「私は何をすればいいのかなー(棒読み)」
地下道のカビ臭い空気の中、るーあは手持ち無沙汰に足先で地面をコツコツと叩いていた。隣ではシンが、まるでもともとそこに住んでいたかのような手際で、複数の小型モニターをリンクさせ、街中の監視カメラをジャックしている。
「……黙って座っていろ。お前の脳は今、亜空間転移の反動でオーバーヒート寸前だ。観測眼を休ませるのも仕事のうちだぞ」
「えー、休養ならリコリコの二階で十分取ったはずなんですけど。……それに、何もしないでじっとしてるの、一番苦手なんですよね」
るーあが不満げに頬を膨らませた、その時。
シンのメインモニターに、突如として真っ赤なノイズが走った。
「……!? 侵入されたか。……いや、これは……」
リスからの挑戦状
画面いっぱいに映し出されたのは、不敵に笑う「リス」のアイコン。
そして、その下には意味不明な文字列が高速で流れ始める。
『4050番。逃げ足だけは一人前だな。……だが、私のバックドアを勝手に使って亜空間なんて作るなと言ったはずだぞ。おかげでこっちのサーバーまで火を吹きかけたじゃないか』
「クルミちゃん!?」
るーあが画面に食いつく。シンは驚愕の表情で、自分の構築した最高精度のファイアウォールを容易く突破してきた「ハッカー」の正体を探ろうとしていた。
「……『ウォールナット』か。まさか、アジャスター専用の秘匿回線まで辿り着くとは」
『フン、私の眼を盗んで逃げ切れると思うなよ。……るーあ。お前が今連れてるその男、信用していいのか? データの不一致が多すぎて、私の計算じゃ「生存率15%」って出てるぞ』
「あはは……。一応、今は共同経営者(仮)ってところです。……それで、わざわざハッキングしてきたってことは、何かあるんですよね?」
クルミからの暗号(宿題)が課された
画面の文字列が、一つの幾何学的な図形へと収束していく。それは、一見するとただのQRコードのようだが、るーあの「観測眼」には、それが多層構造になった「因果の地図」に見えた。
『いいか、よく聞け。DAは今、お前を「紛失物」として処理しようとしている。だが、アランの方は違う。彼らは「特異点」を自らの管理下に置くため、ある場所を拠点に大規模な「再調整」を計画している』
「再調整……。また、あのモノクロの世界に閉じ込める気ですか?」
『それ以上だ。……その暗号の中に、アランが隠している「観測の死角」のアドレスを入れておいた。……るーあ、お前のその眼で、その死角を「現実」に書き換えろ。それができれば、追っ手の眼を完全に潰せる』
「……。……。……簡単に言ってくれますね。……でも、やってやりますよ。それがリコリコの看板娘(二番手)の意地ですから!」
ハッカーの意地
『……よし。あとのことはこっちで何とかする。千束が「パフェの新作、るーあが帰ってくるまで冷凍庫にしまっておく」って言ってたぞ。……早めに片付けて帰ってこい』
プツン、と通信が切れる。
画面には、クルミが残した「因果の地図」だけが静かに明滅していた。
「……シンさん。メニュー変更です」
るーあは立ち上がり、瞳に青い光を宿した。
「逃走と潜伏は終わり。……ここからは、こちらから『世界のバグ』を仕掛けに行きます!」
「……。……やれやれ、やはりお前はニートには向いていないようだな」
シンは諦めたように笑い、新しいデバイスをるーあへと差し出した。
ハッカーの意地と、観測者の決意。
二人の反撃は、一通の暗号から加速し始める。
追記ログ:責任を果たします