千束「当たり前でしょ!? るーあちゃんが心配で心配で...」
「――作戦はこうだ」
リコリコの地下、武器庫の重い静寂の中でミカが地図を広げる。その上にはクルミがハッキングで割り出したDA本部の最新構造図がホログラムで浮かび上がっていた。
「正面突破は囮だ。千束、お前がメインゲートから派手に暴れろ。非殺傷弾で十分だ、奴らの意識を入り口に釘付けにする」
「了解! お祭り騒ぎなら任せてよ!」
千束が愛銃のシリンダーをスピンさせる。その瞳には、いつもの天真爛漫な輝きではなく、仲間を奪われた者特有の静かな怒りが灯っていた。
「たきな、お前は排気ダクトから独房エリアへ直行。るーあのバイタルが弱まっている。猶予はない。……いいか、リコリスとしてではなく、リコリコの店員としてあの子を連れ戻してこい」
「……わかっています。るーあさんに、まだ『美味しいお粥』の代金を払ってもらっていませんから」
たきなは予備のマガジンをポーチに叩き込み、鋭い視線をミカに向けた。
―ここはDA本部、メインゲート。
暗転したセキュリティの隙を突き、千束が光弾の雨を降らせる。
「はーい、お邪魔しまーす! 営業時間は終わってるみたいだけど、忘れ物を取りに来たよ!」
「ッ!? リコリス、錦木千束だ! 全員配置につけ! 撃て、撃てぇ!!」
混乱するDAの守備隊。その喧騒を背に、たきなは影のように天井の隙間へと消えていった。
一方、独房の闇の中。
るーあの脳内では、もはや「演算」という言葉では片付けられない現象が起きていた。
視界は暗黒。だが、脳に焼き付いた「因果の糸」が、敵の筋肉の収縮、吐息の熱、銃口の向きを立体的に描き出す。
「……あ、は……。……見えなくても、全部『聞こえる』んですよ。すべてを感じることができる...」
???「……ほう。脳が限界を超え、感覚が混濁(ジャミング)し始めているか。面白い。君のその『咆哮』、どこまで響くかな」
男がナイフを抜き、音もなく踏み出す。
るーあは銃を捨てた。いや、正確には「銃を構える時間」すら惜しみ、手元にあった「緑茶の空き缶」を指先で弾いた。
――キンッ!
超高速で回転する空き缶が、闇の中で男のナイフを弾き飛ばす。
「なっ……!? 石礫の類で、私の間合いを……!」
「……言ったでしょ。私の思い通りに、なるって。あんたの動きぐらい、お見通しです……」
るーあは叫んだ。それは喉から出た声ではなく、魂から絞り出された「拒絶」の響き。
その瞬間、独房の重厚な扉が、外側から凄まじい衝撃で吹き飛んだ。
「そこまでです!」
舞い上がる塵雲の中から、たきなが突入する。
タクティカルライトの強烈な光が闇を切り裂き、倒れ伏そうとするるーあの体を支えた。
「……た、きな……さん……? ……遅い、ですよ……」
「……すみません。道が混んでいたもので。……さあ、帰りましょう」
たきなの手の温もりに触れた瞬間、るーあを支えていた緊張の糸がぷつりと切れた。
「……ロボ太! 逃がさないよ!」
背後で千束の声が響く。だが、闇に潜んでいた謎の男とロボ太の気配は、すでに煙のように消え失せていた。
「……だが、バランスは保たれた。……また会おう、観測者くん……お前の終点はいつ来るかな?」
残されたのは、静まり返った独房と、ボロボロになった小さな狙撃手だけだった。
追記ログ:お、これはるーあの日記か?どれどれ....ふん!全く、心配かけさせやがって...