本の『スペシャルエレガントパフェ』から作ってもらいます」
「スペ……何ですって?」
「これです」
たきなが差し出したメニュー写真には、もはや芸術作品というか、地質学の地層調査でもしているのかというレベルで積み上げられたチョコとクリームの山が写っていた。
「……これ、物理的に自立可能なんですか?」
「角度と粘度の計算を間違えなければ、自立します。さあ、始めてください。お客様が待っています」
「た、たきなさん、目が笑ってない……!」
るーあは震える手でスプーンと生クリームを握りしめた。
背後からは千束の「あ、団子三兄弟お待たせしました?!」という明るい声と、ミズキの「ちょっとぉ、私のコーヒーまだぁ?」という愚痴、そしてクルミがキーボードを叩く「カタカタカタ……」という音が混ざり合って聞こえてくる。
―数分後
「……できました。これで、いいでしょうか……?」
るーあが差し出したのは、たきなの「計算」とは少し違うが、どこか温かみのある絶妙なバランスのパフェだった。
「……。盛り付けの重心が左に0.5ミリほどズレていますが、初心者にしては上出来です」
「合格……ってことですか?」
「はい。運んでください」
たきながわずかに口角を上げたのを見て、るーあはホッと胸をなでおろした。
だが、フロアに出た瞬間に千束がひょいっと顔を出して、るーあの耳元で囁く。
「るーあちゃん、気をつけてね。奥の席のお客さん、実は『リコリコ裏メニュー』を狙ってる常連さんだから」
「裏メニュー……?」
「そうそう!『今日のオススメの……”刺激”をくれ』って言われたら、合図だよ!」
るーあ(……接客って、こんなにスリリングな仕事だったっけ!?)
喫茶リコリコの新人アルバイト、るーあ。
彼女がこの店の「本当の顔」をすべて知るまで、そう時間はかからなそうだった。
―閉店後
「あ”ーー。づがれだー。初日からキツいってぇぇ」
「お疲れ様、るーあちゃん!はい、これ新作の試作スイーツ!糖分補給して!」
千束が、これまた見たこともない色のドリンクとケーキをトレイに乗せて持ってきた。
ぐったりとテーブルに突っ伏していたるーあは、顔だけを上げて力なく笑う。
「……ありがとうございます。でも千束さん、あの『裏メニュー』って、まさか激辛激甘闇鍋パフェのことだったなんて聞いてませんよ……」
「あはは!『刺激』が欲しいって言われたら、あれがリコリコ流のおもてなしだからね!」
たきながテキパキとフロアの椅子を上げながら、冷ややかに、でもどこか労うようなトーンで口を開く。
「るーあさん。初日にしては、お客様への対応も、千束の無茶振りへの適応も合格点です。……正直、もっと早く根を上げると思っていました」
「たきなさん……それ、褒めてるんですよね?」
「はい。最大級の賛辞です」
カウンターの奥では、ミカがコーヒーを淹れ直し、その横でクルミが欠伸をしながらパソコンを閉じている。
「ま、死人が出なかっただけマシだろ。ここは普通の喫茶店じゃないからな。命がいくつあっても足りないぞ?」
「クルミ、縁起でもないこと言わないの!」
千束がクルミを嗜めると、今度は店の隅から「……はぁ、今日も合コンの収穫ゼロ……。ねぇ、るーあちゃん、あんたの周りにいい男いないの?」とミズキの怨念じみた声が響いてきた。
「ミズキさん、まずはそのお酒の匂いを消してからにしましょうか」
たきなの容赦ないツッコミに、店内に笑い(と一部の悲鳴)が広がる。
るーあ(……確かに体力的には死にそうだけど。)
窓の外は、すっかり夜の帳が下りている。
初日の激動を思い返し、るーあは一口、千束の持ってきた謎のスイーツを口に運んだ。
「……甘い。けど、悪くないかも」
「でしょー!? 明日はもっと忙しくなるから、たっぷり寝てくるんだよ、るーあちゃん!」
「……明日も、生き残れるように頑張ります」
喫茶リコリコの長い一日が、ようやく終わろうとしていた。
―そのときに一本の電話が鳴る
「はいはーい。喫茶リコリコでーす!!」
「お電話ありがとうござい....なんですか、司令?こんな時間に....」
「……えっ? あ、はい。……はい。了解しました」
千束のいつもの明るいトーンが、一瞬で消えた。
店内の空気が一瞬で張り詰めた。
ついさっきまでの笑い声が、嘘みたいに消える。
受話器を置く彼女の表情は、さっきまでの「看板娘」ではなく、リコリスとしての真剣な眼差しに切り替わっている。
「……千束、司令から何と?」
たきながクイッと眼鏡を押し上げ、静かに歩み寄る。店内の空気が一気に張り詰め、ミズキも酒のグラスを置いて居住まいを正した。
「……うん。墨田区の廃工場付近で、大規模な武器取引の兆候があるんだって。周辺の監視カメラが全部ダウンさせられてて、近くにいるリコリスに急行命令」
「……この時間に、ですか。かなり緊急性が高いようですね」
たきなは迷うことなく、カウンターの下に隠してあったバッグを手に取る。
「るーあちゃん、ごめん! 今日はもう上がっていいよって言いたかったんだけど……」
千束が、少し申し訳なさそうに、でもどこか試すような視線をるーあに向けた。
「……お店、閉めておいてくれる? それとも……」
「……それとも?」
るーあが聞き返すと、ミカがカウンターの奥から「るーあ」と低く、重みのある声で呼びかけた。
「るーあ、お前をここに呼んだのは、ただの店番をさせるためじゃない。……お前の『力』、ここで使う覚悟はあるか?」
ミカの手には、いつの間にか一丁のスナイパーライフルを抱え、るーあの前に差し出された。
「……指令の電話が来たってことは、そういうことですよね」
るーあは、さっきまでの「疲れ切った新人バイト」の顔を捨て、差し出された銃を迷いなく受け取った。その手つきは、明らかに素人のものではなかった。
「……よーし! それじゃあリコリコ、夜の部スタートだよ!」
千束が不敵に笑い、たきなが弾倉のチェックを終える。
(……やっぱり、ただの喫茶店じゃないと思ったよ!)
三人の影が、夜の街へと消えていく。喫茶リコリコの「本当の仕事」が、今始まった。
(るーあからの無線)
「目標地点まで300m。依然と動きはありません。」
「現在時刻22:27。天候晴れ、風向0.3mというところか、風向き南南東。」
「見張りは複数名いる模様...」
「―クルミ、偵察ドローンからの動きはどうだ?」
「こっちから見ても特段動きはないな。しかしこの期に及んで武器取引とは...」
「いやー。るーあちゃんこれまでとは雰囲気が段違いだね!」
「これが先生の言っていた『力』なのかな?」
「千束、そんなことよりどう制圧するか、ですよ。」
「ごめんごめん。つい...」
「よし、じゃあ作戦会議!たきなは正面から派手に威嚇、るーあちゃんは高所から精密にバックアップ、私は……横からひょいっとお邪魔しちゃおうかな!」
千束の声が無線越しに弾ける。作戦とは名ばかりの、相変わらずの無茶振りだ。
「……千束。精密射撃なら、私が担当した方が確実です。るーあさんの腕前はまだ未知数ですから」
たきなが冷静に割り込むが、るーあは静かにスコープを覗き込んだまま、ターゲットの眉間にレティクルを合わせた。
「たきなさん。風の影響はほぼ無視できます。……配置、完了しました。私の位置からは見張り全員の頭部が視認可能です。合図があれば、いつでもいけます」
「……問題なし」
千束「?」
その淡々とした、しかし絶対的な自信を感じさせる声に、一瞬無線が静まる。
「……へぇ。るーあ、あんた。そんな冷たい声も出せるんだな。ドローンからの映像でも、そっちの射線は完璧に通ってるぞ。死角なしだ」
クルミがニヤリと笑うような気配が伝わってくる。
「あはは!たきな、るーあちゃんは相当な『デキる子』みたいだよ。……よし。じゃあ、みんな準備はいい? ターゲットの取引開始まであと3分だよ!」
千束の言葉を合図に、現場に緊張が走る。
闇に包まれた廃工場に、三人の少女の視線が突き刺さった。
「了解。……これより、排除を開始します」
るーあが安全装置を外す小さな金属音が、夜風に消えた。
―バンッ!!!
「まずは一人」
「―なんだ?どっから狙われた!?」
「...いやー遅いねぇ。早く逃げないと撃ちますよぉ...」
バンッ!!
「二人目。……次も絶対、外しませんよ~」
るーあの声は、昼間のドジな新人バイトの面影が一切ない。冷徹で、機械的なまでに正確な狙撃。
「ひぇっ!? どこだ、どこにいやがる!」
パニックに陥った男たちが、遮蔽物を求めて右往左往し始める。だが、その動きこそが千束たちの狙い通りだった。
「あはは! 追い込み漁みたいだね! るーあちゃん、ナイスアシスト!」
物陰から飛び出した千束が、弾丸の雨を踊るように回避しながら敵の懐に潜り込む。至近距離からの非殺傷弾が男たちの腹部を次々と撃ち抜き、意識を奪っていく。
「……るーあさん。右前方、コンテナの影に隠れている個体がいます。こちらからは死角です、対処をお願いします」
たきなも冷静に戦況を分析し、無線で的確な指示を送る。
「了解。……誘導します。そこからなら狙えるはずです」
るーあがわざとコンテナの端を撃ち、火花を散らす。驚いて身を乗り出した敵を、たきなの精密射撃が逃さず捉えた。
「……制圧完了、かな?」
千束が銃を下ろし、周囲を見渡す。そこには、意識を失った男たちと、押収されるのを待つ武器の入ったアタッシュケースが転がっていた。
「早いですね。るーあさんの合流のおかげで、予定より2分も短縮できました」
たきなが時計を確認しながら歩み寄る。屋上から降りてきたるーあは、銃をケースに収めると、ようやく深く長いため息をついた。
「……あぁぁ、緊張したぁ……。もう、本当に心臓に悪いですよぉ……」
「えぇっ!? さっきまでのあのクールな感じ、どこ行っちゃったの!?」
千束が目を丸くして笑う。るーあは、いつもの「ちょっと頼りない新人」の顔に戻って、その場にへなへなと座り込んだ。
「だって、外したらたきなさんに怒られると思ったんですもん……!」
「私はそんなに理不尽な怒り方はしません。……多分ですけど」
「ほら、たきな、そこは否定しなきゃ! さ、ミカに連絡して撤収しよ! お腹空いちゃった、帰ったら夜食かな?」
月明かりの下、いつもの賑やかさを取り戻した三人。
静まり返った廃工場に、銃声の残響だけが残っていた。
喫茶リコリコの「長い一日」は、こうしてようやく、本当の終わりを迎えたのだった。
―翌日
「―朝のニュースのお時間です。昨夜、東京都墨田区の廃工場付近で銃声のような音がする。と近隣住民から通報が...」
テレビから流れるアナウンサーの無機質な声を、ミズキがリモコンでパチリと消した。
「……まーた『正体不明の怪奇音』扱いね。平和なことで」
「まあ、それが私たちの仕事ですから」
たきながいつも通り、一点の曇りもない手つきでテーブルを拭き上げる。喫茶リコリコの店内は、昨夜の激闘が嘘のように穏やかな朝の光に満ちていた。
「おっはよー! るーあちゃん、生きてるー?」
千束が厨房からひょっこり顔を出す。その手には、昨日るーあを震え上がらせた「例のパフェ」……ではなく、香ばしく焼けたトーストが握られていた。
「……なんとか。でも、全身筋肉痛で体がバキバキです……」
カウンターで項垂れるるーあに、ミカが温かいコーヒーを差し出す。
「無理もない。初日からリコリコの『裏メニュー』と『本当の仕事』をフルコースで体験したんだからな。だが、お前のおかげで被害は最小限で済んだ。……感謝するぞ、るーあ」
「ミカさん……。……あ! そうだ、店長! 私、大事なこと聞くの忘れてました!」
るーあがガバッと顔を上げる。
「……このバイト、時給いくらなんですか!? 命懸けの割に、昨日の求人票には『アットホームな職場です』としか書いてなかった気がして!」
一瞬の静寂。
千束とたきなが顔を見合わせ、それからクルミが画面の向こうでクスクスと笑い声を漏らした。
「時給か。……そうだな。基本給に加えて、昨日の『特別手当』を上乗せしておこう」
「やったぁぁぁ! ……って、あれ? でも、よく考えたら私、制服の予備とか弾薬の補充とか、経費で引かれたりしませんよね……?」
「るーあちゃん、細かいことは気にしなーい! ほら、開店の時間だよ!」
カランカラン――。
ドアベルの音が響き、千束が最高の笑顔で入り口へ向かう。
「いらっしゃいませー! 喫茶リコリコへようこそ!」
るーあは筋肉痛に顔をしかめながらも、エプロンをきゅっと締め直した。
昨日の自分とは少しだけ違う、新しい日常がまたここから始まる。
追記ログ:初日から飛ばしてしまいました...てへっ!