【本編完結】とある転生者の役割交代   作:kotedan50

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1ヶ月修行期間⑤
小話集
ほぼほぼ、オリジナルなので苦手な方は注意

・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)ものです
・オリキャラ出ます
・激しい捏造、妄想含みます
・ネタまみれです


転生者、天才からの信用に身悶える

翌日。

家入から退院の許可が出た私は、朝から慌ただしく動き回っていた。

 

なんだか、保健室の周囲が妙に血生臭い気がしたが……気のせい、ということにしておく。

分かってはいるけれど、こういうことには触れない方が、身のためだ。

呪術界とは、そういうものだ。

 

その代わりというわけでもないが、都内でまだ営業している貴重なパン屋へ向かった。

 

五条には、ベッタベタに甘いクイニーアマンを含むスイーツ系パン。

七海へは、塩パニーニサンドを中心とした惣菜パン。

 

このパン屋は個人経営で、私のお気に入りだった。

だから、誰にも教えたことはない。

自分が食べたいものが売り切れるのは普通に嫌だし、

......あと、陰気な高専関係者、呪術師が通い詰めて治安悪くなっても嫌だしね。

 

美味しいのよ、このパン。

ミルク感たっぷりの、ふかふか・もちもち系の柔らかいパンも、

小麦の香りが豊かな、噛みごたえのあるハードパンも、どちらも逸品。

私は特に、バターが香ばしく香るクロワッサンが好きで、

それが使われた惣菜パンやスイーツ系のパンを、自分用にしっかり確保しておいた。

 

昨夜はお疲れ様でしたと二人にパンを献上した結果。喜んでもらえたのは何よりだった。

パン派の七海に「もっと早く知りたかった」と食いつかれるのは、まぁ、予想通りだった。

だが、まさか五条からまで「なんで教えてくれなかったの?」と詰められるとは思っていなかった。

 

いや、あの。

あなた、確かに甘党で、ここのパンも確かに美味しいけどさ……

まさか“拗ねる”ほどとは思わなかったよ。もっといいパン屋、知ってるだろうに。

 

仕方がないので、自分用に買っておいたクロワッサン・オ・ザマンドを献上する羽目になった。

五条は嬉しそうに機嫌を直していたから……それはそれで、まぁ、いいか。

 

……実は、自分用にこっそりシュトーレンも買ってあるんだけど。

これは、じっくり味わいたい。

 

シュトーレンは「食べきれない」とか言う人もいるけど、ちょっと待ってほしい。

シュトーレンは1日で一気に食べるものでは無い。まず真ん中から二つに切る。

そしてそこから、毎日食べる分だけ1枚1枚切って、ゆっくりと時間をかけてクリスマスまでに食べるものだ。

切った切断面を合わせてラップに包んでしまえば、砂糖がたっぷり入ってるので腐る心配はない。

 

薄くスライスしたそれに、バターをのせたり、チーズをのせたりしてトースターで焼くと、驚くほど美味いんだ、これが。

コーヒー、お酒飲める人は赤ワインやラム酒と合わせると最高だから。

このシーズンのお楽しみなんだよね。

 

去年は百鬼夜行でそれどころじゃなかったから、今年も諦めてたけど見つけちゃったら買うよね。

 

話がそれたけど、とにかく五条にバレたら、一瞬でなくなる。

だから私はそっと、それを後ろ手に隠して、しれっと誤魔化すことにした。

 

......なお、その日の夜にバレて、食われた。

糖尿病になりやがれ!!!

 

 


 

 

五条との模擬戦と宝石の件が、たった数日で完全に呪術界に出回ったのだろう。

両面宿儺との戦いを控えてるにも関わらず、私のもとに釣書や、直接の勧誘が来る。

現時点で結婚に興味はないし、過剰な引き抜きに答えるつもりもない。

 

ちなみに、冥冥も声をかけてきたが、あれは本当の金にストレートで逆に尊敬した。

まぁ、五条を通せと皆と同じ返答を返すだけだが、冥冥とは喧嘩するつもりはないので五条がOK出すならビジネスライクな付き合い方はしたい。

 

強引な勧誘には、術式で万年筆をちらつかせたり、内ポケットに手を入れただけで、皆、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 

……玉無しかよ。根性ねーな。

 

にっこり笑顔を浮かべながら、心の中でそう呟く。

その内心が顔に出ていたのだろう。少し離れた位置で様子を見ていたらしい五条が、笑いながら近づいてきた。

 

「いやー、潔乃を傘下に引き入れたり、嫁に迎えるつもりならさ。

もうちょっと根性ないと無理だよねぇ……で、今のところ、どこから来てるんだっけ?

 

後半は真面目な静かな声で、身を寄せ秘密の会話をするように聞いてくる。

 

「今のところは、冥冥さん」

「冥さんはしょうがないから、除外でいいよ」

 

五条も同じ考えらしく、苦笑混じりに返してくる。

金で動く人は分かりやすくていい、という意味も含まれているのだろう。

 

「加茂家系と、それに親しい家。

禪院家と近しい旧家からも……禪院が潰れて、立て直しに必死みたいですね。

あと、困ったことに五条家関係からも来てます」

 

「……え、マジで?」

「私がお世話になった時には、たしかいなかったと思うんですけど……」

 

そう言いながら、私はスマホを開いて、接触してきた家柄をまとめたメモ帳アプリの画面を見せる。

五条はちらりと視線を向けた後、ため息のように言った。

 

「あー……これ、先先代の当主の不興を買って、権力をなくした分家。

本家には近づけないから、潔乃も会ってないよ。こっちで処理しとくわ」

 

さらりと告げる口調は軽いが雰囲気がイライラしてる。

……あぁ、その家、本格的に終わったな。

このクソ忙しい時期に身内に足を引っ張られて許すほど、五条は甘くない。

心の中で、ひっそりと合掌しておいた。

 

「当主のくせに、管理できてなくないですか?」

「……痛いとこ突くね、ごめんね?」

 

苦笑いしながら頭をかいた五条に、少しだけ同情した。

御三家の当主は大変そうだわと思っていると、五条が私のスマホのリストを指でコンコンと叩く。

 

「今はまだ、両面宿儺との戦いがあるから、それだけで済んでるけどさ。

終わったら五倍には増えるよ」

 

そう呟いた五条の声は、本当にげんなりした声だった。

 

「僕も硝子も、釣書は毎月ダンボール箱で二箱は確定。もはや定期便だね」

 

無理やり軽く笑いながらいうけど、ダンボールを見て舌打ちをしていた様子。

その中身を見ないで処理していたのを私は知っている。

返却だったり、焼却炉に運ぶのを何度も手伝わされたからな…⋯

 

「じゃあ、いっそのこと、五条さんと家入さんと結婚したらどうですか?

一般出身でも、家入さんなら五条家も文句ないでしょ?」

 

お互い釣書を面倒くさがっていて、

能力的にも問題なくて、結婚に興味がない者同士。

仲良く結婚すりゃいい。そう軽く投げた冗談に、五条の表情がピタリと固まった。

 

「潔乃、真面目に面白くない」

「……すみません」

 

返ってきたのは、比較的、ガチ目の声色だった。

想定より重いトーンに、反射的に背筋が伸びる。

そういえば、この手の話は、五条とは意外としたことがなかった気がする。

 

「まぁ、でも結婚したら、そこらの釣書攻撃が止まるのは事実だな」

 

一拍の沈黙を挟んで、五条がふと視線を逸らし、またこちらをじっと見た。

顎に手を当て、しばらく考え込むような仕草。

そして――その口元が、ゆっくりと弓を描くように持ち上がる。

 

あ。

嫌な予感。

 

「……潔乃、僕と結婚しない?」

 

おい、さっきの直後でその冗談は笑えねーぞ?

 

「五条さん、真面目に面白くないです」

 

そうバッサリ返すと、五条は肩をすくめた。

 

「僕さ、結婚に興味ないんだよ」

「えぇ、知ってます」

 

何年の付き合いだと思ってる。

釣書や婚約者候補のお嬢さん、遊んでガチ恋した女――全部から逃げるのを見てきたんだぞ。

 

軽く言い返すと、五条は今度は真っすぐこちらを見ながら言葉を継いだ。

 

「でもさ、五条家の当主で、血筋を繋がなきゃいけないわけさ」

「ええ、そうですね」

 

口調はあくまで事務的にする。なんかまた変なことに巻き込まれた気がする。

 

「僕にとっての結婚って、“血を繋ぐために、優先的に性交渉する相手との契約”でしかないわけ」

「それでよく私に結婚しようって言えますね」

 

流石に額に青筋が浮かんでる気がするが、一応、なるべく、できるだけ、冷静に返す。

 

「まぁまぁ、聞いてよ。結婚相手と性交渉だけして、孕ませるだけでもいいんだけどさー」

「さっきから発言が最低なんですが」

 

口を挟みながら、術式を発動させ、万年筆を静かに浮かび上がらせる。

次に変なこと言ったら書き換えるぞ――そんな私の背中を、五条がどうどう、と宥めるように叩いてきた。

 

「どうせなら、仲良く楽しく暮らしたいじゃん?」

「まぁ、そうでしょうね」

 

投げやりに同意すると、五条はにっこりと、どこか嬉しそうに言った。

 

「だったら、潔乃がいいなって」

「はぁ?」

 

素で聞き返す。これは本気で意味がわからない。

 

「ほら、潔乃って能力が五条家としても美味しい。

性格面でも僕の好き嫌いも知ってるし、お互いの地雷も把握してるでしょ?

あと、夜は同衾する仲だし?」

「“同衾”とかいうな」

 

額に万年筆を突き立てたくなる衝動をこらえる。

やっぱ、百鬼夜行の後にどれだけメンタルが参ってようとも、五条を無視すべきだった。

絆されて添い寝なんかしたのが失敗だった。調子に乗ってやがる。

もう今夜から絶対に部屋に入れんと心に誓う。

 

「硝子は美人だし、勃つっちゃー勃つんだけどさ」

「セクハラ野郎。おまわりさんこっちです」

 

はいはい、いきなり通報しようとするのはやめようね、と私のスマホを取り上げながら、五条はなおも飄々と続けた。

 

「楽しく暮らすなら、潔乃の方がいいなって」

「...まぁ、家入さんドライですもんね」

 

まぁ、五条の性格を考えると、家入より私の方がウマが合うという意味では理解できる。

そこは同意しておく。

 

「でしょ? 硝子は男前すぎんだよね。

その点、潔乃は、ちょっと……スタイルはあれだけど。

でも潔乃でも、勃つっちゃー勃つし」

 

……最低だなこいつ。私は今、セクハラを受けている。

 

そう思っていると、五条がなぜか確かめるように、真正面から私を抱きしめてきた。

ぎゅっ、ぎゅっ、とやたら念入りに力を込め、髪に顔を埋めながら、ひと言。

 

「……うん、イケる」

 

謎の納得すんな。おい、やめろ。

 

「ぶん殴りますよ。大草原の小さな胸で悪かったですね!」

「……そこまで言ってないけど。自分で言ってて悲しくならない?」

「…………」

 

私を正面から抱きしめたまま、困ったように見下ろしている。

この野郎、いろいろ言わせるくせに、妙に冷静に刺してくるのやめろ。

 

「んで、話を続けると、硝子より潔乃といる方が、落ち着くし楽しいだろうなって」

「子供ですか?」

 

ため息混じりに返すと、五条は肩をすくめて言った。

 

「そうかな?結婚って、そんなもんじゃない?」

「とりあえず却下で」

 

ぐい、と腕を突っ張って、五条の抱擁から物理的に抜け出す。

 

「却下かー……いい案だと思ったんだけどなー」

 

いつもの調子で言うその顔には、どこか少しだけ、拗ねたようなニュアンスが混ざっていたのは、気のせいなはず。

 

 


 

 

何やらぶつぶつ言ってる五条から携帯を奪い返し、私はそのまま補助監督の執務室に顔を出す。

補助監督としての仕事には、今はほとんど関われていないが――なるべく時間をとって、質問対応はするようにしている。

 

属人化は、よくない。

現場を知らないと、判断も鈍る。

 

案の定、私が顔を見せた途端、補助監督たちがわらわらと寄ってきた。

経費処理から運営指針、さらには術師の派遣任務に関する手続きまで、質問の嵐。

ひとつずつ答えながら、マニュアルに記載されていない事例はその場で追記していく。

 

――今日からやれる補助監督。今日からやれる高専運営。

常にブラッシュアップをかけておかないと、現場はすぐに崩れる。

 

そんな中、新田が気まずそうに声をかけてきた。

 

「伊地知さん、すみませんっス。この書類の件なんスけど……」

 

差し出された書類を受け取り、一目見た瞬間――ああ、これは。

 

思わず、苦笑が漏れる。

 

「……うん。これは正直、めんどくさいやつですね」

 

私もなるべく処理したくないタイプの案件だ。

とはいえ、仕事は仕事。私はマニュアルを開いて答える。

 

「大変だと思いますが、マニュアル通りで問題ありません……しょうがないやつなんで」

 

そう言うと、新田は一瞬だけ複雑そうな顔をしたが――すぐに切り替えた。

 

「承知しましたっス。じゃあこの場合は、このフローであってるっスか?」

 

的確に要点を押さえて確認してくるあたり、やっぱり新田はちゃんと仕事ができる。

 

「はい、そこから先はこっちの承認が必要になりますけど、それも含めてこのフローで大丈夫です」

 

私はそう言いながら、丁寧に説明を始めた。

こういう地道な仕事の積み重ねが、結局一番大事なんだよな……と、胸の内で呟きながら。

 

 


 

 

現在の私の最優先作業は、模擬戦で減ってしまった宝石の再制作。

まずは、五条からせしめた“日常使い”の宝石へ、呪力を再供給していく。

資金力のある五条と共闘関係にあるおかげで、宝石の量自体に問題はない。

問題なのは私の呪力量だ。

 

たしかに、術式に目覚めてからは呪力量も倍以上増えたし、呪力コントロールも向上した。

おかげで、一度に宝石へ込められる呪力量も、だいぶ多くなった。

 

……とはいえ、疲れるものは疲れる。

 

3時間も集中してやれば、もう「あー、今日はここまで。もうやりたくない」の気分になる。

そもそも、宝石への呪力の充填なんて地味で根気のいる作業だ。私以外にやれる奴はいない。

 

五条は呪力操作の精度が良いため、できるけど性格的に向かない。

学生時代に何度かやらせてみたが、呪力を込められた宝石より、砕けた宝石の方が多かった。

私より呪力操作がうまいくせになんでだ?とお互いチベスナ顔になったのを覚えている。

 

五条との模擬戦で使い果たした攻撃系の宝石系統の呪力込めは終わったので、今日はこれでよしとする。

やはり術式が目覚めてからの効率のよさは凄まじい。前だとこれを詰めるのに半年はかかっていたから。

残りの時間は皆の服へ散布するための宝石の選定に当てよう。と思ったところで、

 

「伊地知さん! ちょっと来てくれ!」

 

ノックもせずに真希が飛び込んできた。なんだ?

 

問う暇もなく、私はそのまま腕を引っ張られて走る羽目になったが、いや、無理がある。

いくら術式で強化していても、フィジカルギフテッドのダッシュに私がついていけるわけがない。

 

「ちょ、真希さん、速――」

 

言い終わる前に、ふわりと視界が跳ねた。

 

……え? ちょっと待って。抱えられてる? 姫抱き?

 

「って、えええええ!?」

 

わぁ、真希がイケメンすぎて百合に目覚めそう。

いやいや落ち着け。創作物の百合は好きだ。

私はなんでも美味しくいただくタイプだが、現実には求めていない。

 

現実逃避でそんな思考をぐるぐるさせているうちに、会議室の前に到着。

勢いのままドアが開け放たれ、中へと放り込まれる。

五条と日下部が、どちらも睨み合うような格好で、会議テーブルを挟んで向かい合っている。

 

なんだこいつら?

 

真希に視線を向けると、彼女は無言で二人を指さす。

それに飛び込め、とでも言いたげな顔だった。

つまりこの二人の喧嘩を仲裁しろと…

……やれやれ。深くため息をついて、一歩前に出る。

 

「五条さんも日下部さんも、どうしたんですか?」

 

私の問いかけに、先に反応したのは日下部だった。

 

「伊地知、“万が一”に備えての話だ。もし、五条が戦闘不能になった時、その後の戦闘メンバーに入ってもらう」

 

予想外の内容に、思わずまばたきをする。

 

「私、反転術式使えないですけど……?」

「宝石で回復できるんだろ?」

「……はい、ありますけど。反転術式ほどの出力はないですよ?」

 

困惑気味にそう返す。

そもそも今回の作戦では、「反転術式が使える術師」か、「死にたがり」、あるいは「死んでもいいと思ってる奴」以外は、戦闘には参加しないという話だったはずだ。

私はその基準で言えばサポート側、いわゆる補助監督ポジションのはずで……

 

「五条とまともにやり合える人材を、この戦いに入れねー方がおかしいんだよ」

 

日下部のその言葉に、まぁ、確かにそうなんだけど。と納得する。

 

でも、私には“大役”がある。

両面宿儺と五条の初撃――その一瞬を隠すための結界を張ること。

虚式「茈」の初撃の情報が宿儺に漏れれば、戦局に大きな影響を与える。

それを防ぐための、極めて繊細な“目隠し”の結界を張ったのが、原作の伊地知さん (兄さん)だ。

私も伊地知潔高の原作最後の大仕事 (伊地知潔乃の原作最後の大仕事)として、前世の記憶を取り戻した頃からの目標である。

 

正直、これだけで相当な集中力と呪力を消費すると思っている。

原作の伊地知さん (兄さん)は、命をかけて結界を張っていた。

私も同様にやったらおそらくヘロヘロになっていて、戦闘参加は無理ではなかろうか?

 

「参加したいのは山々なんですが、五条さんの初撃を結界で隠すため、おそらく体力呪力的に余裕がなくなるかと」

 

そう日下部に伝えたところ、彼は即座にこう返してきた。

 

「……なら、その結界の方は、他の奴に任せればいいだろ。

結界術だけを考えたら、お前より得意な補助監督は他に唸るほどいる」

 

日下部の現実的な提案に、私は口を開く前に、五条が割って入った。

 

「……だめだね」

 

その声は低くて、いつもの軽薄さがなかった。

 

「潔乃は、僕の初撃を隠す結界を張ってもらう。その役目は、絶対に外せない」

 

日下部が何か言いかけたが、五条はそのまま続ける。

 

「結界術を使う補助監督は他にもいる。

潔乃より結界術が得意とする補助監督がいることも、わかってる。

でも、僕が一番、信用してるのは、潔乃なんだ」

 

室内の空気が張り詰める。

 

「窓からの情報だけじゃなく、毎回自分で事前調査して、抜け漏れなく任務情報を回してくれる。

術式の展開速度も、呪力の癖も、波のズレも、お互いに全部わかってる。

あそこまで僕を分かって、合わせてくれる補助監督なんて、潔乃以外にいない」

 

だが、沈黙を破ったのは日下部だった。

 

「信用はわかった……だが、それでも“万が一”がある」

 

五条が少し眉を動かす。その隙を突くように、日下部が続けた。

 

「初撃が決まったとして、それで両面宿儺を倒せるほど甘くない。

お前がその後の戦いで、万が一負けたらどうする?」

 

その言葉に、五条の口元がわずかに引き攣った。

さっきまでの“信用”を語る顔から一転して、今にも何か言い返しそうな気配。

 

「だから、その“万が一”を前提に作戦を立てるんだよ。

情に引きずられて判断を誤れば、それこそ最悪だ」

 

「……情じゃなくて最善を考えた結果だけど?日下部さん?」

 

五条がはっきりと、いつもの相手をおちょくる“喧嘩腰”になった。

 

「だから、結界術に優れた補助監督や、術師を使えばいい。後のリスクを考えたらそうすべきだ」

「そいつらより、潔乃の方が信用できるって言ってんの」

 

バチバチとぶつかる視線。

 

あー……これはマズい。話が堂々巡りだし、このままじゃ、作戦会議じゃなくてタイマンの前哨戦になりそうな勢いだ。

 

私は手を「ぱん、ぱん」と叩いて、鋭く音を響かせた。

室内の空気がピンと張ったまま、ふたりの視線がこちらに向く。

 

「わかりました。じゃあ、私、五条さんの結界を張った後、バトルメンバーとしても参加します。

それで問題ないですね?」

 

キッパリと結論を告げる。作戦実行者は私なのだから、決定権もある。

 

「呪力と体力は、日常使いではなく、質のいい方の宝石……威力強めのやつを使って補います」

 

五条には通じる言い方だが、日下部には伝わりづらいと判断し、日下部を見て補足を入れる。

 

「高出力の宝石です。数が少ないため普段は使わないものです。

今回は“ラスボス戦”ですし、温存しててもしょうがないですから」

 

明確に結論を提示する。

 

「……伊地知がソレでいけるなら構わねーよ」

 

日下部が頭をかきながら呟き、

 

「まぁ、ソレでいいんじゃね?」

 

五条も息を吐いて、それを受け入れた。

私は肩をすくめて、皮肉めいた笑みを浮かべる。

 

「負けたら死ぬだけですしね。気合い入れてやりますよ」

 

そう言ってから、更にニッコリと意識的に微笑む。

だが、目元にはあえてイライラを滲ませる。ここは釘を刺しておくべきだ。

 

「ところで、特級と1級が方針の違いで、恥ずかしい喧嘩しないでください。

知ってます? 戦場で死ぬ指揮官の何割かは、味方に撃たれてるらしいですよ?」

 

一拍置いて、二人に徹底的に釘を刺す。

 

「……今後、同じようなことが続くようなら、私が撃ちますからね?」

 

二人の表情が凍りついたが、気にしない。

言いたいことは言った。

さっさと会議室を後にする。

 

廊下に出ると、壁際にいた真希が引き攣った顔でこちらを見ていた。

 

……え、なんで?解せぬ。

 

 


 

 

廊下を早歩きで抜け、仮で借りている職員寮の一室に滑り込む。

ドアを閉めるなり、そのままベッドへダイブした。

 

頭から突っ込むように布団に沈み込み、しばらく動けなかった。

 

さっき、五条悟が、はっきりと私に対する“信用”を言葉にした。

 

原作とは、まったく違う場面だった。

でも、確かに私は今、“最強”から真っ直ぐに信用を向けられた。

 

……いや、これは嬉しい。マジで嬉しい。

 

原作の伊地知さん (兄さん)も、こうして信用されて、命を懸ける覚悟を決めていた。

五条悟に背中を預けられること。

それは、原作の伊地知さん (兄さん)にとって、きっと何よりの勲章になっていた。

 

そして今、私も。

あの五条悟に、そこまで言ってもらえた。

 

……燃えないわけがないだろ、こんなの。

 

思わず、口元が緩む。

緊張の糸はまだ切れていないはずなのに、胸の奥が、じわりと温かくなる。

バフッ、と枕を抱えて、ベッドの上で身をよじった。

 

「あーもう、すっごく嬉しい……!」

 

枕に顔を埋めたまま、私はしばらく、ばたばたと足をばたつかせながら身悶えし続けた。

 

 


 

 

主人公

 

市場価値が上がって迷惑している。

五条のプロポーズもどきに心底呆れた。

五条からの信用は本気で嬉しかった。苦労してきた甲斐があった!

 

 

五条悟

 

お礼にもらったパンが、だいぶ好みだった。

シュトーレンも美味しかった。今後、空き時間に主人公によく買いに行かせる。

主人公の市場価値爆上がりに苦笑してる。

プロポーズもどきをしたが、結構悪くないと思ったんだけどなー断られちゃった。

日下部と今回ゴリゴリに喧嘩しかけたが、僕の作戦の方が正しいと思ってる。

あと、主人公の笑っていない目にちょっと肝が冷えた

 

 

七海建人

 

お礼にもらったパンが、だいぶ好みだった。

なんでもっと早く教えてくれなかったんですか?とちょっとキレ気味。

その店の常連になる。

 

 

日下部篤也

 

軍師的には、主人公の実力的に、バトルメンバーに入らないのはおかしいと主張。

最終的に参加になってホッとしたが、五条と喧嘩になりかけたのは肝が冷えた。

その後、主人公からの忠告に更に肝が冷えた。

 

 

新田明

 

補助監督の仕事をできなくなった主人公に代わり、

しっかりポスト伊地知として仕事を回し始めてる。主人公ニッコリ。

今回の書類の仕事は、本気で面倒でやりたくないなぁ。

しょうがないけど、仕事だからと頑張っている。

 

 

禪院真希

 

会議室の前を通りかかったら、五条と日下部が喧嘩になりかけてることに気づいた。

伊地知やら潔乃やら聞こえたので、本人を連れ来た方が早いと判断。

優しく穏やかな伊地知さんの印象が、ここ数日でガラガラと壊れている。

...うわー、おっかね。

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