クルミ「誰もお前の休日なんか見たくねぇよ」
るーあ「何を言うんですか!?休日は日々の疲れを癒すためにあるんですよ!」
クルミ「自堕落な休日の間違いだろ...」
「るーあ、いい男、紹介しなさいよぉぉ!!」
「いい男紹介しなさいっていっても、ミスしまくる私が紹介できるわけないでしょ!」
―休日の昼下がり
るーあの絶叫が、誰もいないはずの閉店後の店内に虚しく響き渡った。
「……はぁ、これだから若い子は。謙遜なんてしなくていいのよ、るーあちゃん。あんた、昨日のあのフォーク投げ! あの集中力があれば、合コンの獲物だって一撃で仕留められるはずでしょ!?」
ミズキが、顔一面に緑色の泥パックを塗りたくった恐ろしい形相で迫ってくる。手には「今週の街コン特集」と書かれた雑誌が握られていた。
「いや、それとこれとは話が別ですって! そもそも私、休日は家でじっとしていたい派なんです……」
「ダメよ! せっかくの非番なんだから、外に出て『リコリスの擬態』を極めなさい! ほら、これ着て!」
ミズキが押し付けてきたのは、ひらひらしたレースが過剰についた、いかにも「デート用」といった風情のワンピースだった。
結局、ミズキの勢いに押されて街へ繰り出すことになったるーあ。
物陰から「いい? 獲物は逃しちゃダメよ!」と双眼鏡で監視しているミズキの視線を感じ、るーあは泣きたい気持ちで街角に立っていた。
(……なんで休日なのに、スコープじゃなくてミズキさんの視線を気にしなきゃいけないの……)
重い足取りで歩いていると、前方から見覚えのある金髪と黒髪のコンビが歩いてくるのが見えた。
「あ、るーあちゃーん! おしゃれ?! デート? デートなの!?」
千束が、両手に大きなクレープを持って駆け寄ってくる。その後ろには、大量の買い物袋を無表情で下げた、荷物持ち状態のたきながいた。
「千束さん、たきなさん……! 助けてください、ミズキさんに捕まって……」
「……ミズキさんの『婚活パトロール』に巻き込まれましたか。」
たきなが、心底同情したような目でるーあを見つめる。
「でもさ、せっかくオシャレしてるんだし、美味しいものでも食べに行こうよ! たきな、荷物半分持つからさ!」
「いえ、私が持ちます。……待ってください、3時方向。不審な車両があります」
たきなの声が急に低くなった。
るーあも反射的に、ミズキから指定された「可愛いポーズ」をかなぐり捨て、周囲を確認する。
「……黒のセダン。スモークガラス。エンジンはかけたまま。歩道との距離……近すぎますね」
るーあの瞳から、休日のおっとりした光が消え、昨夜の「狙撃手」の鋭さが戻る。
「だよねぇ。……るーあちゃん、あそこのカフェの看板、見える?」
千束が指差したのは、セダンのちょうど真上にある、少し建付けの悪そうな大きな看板だった。
「……。看板を支えているボルトは3本。一番右のボルトを飛ばせば、看板はセダンのフロントガラスの前にちょうど落ちます。……手元に、何か投擲できるものは?」
「はい、これ」
たきなが、買い物袋の中から取り出したのは、なぜか「固ゆでされた銀杏」のパックだった。
「これで十分です。……行きます」
――パキンッ!
るーあが放った銀杏が、正確に看板のボルトを弾き飛ばした。
ガッシャーン!! という音と共に、看板がセダンの鼻先に落下。驚いた車は急発進しようとするが、たきなが事前にタイヤの隙間に挟んでいた小石(?)の影響で、その場でスピンして動けなくなった。
「よしっ! DAに連絡完了! ……さて、るーあちゃん、ミズキさんが来る前に逃げるよ!」
「あ、はい!」
背後から「ちょっとぉ! 私の銀杏で何してんのよぉ! 獲物はどうしたのよぉ!」と叫びながら追いかけてくるミズキの姿
(……やっぱり、私の休日に『平穏』なんて言葉はないんだ……)
「……あ、るーあさん。今の銀杏の投擲、フォームが少し崩れていましたよ。明日、店で練習です」
「たきなさんまで……! もう、嫌だぁぁぁ!!」
???「おい!なんで車動かねぇんだよ!?っていうか看板落ち来るのは聞いていないぞ!!!ロボ太!!!!!」
「ひえええっ!? なんかスピーカーから変な声が聞こえてきた!」
セダンの車内から漏れ出す怒号に、るーあは思わず後ずさりした。その名前、そして通信の気配に、千束とたきなの表情が瞬時に「仕事モード」へと切り替わる。
「……ロボ太? たきな、今の聞いた?」
「はい。DAのサーバーにハッキングを仕掛けていた例のハッカーですね。……るーあさん、下がってください。ここからは遊びじゃありません」
たきなが買い物袋を地面に置き、上着の内側に手を伸ばす。しかし、セダンのサンルーフが勢いよく開き、そこから奇妙な形のランチャーが突き出された。
『あーあー、聞こえてるよ、マヌケな実行犯くん! 看板が落ちてくるなんてボクの計算にはなかったね! でも大丈夫、ボク特製の「お掃除ドローン」がすぐそこまで行ってるからさ!』
空からプロペラ音が響き、数台の小型ドローンが急降下してくる。
「うわっ、今度はドローン!? ミズキさーん! 助けて……って、あ、逃げてる!?」
...全速力で角を曲がっていくミズキの背中が見えた。
「ミズキさん、逃げ足だけは一流だよね! よし、るーあちゃん、たきな! あのドローン、街中で暴れさせるわけにはいかないよ!」
「了解。るーあさん、先ほどの銀杏……まだありますか?」
「えっ、あ、はい! ミズキさんが落としていった袋にまだ少し……え、これでドローンを落とせって言うんですか!?」
たきなは無表情に頷く。
「プロペラの基部を狙えば、銀杏の硬度と回転数で十分に機能停止に追い込めます。……やれますね?」
(……この人たち、私をなんだと思ってるの!?)
るーあは覚悟を決めた。
ワンピースの裾を少し捲り上げ、踏ん張りを利かせる。手元には、さっきまでミズキが「美味しいわよぉ」と言っていた銀杏。
「……計算、完了。風速0.6メートル、ドローンの軌道予測……読みました!」
「全力投球!!当たれ~!!」
――シュッ! シュシュッ!!
るーあの手から放たれた銀杏が、まるで意思を持っているかのように空を舞い、次々とドローンのプロペラを粉砕していく。
『なっ……!? ボ、ボクのドローンが、銀杏で!? バカな、そんな原始的な投擲武器でボクの最新技術が……っ!!』
「今だよ、たきな!」
千束がセダンのタイヤに向けて非殺傷の特殊弾を叩き込み、車を完全に沈黙させた。
―数分後、パトカーのサイレンが近づいてくる中、三人は路地裏に身を隠した。
「ふぅ、一件落着! るーあちゃん、銀杏スナイパー襲名だね!」
「そんな名前いりませんよぉ……。あ、たきなさん。あの車の中にいた人たちは?」
「...警察が確保しました。ロボ太との通信ログも回収できるはずです。……るーあさん、今日の投擲、フォームは崩れていましたが、命中精度は『Sランク』です」
「……あ、ありがとうございます」
結局、デート服はボロボロ、筋肉痛は悪化。
るーあは、夕焼け空を見上げながら、遠くで「おーい、みんな無事ぃ??」と戻ってきたミズキに、心の中で精一杯のツッコミを入れるのだった。
(……もう、リコリコを辞める勇気すら湧かないや……)
夕暮れの街を、三人の少女と一人の「怪人」が駆け抜けていく。
喫茶リコリコの新人・るーあの休日は、こうして騒がしく幕を閉じた。
追記ログ:今日も喫茶リコリコは平和です