【本編完結】とある転生者の役割交代   作:kotedan50

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人外魔境新宿決戦③

原作ダイジェストにオリジナル要素が、どんぶり2杯分くらい。
原作本片手に楽しんでもらえたらと思います。
注意点としては、今回特に作者の解釈による描写が強いので、苦手な方はご注意ください。

・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)ものです
・オリキャラ出ます
・今回はオリジナル要素、独自解釈、激しい捏造、妄想の度合いが普段より高いです
・特にとあるシーンが、作者の独自解釈にまみれています。ご注意ください。
・ネタまみれです


転生者、巡る呪いの終わりを見る

気がついたら僕は空港にいて、ベンチに座っていた。

この空港、どこかで見たような気がするけど、はっきりと思い出せない。

 

「や?」

 

訳もわからず周囲を見回していると、あいつが、傑がやってきた。

 

「うっわ。ざけんな最悪だよ」

 

思わずぼやいて、ベンチの背もたれに体を預ける。

……ああ、ここがどういう場所か、なんとなく分かっちまった。

 

「失礼だな人の顔を見るなり」

 

隣のベンチに腰を下ろして、傑が苦言を呈する。

……その姿は、懐かしい高専時代のものだった。

つーか、僕も高専時代の格好になってるな?ちらりと自分の体を確認して、今更気づいた。

 

「生徒に言っちまったじゃねーか、死ぬ時は独りだって。頼むから俺の妄想であってくれよ」

 

恵に言ったセリフが頭をよぎる。

あの時はカッコつけて言ったけど……まさか、こんな風に現実になるなんてな。

 

「いいじゃないか、どっちだって」

「よくねぇよ。父親のことも……まぁそっちは硝子に頼んだしいいっか」

 

頭をぐしゃぐしゃと掻きながら、思考を切り替える。

最低限のことは硝子に託した。ま、それで十分だろう。

 

「どうだった?呪いの王は」

 

傑の問いに、僕は天井を見上げながら片手を挙げてみせる。もう、笑うしかなかった。

 

「いやマジでつえーわ。しかも宿儺は全力出し切ってねぇってんだから」

 

あれでまだ余力があるとか。

 

「あっちに恵の十種がなかったとしても、勝てたか怪しい」

 

口にして、自分でも驚いた。

僕がそんなことを言うなんて、たぶん傑も想定外だったんだろう。

ちらっと視線をやると、案の定ちょっと驚いた顔してた。

 

「君にそこまで言わせるとはね」

「ちょっと申し訳なさすら感じてるよ」

 

思わず自嘲気味に呟いてしまった。

 

「?」

 

傑が首をかしげる。その顔を見て、なんとなく言葉が出た。

 

「孤高の侘しさは、誰よりも共感できるつもりだ。みんな大好きさ、寂しくはなかった。

でもどこかで、人としてというより、生き物としての線引きがあったのかな」

 

ぽつぽつと、自分でも整理できていなかった気持ちが言葉になる。

 

「花を咲かせることも、愛でることもできる。でも花に『自分をわかって欲しい』なんて思わないだろ」

 

「……」

 

黙って話を聞いてくれる傑の存在が、今はひどくありがたかった。

うん、今はただ、聞いていてほしかったんだ。

 

「鍛えた肉体に身につけた技術。磨き上げたセンスや、場当たりの発想と瞬発力。全部ぶつけた」

 

ゆっくりと右手を握りしめる。

 

「宿儺には全部伝えたかった。伝わってほしかった」

「……楽しかったな」

 

軽く握った拳を見つめ、ぽつりと呟いた。

戦いの余韻は、まだ体の奥に残っていた。あの一瞬一瞬が、本当に楽しかった。

 

「宿儺は僕に全てをぶつけることができなかった。そこを申し訳なく思うよ」

 

全てを曝け出した、本気のぶつかり合いを望んだのは、きっと僕のほうだった。

宿儺にはそうさせてやれなかった。

その願いが届かなかったことが、少しだけ寂しかった。

 

「……妬けるねぇ。でも君が満足したならそれでよかったよ」

 

そう言って、傑が笑う。その言葉に、ふっと肩の力が抜けた。

 

「……満足ね。背中を叩いた中にお前がいたら満足だったかもな」

 

口に出した瞬間、ああこれは本音だと思った。

やっぱり、最後に一緒に笑えるなら、それが一番だった。

 

「……ははっ」

 

傑が笑った。視線は向けずにその声を聞きながら、僕は天井を見上げた。

 

「とにかく、僕を殺すのが時間や病ではなく、僕より強いやつでよかったよ」

 

静かにそう締めくくったその時——

 

「変態ですね!!!」

 

背後から飛び込んできた声に、勢いよく振り返った。

 

「あぁ?」

 

後ろのベンチには、いつの間にか灰原が座っていた。

相変わらず、声がでかい。

懐かしい顔に、ちょっとだけ目を細めた瞬間——

 

「前から思ってたんですけど、やっぱり五条さんって、呪術を自分を満足させるために使ってた変態でした!!!」

 

全力の笑顔で、全力のストレート。

 

「おい、灰原お前ストレートすぎてムカつく」

 

苦笑しながら文句を言って、灰原の頭に手を伸ばした。

嫌がらせのつもりでぐしゃぐしゃと髪をかき回していると、不意に、空港に流れていたクラシックのBGMがふっと途切れる。

視線をやると、なんの変哲もない風景を映していたテレビが、違う映像に切り替わっていた。

 

その画面に映っていたのは──寝台で横たわる、僕自身だった。

そして、その体を必死に治療している硝子と、潔乃の姿。

 

「あん?なんだアレ」

 

思わず声が漏れた。

 

「現世のことが、ああ、やってテレビに映るんだよ」

 

傑が説明してくれる横で、灰原がやたらテンション高く言う。

 

「結構面白いですよ!」

 

モニターの中の潔乃が、硝子に何かを手渡していた。巾着袋……中身は宝石か。

 

『回復系の宝石です。全部の石が傷を癒やし体力を回復する効果を持ってます。

状況に応じて使ってください、使い方は以前話した通りに』

 

「おや、伊地知も前線に戻るのかな」

 

傑が言うのを聞きながら、「多分そうだろう」と頷く。

 

「伊地知も強くなったしね!」

 

灰原も続くように言った。

あいつ、最近は日下部たちと作戦会議してたな。

僕はあらかたの流れは後から聞いたが、詳細までは覚えてない。

僕が死んだ後の作戦とか真面目に覚えてられるかっての。

 

テレビの中では、潔乃が巾着を渡したあと、血まみれのジャケットとワイシャツを脱ぎはじめた。

 

その瞬間、男3人、全員が一斉に画面に食いついた。

 

……が、中にTシャツ着てやがった。

──チッ。

 

「ちょっと残念て思ってるでしょ、悟?」

 

すかさず傑がニヤニヤ顔で突いてくる。

 

「オメーもだろ、傑」

 

「僕も期待しました!伊地知ってスレンダーでモデル体型だし、小さくても絶対いい形のオッパイしてますよ!」

 

灰原の反応がもう、期待どおりというか、斜め上というか。

流石に傑が嗜めるのを見て、笑ってしまった。こいつ、ほんと変わんねーな。

 

そこへ、不意にテレビの中の潔乃が、爆弾を投下してきた。

 

『もし、このまま死んだら……五条さんの恥ずかしい過去、みんなに晒しますからね』

 

「くくくく、何を晒されるんだろうね?」

 

面白がってる傑の横で、灰原が満面の笑みで乗っかる。

 

「伊地知のマル秘、五条さん情報ですね!!!」

 

「クソが、潔乃がこっち来たらマジビンタしてやる!!!!」

 

怒鳴ってもモニターの向こうには届かない。

硝子と潔乃、性悪女ふたりが、好き放題言ってやがる。

 

『……いっそ、死ななくても意識が戻るの遅いようなら、晒してやれ』

 

硝子が追い討ちをかけるように言うと、潔乃の口元がニヤリと緩んだ。

あの顔……見覚えある。

あいつがとんでもない嫌がらせを僕に仕掛ける時の表情だ。

 

『……五条さんの初恋…弱いな。あ、直近のズリネタでも晒しますか』

 

「は?」

 

反射で声が出た。

固まった俺の横で、傑と灰原が吹き出して笑いだした。

遠くのベンチに座ってた夜蛾も、飲んでいた缶コーヒーを吹いた。

 

「おい、夜蛾セン、盗み聞きしてんじゃねーぞ!!!」

 

モニターの中では、まだ続いている。

 

『それで私らや、知り合いが出てきたらどうするんだ?』

『より一層弄れるじゃないですか』

『……確かに』

『一生擦り倒せますよ。口封じの対価で銀座の高級寿司でも奢らせましょう』

『高い日本酒もつけてもらおう』

 

悪い顔をした女二人が、ニヤニヤしてる。

性格、悪っ……!

 

「このクソ女ども!!!!」

 

反射で立ち上がって怒鳴った。

モニターの向こうに届くはずもなく、傑と灰原の笑いはさらに大きくなっただけだった。

睨みつけてもまるで効果がない。

 

笑いすぎて溢れた涙を拭きながら、傑が言う。

 

「……いやはや、術師の女は怖いね」

 

「根性悪すぎだろ」

 

別に……初恋とかズリネタとか、知られたところでどうでもいいんだよ。

恥ずかしくともなんともねーし、

ただ、あの笑顔とコンボで来られるとムカつくんだよ、ほんと。

 

口調では軽口を言って、ニヤついた顔を作っていても、2人の目が全く笑ってないのがムカついた。

特に、薄っすら涙の幕が張ってた潔乃の目は、ムカついた。

 

ため息混じりに頭をかきながら、ベンチに座り直そうとしたそのとき──

空港の電子掲示板にふと目が行った。

 

出発便も、到着便も。

すべての運行予定がいつの間にか「遅延(Delay)」の赤文字に変わっている。

遅延のアナウンスまで流れ始めた。

 

「悟。未練たらたらだね」

 

傑が空港の電子掲示板を指さして優しげに笑う。

何を言ってるのかと思えば、いつの間にか僕の格好は、宿儺戦の時の……今の僕の姿に戻っていた。

 

「行ってきなよ。私たちはここで待ってるから」

 

傑が、まるで送り出すように笑って言う。

 

「そうそう、七海に家入さん、それに伊地知!全員揃うまで待ってますから!」

 

灰原が、いつもの調子で屈託なく続ける。

遠くのベンチに座ってる夜蛾も、コーヒー片手にシッシと手を振って、さっさと戻れとジェスチャーしていた。

 

……相変わらず、勝手な連中だ。

 

「恥をさらされるのも可哀想だしね。それに……今なら、まだ間に合うよ」

 

傑がテレビモニターに視線を向けながら、ぽつりと呟く。

その言葉に、つられるように僕も視線を移す。

 

モニターの向こうでは、戦場が映し出されていた。

みんなが血塗れになりながら、宿儺に食らいついている。

斬られて、吹き飛ばされて、地面に叩きつけられて、それでも、何度も立ち上がる。

……反転術式や宝石の回復で無理やり身体を修復して、

再び前線に戻っていく姿が、何度も、何度も、映っていた。

 

……ったくよ。

 

「ちっ、東京壊滅で銀座の寿司なんていけねーっつうの。能登あたりの美味い店にしろって言ってくるわ」

 

頭をかきながら、僕は立ち上がった。

そして、そのまま足を出口へと向ける。

 

「悟、あと10年は後進を指導してこい!」

 

夜蛾の厳しい声が

 

「頑張ってください、五条さん!」

 

灰原の明るい声が

 

「私達は、ここで見てるよ」

 

傑の穏やかな声が

 

三者三様の声が、僕の背中を押す。

 

「行ってらっしゃい、悟」

 

傑のその言葉を最後に──

僕の意識は、ゆっくりと薄れていった。

 


 

サーモバリック爆薬と化した粉塵が、「(カミノ)」の熱で爆轟遷移する。

刹那の高音、衝撃波、そして減圧と超加圧の嵐が、一瞬で世界を塗り替えた。

それを帳を利用し強化した結界で受け止めたが、さすがは渋谷で魔虚羅 (まこら)を一撃で屠った最大火力。

呪力操作は五条の次に効率と精度が高いと、五条本人からお墨付きをもらっている。

それなのに、私の呪力のほぼ全部を、一瞬で持って行かれた。

 

爆轟は一瞬で過ぎ去ったはずだが、そこから引火した別の炎が荒れ狂い始め、さらに呪力が削られていく。

 

「っ!!!!」

 

両手を地面に触れて、なんとか結界を維持しようとするが、呪力が全く足りない。消費が尋常じゃない。

 

「……っ、七海さん!!!」

 

私が叫ぶと、意図を察したのか、七海が私のポーチに手を突っ込み、中に入っていた宝石をいくつも取り出す。

右手を伸ばし、それらを無造作に掴み取って、呪力を吸収した。

 

無理やり吸収した呪力が、血管をこじ開けるように全身を巡る。

猛烈な痛みが身体を突き上げる。

 

「伊地知さん!」

 

「大丈夫です。虎杖くんは、反転に集中して……この炎が収まった後に備えてください!!」

 

まだ、結界の外には出られない。

ここにいるメンツには炎に対する防御の宝石を渡しているが、それは気休めにすらないのが、

結界でそれを受けている私にはよく分かる。

外に出た瞬間に、これは死ぬ。

冷や汗をダラダラと流しながら、私は結界を維持し続ける。

これは、私にしかできない。

 

「手伝おう、伊地知」

 

脹相が、私の結界の外から『血星磊』で補強をかけてくれる。

そのおかげで、私の呪力負担は多少軽減された。

……だが、今度は脹相の顔色がどんどん悪くなっていく。

 

おい、ちょっと待て。

このままじゃ脹相が呪力切れで死亡する。なんのために私がここで無理してると思ってるんだ。

原作でお前が死ぬのが嫌だから、こうしてんだぞ私は。

 

「脹相さん、あなたも宝石から呪力を吸収してください。

これは私の呪力の塊なので、他の人だと難しいけど、受肉体のあなたなら吸収して使えるはずです」

 

戸惑ったような表情を浮かべる脹相。

……九十九に「”呪い”としての君は死んだ」とか言われたんだっけ。

そんな哲学的なことで迷ってる場合じゃないのよ、今お前に死なれたら虎杖も私も最悪なんだよ!

 

「さっさと呪力を補充しろ!!!!!」

 

思わず伊地知()らしからぬ声で怒鳴る。またもや前世の時の口調が出てしまった。

ギョッとした顔で、3人から見られてるが──知るかボケ。

 

「あなたが、呪いだとか人だとかどうでもいい。

虎杖くんのお兄さんなだけ。さっさとして!」

 

さっさとしろと顎で宝石をしゃくって脹相を見る。

 

一瞬、ぽかんとした顔をしたあと──

 

「...あ、あぁ、そうだな。ありがとう」

 

ようやく脹相が宝石に手を伸ばし、呪力を吸収してくれたのを見て、内心ホッと胸をなで下ろす。

そのまま共に結界を維持し続け、やがて、荒れ狂っていた炎もようやく落ち着いてきた頃。

脹相と私はほぼ同時に結界を解除し、その場に座り込む。

冷や汗、荒い呼吸で話すことすらままならない。

 

 

壊れた結界の外には、焼き払われた焦土と、むせ返る熱、そして薄くなった空気が広がっていた。

その先へ──虎杖と七海が、静かに踏み出していく。

待ち受けているのは、両面宿儺。

 

そして、原作通りに東堂が現れた。

私のもとへ袋を放ってよこし、それを座り込んだままキャッチする。

 

思わずニヤリと笑ってしまう。

打ち合わせ通り、完璧に動いてくれる東堂には、感謝しかない。

 

まだ余裕のある脹相の肩を借りながら、私はゆっくりと立ち上がる。

そして──原作通り、ビブラスラップ。

 

……うん、絵面がひどい。

真面目なはずなのに、空気は完全に“笑ってはいけない決戦編”。

脹相と七海がポカンとしてるし、真顔でそれを見ていられる虎杖と宿儺のメンタルの方が異常……いや、むしろ尊敬に値する。

 

「花御から聞いてると思いますが、本来は“手を叩いたら入れ替わる術式”のはずだったんですけど……」

 

軽くビブラスラップを叩く。

──宿儺、東堂、虎杖、七海が、ルーレットのように次々と入れ替わっていく。

 

動揺しながらも瞬時に対応する七海は、やっぱり1級術師。適応力が桁違いだ。

 

「……今の俺では援護もできない。悠仁たちに当てかねない」

 

私と並走しながら、脹相が悔しげに吐き出す。

 

「生きてるだけで丸儲けですよ」

 

ポーチから、呪力と体力を回復する宝石を取り出し、脹相に渡す。

お互いに戦場から距離をとりつつ、短時間で回復を済ませる。

 

「脹相さん、私の合図で、宿儺の目に入る位置にこの宝石を投げてもらえます?」

 

既に呪力を使い果たし微かな呪力しか残っていない宝石を、追加で3つ手渡した。

 

「伊地知はもう下がった方がいい。もう十分やった」

「前線には出ませんよ。身体もガタガタですし。で、これを投げて欲しいんです」

「……さっきは助かった。悠仁が回復に専念できた」

「それはよかったです。だから、これを──」

「もう動けるなら、憂憂に合図を──」

 

あーもう、人の話聞いてないし、面倒くさい!

 

ゴツッ、と軽くゲンコツを落とす。いい音がした。

 

「黙って、言う通りにしてください」

 

頭を押さえながら、脹相がぽつりとつぶやく。

 

「……女に殴られたのは初めてだ。母とか姉や妹がいたら、こんな感じなのだろうか…」

「……あなたたちの家族なんて、重たすぎます……」

 

少し嬉しそうな顔を見て、思わず“勘弁してくれ”と呟きたくなる。

いや、今はそんなことしてる場合じゃない。虎杖たちは命懸けで戦ってる。

 

……まあ、脹相は原作でも天然砲をぶっ放してたし、これくらいが通常運転か。

 

表情を引き締め、戦場に視線を戻す。

 

「宿儺に当たるとも思えないが……」

「ただのデコイです。当てなくていい」

「……なるほど」

 

宿儺、東堂、虎杖、七海──変わり続けるルーレット。

 

──そして、七海本日2回目の黒閃が決まった。

原作にはなかった、宿儺に届いた一撃。ナイス!

 

宿儺が吠え、七海を力任せに吹き飛ばす。

 

「……今です!」

 

私の合図と同時に、脹相が穿血を応用して3つの宝石を宿儺の視界にばら撒く。

入れ替え候補の“数”が一気に増える。

そして、虎杖の集中力が最大限に高まったその時

 

──冥冥のカラスが戦場へ飛び込んだ。

 

読み違えした宿儺の腹部に、虎杖の黒閃が炸裂する。

 

そのまま心臓を潰す体勢に。だが、原作通り、術式が再生してしまった。

 

もし五条が死んでいるなら、次は乙骨が来るはず。

五条はさっきまで生きていた。

乙骨の助けが来ない可能性の方が高い。

 

私はポーチから、攻撃用の宝石を取り出す。

前線を下がると言ったが、こうなっては下がるどころではない。

脹相が穿血の構えをとりながら走り出し、七海も再度ナタを構える。

 

──その瞬間。

 

宿儺の動きが、凍りついた。

 

焦土と化した大地。

立ち昇る蒸気が白く視界を遮る中──

 

ゆっくりと、歩み寄る人影があった。

 

ひときわ高い覚えのある呪力の波動。

風が吹き抜け、蒸気の帳を裂くように現れたその姿。

 

白い髪が宙に舞い、隠れていた額が露わになる。

 

──ない。

額の傷が、どこにもない。

 

その瞬間、確信した。

 

五条悟だ。

本物の、五条悟が帰ってきた──!

 

私は思わず膝を叩いた。

喉の奥から叫びがこみ上げ、心の中で爆発する。

 

おっっっしゃああああああ!!!!

あの白頭バカ、あの、糖尿病のクズ男!!!

本当に帰ってきやがった!!

 

私の──

私の22年越しの願いが、ここに成就した!

 

……ああ、脹相が隣にいなくて良かった。

今いたら、嫌がる彼を押し倒して、間違いなく勢いで歓喜のキスをかましてた。

 

「くはっ‼︎ はっはっはっ‼︎ そうか……すまんな、ナメてたよ!!」

 

宿儺が吠えるように笑いながら、虎杖を殴り飛ばす。

 

「生きていたか、五条悟!!

さっきは飼い犬(伊地知潔乃)の術式で誤魔化したなァ!?」

 

狂気と怒りに歪む顔。

けれどその瞳には、確かな警戒と焦りが見える。

 

そして──

 

五条悟が、宿儺と向き合ったまま、静かに片手を掲げる。

宿儺もまた、片手を掲げた。

 

二人が、同じ掌印──帝釈天印を組む。

 

「領域展開──無量空処」

「領域展開──伏魔御廚子」

 

二つの領域が、同時に戦場を呑み込んだ。

 


 

領域内の様子は、外からはまったくわからない。

ただ、空気がジリジリと焼けるように重い。

 

そして突然──

領域が、内側から崩壊した。

 

次の瞬間、五条と宿儺が飛び出してきた。

そのまま、走り出した直後に五条が倒れる。

やはり無理があった。無理やり領域展開をしたためだろう。

反射的に駆け寄る私を見て、虎杖たちは即座に判断し、宿儺との交戦を維持しつつ離れていった。

 

「五条さん!! 大丈夫ですか!?」

「……さすがにちょっと、きっついね……」

 

五条の体を起こし、状態を確認する。

腹部から、血が滴っていた。

「世界を断つ斬撃」。五条の反転術式でも、即座には修復できないのか。

あるいは「釈魂刀」と同じように回復に時間がかかるのか。

そういや、裏梅も五条の攻撃に対して、反転術式をかけても治りが遅いとか言ってたな…

そんなことを考えながら、私は回復用の宝石を取り出し、彼の腹部に押し当てて発動させる。

 

「重症なのに、無茶するからです!」

「……あそこで行かなきゃ、ダメでしょ」

 

顔色はひどく悪い。身体は明らかに限界だ。

それでも平然とした風を装って話すその態度に、ペチン、と額にデコピンをかましておいた。

不機嫌そうにこちらを睨みつける五条が、文句はいわない。

無理してる自覚があるからだろう。

 

戦っている皆に視線を向ければ──

脹相が気絶、七海も殴打されて離脱。

残っているのは、東堂と虎杖だけ。

おそらく虎杖は、宿儺と伏黒の魂の隙間に「解」を打ち込みまくっているはずだ。

 

色々仕込んで原作と違うようにしても、最後はやはり原作の流れになるのか。

こうして考えると七海と五条と脹相を救えたのは本当に奇跡だ。

 

癒しに使っていた宝石を五条自身に握らせ、立ち上がる。

 

「潔乃……?」

「虎杖君と東堂君のフォローに入ります。五条さんは、少し休んでてください」

 

東堂から渡された袋からスマホと拡声器を取り出す。

「なんでそんなもん……」と眉を顰める五条に、私はニヤリとした笑みだけを返す。

 

ちょうどその時──

来栖華と天使による「邪去侮の梯子」が発動するのが見えた。

 

──あれは失敗する。そして東堂もダウンするはずだ。

 

タイミングは──今だ。

 

私は五条から離れ、全体を見渡せ、虎杖たちまで声が届く高所を探して辺りを見回す。

視界に入ったのは、近くにそびえる20階建てほどのマンション。

 

……術師になったんだ。これくらい、登れるはず。

 

決意を込めて息を吸い込んだ、その瞬間だった。

 

背後からぐいっと引き寄せられ、気づけば私は五条に俵抱きにされていた。

 

「──っ! 五条さん!?」

「……これくらいなら、大丈夫だから」

 

耳元で告げられたかと思うと、五条はそのまま壁面を跳ぶように、駆け上がる。

 

マンションの垂直面を、トントンと軽やかに登り、私たちは屋上へと到達していた。

 

着地の直後、五条はその場で私を丁寧に地面へ降ろす。

そしてそのまま、力なく座り込んだ。

 

……無限を使わず、体術だけで登った。

 

つまり、それだけ消耗して余裕がないってことだ。

 

「……ありがとうございます」

 

私は、指摘する代わりに、お礼だけを言った。

この手を指摘するとカッコつけて無理をする。

何も言わない方が良い。

 

「……で、何すんの?」

「説教です」

「説教?」

「ええ。──たぶん、“効果覿面”ですよ」

 

呆れと期待をないまぜにしたような五条の視線を背に、私はスマホを操作する。

通話がつながったのを確認し、スピーカーをオンにし、拡声器の口元にセット。

 

そして──

 

 

 

『恵!!!! いい加減早く起きなさい!!!! みんなに迷惑かけて!!!!』

 

 

 

……戦場に、伏黒津美紀の怒声が響き渡った。

 

さすがにこれは聞こえてるだろ、伏黒。

お前の最愛の姉が、本気で怒ってるぞ。

 

これ以上、恥をかきたくなかったら、さっさと帰ってこい。

 


 

効果は覿面だった。宿儺の動きが明らかに悪くなっている。

私はスマホ越しに津美紀に礼を言ってから通話を切り、拡声器の電源を落とした。

 

「くくく……なるほどね。沈んだ恵の魂を呼び戻すために、津美紀の声を聴かせたのか……ははっ、痛ってえ」

 

隣では、五条が傷を押さえながら、堪えきれずに笑っていた。

……いや、ほんとその傷で笑うのやめなって。絶対に傷口に響いてるから。

 

口に出す代わりに、私は顔をしかめて横目で睨んでやった。

すると五条は、わざとらしく肩をすくめて見せる。

 

……無理してるの、バレバレだからな?

まぁ、私もだけど。

 

私は彼の隣であぐらをかき、ふぅっと息を吐く。

そして、虎杖の領域展開が発動するのを、私たちは黙って見守った。

 

本来なら今すぐにでも援護に行くべきなんだろう。

けれど私は、ただ術式が便利なだけの凡人で、呪力ブーストの反動で全身ガタガタ。

頭痛も酷いし、筋肉痛というか……もはや全身の骨にひびでも入ってるみたいな痛み。

正直、五条と模擬戦した後より遥かにしんどい。

 

そして隣の五条はというと──重症者のくせに、まだなんとか動いてる。

そのこと自体がもう、おかしい。

いや、あのタイミングでの五条の乱入は助かったけどね。

領域展開も相当な無理をしたのだろう。

今はもう無理しないでほしい。今度こそ本当に死ぬ。

 

回復用の宝石も、もう何個使ったかわからない。

さっきから宝石の効果を発動させて、ポイポイ五条に渡しているが、本当に効きが悪い。

そろそろ在庫の底が見えてきた。

 

私自身は、奇跡的に怪我はかすり傷程度で済んでる。

だから、体が痛いのを我慢すれば、まだ動けはする。

でもだからって、あの戦場に駆けつけても攻撃の的になるだけで何もできないしなぁ……

 

「いやー、しかしみんな強くなったね」

 

虎杖の領域を見つめながら五条が、少しだけ和らいだ声で言った。

彼の六眼には中の様子が見えているのだろうか?

 

「えぇ。あなたの夢だった、“強くて聡い仲間たち”が、ちゃんと育ってますよ」

 

「……教師冥利に尽きるねぇ」

 

「その教師で元最強は屋上からのんきに見物って、どうなんですか?」

 

「あ"ぁん?」

 

「口調、昔に戻ってますよ」

 

睨まれたけど、軽く流す。

その程度の反応には慣れてる。

 

「あとで覚えてろよ」ってぼやく五条の声も、もう何度聞いたか。

 

そうして二人で黙って虎杖の領域を見つめていると──

それが、音を立てて砕けた。

 

そして、そこから飛び出してきたのは。

 

伏黒恵と分離された宿儺。

それを静かに見下ろす虎杖。

 

……あぁ。

これはもう、“原作の戦い”の終わりだ。

 

ようやく……ここまで来たんだ。

 

目頭が熱くなる。滲んだ涙を、そっと指先で拭った。

 

私はただ、五条の隣に座ったまま、

長く続いた巡る呪いが、終わる瞬間を見届けた。

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