るーあ「―特訓なし!?休める!?と思った私がいます...依頼は何ですか?依頼は?」
「――ぅええぇぇ!? なんか今日の裏メニュー、いつもと違いませんか!? 千束さん!?」
開店直後の喫茶リコリコ。るーあは、本日の「裏メニュー(常連客向け特別依頼)」が書かれたメモを二度見、いや三度見して絶叫した。
「えー? そうかな? いつも通り、街の平和を守る素敵な依頼じゃない!」
千束はエプロンの紐をキュッと結びながら、満面の笑みで答える。だが、るーあが指差したメモにはこう書かれていた。
【本日の裏メニュー】
内容:移動式・超高速無人スイーツ販売車の「進路確保」および「商品回収」
備考:当該車両はハッキングにより暴走中。時速80kmで都内を巡回中。
「これ、ただの暴走車追跡劇ですよね!? スイーツ販売車って書いてありますけど、中身は爆弾とかじゃないんですか!?」
「いえ、中身は本物の最高級エクレアだそうです。依頼主のパティシエさんが、ハッキングで勝手に発車させられた車を止めてほしいと……。ついでに、賞味期限が切れる前に回収してほしいそうです」
たきなが、いつもの冷静なトーンで補足する。その手には、なぜか捕獲用のネットガンが握られていた。
「ちょっと待ってください。昨日の特訓、このためにやったんですか!? 『予測不能を予測せよ』って、この暴走車の挙動のことだったんですか!?」
「ピンポーン! 正解!」
千束が親指を立てる。
るーあの「観測眼」は、今や精密な狙撃だけでなく、複雑な交通状況下での「最適ルートの算出」にまで応用されようとしていた。
「……はぁ。躍進した結果が『エクレアの運び屋』ですか。……分かりましたよ、やればいいんでしょ、やれば!」
「そうこなくっちゃ! さあ、リコリコ・ドライブ、出発進行ー!」
数十分後。るーあはサイドカー付きのバイクの助手席(観測席)に座り、タブレットを叩いていた。前方には、奇妙なパステルカラーのワゴン車が、猛スピードで蛇行運転を繰り返している。
「るーあちゃん、計算終わった!?」
「……。……。……左から来るトラックの風圧、0.5秒後の信号の変化、路面の亀裂による跳ね上がり……。……見えました! 300メートル先の交差点、あそこが唯一、車を傷つけずに停止させられるポイントです!」
るーあの瞳が青白く冴え渡る。脳内には、暴走車の未来の軌道が、無数の光の筋となって展開されていた。
「たきなさん、あそこ! ネットガンの射出角は15度、タイミングは私の合図で!」
「了解。……3、2、1……」
「今っ!!」
シュパッ! と放たれたネットが、暴走車のタイヤに絶妙なタイミングで絡みつく。車はスピンすることなく、るーあが予測した通りの空き地へと滑らかに停止した。
「ふぅ……。ミッション完了、ですね」
るーあが額の汗を拭うと、車内から甘い香りが漂ってきた。無事だったエクレアを手に、千束が大喜びで戻ってくる。
「やったー! 見て見てるーあちゃん、一個も潰れてないよ! さすが私たちの名観測者!」
「……。……。……一個、もらってもいいですか? 脳が甘いものを要求してるんで」
「もちろーん!」
三人で、路肩に座ってエクレアを頬張る。
躍進した力で、暴走車を止め、最高級のスイーツを救う。DAの殺伐とした任務とは程遠い、リコリコらしい「裏メニュー」。
だが、その様子を遠くの歩道橋から眺めている視線があった。
「……。……。……下らないことに力を使っているな、4050番」
ノイズ混じりの声。ゴーストは、るーあが示した「あまりに完璧すぎる停止位置」のデータを記録し、闇へと消えていった。
「平和なティータイムは、今のうちに楽しんでおけ。……次の調整は、もっと『苦い』ものになるぞ」
追記ログ:エクレアは甘くておいしかったです!