たきな「あるじゃないですか。ここですよ」
「――映っていないなぁ。まるで暗闇に突っ込んだみたいですねぇ」
るーあは、ボウガンの照準を向けられながらも、どこか抜けたような声を出した。視界の端々でノイズが走り、予測線が霧のように霧散していく。文字通り「未来が視えない」異常事態。
「ただ、あいにく私は確率が嫌いでね。数学Aとかは大の苦手なんだ」
「……それがどうした? 怖気づいて現実逃避か?」
「いえ、全く。一つお伝えしておきます。確率は、『同様に確からしくない』ですから。……観測者が『意志』を持った時点で、確率はただの確定事項に変わるんですよ!」
その瞬間、るーあは逃げるのではなく、ゴーストの懐へと一気に踏み込んだ。
「馬鹿め。計算できないものを、どうやって――」
ゴーストが引き金を引こうとした、その刹那。
ドォォォォン!!
凄まじい轟音が路地裏を震わせた。爆発ではない。それは、るーあが事前に「観測」していた、路地の真上を通る工事用クレーンの鉄骨が落下した衝撃音だった。
「なっ……!?」
落下予測地点は、るーあの数センチ横。だが、その衝撃で巻き上がった大量の粉塵と振動が、
「……あ。捕まえた」
るーあは、その「空白」の喉元に、練習用の非殺傷ナイフを突き立てた。
「……バカな。鉄骨が落ちるタイミングなど、計算できるはずが……!」
「計算じゃないですよ。……さっきクレープ屋で並んでる時、あのクレーンのネジが一本、今にも外れそうだったのが『視えた』だけ。私はただ、あなたがそこを通るように、ちょっとだけ挑発して誘導したんです」
るーあの瞳が、粉塵の中で青白く発光する。
「確率がどうとか、
「……っ、ハハ……。なるほど、『躍進』か。……だが、調整はまだ終わらないぞ、観測者」
「……次に会う時は、その『意志』ごと塗り潰してあげよう」
静寂が戻った路地裏。るーあは、その場にへたり込んだ。
「……あー、もう……。数学Aどころか、物理学も限界ですよ……。クルミさん、見てました?」
『……。……お前、今のわざとやったのか? もし数秒ズレてたら、お前が潰されてたぞ』
通信機越しのクルミの声が、少しだけ震えている。
「あはは……。まあ、店長に『運も実力のうち』って教わりましたから」
立ち上がって服の埃を払う。視界の端には、いつの間にか追いついてきた「たきな」が、険しい顔で立っていた。
「……るーあさん。クレープを買いに行って鉄骨を落とすとは、どんな注文の仕方をしたんですか?」
「あ、たきなさん! いや、これはその、一種のパフォーマンスというか……」
「……帰りますよ。千束が、あなたが帰ってこないとパフェの試作が進まないと怒っています」
「……地獄の試食会の方が、
るーあは、たきなの背中を追いながら、自分の手の震えをそっと隠した。
第二章の敵は、今までの「力」が通用しない。
信じるべきは、己の眼か、それとも――。
追記ログ:確率?なにそれおいしいの?