千束「やっほ~、千束もいま~す!!」
るーあ「今日はどうな一日になるんだろうね!?」
クルミ「お前がドンパチ騒ぐ日だろうが」
るーあ「えへへ...あながち間違ってなーい」
たきな「『あながち』ではないです」
るーあ「うへぇ...キッツ~」
「―それでは本編~?」
みんな【スタートです!!(だ)】
昨日の激闘から一夜明け、なんとか開店準備を終えた喫茶リコリコ。
るーあは、カウンターの隅でミカと千束がコソコソと話しているのが気になって仕方がなかった。
「……で、例の件だが。るーあにはいつ話す?」
「うーん、もうちょっと慣れてからでもいい気がするけど……でも、本部の動きも怪しいしねぇ」
聞き捨てならない単語が耳に飛び込んでくる。
「あのー……店長? 千束さん? さっきから不穏な単語がチラホラ聞こえるんですけど。『例の件』ってなんですか!? あと『本部の動き』って!?」
るーあが身を乗り出して問い詰めると、二人は「あ」という顔をして視線を逸らした。
「……るーあさん。落ち着いてください。心拍数が上がっていますよ」
背後からスッと現れたたきなが、るーあの前にハーブティーを置く。
「たきなさん! 落ち着いてなんていられませんよ! 昨日の今日で、また何かあるんですか?」
「いえ、大したことではありません。ただ……」
たきながチラリとミカに視線を送る。ミカは重い腰を上げ、観念したように口を開いた。
「実はな、るーあ。お前を採用するにあたって、DA(Direct Attack)には『一般人のアルバイト』として届け出を出してある」
「えっ? それはそうですけど……実際、私はただの……」
「……ただの、凄腕の狙撃技術を持った学生、だろ?」
奥からクルミがポテトチップスを齧りながらやってくる。
「いいか。リコリスでもないお前が、昨日みたいな現場で銃をぶっ放したのが本部にバレてみろ。お前、今頃『消去対象』か、良くて地下の独房行きだぞ」
「ひっ……!!」
るーあの顔から血の気が引く。
「だからね! 店長が本部に『るーあは、リコリコが独自に育成している秘蔵の新人(非リコリス)』っていう、めちゃくちゃな嘘をついちゃったんだよねー!」
千束がテヘペロ、という効果音が聞こえてきそうな顔で笑う。
「ちょっと待ってください! それ、嘘がバレたら私だけじゃなくて、お店全体がマズいんじゃ……」
「だから、その嘘を『真実』にする必要があるんです」
たきなが真顔で、一枚の書類をるーあに突き出した。
「これより、るーあさんの『リコリス擬態訓練』を開始します。今日、DAの査察官が『リコリコの新人』を確認しに来るそうです」
「えぇぇぇぇ!? 今日!?」
「あ、るーあちゃん。制服の下にこれ着てね。あ、あとこのカバンに予備の弾倉と……」
「千束さん! 物騒なものを詰め込まないでください! 私は喫茶店の店員として振る舞えばいいんですよね!?」
その時、店のドアベルが「カランカラン」と静かに鳴った。
入ってきたのは、仕立ての良いスーツを着た、いかにも「お役人」といった雰囲気の男女二人組。その鋭い視線が、店内にいたるーあを射抜く。
「……君が、例の『新人』か?」
(……いや、あの話ってこういうことだったんですかーーー!?)
冷や汗が止まらないるーあ。
果たして、絶体絶命の「査察」を切り抜けることができるのか!?
「いっいらっしゃいませ...ようこそ...喫茶リコリコへ.....」(嗚呼、終わったかもしれない)
「ここに凄腕のスナイパーがいると聞いたんだが...」
「ごっご注文はお決まりですかぁ?」(やっぱ終わったねこれ完全に)
「……ほう、この娘が。あまり強そうには見えんがな」
スーツの男が、るーあを上から下まで値踏みするように眺める。その冷徹な視線に、るーあの膝は生まれたての小鹿のようにガクガクと震えていた。
「(……るーあちゃん、笑顔! 笑顔だよ!)」
「(心拍数 140。落ち着いてください、バレます)」
背後から千束とたきなの小声のプレッシャーが飛んでくる。るーあは引きつった笑みを浮かべたまま、必死にメニューを差し出した。
「す、凄腕だなんて滅相もないです! 私はただ、**『お客様のハートを正確に射抜く(接客的な意味で)』**ことをモットーにしている、どこにでもいるバイトでして……あは、あははは……」
「……ハートを射抜く、か。面白いことを言う」
男はフッと口角を上げると、おもむろに懐から何かを取り出そうとした。
「(っ! 武器!?)」
るーあが反射的にカウンターの下の護身用具に手をかけようとしたその時、男が取り出したのは一輪のバラ……ではなく、「ルーレット式のダーツボード」だった。店のテーブルにそれをガシャンと置く。
「……試しに見せてもらおう。このボードを回す。私が指を鳴らした瞬間、この中心にある『リリベル』のマークだけを、このフォークで射抜いてみろ」
「はいぃぃ!?」
「あ、それ面白い! るーあちゃん、やってみて!」
「千束さん!? 応援してる場合じゃな――」
「さあ、早くしろ。時間は取らせん」
男がボードを猛烈な勢いで回転させる。中心のマークはもはや残像にしか見えない。
店内が静まり返る。ミカは静かにコーヒーを啜り、クルミは面白そうにポテトチップスを止めた。
るーあ(……やるしかない。これに失敗したら、私のバイト代どころか、命が消える……!)
るーあはゆっくりと呼吸を整えた。
視界から雑音が消え、回転するボードの「周期」が脳内に数値として浮かび上がる。昨日の廃工場、300メートル先の標的を狙ったあの感覚。
「……。……今!!」
――シュッ!
風を切る音と共に、るーあの手から放たれたフォークが、高速回転するボードのど真ん中に突き刺さった。
「…………」
男がボードを止めると、そこには完璧にマークを貫通したフォークが鎮座していた。
「……なるほど。ミカが囲い込みたくなるわけだ。リコリスのような『調整』を受けていないにしては、恐ろしい動体視力と集中力だ」
「よっ! 拍手喝采! さすがリコリコの期待の新人!」
千束がパチパチと手を叩き、たきなも「……及第点ですね」と小さく頷く。
査察官の男は立ち上がると、満足げに手帳に何かを書き込んだ。
「いいものを見せてもらった。……るーあと言ったな。期待しているぞ、『リコリコの隠し玉』」
嵐のような二人が店を出ていく。ドアベルが鳴り、静寂が戻った瞬間、るーあはその場に崩れ落ちた。
「……もう、嫌だぁ……。おうちに帰りたい……」
「お疲れ様ー! はい、ご褒美のアイスティー!」
「るーあさん。次はフォークではなく、箸で同じことができるよう特訓しましょう」
「たきなさん!? 私はこれ以上、何を目指せばいいんですかぁぁぁ!!」
リコリコの平和な(?)日常を守るための、るーあの「擬態」という名の無理難題は、まだまだ続きそうだった。
追記ログ:抜き打ちのリコリス適性検査とか聞いてないって!?!?