DA本部の騒乱から一ヶ月。
楠木司令の苦々しい表情と共に、ラジアータの再起動が報告された。
「……錦木千束、井上たきなの強行突破により、4050番、るーあが連れ去られました」
報告を聞く楠木の拳が震える。だが、今は内部崩壊したセキュリティの復旧が先決だった。
「今はDAの復旧を急げ。4050番の件については後だ。……あの『観測者』、生かしておけばいずれ牙を剥くぞ」
一ヶ月ぶりの「カランカラン」
喫茶リコリコのドアベルが、どこか遠慮がちに鳴った。
「あっ、どうも。戻りました」
現れたのは、あちこちに絆創膏を貼り、少し痩せたものの、以前と変わらない眠そうな目をしたるーあだった。
一時は脳へのダメージで再起不能とまで言われていたが、彼女の持つ「因果の観測」という未知の力が、自己修復機能すら加速させたのかもしれない。
「るーあちゃーーーん!!」
カウンターから飛び出してきた千束が、るーあに抱きつく。
「わわっ、千束さん、まだちょっと体が痛いんですってば!」
「生きてる! 本当に生きてる! もう、あんな無茶二度としないでよね!」
千束の腕の中で、るーあは困ったように笑った。その後ろでは、たきなが完璧に手入れされた銃を置き、静かにこちらを見ている。
「……一ヶ月の遅刻です、るーあさん。シフト表、真っ赤ですよ」
「あはは、すみません、たきなさん。……でも、その手……まだ震えてますよ?」
たきなは咄嗟に手を隠し、「……コーヒーの淹れすぎです」と顔を背けた。
「おかえり、るーあ。……よく戻ったな」
ミカがカウンター越しに、温かいカフェラテを差し出す。その表面には、下手くそな「うさぎ」のラテアートが描かれていた。
「店長、これ……なんですか?」
「……お前の快気祝いだ。文句を言うな」
「ヒヒッ、脳みそ焼けてバカになってるかと思ったけど、相変わらず口が悪いな、るーあ」
クルミがソファから顔を出し、ニヤリと笑う。ミズキは「もう! 心配で合コンの戦績がボロボロだったんだからね!」と、いつも通りの理不尽な八つ当たりをかましてきた。
るーあは、一口カフェラテを啜る。
苦くて、甘くて、少しだけしょっぱい。
「……ただいま。喫茶リコリコ」
視界の端にあった「黒いノイズ」は、今はもう消えている。
だが、るーあは知っていた。自分の力が完全に消えたわけではないことを。そして、あの闇の中で聞いた男の声を。
(……『バランスが悪い』、ですか。……。上等ですよ。私がここでコーヒーを淹れ続けることで、そのバランス、もっとめちゃくちゃにしてあげますから)
「るーあちゃん! 復帰早々悪いんだけど、新作パフェの試食お願いね! 題して『地獄の激辛チョコパフェ』!」
「……千束さん。私、病み上がりなんですけど」
「効率的にエネルギーを摂取するには最適です。さあ、食べてください」
たきなが無表情でスプーンを突き出してくる。
「いやぁぁぁ! 助けて店長! DAに戻った方がマシだったかもぉぉぉ!!」
喫茶リコリコに、いつもの騒がしい笑い声が戻る。
過酷な運命を乗り越えた少女たちの物語は、ここからまた、騒がしくも愛おしい「日常」へと続いていく。
追記ログ:るーあ、だれが無茶しろって言った? ←ごめんごめんw