リコリス新人アルバイト『るーあ』の観測日記   作:田上るーあ

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第二十八話「色彩を取り戻せ! 0.1秒の反撃ィ!」

(まずいです!今までにない程まずいです!)

 

モノクロの静止画に閉じ込められた喫茶リコリコ。るーあは、視界の端で固まったままの千束とたきなを、焦燥と冷静が入り混じった目で見つめていた。

 

「はぁ……。どうしたもんかねぇ~~」

 

「へへ。お前は確かに世界に平和をもたらしかけている。――だが、その代償が重すぎたな!!」

 

ゴーストが歪んだ笑い声を上げ、ゆっくりと指を鳴らす。その音さえも、水中に響く反響音のように低く、長く引き延ばされて聞こえる。

 

「白黒の世界はフィルムカメラでしか見たことがなかったよ。これもまた一興」

 

「なっ……。自分の置かれている状況を分かっていないのか?」

 

ゴーストが動揺を見せる。死に体のはずの少女から、絶望の気配が微塵も感じられないからだ。るーあは、一歩を踏み出そうとして、全身の筋肉が悲鳴を上げるのを感じた。

 

「――私の体は鉛のように重いよ。後ろに重機でも背負っているかのようにね……」

 

一ミリ動くのに、数分を費やすような感覚。だが、るーあの脳内では、外の世界とは逆の現象が起きていた。

 

 

 

 

(脳が熱い。処理速度が現実を追い越したなら……さらにその先、「未来の確定」まで加速させてやる……!)

 

るーあは目を閉じた。色を失った視覚を捨て、代わりに脳内に「色彩」を強制的に再構築する。

千束が淹れようとしていたコーヒーの琥珀色。

たきなが直してくれたリボンの紺色。

そして、今まさに自分を「調整」しようとしているゴーストの、どす黒い殺意の色。

 

因果が加速する。

 

「……見えた。0.1秒後、あんたはボウガンを撃つ。その軌道、……『確定』させました」

 

「な……!? 動けるはずが――」

 

 

 

 

カチッ。

 

ゴーストが引き金を引く。しかし、るーあはそれよりも早く、重機を背負っているはずの体で「倒れ込んだ」。

それは回避ではない。自らの重さを利用した、最短距離の沈み込み。

 

「ぐっ……!?」

 

矢が空を切り、るーあが倒れざまにカウンターの角を蹴り上げる。

その衝撃で、静止していたはずの「小倉トーストの皿」が宙に舞った。

 

「モノクロの世界じゃ、あんたのステルスも台無しだよ。……ほら、影がくっきり浮き出てる」

 

舞い上がった粉砂糖が、ゴーストの輪郭を白く縁取る。

るーあは、重力に逆らうように片手で床を突き、弾かれたフォークを指先で弾き飛ばした。

 

――キィィィン!!

 

フォークがゴーストのデバイスを直撃し、火花が散る。

 

「……あ、色が戻ってきた」

 

 

 

 

バリバリと、世界がひび割れるような音が響く。

次の瞬間、千束が淹れていたコーヒーの香りが鼻を突き、日常の騒がしさが一気に耳へ流れ込んできた。

 

「……あれ? るーあちゃん、なんで床で倒れてるの!?」

 

「るーあさん! 敵です、構えて!」

 

千束とたきなが、コンマ数秒の遅れでゴーストの存在を認識し、即座に武器を抜く。

デバイスを壊されたゴーストは、苦々しく舌打ちをした。

 

「……『観測』で、物理法則の重みすらねじ伏せたか。……面白い。だが、君の脳はもう限界のはずだ」

 

「……へへ。……一回寝たら、治りますよ、たぶん」

 

るーあは、膝をついたまま不敵に笑う。

0.1秒の反撃。それは、躍進の果てに掴み取った「意志」による勝利だった。

 

 

 

だが、るーあからは、一滴の赤いインクがポタリと床に落ちた。




追記ログ:どうやら『思い』が因果観測を加速させたようだ
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