リコリス新人アルバイト『るーあ』の観測日記   作:田上るーあ

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るーあ「限界を感じます...体が重いです...」
クルミ「無茶しやがって...」


第二十九話「代償の限界、リコリコ臨時休業?」

「――ここは一度手を引こう」

 

ノイズ混じりの捨て台詞を残し、ゴーストの姿が陽炎のようにかき消えた。壊されたデバイスから漏れ出していた異様なプレッシャーが霧散し、店内にようやく「本物の時間」が流れ始める。

 

「帰った……か。二度と来ないでほしいものね……。はぁ……」

 

るーあは、膝をついたまま床に突っ伏した。アドレナリンが引くと同時に、全身を襲うのは凄まじい倦怠感だ。視界は戻ったものの、焦点がうまく合わない。

 

「るーあちゃん! 大丈夫!?」

「るーあさん、返事をしてください! 脈拍が……速すぎます!」

 

千束とたきなが駆け寄る。千束の温かい手が肩に触れた瞬間、るーあの意識は急速に遠のいていった。

 

 

 

 

 

「……というわけで、本日は臨時休業だ。常連さんたちには私から連絡を入れておく」

 

ミカの重々しい声が、静まり返った店内に響く。入り口のドアには『本日急用により休業』の札が掛けられた。

 

二階の自室。るーあはベッドに横たわり、額に冷たいタオルを乗せられていた。鼻血は止まったが、顔色は紙のように白い。

 

「クルミ、彼女の脳波のデータはどうだ?」

 

パソコンを叩くクルミの手が止まる。

 

「最悪、の一歩手前だね。さっきの『モノクロの世界』、あれは脳が現実の情報を処理しきれずに起こした強制的なセーフモードだよ。それを無理やりこじ開けて反撃したんだ。……今のるーあの脳は、オーバーヒートした高級PCみたいなもんさ」

 

「……私の特訓が、早すぎたのでしょうか」

 

たきなが、絞ったタオルを握りしめて俯く。

 

 

 

 

「……ん……。たきな、さん……? 反省会なら、もうちょっと……寝かせてからにして、ください……」

 

消え入るような声で、るーあが薄目を開けた。

 

「るーあちゃん! 気がついた? 良かったぁ……。もう、あんな変な顔して固まるんだから、心臓止まるかと思ったよ!」

 

千束が安堵の表情で顔を覗き込む。るーあは力なく笑った。

 

「……すみません。せっかくのモーニング、台無しにしちゃって。……でも、あの小倉トースト、一口も食べてないのに、味の『因果』だけは完璧に観測済みなんです。……絶対美味しいやつですよね」

 

「もう、そんな時に食べ物の心配!? どんだけ食い意地張ってるのさ!」

 

千束のツッコミに、部屋の空気が少しだけ和らぐ。だが、ミカの表情は晴れない。

 

「るーあ。お前の『躍進』は、もはや個人の限界を超えつつある。……第二章に入ってから、敵の質も変わった。……しばらくは、リコリスの任務もバイトも禁止だ。いいな」

 

「……。……。……はーい。……じゃあ、有給休暇ってことで、お願いします……」

 

るーあは再び深い眠りに落ちた。

 

 

 

 

リコリコが静かな眠りについている頃。

街のビルボードの裏側で、ゴーストが己の腕を修理していた。

 

「……『意志』による強制介入。想定以上のイレギュラーだ。……だが、観測すればするほど、彼女の命の灯火は削れていく」

 

背後のモニターに、ロボ太の顔が映し出される。

 

『ヒヒッ! 臨時休業だってさ。今のうちにトドメ刺しちゃう?』

 

「……。いや、まだだ。……彼女が自ら、その力を『呪い』だと感じるまで追い詰める。……それが、最も効率的な『調整』だ」

 

 

 

平和を願うリコリコの灯火が、今、かつてないほど細く揺れていた。




追記ログ:本日は臨時休業でした。
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