クルミ「いやお子ちゃまか!?」
るーあ「この間留萌本線無くなっちゃったし...」
クルミ「それはまあ...時代の流れってやつか?」
るーあ「その現実直視したくない...」
「――ということで、社員旅行に行くことが決定ーー!!」
千束の弾けるような声が店内に響き渡る。手には『箱根・温泉三昧の旅!』と書かれた、手作り感満載のしおりが握られていた。
「いやー旅行いいねー。温泉はマストだよね……あれ? るーあちゃんどうしたの? 顔色悪いよ?」
(誰のせいでこうなったんでしょうね!?)
るーあは引きつった笑顔のまま、心の中で絶叫した。
昨日の銀杏投擲による筋肉痛はピークに達し、しかも私服(もらったデート服なので特に問題はない)はロボ太のドローンとの死闘でボロボロ。精神的にも肉体的にも限界に近い。
「……千束さん。これ、本当に『旅行』なんですよね? 途中で『ついでにこの拠点を制圧してきて』とか、山奥で『動く標的訓練』とか始まったりしませんよね?」
「心外ですね、るーあさん」
たきなが、いつの間にか完璧なパッキングを終えたリュックを背負って現れる。その横には、なぜか巨大な楽器ケースのようなものを抱えたミカと、ノートパソコンを三台持ち込もうとしているクルミの姿。
「今回は純粋な慰安旅行です。DAの任務も、この二日間は一切入っていません。……ただし」
「ただし?」
「『抜き打ちの生存訓練』がミカさんのメニューに含まれている可能性は、否定できません」
「それ旅行って言わないからぁぁ!!」
リコリコのワゴン車に詰め込まれ、箱根へと向かう一行。
運転席ではミズキが「温泉! 合コン! 湯上りのビール!」と鼻歌交じりにハンドルを握り、助手席のミカは地図を広げて何やら複雑なルートを指示している。
「ねぇ、店長。さっきから国道を避けて、やけに険しい山道ばかり通ってませんか……?」
るーあが窓の外を見ると、そこにはガードレールすら怪しい崖っぷち。
「気にするな。こっちの方が『視線』が少なくて済むからな」
「視線って何ですか、視線って! 観光客の視線なら浴びさせてくださいよ!」
「―嗚呼、箱根登山鉄道...乗りたいなァァ...せっかく箱根まで来るなら吊り掛け駆動音聞きたいよォ...」
「また今度くればいいじゃないですか...貯金ぐらいはあるでしょう?」
「ありますけど任務多すぎてそんな暇ないのわかるでしょ!?」
「せめて別行動OKにしてくれれば最高だったのに...」
「このスケジュールではそんな時間はありません」
千束は「そうそう、これがリコリコ流の最短ルートだよ!」
と呑気にポテトチップスを食べているが、たきなは周囲の山林を双眼鏡をのぞき込んでいる。
ようやく辿り着いたのは、お世辞にも「豪華」とは言えない、ひっそりと佇む古びた旅館だった。
「……ここ、本当に営業してるんですか?めちゃ古そうだけど」
「歴史ある隠れ宿だ。客は我々しかいない。……るーあ、まずは荷物を置いたら、裏庭の『岩場の配置』を確認してこい」
「……配置? 温泉の温度じゃなくて?」
るーあが絶望しながら裏庭へ向かうと、そこには高さ数メートルの岩が乱立し、あちこちに不自然な「窪み」が掘られていた。
(……あ、これ。狙撃ポイントだ)
一瞬で理解してしまった自分の本能が恨めしい。
その時、るーあの背後に影が落ちた。
「……るーあさん、気づきましたか。この宿、裏山の射線が全て庭の中央に集まるよう設計されています。……嫌な予感がしますね」
たきなが、スカートのポケットから無線機を取り出した。
「ちょっ、たきなさん!? 慰安旅行じゃなかったんですか!?」
「もちろん旅行ですよ。……ただし、『招かれざる客』も一緒に来ているようです」
るーあが反射的に裏山を見上げると、木々の間に一瞬だけ、レンズの反射のような光が見えた。
(……やっぱり。やっぱり、こうなるんだ……!!)
「おーい、みんなー! お風呂沸いたよー! 銃は脱衣所のロッカーに入れてねー! …あ!でも携帯用の銃は一応持ってきて〜」
「いや、そんな状況じゃなーーーーーい!!!!」
千束の緊張感ゼロの声が響く中、るーあの「地獄の社員旅行」が本格的に幕を開けた。
追記ログ:箱根登山鉄道乗りたかった...