リコリス新人アルバイト『るーあ』の観測日記   作:田上るーあ

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るーあ「安全な場所ってもしかして無い!?」
たきな「あるじゃないですか。ここですよ」


第二十三話「ゼロ距離の死角、信じるべきものは...」

「――映っていないなぁ。まるで暗闇に突っ込んだみたいですねぇ」

 

るーあは、ボウガンの照準を向けられながらも、どこか抜けたような声を出した。視界の端々でノイズが走り、予測線が霧のように霧散していく。文字通り「未来が視えない」異常事態。

 

「ただ、あいにく私は確率が嫌いでね。数学Aとかは大の苦手なんだ」

 

「……それがどうした? 怖気づいて現実逃避か?」

 

幽霊(ゴースト)の声に、冷ややかな殺意が混じる。一歩、また一歩と「揺らぎ」を纏ったまま間合いを詰めてくる。るーあは、握りしめていたクレープの包み紙を無造作に放り捨てた。

 

「いえ、全く。一つお伝えしておきます。確率は、『同様に確からしくない』ですから。……観測者が『意志』を持った時点で、確率はただの確定事項に変わるんですよ!」

 

その瞬間、るーあは逃げるのではなく、ゴーストの懐へと一気に踏み込んだ。

 

 

 

 

「馬鹿め。計算できないものを、どうやって――」

 

ゴーストが引き金を引こうとした、その刹那。

 

 

ドォォォォン!!

 

 

凄まじい轟音が路地裏を震わせた。爆発ではない。それは、るーあが事前に「観測」していた、路地の真上を通る工事用クレーンの鉄骨が落下した衝撃音だった。

 

「なっ……!?」

 

落下予測地点は、るーあの数センチ横。だが、その衝撃で巻き上がった大量の粉塵と振動が、幽霊(ゴースト)の「ステルス」と「確率の揺らぎ」を物理的に暴き出した。粉塵の中に、人間の形の「空白」が浮き上がる。

 

「……あ。捕まえた」

 

るーあは、その「空白」の喉元に、練習用の非殺傷ナイフを突き立てた。

 

 

 

 

 

「……バカな。鉄骨が落ちるタイミングなど、計算できるはずが……!」

 

「計算じゃないですよ。……さっきクレープ屋で並んでる時、あのクレーンのネジが一本、今にも外れそうだったのが『視えた』だけ。私はただ、あなたがそこを通るように、ちょっとだけ挑発して誘導したんです」

 

るーあの瞳が、粉塵の中で青白く発光する。

 

「確率がどうとか、幽霊(ゴースト)がどうとか……関係ない。私が『ここで鉄骨を落とす』って決めたなら、それが正解なんです」

 

「……っ、ハハ……。なるほど、『躍進』か。……だが、調整はまだ終わらないぞ、観測者」

 

幽霊(ゴースト)の体が、再び陽炎のように揺らぐ。るーあがナイフを突き出すが、手応えはない。煙のように消える直前、ゴーストの声が耳元で囁いた。

 

「……次に会う時は、その『意志』ごと塗り潰してあげよう」

 

 

 

 

静寂が戻った路地裏。るーあは、その場にへたり込んだ。

 

「……あー、もう……。数学Aどころか、物理学も限界ですよ……。クルミさん、見てました?」

 

『……。……お前、今のわざとやったのか? もし数秒ズレてたら、お前が潰されてたぞ』

 

通信機越しのクルミの声が、少しだけ震えている。

 

「あはは……。まあ、店長に『運も実力のうち』って教わりましたから」

 

立ち上がって服の埃を払う。視界の端には、いつの間にか追いついてきた「たきな」が、険しい顔で立っていた。

 

「……るーあさん。クレープを買いに行って鉄骨を落とすとは、どんな注文の仕方をしたんですか?」

 

「あ、たきなさん! いや、これはその、一種のパフォーマンスというか……」

 

「……帰りますよ。千束が、あなたが帰ってこないとパフェの試作が進まないと怒っています」

 

「……地獄の試食会の方が、幽霊(ゴースト)より怖いかもしれない……」

 

るーあは、たきなの背中を追いながら、自分の手の震えをそっと隠した。

 

 

 

 

第二章の敵は、今までの「力」が通用しない。

信じるべきは、己の眼か、それとも――。




追記ログ:確率?なにそれおいしいの?
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