小話集②〜人外魔境新宿決戦開始
ほぼほぼ、オリジナルなので苦手な方は注意
・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)ものです
・オリキャラ出ます
・激しい捏造、妄想含みます
・ネタまみれです
リノリウムの廊下を歩く音がコツコツと響く。
見舞い用の焼き菓子と、ガーベラの花束を手に、私はとある病院を訪れていた。
そっとドアをノックし、静かに扉を開ける。
ベッドに座って半身を起こしていた少女......伏黒津美紀が、私に気づいて視線を向けてきた。
「……伊地知さん」
「こんにちは、津美紀さん」
ああ、以前よりずいぶん顔色が良くなっている。
ほっとしながら、持ってきた焼き菓子と花束を手渡した。
彼女はそれを受け取り、ぱっと嬉しそうに顔をほころばせる。
ガーベラの香りをそっと嗅ぎ、目を細めて微笑んだ。
「ありがとうございます……いい匂いですね」
「ほんのりしたいい匂いですよね。お花、生けましょうか」
「すみません。何から何まで……」
「別にいいんですよ」と言いながら、私はガーベラを包みから取り出した。
生花の心得なんてない庶民なので、出来は、まあ適当だ。許してほしい。
個室内の洗面台で水を入れ、小さな花瓶に挿して窓際に置く。うん、悪くない。
津美紀も優しい笑顔を浮かべて、それを見つめていた。
美少女とお花。
……王道はやっぱり強い。
「お加減はどうですか?」
椅子に腰掛けて尋ねると、津美紀は少し困ったように眉を寄せた。
「体は、もう大丈夫です。ただ……身体の奥から、怒っている女の人の声がして」
「それは怨霊なので、無視してください」
ちっ、万め……まだしぶとく意識に干渉してくるのか。
私の追加の術式と、来栖華の術式で駄目押しして、かなり深層に封じたはずなんだけどな。
やはり完全消滅させるには、虎杖の魂に触れる一撃が必要か。
内心でため息をついた。
「……無視していいんですね?」
「はい、現代でいう、ただのストーカーなので、無視して結構です」
どこかほっとしたような表情を浮かべる彼女。
そして、ぽつりと呟くように問いかけてきた。
「弟は……恵は、無事なんですか?」
すでに彼女には、現状を隠さずに伝えていた。
伏黒恵の肉体が、両面宿儺に乗っ取られていることを。
だから今回も、私は嘘をつかなかった。
「――まだ、です。ただ、全力で救出を行う手筈は整えています。
五条特級術師をはじめ、高専全体で動いていますので、ご安心ください」
「……そう、ですか」
わずかに震える指先を、彼女は布団の上でそっと握りしめた。
その姿に、胸が締めつけられるような痛みを覚える。ごめんね。
両面宿儺に乗っ取られない未来を、作ってあげたかった。
でも、できなかった。
私が受肉体になるリスクを恐れて、大きな手段を打てなかった。
それが、今の結果を招いている。
じんわりとした後悔に浸っていると、津美紀がゆっくりと顔を上げた。
「……弟のためなら、なんでもします」
その言葉に、思わず息を飲んだ。
健気で、強い。ただの口先じゃない。
あの呪物に侵され、ようやく目覚めたばかりの身体で、それでも彼女はそう言った。
あの伏黒恵が、命を懸けて守ろうとした相手。
納得だ。
善人of善人。虎杖と並ぶ、いい人枠だ。真のヒロインキャラ。
……そりゃ、伏黒恵があそこまで必死にもなる。
それにしてもなんでこの人、殺したのよ原作者……
私は自然と姿勢を正し、深く頭を下げた。
「ありがとうございます、津美紀さん。
……きっと、彼を取り戻します」
この子が生きているおかげで、伏黒恵の魂は、まだ完全に沈んでいないはずだ。
君は生きているだけで、もう十分に役に立ってるよ
口には出さず、心の中でそう呟く。
この子が伏黒恵の姉で、本当に良かった。
そう、心の底から思った。
病院の廊下を再び歩く。
次に向かうのは、もう一つの個室、釘崎野薔薇が眠る病室だ。
私はいつものように、軽くノックをしてから扉を開けた。
ノックの音に、当然返事はない。
でも、レディの部屋にノックもせずに入ったら、釘崎は怒るだろうから。
ベッドに横たわる釘崎は、まるで眠っているだけのようだった。
左目の眼帯は痛々しいが、それでも美人で、まるで眠り姫だ。
血色は悪くない。それは、新田新の術式のおかげだ。
あの瞬間に対応してくれた新田(弟)、ありがとう。
もし彼がほんの数分でも遅れていたら、彼女の蘇生は間に合わなかったかもしれない。
今、こうして眠り続ける彼女の命があるのは、その判断と技術あってこそだ。
津美紀に送ったのと同じガーベラを花瓶に生けて窓際に置く。
うん、美少女とお花は鉄板。
小さく笑ってから私はベッドの傍に立ち、静かに深呼吸をする。
この世界は、私が意図的に手を入れなければ、ほぼ原作通りに進む。
今回も介入しなくても大丈夫だろうが、より良くすることもできる。
「......失礼します」
呟くように言って、術式を展開する。
指先で彼女の額にそっと触れる。術式が起動し、本のページがぱらりと浮かび上がる。
そのページをめくり適当なスペースを探し、私は淡々と書き記していく。
渋谷事変のその後、彼女が意識を失って以降に起きた出来事を。
仲間たちの状況、現状の戦力、呪霊たちの動向、そして、五条悟の封印と復活。
彼女が目を覚ましたとき、即座に戦線復帰できるように。
無駄な混乱を避けられるように。
さらに、最終決戦で彼女に取ってほしい動き、作戦指示も明文化して記す。
あの時、渋谷事変の時は、“生き残る”と分かっている人たちへ意識を、あえて向けないようにしていた。
自分に余裕がなくいっぱいいっぱいで、そんな配慮をしている余裕はなかった。
でも、今回は違う。きちんとやれることを全部やり切る。
最後に、『目覚めた直後から今まで通りに動ける』、他のメンバーと同じように『呪力操作と体術の動きが最大効率』になるように書き込む。
「今度はちゃんとフォローしますね。釘崎さん」
そう小さく告げて、本を閉じ、術式を解除する。
私の書き込んだ“記憶”は、彼女の深層に静かに沈んでいった。
目覚めたとき、きっとそれは“私から伝えられていて、あらかじめ知っていた感覚”として機能するはずだ。
釘崎の頭をそっと撫でてから。
私は静かに病室を後にした。
修行期間も終盤に差しかかる頃、皆の修行の合間に行う作戦会議が、徐々に増え始めた。
内容は一貫して――「五条悟が戦闘不能になった場合」に備えた、本格的な作戦立案だ。
この会議に、当の五条本人は参加していない。
理由は本人いわく、
「僕が負けた後のこと気にしてもしょうがなくない?」
……ごもっともである。
基本的には、原作と同じ流れを踏襲した作戦が組まれていた。
まず、五条が敗北した場合、鹿紫雲一を投入する。
これはもう、本人の望みだから仕方がない。バトルジャンキーの性分だ。
彼に関しては、戦いを望んでいるという点において、扱いやすいと言えば扱いやすい。
受肉元の肉体には申し訳ないが、そのまま戦ってもらう。
次に控えるのは、日車寛見による術式没収からの
原作では、万が作り出した「
だが今回は、私の手で“万”をこちら側で完封したため、宿儺は「
……ならば、術式没収からの
とはいえ、正直、嫌な予感しかしない。
今回、私が宿儺の力を削りまくったおかげで、裏梅や羂索あたりが“代替品”として呪具でも進呈していそうな気がしてならない。
この世界の微妙な“修正力”が、そんなあっさりとした勝ち筋を許すとも思えないのだ。
だから私は、日車で決着がつくという前提では動かない。
つかない可能性が高い。そう思って動くことにする。
この内容は直接、私の未来視の制限に触れるため全く話せないのが辛い…
そのあとは、乙骨、真希、虎杖……加えて、東堂なども投入候補として順に検討されている。
そして、私自身についても議論が続けられていた。
私の術式は汎用性に優れ、宝石を使った立ち回りと、呪力操作だけは精密だ。これは自慢できる。
だが、体術に関しては、凡人が努力によって到達できる最高レベル。
呪術師の上位に辛うじて食い込んでいる程度でしかない。
基本的に真正面からの殴り合いには、不向きだ。
両面宿儺との正面戦闘など無謀にもほどがある。
それは、この場にいる全員の共通認識だった。
だからこそ、私がいつ、どのタイミングで参戦するのか。
その一点に関しても、戦略は徹底的に詰められていく。
さらに、重要なのは七海建人の件だ。
彼の生存は、いまだ虎杖や一部のメンバーには伏せられている。
その“切り札”としての投入タイミングもまた、日車や東堂と並ぶ形で、慎重に検討が重ねられていた。
そんな中、作戦会議でひとつの話題が上がった。
もし五条が死んだ場合、その死体を乙骨が利用するという案。
原作を読んだ時も思ったけど、この作戦、正直、鳥肌が立つ。
理屈はわかる。合理性もある。
でも、感情が先に揺さぶられる。
「人間的にどうなんだ」という日下部の意見もわかるし、
それに対する皆の躊躇や心配も、理解できる。
そして、悲痛なまでの乙骨の覚悟も原作を読んでいるとわかってしまう。
五条一人だけを化け物にしない。それに関しては、私も同意だ。
だけど、私は補助監督上がりの人間で、最近力が発現しただけ。
ここにいる面々に比べれば、直接的な戦闘力は劣るし、発言権も強くない。
だから、最初は黙って聞いていた。
発言してもな……と思って。
......が、なぜか、私にまで意見を求められた。
少しだけ考えて、それから言った。
「悪用される前に、こちらで使うのはアリだと思いますよ。
……五条さんも、好きにしろっていうでしょうし」
心底どうでもいい、という口調だったと思う。
実際、そのとおりだった。五条の死体なんて興味ないし。
そうしたら、案の定、全員から驚いたような顔をされた。
……そんなに不思議だろうか?
「ただ、私は、五条さんは死なないと思っています。
だから、この議論自体、無駄だと思ってますよ」
私は、五条悟が死なない方に全ベットしている。
それ前提で、作戦を練って、動いている。
だから本当に、死体の利用とか、どうでもよくて――
意味を感じない。
そうでも思わなきゃ、やってられないってのもあるけど。
なんか、みんなからドン引きされてる気がする…
原作通り五条は、上層部を全員やったらしい。
正式な報告はまだ上がっていないが、妙に殺気立った五条と、同じく目の据わった2年生たちを見て、すぐに察した。
……そうか。やったんだな。
プロポーズもどきの一件以来、私は本気で怒って、五条に「私の部屋に入る禁止令」を出していた。
けれど、その日ばかりは、あいつ、まるで言うことを聞く気がなかった。
無言で入り込み、ベッドに腰を下ろし、不機嫌そうな顔でじっとこちらを見ている。
……ガキか。この29歳児。
私はといえば、皆に配る宝石の最終チェックで手が離せない状態だった。
言っても聞かない奴は放置。私は私のやるべきことをやるだけだ。
一つずつ、呪力の残量、反応性、表面の劣化を確認する。
回復系の宝石はいくらあっても足りない。
今さらながら、もっと五条にねだって買い漁らせておけばよかったと悔やむ。
片付けを始めたその時、不意に背中から声がした。
「……終わった?」
静かな声。
いつもの軽さがない。
「えぇ、おわりま――」と返しかけた瞬間、ベッドに引きずり込まれた。
あー……まただ。
やりたくないことをやって、疲弊している。
原作でも「これが正しいやり方だと思っていない」って言ってたしね。
乙骨に「一人で怪物になるな」と言われながら、無理だと五条は思っていた。
夏油は「五条に置いて行かれた」と思っていた。
でも、五条自身も「夏油に置いて行かれた」と思っていて、
追いかけて追いついて、夏油と同じように怪物にならないといけないと思っている。
似た者同士の、悲しいブロマンス。
作者の手書きで書かれた「君にならできるだろ悟」の文字。
あのセリフを見た時の、なんとも言えないモヤモヤとした感情は忘れられない。
……で、だ。
それはわかる。それは仕方がない。
だが、なんで私が、ナウ巻き込まれてるんだ?
苦しいほど五条にギッチギチに抱きつかれて、身動きひとつ取れない。
ため息しか出てこない。
夏油の離反後、百鬼夜行の後、そして今回......
いつだって、夏油関連で何かあると、五条は私のところに来る。
まるで、私の部屋が駆け込み寺みたいに。
いいんだけどさぁ...
正直これが五条にとって、原作より良いことなのか私には分からない。
とりあえず今、私にできるのは......
何も聞かずに寄り添って、
肩なり、腕なり、頭なりを叩いて、優しく撫でてやることだけだ。
バトル参加メンバーの衣服に、宝石の粉末を織り込む加工がすべて完了した。
一人ひとりに仕上げた衣装を手渡しながら、同時に、呪力を込めた宝石も配布していく。
今回は数が限られている。
本当に、最前線に出ると確定している者にしか渡していない。
だからこそ――冥冥さんに宝石を渡さなかったら、大層残念がられた。
「……姉様の分も」
そう憂憂君に言われたけれど、正直個数に余裕はないのよ。
ごめんね。
今回、一人ひとりに直接宝石を渡しているのには、明確な理由がある。
伏魔御廚子への対策とは別に――
完全な未来視による行動のため、他の人に突っ込まれたら制限が発生する。
それを回避するための、個別対応だ。
原作通りなら、虎杖と脹相がそれをまともに食らう。
そして、脹相が死ぬ。
……お兄ちゃんが死ぬのは、物語としては確かに美しい。
でも個人的には、どうしても納得がいかない。
だから私は、脹相にも宝石を渡させてもらった。
とはいえ、これがどれだけ効くかはわからない。
呪いの王の力は、あまりにも強大だ。
正直、全力の
内心でため息をついた。
そうして私は、衣装と宝石を携えて、それぞれ手渡して回った。
最後に残ったのは、五条。
彼の……絶妙にダサ……いや、独特なデザインの戦闘服の加工は、特注仕様だ。
何せ、たった一人で両面宿儺とやり合うのだ。
他の者と装備に差があっても、誰も文句は言わないだろう。
仕上がった服を丁寧に畳み、私は五条の元へと向かう。
「五条さん。こちらになります」
「ありがとう。なんか色々仕込んでる?いい感じじゃん?」
「えぇ、特別ですよ?」
そう返して、彼に衣装を手渡す。
五条はいつもの調子で笑いながら、それを受け取った。
いつものあまりにも変わらない様子に、少しだけ目を伏せた。
どうか......
どうか、これが彼を守ってくれますように。
歌姫の呪詞が、空気を震わせる。
それに重なるように、楽巌寺の弦が唸り、空間が呪力で染まっていく。
五条に背を向け脂汗を滲ませながら、息が詰まりそうなほどの呪力の奔流の中で、
私は“隠蔽”の結界を発動させていた。
結界が張り巡らされ、音も光も、術式の起こりも、
すべてを外界から遮断し、五条の全てを宿儺には悟らせない。
......私の命にかけても。
原作の
その期待に応えられないんだったら、今ここで死ね!
「 ”
五条の声が響いた瞬間、空間が一変した。
一切の手順を省略しない、出力200%の
限界を超えたそれが炸裂する轟音が、天地を裂いた。
視界のすべてが紫の光に飲み込まれていく。
……そして、轟音と光が収まった後。
私は静かに振り返る。
そこに、五条の姿はなかった。
私は、ふらつきながらも立ち上がり、その場で一礼する。
「......お気をつけて。どうか、ご武運を」
それが、私にできる最後の送り出しだった。
本編完了しましたが、番外編後日談などどれが読みたいですか?
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本編終了後の後日談
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本編時間中の日常話
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if系(√分岐、原作通り五条死亡など)
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R-18 の下ネタギャグ
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