クルミ「ほどほどにな」
第二十一話「平穏な朝と、消えない違和感」
「おっはよーございまーす! ……ふぁぁ、今日もいい天気ですね」
るーあが喫茶リコリコの扉を開けると、そこには既にエプロン姿でテキパキと動くたきなの姿があった。一ヶ月の療養を経て、るーあの顔色もすっかり良くなり、店の制服も以前より少しだけ板についてきている。
「おはようございます、るーあさん。復帰して一週間、遅刻なしですね。
……少しはリコリスとしての自覚が芽生えましたか?」
「いやいや、リコリスじゃなくて『リコリコの店員』としての自覚ですよ。……あ、たきなさん、そのコーヒー豆、次は左に置いた方が効率いいですよ。
3秒後に千束さんがそこを通って、シュガーポットを倒しそうなので」
「……え?」
ガッシャーン!
「あはは! ごめんたきな、るーあちゃん! またやっちゃった!」
二人の背後で、予言通りにシュガーをぶちまける千束。たきなは驚愕の表情でるーあを見た。
「……るーあさん。今のは、まさか……」
「あ、いや。……ただの勘ですよ、勘! 私の『バイトの勘』です!」
るーあは誤魔化すように笑ったが、その瞳の奥には、第一章の最後で得た「因果の観測」の精度が、以前よりも遥かに鋭くなっている自覚があった。
一方、DA本部。楠木司令のデスクには、新たな報告書が置かれていた。
「墨田区付近の犯罪率が、この一ヶ月でさらに5%低下? ……原因は?」
「……リコリコの
楠木は苦々しく鼻を鳴らす。
「躍進、か。……だが、過ぎた力は『均衡』を壊す。……例の『バランス』を標榜する組織の動きはどうだ?」
「……。沈黙しています。ですが、先日ハッキングされたログの中に、一通のメッセージが残されていました」
モニターに映し出されたのは、不気味なチェスの駒のアイコンと、一行のテキスト。
『観測者が増えるほど、世界は歪む。……調整の時間だ』
その日の放課後。るーあはサキとマイに挟まれ、駅前のクレープ屋に並んでいた。
「ねぇねぇ、るーあ! 最近なんか雰囲気変わったよね? 昨日の体育のドッジボールとか、一歩も動かないのに全部避けてたじゃん!」
「あ、あはは。……あれは、その、相手の殺気が見えたっていうか……冗談だよ!」
冷や汗を流しながら笑うるーあ。だが、その背後に「見慣れない視線」を感じ、彼女の「観測眼」が警報を鳴らした。
(……ストーカー? いや、違う。この足音の消し方、プロだ。……DAじゃない。もっと……『冷たい』感じがする)
るーあはクレープを一口頬張り、友人たちに悟られないよう、こっそりと耳元の通信機(クルミ特製)をオンにした。
「……クルミさん、聞こえますか? 躍進早々、変な『お客様』に懐かれちゃったみたいです。……あ、生クリーム追加で」
「……るーあ。そいつ、ただの刺客じゃないぞ。……私のセンサーに、生体反応が映らない。……『
「
るーあは笑いながらも、クレープの包み紙をギュッと握りしめた。
彼女の「躍進」を快く思わない者たちが、ついに動き出したのだ。
追記ログ:幽霊とか怖いですって!