たきな「力の制御です。るーあさんの力は強大です。」
るーあ「私だってこの力なんで使えるのか分からないんですよ!?」
「――あのですね千束さん! いくら私が『観測』をできるからと言ってもですね、できないことはできないんですよ!? 予測不能を予測するなんて、そんな夢みたいな話あるんですか!?不可能なことは不可能なんですよ!」
開店前の喫茶リコリコ。るーあの悲鳴に近い抗議が店内に響き渡る。
目の前には、なぜかテニスラケットを構えた千束と、ストップウォッチを手にしたたきなが仁王立ちしていた。
「えー、できるよ! るーあちゃんならできる! だって昨日の鉄骨、あれ完全に『予測不能』を味方にしてたじゃん!」
「じゃあ昨日の鉄骨の話はどうするんですか? 確率の揺らぎの中にいる敵を、物理現象の連鎖で引きずり出した。あれこそ『予測不能の制御』そのものです」
「たきなさん、それを言われると弱いのですが……あれは半分ヤケクソだったんですってば!」
るーあはカウンターに突っ伏した。
昨日遭遇した「ゴースト」の、未来が映らない不気味な感覚。あれを克服しない限り、次に出会った時はクレープどころか命まで危うい。
「いい? ゴースト君が『確率』で動くなら、こっちは『物量』で攻める! さあ、構えて!」
千束がテニスラケットを振り抜いた。放たれたのは、テニスボール……ではなく、クルミがどこからか調達してきた「不規則な回転をかける小型ドローンボール」
「ちょっ、速っ……!? 軌道が……視えない!」
空中を泳ぐように、急加速と急停止を繰り返すボール。るーあの「観測眼」は、その複雑すぎる挙動に演算が追いつかず、視界に赤く警告を吐き出す。
「止まらないで! 思考を止めた瞬間に『確定』を奪われるわよ!」
たきなが無情にも二球目、三球目を投げ込む。
「無理無理無理!! 軌道が枝分かれしすぎて、未来がスパゲッティみたいになってるんですけどぉぉ!!」
るーあは必死に避ける。しかし、一球が頬を掠め、もう一球が足元で弾けた。
脳が熱い。視界が白く染まりかける。
(……ダメだ。一歩先を読もうとすればするほど、選択肢が増えていく。……だったら……!)
るーあは、ふっと目を開けたまま、意識を「一点」から「空間全体」へと拡散させた。
(一瞬先を読むんじゃない。この空間にある『空気の流れ』『音の反射』……すべての『今』を、ただ受け入れる……!)
その瞬間、るーあの動きが変わった。
無駄な回避を止め、最小限の動きでボールの隙間をすり抜ける。それは予測というより、「最初からそこに当たらない場所を知っている」ような、神がかった挙動だった。
「……え。今、避けた?」
千束の手が止まる。たきなもストップウォッチを押すのを忘れ、目を見開いた。
「……はぁ、はぁ、はぁ……。……今、なんとなく……分かりました。未来を視るんじゃなくて、『今』の密度を上げればいいんですね……」
るーあは膝をつき、肩で激しく息をする。鼻の奥がツンとするのは、脳に負荷がかかっている証拠だ。
カウンターの奥で、その様子をじっと見ていたミカが、静かに口を開いた。
「……『躍進』とは、自分を削ることと同義だ。るーあ、お前のその使い方は、以前よりもさらに命を前借りしている。……忘れるな、お前はリコリコの看板娘だ。壊れてもらっては困る」
「店長……。分かってます。……でも、ゴーストに『調整』されるのは、もっと御免ですから」
るーあは、たきなが差し出した冷たいタオルを受け取り、顔を覆った。
「……たきなさん。次のセット、お願いします。……次は五球同時に」
「……。……強情ですね。いいでしょう、付き合いますよ」
たきなは少しだけ口角を上げ、新しいドローンを起動させた。
―喫茶リコリコの朝。
予測不能な敵に立ち向かうため、少女は自らの限界を、さらに一歩踏み越えようとしていた。
追記ログ:限界突破しました。主に因果観測が