「大きなことをしでかしてしまいました……なんということでしょうか...」
見知らぬ街の公園。街灯の下、るーあはベンチに深く腰掛け、両手で顔を覆った。
リコリコ周辺の敵を「亜空間送り」にして排除し、半ば強制的に日常から自分を切り離した。勢いで飛び出したものの、一人になると急に「やってしまった感」が押し寄せてくる。
(千束さんに、あんな顔させるつもりじゃなかったのに。たきなさんの制止も振り切って……私、最低のバイト店員だ)
「躍進」した代償は、孤独。
自分が近くにいれば、リコリコは常に「世界の特異点」として狙われ続ける。自分が離れることこそが、あの店に平和を戻す唯一の観測結果だった。
「……はぁ。お腹空いた。亜空間列車の燃費、最悪なんだよね……」
懐を探るが、あるのは数枚の千円札と、リコリコのポイントカードだけ。
その時、カサリ、と隣に誰かが座った気配がした。
意外な隣人が現れた。
「――随分としおれた顔をしているな。あの勢いはどうした、4050番」
「……っ!?」
るーあが飛び上がって距離を取る。
そこに座っていたのは、漆黒のスーツを脱ぎ捨て、地味なパーカー姿で缶コーヒーを啜る男――ゴーストだった。
デバイスを壊されたはずの彼は、今はただの「ひどく疲れた青年」に見えた。
「あんた……! なんでここに!? また『調整』しに来たんですか?」
「よせ。今の私にそんな予備兵装はない。……それに、私もお前と同じだ。……組織からは『ロスト』扱いになっている」
「え……?」
ゴーストは遠くの夜景を見つめながら、自嘲気味に笑った。
「リコリコを消せという命令を無視して、お前と『遊んだ』のがバレたらしい。……今の私は、お前を追う刺客ではなく、お前と同じ『間引かれる対象』だ」
「……じゃあ、今はただの無職ってことですか?」
「言葉を選べ。……『フリーランスの調整役』と言ってもらいたい」
るーあは毒気を抜かれ、再びベンチに座り直した。
昨日まで殺し合おうとしていた天敵が、今は隣で缶コーヒーを飲んでいる。因果の糸を辿っても、彼から殺気は微塵も感じられない。
「……名前。九条、でしたっけ。ミカさんから聞きましたよ」
「……。……その名は捨てた。今はただの『シン』でいい」
シンと名乗った男は、飲み終えた缶をゴミ箱へ正確に放り投げた。
「4050番。……いや、るーあ。お前がリコリコを守るために街を出たのは、最悪の選択だ。……アランは、逃げた獲物を追うのを一番の娯楽としている。……一人で逃げ回るつもりか?」
「……。……。……いいえ。……逃げるのは、もうやめました」
るーあは、リコリコのポイントカードをぎゅっと握りしめた。
「掃除しなきゃいけないのは、追っ手じゃなくて……この世界を勝手に『調整』しようとする、システムそのもの。……そうでしょ、シンさん?」
「……。……。……ふん。……数Aが苦手な割に、正解を導き出すのは早いな」
「数Aが何ですって!?論理的思考が苦手なだけであって決して数学自体が苦手というわけでなくてですね。そもそも確率と言うのは...」
見知らぬ街の片隅で、かつての敵と、居場所を失った観測者。
二人の「ロスト・リコリス」による、反撃の旅が静かに幕を開けようとしていた。
追記ログ:どういう風の吹き回しだろうか