リコリス新人アルバイト『るーあ』の観測日記   作:田上るーあ

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るーあ「エクレアもっと食べたかった...」
千束「じゃあ、千束特製スペシャルエクレアを...」
るーあ「―ん~いまはそういう気分じゃないですね~」


第二十七話「静寂を切り裂くノイズ、再び」

「おはよーございまーす。るーあ、シフト入りまーす……」

 

大きくあくびをしながら、るーあが喫茶リコリコの扉を開ける。昨夜の「エクレア回収作戦」の疲れか、あるいは連日の特訓のせいか、足取りはいつにも増してフラフラだ。

 

「おはようございます。るーあさん、髪がハネてますよ。身だしなみもリコリコの品質のうちです」

 

たきなが呆れ顔で、手際よくるーあの寝癖を直し始める。その横では、千束が「見て見て! 今日のモーニング、新作の『小倉トースト・デラックス』だよ!」と、相変わらずハイテンションに皿を並べていた。

 

カランカラン、と乾いた音が響き、常連客が数人入ってくる。

コーヒーの香りと、穏やかな話し声。

今日も平和な一日が始まる――。

 

るーあがカウンターの奥で布巾を手に取った、その時だった。

 

 

 

 

 

(……え?)

 

るーあの視界から、突如として「色」が抜け落ちた。

昨日までの「黒いノイズ」ではない。

世界が、古いモノクロ映画のように白と黒だけに変貌し、すべての音がスローモーションになる。

 

「千束、さん……? たきな、さん……?」

 

るーあが声を絞り出すが、二人の反応はない。

いや、二人は動いている。しかし、その動きが**「コマ送り」**のように断続的になっているのだ。

 

『……あ……あ……る……あ……逃げ……』

 

通信機から、激しい電子ノイズに紛れてクルミの声が聞こえる。

だが、その声もすぐに、不気味な「笑い声」にかき消された。

 

「ヒヒッ……。躍進のしすぎだよ、4050番。君の脳が、ついに『現実』の処理速度を追い越しちゃったみたいだね」

 

 

 

 

―静寂の侵入者が現れた。

「……ロボ太」

 

るーあが振り返ると、店の入り口に、誰もいないはずの場所に、あのノイズ混じりの人影――ゴーストが立っていた。

周りの客も、千束も、ミカでさえも、静止画のように固まったままだ。

 

「これは……あんたがやったの?」

 

「いいや。これは君自身の『観測』が招いたバグだ。……未来を視すぎた代償として、君の脳は今、現実を『静止画の連続』としてしか捉えられなくなっている」

 

ゴーストがゆっくりと歩を進める。その足音だけが、異様に大きく響く。

 

「この無音の世界で、君は何を守れるかな? 錦木千束も、井上たきなも、今はただの人形だ」

 

ゴーストの手には、以前よりも禍々しい形状のデバイスが握られていた。

 

「『調整』を開始する。……君の躍進を、ここでゼロに戻してあげよう」

 

 

 

 

孤独な戦いを強いられるるーあ。

(動け……動け私の体……!)

 

るーあは必死に手を伸ばすが、自分の体さえも鉛のように重い。

因果の糸は見えない。予測線も出ない。

ただ、冷徹な死神の接近だけが「現在」として突きつけられる。

 

「……ふざけ、ないでよ……。せっかくの、小倉トースト……冷めちゃうじゃ、ないですか……!」

 

るーあの瞳の奥で、消えかかっていた「青い光」が、激しく火花を散らした。

モノクロの世界で、彼女の意志だけが、鮮やかな色を求めて咆哮する。

 

静寂を切り裂く、一発のノイズ。

 

 

 

 

最大の危機が、リコリコの平和なモーニングタイムを粉々に砕こうとしていた。




追記ログ:たとえ因果観測が限界を迎えても、焦る必要はないのです。
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