冒険者は教育の行き届かないならず者ども   作:まっすァき

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追放は社会的な死

 

「ああ!このナイフはミスリルで作ったもんだぞ!?何勝手にぶっ叩いてくれてんだよ!」

「鉄と誤解でもしてんのか!?この浅知恵もんがあ、なあにを生意気に、"鋭くしておきました"だなんて言ってんだよ!」

「どーしてくれんのか言ってもらおうか!」

 

「なに事後連絡してくれてんの?その神経が俺にはわかんねえしとにかく腹立たしいなあ!」

「お前のようなやつは仲間として信用出来ねえ!」

「新しく新調する予定は無かったのにさあ……!」

「ほんと何がしたいわけ!?」

「しかも!ここに治具の跡が付いてるだろ!?」

 

「どーすんだよこれで!どんだけのパワーでぶっ叩いたんだお前!研ぐにしてももうちょいやり方があるだろう!?」

「寝刃をつけるとかでもなくただぶっ壊しただけ!」

「どうしてこのナイフを壊した?なぜ?」

 

 

 

 

 

When (いつ)、Where (どこで)、Who (誰が)、What (何を)、Why (なぜ)、How (どのように)。

最も基本的な疑問の問い方。それを用いて激昂する男の額には血管が浮かび、手の甲までその血が通っていた。

 

握られた武器の刃には四角い跡がついていて、この武器に何があったのかを一瞬で想起させる。

 

刃の直線もガタガタになり、包丁の方がまだ曲線美があるような代物。武器としての価値を失っていることは明白だった。

 

 

「分かってるよ。次はやらない。わざとじゃあないんだ、許してくれ。」

「この通りだ!」

 

 

土下座と共に頭を下げる一人の男。

彼を取り囲むのは仲間"だった"もの達だ。

 

紅一点かつ魔法使いのミーシャ、寡黙だけども優しかった剣士のチャリス、そしてリーダーでアツい心を持つ弓使いのバリス。

 

全員が、冷ややかな目で見ていた。

 

 

「はー、許して欲しいって姿勢を示してえんだなテメエ。どこまでも自分勝手だな。そんな態度じゃどこに行っても通用しねえよクソ野郎!」

「"許して欲しい"って言うならよお!このガタガタになったナイフを完璧に直してみろよ!」

「二度目がそもそもねえんだテメエにはよ!」

 

バリスは中心に鎮座する者に土下座の姿勢をさせたまま、罵る。

その声はいつも魔物と戦う時に指示を出していた姿とは大違いで、いつもはこのように感情的ではない。

 

揉め事があれば仲裁し、いつもチャリスやミーシャと一緒に味方になった。

 

「痴れ者!痴れ者!痴れ者!それはこのパーティーを結成する時にみんなで買った武器だぞ!ふざけるんじゃない!」

 

ミーシャは太腿の裏に蹴りを入れた。数秒後にはヒールのついた靴の底面が跡となり、服越しの擦過傷が出来た。

 

 

 

 

「絆を破壊するクソ馬鹿野郎は村に帰れよ、頭に血が通ってねえんじゃねえか?」

「俺たちの絆の証だぞ、そのナイフは!」

「さっさと故郷に帰って畑でも耕してろよクソ野郎!労働奴隷に落ちろ!」

 

 

それに続いてチャリスは、腹の真横に鋭い蹴りを入れた。

 

 

「てめえみたいなやつを仲間に入れてると俺が恥晒しになる。」

「パーティーのリーダーとして、お前の追放を宣言する!お前がこのパーティーに居られる権利は五日以内に剥奪だ!」

 

バリスは怒り心頭、とても話術で宥められるような状態には見えなかった。

 

「リーダーに俺は同意する! 」

「私も同意する……さすがにこれは目に余るよ。」

 

次々と同意する元仲間たち。

 

 

「ああ……わかったよ。」

「俺はパーティーを抜けるさ。」

 

顔を上げながらそう喋ると、全員が同時にため息を着いた。

 

 

「チッ、二度とその面見せんなよクソガキ。」

「せいぜいその力とやらを別のどっかで活かせよ。」

 

「魔物退治は繊細なもんだからな、さっさと死なねえうちに消えろや恥知らず」

 

チャリスはそう言うと、荷物のバッグを顔面に投げた。

 

 

 

「もし、あなたが本当に反省してると言うんなら……その投石紐でドラゴンでも狩ればいいんじゃない?」

「これはねえ。あなたが招いたことなの。いずれせよ、このパーティーを抜けた後にいつか必ず同じような失敗をして、同じように追放されるとは思うんだけどねえ。それの原因ってあなたのような社会不適合者が冒険者として立ち振舞おうとしたからなの。」

 

「あなたがよく自慢する槍と投石紐の威力とやらも壊れれば十分に出すことすらままならないのよ?」

「あなたが、リーダーの武器にやったのはそういうことなのよ。」

 

「ミスリルの武器は専門の研ぎ師がいる。それなのにナイフがなまくらだと、あなたが勝手に思い込んだ。」

 

「草刈り鎌くらいしかお前じゃ直せないのよ。」

「自己評価をもっと現実に寄せたら幸福になれるんじゃない?自分だけ不幸みてえな面してると私も腹立たしいからさ!」

 

ミーシャはそう言い放ち、槍の柄をどんどん擦っていく。

 

細く、細く、より細く。

木の粉が散り散りになり、柄にはくびれができる。

 

 

「や、辞めてくれよ……」

「それは俺の大切な槍なんだ。」

 

 

 

「「「はあ!?」」」

 

「「「今すぐこのパーティーから「抜けろ!」追放する!」抜けて野垂れ死ねクソ野郎!」

 

 

 

 

 

冒険者ギルドの権限は諸侯の軍権を無くし、警察権のみにした時に最大化した。

酒造業の最大需要を増やし、販売量も増やす。

が、治安悪化が著しく、決して都市部には建設されない建物である。

 

デメリットとメリットの均衡点を探った結果として魔物が頻繁に湧く場所での退治に専念させ、余力を削る方向にシフトした。

 

そんな行政の結果生まれたのが冒険者という言葉。

ならず者との区別として名前から入った。

 

 

 

「はあ、追放か……」

 

 

赤いバツ字が名前の横に1つ着いた。

自己都合脱退などならば何も無かった。だが、ギルドカードには追放の証である赤いバツが着いてしまった。

 

パーティーから追放を受けた人間は鞘に入れても帯剣は不可能になり、もし警察に見つかればとんでもない額の罰金がある。

 

 

「これからどうしようか。金が足りない」

「槍の替刃はミスリルがいいけど高いしなあ……」

 

「ギルドから武器をレンタルしようにも追放されちったから使えねえ。余計なことをよくもやってくれたなあ」

 

ぼやきながら頭を搔く姿はみすぼらしい。

 

チェーンメイルは鎖同士が結ばれ、垂れた鎖は1本もない。

首と頭を保護するヘルメットも無く、装備が極めて珍妙になっている。

 

 

ギルドから装備や武器をレンタルすることはできる。ただし、バツが1つでもあるとダメなのだ。トラブルを起こした人間に武器を貸すような組織がいったいどこの社会にあるのだろうか?

 

 

 

「そこのアナタ。何かお困りで?」

 

 

「いきなり誰だお前!?」

「気安く俺の肩に手を置くな!」

 

マイケルは即座に距離を取り、背後の門扉に背を預けた。対峙する男の鎧には実戦の痕跡がなく、表面は一様に磨き上げられている。その立ち振る舞いは戦士のそれとは異なっていたが、視線は鋭くマイケルの装備に向けられていた。

 

その男は口角をわずかに上げ、表情を変えずに応じた。

 

「いやあお困りに見えて。その鎧、付与魔法が掛けられていますね?」

「買い取って差し上げましょう。」

 

その言葉は、淡々とした提案として投げかけられた。

 

マイケルのカードには、先ほど刻印されたばかりの赤いバツ印がある。ギルドから追放され、レンタル武器のロングソードを没収された今の彼は、頼りになる武器がない。

 

 

 

 

「マイケルさん?私の名前はアーネストと申します。以後、よろしく。」

 

 

アーネストは短く自己紹介を済ませると、マイケルが腰の剣を失っていることを確認するように、何も無い鞘受けの金具へ視線を落とした。

 

マイケルの指が、無意識に何もない太腿の元を掴む。

 

 

「いやあ何故分かったかって表情をしておりますな? そりゃあ、見れば丸わかりですよ。」

 

 

アーネストは距離を詰め、マイケルの胸元にある打刻印字を凝視した。

 

「今どき防具に魔法で名前を直接打ち込む人なんて少ないですからね。流行りじゃない。」

 

 

「……打刻印字は流行りじゃないのか? 鎧に名前を刻めば魔除けになるし、良いと思ったんだが……」

 

 

マイケルの返答に対し、アーネストは乾いた笑い声を漏らした。

 

「魔除け? はは、効果が無いですよ。ニンニクを齧ったりする方がマシなのでは? 魔物はニンニクやコショウの香りを嫌いますからねえ。」

アーネストはそのまま、観察を裏付けるように言葉を繋いでいった。

 

「防具を見れば、その人がどのような人物なのか分かりやすい。……的を射ているでしょう?」

 

「その鎖を結んだ鎧は、何かをぶら下げるための改造品。全ての輪を繋げてまるで棚のよう。そこまで改造された鎧は珍しいですな。実に逸品だ。付与魔法が調律されたばかりで手入れもよろしい。専門の魔法使いにでも調律してもらったのでしょう?」

 

 

アーネストは、鎧の細部を順に指摘していった。胸当ての上に垂らす鎖を固定して利便性を高めた特異な構造。

 

そして、直近まで施されていた魔法のメンテナンスの痕跡。マイケルが言葉を詰まらせるのを無視し、男はさらに踏み込む。

 

 

 

「鎧の軽量化は冒険者の命ですからな。それにしても、ここまで軽量化を施せる魔法使いは実に珍しい。盾一枚とほぼ同じ重さほどでしょう。馬上で戦う騎士さまの金属鎧は、元々の重さがありますからな。ここまでの軽量化はできない。」

 

アーネストの観察は、技術的な評価へと移る。

魔法による軽量化自体は一般的だが、彼が指摘した盾一枚分という数値は、通常の金属鎧に施される魔法の平均的な水準を上回っていた。

 

「鋳造の金属板を継ぎ接いだ鎧は、素体に選ぶには惜しい。……そうは思いませんか? マイケルさん。おっと、発音としてはミカエルが正しいのかな?」

 

アーネストがその名を口にした。

見ず知らずの男が、追放されたばかりの個人の登録名のみならず、天使の名前を正確に把握している事実に、マイケルは息を呑んだ。

 

「いや、マイケルさ。だが同じ名前の人はかなり多いぜ?」

「どこにでもいる名前の人間さ。」

 

 

(知識人だ。それもかなり広範囲に及ぶものの。)

(綴りが同じだなんて知識、普通の一般人が持つわけがない。)

 

(いや。そもそも格好からして一般人ではないことは分かるけど、商人でもないだろう。)

(口では神に安全を祈るが、心の中では金しか信用しない賎しい者が商人になるのだから。)

 

 

 

「ところでいきなり話を変えることになるんだが……お前さっきから一体目的は何なんだ? どうせ手の込んだセールストークだろう。どうせ買わせられるのはどっかの鍛冶師の鎧だろ?」

 

 

 

「ン〜いけませんね。そんな失礼なマネいたしませんよ。」

 

アーネストは肩をすくめ、一定のトーンで言葉を重ねた。

 

「それは私にとって、鹿の狩りを邪魔するようなもの。無粋で、礼儀知らずな行いは一切致しませんよ。」

「ただ、もっと良い装備を買えばアナタのポテンシャルを引き出せるのに……と思っただけでございます。」

「どうです? 賢い取引をお願いしますよ。その鎧と引替えに、新しい鎧を買いませんか?」

 

提案は、ギルドに拒絶されたばかりのマイケルに対し、一つの選択肢として提示された。ギルドの巨大な扉の前で、アーネストはマイケルの回答を待った。

 

 

 

「答えはNOだ。残念だが他を当たってくれ。初対面のやつに鎧を売るわけないさ。」

 

 

「おや残念。またの機会をお待ちしておりますよ。」

「共にワインにハチミツを垂らすほどの仲になることを願っております」

 

アーネストは複雑な比喩を好んだ。マイケルには、今の比喩が何を意味しているのかが理解できなかった。

 

 

 









tips:ミスリルの価値はおよそ二倍から五倍の重さの金に値する。
魔法をよく通し、鋼ほどの強度を持つ。だがしかし産出量の少なさなどから独占は長く続き、販売価格は上乗せされる。
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