(これって無闇に触れていい話題じゃなかったかな? ...だとしたら不味いです!―消される……話題を切り替えないと……でも、中途半端に逸らせばもっと場を悪くしちゃいます。考えろ、考えるんだ……るーあ!)
るーあの脳内演算が、戦闘時以上の速度で火花を散らす。
ミカの沈黙は重く、たきなの視線は鋭い。DAの闇、アラン機関の思惑、そして「九条」という消された名前。それらはリコリコの平穏な日常とは対極にある、触れれば爆発する不発弾のようなものだ。
「……あ、あはは! なんて、ちょっとクルミさんの端末で古い都市伝説を拾っちゃっただけですよ! ほら、ネットの掲示板によくあるじゃないですか、『消されたリコリスの怪談』的な!」
るーあは引きつった笑みを浮かべ、強引にハンドルを切った。
「ミカさんもそんな怖い顔しないでくださいよ! 冗談です、冗談! 私が調整されるわけないじゃないですか。こんなに有能な『バイト』なんですから!」
「……そうか。ならいい」
ミカは短く答えると、背を向けて奥の部屋へと消えていった。だが、その背中には、隠しきれない「覚悟」のような重圧が漂っていた。
忍び寄る終焉。
その日の午後、店内の空気はどこか冷え切っていた。
千束は珍しく大人しく窓の外を眺め、たきなは機械的にカップを磨き続けている。
「……ねぇ、るーあちゃん」
千束が、いつもの明るさを削ぎ落としたような、静かな声で呟いた。
「もし……この場所がなくなっちゃうって言われたら、どうする?」
「え……? 何言ってるんですか、千束さん。リコリコがなくなるなんて、そんな因果、どこにも――」
「さっき、本部の連絡網にノイズが混じってたの。たきなも気づいたでしょ?」
たきなが手を止め、静かに頷く。
「……DAの暗号通信が、外部から上書きされています。発信源は特定できませんが……メッセージは一つだけでした」
たきなが差し出した端末の画面には、昨日るーあを襲ったゴーストの紋章と、短い一文が表示されていた。
『均衡の崩壊を確認。リコリコを「特異点」として認定し、排除する。』
終焉のカウントダウンが始まった合図である。
「……排除って、DAが私たちを? それとも、あのアジャスターが?」
るーあの手が震える。
彼女が「躍進」し、真実に触れ、亜空間なんてものまで作り出した結果、リコリコという「止まり木」そのものが世界の敵として認識されてしまったのだ。
「ヒヒッ……。のんきにお喋りしてる場合じゃないよ」
二階から、ノートPCを抱えたクルミが転がり落ちるように降りてきた。その顔は青ざめている。
「リコリコの周辺、完全に包囲された。……DAの回収班じゃない。アランの『掃除屋』だ。……ミカ! 早くしろ、もう時間がない!」
「……リコリコは、今日で閉店だな」
ミカの冷徹な宣言。
それは、るーあが守りたかった「居場所」が崩れ去る、終焉の音だった。
追記ログ:責任...もう戻れないですね。やるしかないです