ほぼほぼ、原作焼き直しに、オリジナル要素を3つまみくらい。
原作コミックスを片手に見てもらったほうがいいかもです。表現が難しい…
原作が凄すぎるんだ…
転生者、敵にも味方にも塩を送る
200%の茈を放った直後、私は憂憂の術式で渋谷から本部へと戻ってきた。
「初撃は完璧に決まったぜ」
戻るなり、日下部がモニターを見つめたまま声をかけてくる。
そりゃ何より。肩をすくめて応じ、そのまま日車と三輪の間──
ひっそりと身を潜めるように座っている、七海の隣の空席に腰を下ろした。
「お疲れ様です」
小さな声で、七海が囁く。
「ありがとうございます」
同じく小声で返した。声を張る気力もない。
……精神力も、体力も、呪力も。本気で削られた。
これは……キツイ。
体力と呪力、それぞれ回復用の宝石を贅沢に二つ同時起動させて、前線の戦況を見守る。
原作と同じように──新宿区中央通り。
五条悟と宿儺が、真正面から向き合っていた。
建物を破壊しまくりながら戦ってる2人を見て、顔が引き攣る。特撮かよ。
「無下限呪術で絶対不可侵を持つ五条に対して、宿儺は“領域展延”で術式を中和してきたな」
日下部の分析に、周囲が静かに頷く。
なるほど。ここまでは原作通り。
そういえばこの場面、日車が“感覚的に理解できる”とか言っていたんだっけ。
……やっぱりこの人、五条悟に匹敵する才能だ。
簡易領域に関する知識は、私が書き込んでおいた内容をもとに、入れ替わり修行の中で全員が習得済みだ。
だからこそ、日下部が口にした一言──
「うちの簡易領域を、もう一段練り上げた感じだな」
──に、誰もが納得していた。
ほんと、妙に詳しいよね日下部。
こういうとき、やっぱりこの人はシン・陰流の当主になるべくしてなったんだと思う。
そのまま話題は、「なぜ五条が領域展開をしないのか」へと移り、
さらに、「宿儺は結界を閉じない領域展開ができるのでは?」という流れへ。
一同は「あり得ない」と口を揃えるけれど……現実として、宿儺はそれをやってのける。
……残念ながら、そのことは五条に伝えられていない。
宿儺も、羂索も──領域展開の際に結界を“閉じない”。
けれどそれがあまりに規格外で、どう説明すればいいのか分からなかった。
そもそも脹相は知ってるんだから原作でも言っておけよと!これはギルティ!
……話がそれた。
とにかく脹相との会話の中で、誘導的に匂わせようとしたことはある。
でも、まぁ……うまくいかない時はとことんダメで。
最終的には、“制限”の罰で、近くのガラス窓が粉砕され──
頸動脈をかすめ飛んだ破片で、文字通り首の皮一枚で生き延びた。
……制限、私にだけ殺意高くて厳しすぎない?
だから、結局“閉じない領域”の件については、口をつぐむしかなかった。
これくらいで五条は死なない。ただ、有利な状況に持っていけなかったのは悔しい。
そして──五条と宿儺が同時に領域展開を発動させた。
その直後、虎杖が声を張り上げる。
「結界は外側からの攻撃に弱い!」
その叫びと同時に──五条の領域が砕ける。
次の瞬間、五条の首筋から鮮やかな紅が飛び散った。
「ここまでは、ほぼあなたの見立て通りですね」
口元に手を添え、モニターを睨むようにして七海が低く呟く。
……彼の姿を認識できるのは、今ここでは限られている。
私がかけた認識阻害の術式は、まだ継続中。
七海を知る者──日下部と冥冥、憂憂だけが、その声にわずかに反応し、ちらりとこちらに視線を送った。
未来視で言えなかったことを察してくれて、苦い表情をしている。私だって同じ気持ちだ。
画面の中で、五条が反転術式を試みる。
だが、術式は焼き切れたまま。いつものような瞬間移動はできない。
逃げるために足を使うしかなく──当然、宿儺がそれを見逃すはずもない。
伏魔御廚子の領域が迫る中、五条はシン・陰流の簡易領域を展開。必中効果を打ち消し、そのわずかな隙に反転術式で肉体の再生を図る。
「うへぇ……なんであんな芸当できるの……」
思わず漏れた私のぼやきに、隣で日下部が舌打ちを返す。
「それな。なんで反転術式と通常の呪力操作、並行でやれんだよ……」
「だが──」
と、脹相が口を開く。
「簡易領域程度の出力では、本物の領域に対して時間稼ぎにしかならないぞ」
──その通り。
再び襲いかかる伏魔御廚子の斬撃に、五条の体が切り刻まれていく。
だが彼は──再び簡易領域を張り、耐えた。
そして一度止まったかに見えた反転術式が、もう一度起動し始める。
その様子に、私は思わず口元を吊り上げた。
「お、仕込みに気づいたね」
次の瞬間。
順転を展開し、宿儺を引きつけた五条が、術式反転「赫」を叩き込んだ。
「できるの!?
一瞬反転術式止めたのは、焼き切れた術式を治癒していたから?
いや、あんな一瞬でできるはずが……」
思わず叫ぶ乙骨。
「伊地知!!お前何した?」
私の呟きを拾っていた日下部が、怒鳴りつけるように私の名を呼ぶので、思わず肩をすくめた。
「私と五条さんの模擬戦を覚えてますか?
あの時、五条さんは私の術式による書き込みを“脳破壊”で無理やり解除してましたよね」
乙骨を含めた全員が、はっと息を呑む。
単純な反転術式による治癒ではなく、脳破壊を伴う行為を思い出したようだ。
「今回も、宿儺との領域展開の直後、術式の焼きつきで、五条さんはまた、あれをやると思ったんです。
だから、先手を打たせてもらいました」
「……先手って、何を?」
「五条さんの戦闘服に、いくつか宝石を仕込んでおいたんです。
それに縛りを組み込んで調整して、
“術式で焼き切れた脳の該当箇所を集中的に癒して、焼きつき時間を限りなく短縮する”効果を付与しました」
「は?そんなこと可能なんですか?」
乙骨の顔に、驚きと納得が交錯する。
……まぁ、そうなるよね。
普通の反転術式じゃ、術式の“焼きつき”は回復しない。
あれはもう、損傷というより──“オーバーヒート”に近い現象だから。
今回あらためて調べてみてわかったことがある。
領域展開の発動時、脳の“術式の該当箇所”に一気に呪力が流れ込む。
そのときの呪力の残留が、焼きつきの正体だった。
術式が使用不能になるのは、損壊じゃなくて、“呪力による渋滞”みたいなもの。
だから私は、残留呪力を“吸い上げる”機能を持つ宝石を用意して、
その吸い上げた呪力を使って、該当箇所を“自力で癒させる”ように調整した。
──本当に、これは苦労した。
まずは“領域展開”を見せてもらうこと。術式の焼き切れが発生してる脳の記憶を見たい。
特に五条、正面から「見せてください」なんて言ったら、絶対に面倒になる。
だから、入れ替わり修行のタイミングを見計らって、
「もう一度、領域展開を見ておきたいんです」って、さりげなく紛れ込んだ。
──模擬戦の時に見れれば一番早かったんだけど、あのときは私、思いっきり意識失ってたからね……。
それからさらに、最大の難関が待っていた。
領域展開直後の“記憶”を、読ませてほしいと頼むこと。
未来視の制限があるから直接的な理由は言えない。
これがもう、一番の山場だった。
こっちは必死でお願いしてるのに、五条ときたら──
『えー?俺の記憶、見たいの?やだなぁ、恥ずかし〜』
みたいなノリで、ニヤニヤ顔&わがまま放題。何度その顔に黒閃を叩き込みたくなったことか。
軽く切れた私が『恥ずかしい過去を、自白する』と書かれたハンコを手のひらに浮かせて、
「実験していいですか?」って真顔で言って、ようやく見せてもらえた。
複数人数のサンプルが欲しかったので、乙骨や秤、日車にも協力してもらったが、こちらは協力的で非常に助かりました。はい。
ちなみに日車の《誅伏賜死》のときには、何が暴かれるかと内心冷や汗だった。
結果──子供の頃、
「あなたにもヤンチャな子供時代があったんですね……」
そう言って、妙に生ぬるい日車の視線が刺さって、顔から火が出そうだった。
なお、全部事実です!すみません!と日車とジャッジマンに速攻で罪を認めたのは言うまでもない……
秤と乙骨の時は、ちょうど対戦形式の訓練中だったので、その場にお邪魔して記憶を拝見。
ただ、だんだんヒートアップして本気モードになってきたあたりで、
「このままじゃ死人が出る」と判断したのか──五条が外から領域の外郭をぶち壊してくれた。助かった。
術式の焼きつきの原因が特定できた段階で、いよいよ宝石の選定に入る。
まずは、呪力を吸収する性質を持つ石を片っ端から確認し、何百個もある在庫の中から、
一番適したものを選び抜いた。
その後の宝石の調整も、本当に本当に大変で大変で…
思い出すだけで胃が痛くなる。ほんと、大変だった。ちょっと遠い目をしたくなる。
「だから俺達の領域展開を見たんだな?」
そんな私の脳内回想が終わる前に、鋭い秤が口を開いた。
核心を突いたその一言に、私は素直に頷く。
視線を巡らせれば、乙骨も日車もなるほどといった表情で、それぞれ静かに頷いていた。
一瞬の沈黙のあと──口を開いたのは日下部だった。
「同じ効果の石の在庫は?」
「すいません。調整が難しく予備を作る余裕がありませんでした。
なので作成できた分、6個は、全部、五条さんの戦闘服に仕込みました」
これに関しては、申し訳ないが調整が難しく予備も作れなかった。
原作でやった五条の領域展開の5回+失敗した1回分、つまり6個の宝石しか用意できなかった。
「まぁ、五条にこの場で勝ってもらう方が一番手っ取り早いからな……」
日下部が少し肩をすくめて返す。
冥冥が一拍置いて口を開いた。
「……それ、五条君には?」
その視線が私に向く。
他の視線も、自然と集まった。
私は静かに息を吸って、首を横に振る。
「言ってません。縛りで効果を最大化するために、事前には知らせられなくて。
でも……五条さんだから、すぐに気づくとは思ってました。そして、気づいてくれて、よかった。
これで、無理な“脳破壊”はせずに済みます」
コミックスの間のページにあった血だらけの脳のイラストを思い出す。
原作の五条の脳はあんなふうになっていたんだろう。
何回も行ったその行為で五条は領域展開を行えないほどのダメージを蓄積させた。
あんなことはさせない。少しだけ、唇に笑みを浮かべてモニターに目を戻した。
モニターの向こうでは五条が宿儺を挑発した後、再度領域展開を発動させた。
同じ失敗を繰り返すような人間ではないのは皆がわかっている。
今度は外側からの攻撃に強い結界。
日下部も言っているが、なんでホイホイ領域の要件を変更できるんだろうね。意味がわからない。
そうこうしてるうちに、再度五条の領域が崩壊する。
「なんで!?」
「おそらく宿儺も何かしら領域の条件を変更したんだ!!」
日下部の言う通りだ。
原作通りなら、宿儺が五条の領域内で「伏魔御廚子」の必中命令を消す縛りで領域外での威力を上げ、「無量空処」は五条に触れることで凌ぎ、五条の領域を破壊したはずだ。
やはり、宿儺は天才だ。五条がやることをすぐに真似てくる…
苦々しい思いで唇を噛む。
宿儺の猛攻を、五条が『落下の情』で凌いでいるのを見て、日下部の解説が入った。
ほんと、こいつ詳しすぎて引く。綺羅羅のツッコミに、私も完全同意だ。
“落下の情”といっても、領域展開の出力に真正面から対抗できるような術じゃない。
けれど今の五条には、私の宝石による補助がある。
焼き切れた術式も、最低限の治癒時間さえ稼げれば、即座に再起動できる。
そして次の瞬間、五条が再び、領域展開を行った。
しかも、今度はその“サイズ”がまるで違う。バスケットボールほどの、小さな球体。
原作通りの展開とわかっている。結界を小さくすることにより結界の強度を上げた。
原作の知識もあるし、呪術界にいたので結界術にもある程度通じているつもりだった。
それでも、領域展開の“要件”をここまでコロコロ変えられる意味がわからない。
日下部がイライラした様子でいう。
「結界……特に領域の結界は、対外条件や対内条件、体積、構築速度、諸々を各々の術士が『これだ!』
ってブレンドでようやく成立させることができるんだ」
ほんと、その通り!
日車と秤が「そうなのか?」と不思議そうにしているが、
彼らは術式にデフォルトで領域が組み込まれてるので、例外中の例外。
私自身、結界術は比較的得意な部類に入る。
帳を下ろすときだって、ある程度の計算と戦略が必要だし、
先ほど五条の200%の茈を隠しきったあの結界も、自分なりに練りに練って構築したものだ。
ひとつひとつの構成を、事前に想定して、場合によっては何度も修正しながら組み立てていく。
「事前に」だ。
だからこそ──日下部の言葉には、100%同意しかない。
現場の匙加減で、毎回コロコロ変えられるような代物じゃない。
こっちは何重にも構想を重ねてようやく一個仕上げてるというのに嫌になる。
今度の五条の領域は宿儺の外からの攻撃に耐えている。
そして宿儺も領域の効果範囲をより絞って術式の威力を上げた。
だからなんで、こいつら毎回こんなに条件を変えられるんだ…
「この結界が破られれば手詰まりだろう」
「そうなればジリ貧で五条の負けだ」
次の瞬間、五条の領域が破壊され、宿儺の御廚子が崩れた。
「うおおおおおおおっ!!!五条さん!!!同時だっ!!同時だったんだ!!」
「宿儺が外側から五条の領域を破壊したのと、五条が宿儺に領域を保てなくなるほどのダメージを与えたのが!!」
お互いの領域が崩壊した今、両者術式が使えない状態。
でも宝石によって焼き切れた術式を修復できる五条の方が先手を取れる。
それに対し天使が不吉なことを言った
「五条悟は、宿儺の前で「見せて」しまった」
張り詰めた空気に、猪野が声を上げる。
「どういうことだ?」
「宿儺は羂索の手を借りて、自身の魂を呪物として二十本の指に切り分けた。
そのたった1回の機会で自らの呪物のなり方を学習したんだ」
宿儺は見ていた。
五条悟が、限界を超えて尚、術式を再起動させるその姿を──
家入が低く、呻くように呟いた。
「……宿儺にもできるだろうってわけね。焼き切れた術式の修復が……」
視線が、私へと集まる。
私は静かに頷き、感情を抑えたまま説明を始めた。
「……宝石による治癒は、その宝石がなければ“物理的には”不可能です。
私がやっているのは、脳の術式エリアに滞留する呪力を外部から吸収し、渋滞を解消してるだけなんです」
一拍、息を吸う。
「ですが、“脳破壊”によって術式を強制リセットし、再起動させる手法。
もし宿儺がそれに気づいてしまう可能性。それは、十分にあり得ると思います」
あの怪物は、こちらが命削ってたどり着いた限界突破の手段を
何の補助もなく、自力でやってのける可能性がある。
本当に嫌になる。モニターの中では五条と宿儺が相も変わらず特撮バトルのような、
戦いを繰り広げているが、2人が同時に領域展開を行った。
やっぱりだ。宿儺も脳破壊を行った後、反転術式で焼き切れた術式を修復し始めた。
最初からできたのか、できるようになったのかはわからないけど。
──そして。
そんな予想がついていたことよりも、もっと嫌なことに、私は気づいてしまった。
「え、今……五条さん、鼻血……?」
思わずポツリと呟いた声を、七海が拾い上げる。
「……脳への負荷が来ている。宝石の補助だけでは足りなかった……ということでしょうか」
まさか。
あれほど調整したはずの宝石で、呪力の滞留は取り除いているはず。
なのに、それでもなお、脳に負荷がかかっているというのか?
私が動揺している間にも、再び互いの領域が衝突し──そして、砕ける。
再展開の速さは、五条のほうがわずかに上回っていた。……ここまでは原作通り。
だが、砕けた領域の先に現れたのは──
無量空処に適応した、魔虚羅。
「……どこまでも、あなたから聞いた通りで嫌になる」
七海が、小さな声で呟く。
その声音は、私にしか聞こえない。
私も、同じ気持ちだよ。
モニターの向こうで、宿儺は語っていた。
無量空処への対応は、自身ではなく十種影法術を通じて、伏黒恵の魂に“肩代わりさせた”と。
そして──
五条が6度目の領域展開を行おうとした、その瞬間。
鮮やかな血飛沫が、彼の鼻からこぼれ落ちた。
領域の構築を中断する。
「──やっぱりだ!」
叫ぶように言って、私はダンっと床を踏みつけた。
鈍い音が室内に響く。
「どういうことだ!」
日下部の声が飛ぶ。
私は荒い呼吸のまま、咄嗟に口を開いた。
「宝石の効果は──最初は、確かに効いていた。
けど、たぶん想定以上に……脳への負荷が高すぎた。
用意した宝石だけじゃ、補いきれなかった。
ぶっつけ本番での運用だったのが……問題だった。クソ!」
声が荒ぶっていた。
普段の私なら絶対に見せないような、激情まじりの物言い。
でも、それを整える余裕なんて、今の私にはなかった。
モニターの中の五条は、鼻血を垂らしてはいたが、
それでも、原作よりは明らかに量が少ない。
つまり、ダメージは軽減されている。
それは宝石の効果……のはず。
けれど、結局いまこの瞬間に五条が領域展開を封じられては意味がない。
私は無意識に、口元を手で覆っていた。
動揺しているときの、私の癖。
目の前で原作通りに進んでいく展開に、呼吸が乱れていく。
そして、次の展開もわかっていた。
宿儺もまた、領域を使えなくなる。
その後に始まるのは──再びの、肉弾戦。
画面の中で、魔虚羅の適応の法陣が、ガコンと音をたて回り始めていた。
五条は順転以外の術式を使わず戦っているが、魔虚羅の適応の法陣は回り続け、
宿儺に五条の黒閃が決まった直後に、不可侵に適応された。
五条の服に仕込んだ粉末の宝石の回復もあるはずだが、五条の回復が遅くなっている。
呪力の出力も落ちているんだろう。
「五条悟 敗北」の可能性が脳裏に強く駆け巡る。
それでも画面内の五条は、どこか楽しそうで、充足しているのが...原作を知ってる私からすると、よくわかる。
「呪詞の詠唱‼︎」
「下がった出力を取り戻す気だ‼︎」
五条は黒閃を決めたあと、呪詞の詠唱つきの術式反転「赫」を発動させる。
宿儺は不可侵に適応した魔虚羅をオフェンスにしつつ攻撃を始めた。
宿儺の投げた消化器の白煙が視界を覆い、次いで──飛んできた攻撃に、脹相が顔色を変えて叫んだ。
「穿血!?」
宿儺は何でもかんでも他人の術を盗みすぎだろ。
どんだけ学習力あるんだよ、こいつ。
そう思った次の瞬間だった。
──宿儺が、胸元から“宝石”を取り出した。
それに呪力を込めると同時に、五条の足元で爆発が起こる。
「は???」
一瞬、思考が追いつかなかった。
目が、画面から離れない。
……見間違い?いや、そんなわけがない。
砕け散った宝石を投げ捨てて、宿儺は次の宝石に切り替える。
まるで、戦闘用アイテムを使いこなす術師みたいに、当たり前の手つきで。
私は、呆然とその光景を見ていた。
あの宝石の呪力の籠り方…私が作成したものだ。
「おい、どういうことだ伊地知!」
日下部も状況を察したのだろう、怒鳴り声が飛ぶ。
だが、私だって分からない。ほんとに、わからない。
が、ふと思い当たることがあって、声が溢れた。
「……あ……っ五条家が……売りに出した、私の宝石……」
途端に、背中を冷たい汗が伝った。
──くそ、間違いない。
絶対に、羂索だ。
情報を嗅ぎつけて、加茂家経由で買い漁ったんだ。
そして、それを宿儺に渡した──そうとしか思えない。
そう確信した瞬間、腹の底から怒りが噴き上がる。
「五条のクソが!!!! 勝手に売りに出すからだっての!!」
思わず叫んで、椅子を蹴って立ち上がっていた。
もう抑えがきかない。
口をついて出たのは、私が“ただの一読者”だった頃の、素の口調だった。
声は裏返っていたかもしれない。
周囲がぎょっとしたように振り向いた気配もあった。
でも──そんなの、どうでもよかった。
あのバカ、何考えてんの!?
私がカスカスの呪力を絞り出して作った宝石を、よりにもよって宿儺に使われるだなんて!
自分が作ったものが、自分の味方を殺すために使われる。
そんなの──悪夢以外の何ものでもなかった。
怒りと後悔と、悔しさがごちゃ混ぜになって視界が霞む。
七海が宥めるように私の肩をポンと叩いて、椅子に無理やり座らせた。
日下部が、低い声で問う。
「……正式な流通量は?」
視線が再びこちらに集中するのを感じながら、どうにか言葉を探す。
口調を落ち着けるために荒く深呼吸してから
「……他人が使うとどうなるかの、実験的な目的で
売りに出したとしか聞いていなくて……詳細な個数までは把握していません」
自分でも、どこか言い訳がましいと感じた。
けれど、それが事実だった。
五条は、私を“製作者”として関わらせすぎないように配慮してくれていた。
私自身も、あえて目を逸らした。
任せておけば大丈夫だと信じた、その甘さのツケが、今ここに来ている。
言いながら、胃の奥がまたひとつ重くなる。
私が知らないところで、あの宝石がいくつ流れ、誰の手に渡ったのか。
想像するだけで、冷たいものが背骨を這った。
その時、冥冥が静かに口を開いた。
「公に市場に流れた数は12個だよ。
直接個別の取引があった場合はわからないけど……
実際に対呪霊戦で使われた記録があるのは、4つだね」
──12。
モニターの中では、宿儺の手によって4つ目の宝石が炸裂したところだった。
どれだけ出力が低いものでも、宿儺が使えば話は別だ。
私は深く息を吸い、声を落ち着けて報告を続けた。
「……幸い、日常使いのレベルの低いものしか売り出してないはずです。
でも宿儺が使うと、厄介です」
「日常レベルってのは、どの程度だ?」
日下部の声には、苛立ちと警戒が滲んでいた。
当然だ。いま目の前で“その程度”が五条を襲っているのだから。
一瞬だけ言葉を選び、私は淡々と答えた。
「……攻撃系なら、学生時代の私が使って、1級をギリギリ倒せる程度です」
沈黙が落ちた。
「おいおいおい……マジかよ」
日下部が頭を抱えて、深く息を吐く。
私も口元を手で覆いながら、必死に記憶を辿る。
「五条さんが言ってたのを思い出しましたが……
補助用、回復用はそれぞれ1回ずつしか売りに出してないはずです。
それらは、すぐに使われたと聞いた記憶があります」
「私の認識とも合ってるよ。
補助用、回復用は競り落とされたあと、対呪霊以外で即使用された」
冥冥が情報を補足してくれる。
──こういう時、情報通のこの人がいて本当に助かる。
「……つまり、あと2つは攻撃系の宝石を持っている可能性があるってことだな」
日下部の言葉に、私は無言で頷いた。
個別に裏で取引された可能性までは追いきれないので考慮しない。
それらは正直、もはや把握しようがない。
モニターの向こうでは嵌合獣・顎吐と魔虚羅と宿儺。実質3対1の状況で
『飼い犬の技で追い詰められる気分はどうだ?』
『威力の確認ができて助かるよ!これでまた高く売れる!』
『オマエを殺した後に、あの技術も俺の物にさせてもらう。アレは使えるからな』
『はっ!言ってろよ』
宿儺も五条も獣のような表情で、煽り合いながら殺し合っている。
ていうか、こんなところだけ原作からずれなくてもいいのに。
あと、私のことでとんでもないこと言われてて、肝が冷えて冷静になる。
宝石に1級を殺す火力があるとしても幸い、五条を“殺しきる”には足りていない。
けれど、それでも。
原作よりも遥かに負荷がかかっている現実に、胸が押し潰されそうだった。
「僕も出ます」
乙骨の声が、遮るように会議室に響いた。
鹿紫雲が一拍も置かずに苛立ちを込めて言い返す。
「戻れ。邪魔すんな。少なくとも次はオマエじゃねぇ」
原作通りに学生たちが揉め始めた。
すかさず秤が割って入る。
「落ち着け、乙骨。これに関しては鹿紫雲が正しい。
五条さんは、自分が“オマエや俺より弱った時”にしか、介入を認めなかっただろ」
「……ケースバイケースでしょ」
唇を噛みながらも、乙骨は食い下がる。
真希や虎杖も参戦しさらに揉め始めたところで、日下部が止めに入った。
「はー……待て待て。お前らさぁ……なーんにも分かってねーじゃん。頼むぜ、ガキ共」
怒りよりも深い焦燥と現実認識が滲んでいて、私も同意だった。
冥冥が後に続く。
「君達、宿儺と五条君じゃ“勝利条件”が違うんだよ」
乙骨達に視線すら向けずに話を続ける。
「五条君は宿儺にさえ勝てばいいんだ。
羂索は我々が束になればなんとか勝てるかもしれないからね。だが宿儺は違う。
五条君に勝っても、その後間を開けずに私たちと戦わなきゃならない」
冥冥の口調はあくまで淡々としている。けれど、その内容はとても呪術師らしく冷厳だった。
秤が乙骨を睨みつけ、低く補足する。
「絶対に温存してる切り札がある。俺たちが出ればそれを切ってくるかもしれない」
私はそれに呼応するように、口を開いた。
「……例えば、宿儺の“渋谷の炎”──あの術式とかね」
アレは縛りと条件が厳しかったはずだが、今は黙っておく。
「……つまり、“下手に刺激するな”ってことですか?」
乙骨が苦い顔で問い返した。
「そうだ」
日下部がきっぱりと頷く。
「しかもな──“裏梅”とかいう化け物も控えてるしな」
彼の言葉に、数人が顔をしかめる。
「すべてを出し切るわけにはいかない宿儺に、
“足手まといなし”の五条を当てる、今この状況が1番、確率が高いんだよ」
生徒達が黙り込む中、鹿紫雲の
「これは五条悟のための戦いだ。どうなろうと割って入るのは野暮ってもんだ」
悔しいけど誰よりも的を射ている。
現に五条は全てを出し切って、おそらく人生で一番充実しているんだろう。
モニターでは2度目の黒閃を決めノリに乗っている。
そんな中、とうとう魔虚羅が斬撃を飛ばして五条の腕を吹き飛ばした。
皆が悲鳴を上げる中、口を手で抑える。
世界を断つ斬撃の下準備が揃ってしまった。
五条はボルテージが最高潮になっている。
出力最大の蒼で顎吐を圧殺。その後も蒼は生きている。それに宿儺はまだ気づいていない。
呪詞付きの術式反転「赫」を、まだ生きている「蒼」のある方角へ放つ。
皆がざわめく中、隣に座る七海が私に耳打ちをしてくる
「この後ですか?」
私は何も答えずに、モニターを凝視し続けた。
「蒼」と「赫」の衝突前に、宿儺が「赫」に穿血と宝石による爆発を叩き込もうとしたが、
後追いで呪詞を唱え「蒼」の出力を取り戻させ、全てを飲み込んだ。
五条の呪詞が響く
『”九綱” ”偏光” ”烏と声明” ”表裏の間”』
『虚式「茈」』
無制限の茈の炸裂する光景。ここまでほぼ原作通りだ。
それを見ながら、七海にだけ聞こえるように囁いた。
「.........変わらなければ、五条悟が死ぬのは、この直後です」
茈が落ち着いた後映し出されるのは廃墟。
そして大ダメージを負った宿儺と、比較的軽症の五条。
『指向を絞らず自身も巻き込む無制限の「茈」
......の割にはダメージに差が出たね』
『やっぱ自分の呪力っていうのが大きいのかな。結果オーライ』
『遠隔の「茈」もアドリブにしては上出来でしょ』
『初めての自爆です』
モニターから聞こえる五条の声に、失望する。
この声色は、ダメだ。やっぱり勝利を確信して、油断して調子に乗ってる。
「黒閃で反転術式の出力を取り戻した五条に対し、治癒も鈍く魔虚羅を失い展延での徒手空拳もままならないダメージを負った宿儺」
「これって……」
「あぁ、五条の勝ちだ」
日下部と虎杖の会話を聞きながら、最後の仕込みが上手く発動することを祈るしかない。
ギュッと両手を組んで、信じてもいない神に祈りを捧げた。
魔虚羅を潰した。
これで宿儺は、僕の「不可侵」を攻略できない。
深く息を吐く。
大ダメージを負った宿儺の姿を見て、思わず口角が上がった。
──あと少し。
このまま宿儺を殺し尽くせば、伏黒恵を、取り戻せる。
その未来が、現実のものとして見えてきた。
でも。
本当に? 宿儺は何もできないのか?
足を踏み出した瞬間──コツ、と硬質な音がした。
宝石同士が、軽くぶつかった音だ。
それは、潔乃が僕の戦闘服に縫い付けたもの。
……音が引き金だった。
過去の記憶が、まるで映像のように脳内で再生される。
『まず、“偽りのゴール”をセッティングします。
“ここで終わり”、“これで勝った”と、五条さんが確信するような地点を、あらかじめ用意しておく。
その“勝ち確”の瞬間を作り出した上で......』
『……縛りをゴリゴリに仕込んだうえで、なんの前兆もなく、“無限”を攻略できるようにした“御廚子”を、速攻で叩き込みますね』
保健室で虎杖と話していた、潔乃の声。
あのときは冗談交じりに聞こえた言葉が、今になって、砲弾のような質量を持って胸を撃ち抜いた。
全てが警鐘を鳴らしている。理屈じゃない。
『今だ!』
その一言だけを、全身の細胞が絶叫している。
次の瞬間、考えるより先に身体を跳ね上げ、全力で回避行動をとっていた。
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