本編完結後のお話。
もう原作がないのでやりたい放題になるので、苦手な方は注意してください。
・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)ものです
・オリキャラ出ます
・原作終了後のため、オリジナル要素、独自解釈、激しい捏造、妄想ばかりです。
・ネタまみれです
・作者英語喋れません。ニュアンスに関してはご容赦ください
・夢要素強くなるので、苦手な方はお気をつけください。
後日談:転生者、とっ捕まる
・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)ものです
・オリキャラ出ます
・原作終了後のため、オリジナル要素、独自解釈、激しい捏造、妄想ばかりです。
・ネタまみれです
・作者英語喋れません。ニュアンスに関してはご容赦ください
・夢要素強くなるので、苦手な方はお気をつけください。
オーストラリア、ゴールドコースト。
人生の新しい春を謳歌していた私にとって、このあと起こったことは、真夏のホラーだった。
ビーチのサマーベッドに寝転び、ビールを片手に真夏の陽射しを満喫する。
日本にいた頃の夏なんて、ほぼ毎年、地獄のような繁忙期だった。
呪霊もいない、任務もない、自由しかない。海外最高かよ。
ナンパしてくる外人たちを軽くいなしつつ、女性としての自己肯定感がじわじわ回復していくのを感じる。
いやほんと、色気もへったくれもない生活してたもんな、あの頃は。
──とはいえ、しつこいナンパはさすがにめんどくさい。
甘いマスクの白人男にしつこく話しかけられて、だんだんうんざりしてくる。
ハリウッド俳優とまではいかないが、なかなかの顔立ち。……なのに、まったく響かない。
たぶんもう、あの古巣でイケメンに囲まれすぎた弊害だ。
ガタイのいい男だらけ、美系揃いの同僚たち、大人たちだけじゃない学生たちもだ。
原作キャラだなんて感覚、とっくに消えてたけど──こうして離れてみるとよくわかる。
あいつら、規格外の“漫画キャラ”だったわ、やっぱり。
……まぁそれはともかく。
こいつ、東洋人=日本人ってバレてるんだろうな。
で、白人好きで簡単にヤレると思われてる。そういう目、ほんと無理。
こっちはビッチじゃねーし、現世ではピカピカの処女だぞ。
──この歳でってのが若干悲しいけどな。
でもな、お前みたいなヤツで捨てるほど、安いもんじゃねーんだよ。
アラサーの“新古品”でもな、プライドぐらいはあるんだよ、プライドが。
私のつれない態度にイラついたのか、男は突然、腕を引いて私を無理やり立たせようとする。
さすがにそれは振り払った、その瞬間──
「No tits, no ass, and still acting like a queen? Fucking typical Japanese bitch.」
(胸もケツもねぇのに女王気取りかよ? ふざけた典型的な日本人ビッチだな)
……よろしい。ならば戦争だ。
今まで“英語があまり得意じゃないフリ”してやり過ごしてきたけど、もう遠慮しない。
本場イギリス仕込みの皮肉で地獄を見せてやる――と構えた、その時。
不意にぐいっと体を後ろに引かれた。
腰に回る力強い腕。背中には、固くて、懐かしい感触があった。
「The fuck’s your problem? That’s my fucking girl. Now keep those filthy hands where they belong—on your own damn dick.(てめぇ何様だよ?これは俺の女だ。汚ぇ手は自分のチンポにでも添えとけ)
聞き覚えのある声に、思わず体が硬直する。
背後から、まるで包み込むように抱きしめられ、私の顔のすぐ横に、男の顔。
馴染んだ香水。忘れられない体温……怖くて、顔を向けられない。
ちゅ、と。
リップ音を立てて、頬に軽くキスを落とされる。
「っ……」
ビクッと体が小さく跳ねてしまい、それを楽しそうに鼻で笑われた。
「You really thought you had a shot? She's way out of your league—and way into mine.(お前にチャンスがあるとでも? 格が違うんだよ、俺とはな)」
ブチギレ寸前だった白人のナンパ男の前に、
その男──五条悟は、私を背に庇うように、ゆっくりと一歩前へ出た。
……体格が、まるで違う。
ただ背が高いとか、筋肉質だとか、そんな次元ではない。
目の前の男を見下ろすように立つ、堂々たる巨体。
引き締まったギリシア彫刻のような身体に、整いすぎた顔面。
白人男もそれなりに“イケてる”部類ではあった。だが、並んでしまえば、それはもう公開処刑。
造形も、雰囲気も、存在感も、すべてが違った。
そして何より、彼の持つ“圧”。
修羅場をいくつも潜ってきた者だけが纏える、“生”そのものの威圧感。
睨み返そうとしたナンパ男の目が、一瞬で曇った。
本能で理解したのだろう。この男とは"同じステージ"ではないと。
顔を引きつらせながら、後ずさる。
「You’ve got no balls. Beat it.(玉なしが。とっとと失せろ)」
とどめの五条の言葉に、彼はくるりと背を向けると、ビーチの雑踏へと逃げるように消えていった。
は? なんで?
ゴジョウ!? ゴジョウナンデ!? ゴジョウ!!!
──完全に、脳がバグった。
なんでいるの!? 五条悟が! ここに! よりにもよってこの場所に、ピンポイントで!?
ここ、真夏のゴールドコーストだよ?南半球だよ?
私が逃亡してから、まだ1ヶ月も経ってないんだけど??
どんなスピードで見つけてんだよ!!!!
真夏の夜の悪夢かな?昼だけど。
いやホラーだよ。マジでなんでいるのよ。
悪寒が止まらない。鳥肌も先程から立ちまくり。
……いや、この原因はわかってる。目の前の五条から放たれる、指向性のある“圧”だ。
ぶるりと身を震わせ、一歩、思わず後退した。
けれどその瞬間、引き寄せられるようにして──五条の腕の中に、収まった。
……こいつ、公衆の面前で蒼使いやがった!!!
反射的に周囲を見渡す。気づかれてない? 不審に思われてない!?
呪術は秘匿されるべきもの。咄嗟に補助監督としての思考が顔を出してしまう。
そのとき──
「潔乃、久しぶりだけど、だいぶ元気そうだね?」
頬に手を添えられ、キョロキョロと周囲を確認していた私の顔をぐいっと正面に戻される。
そして、にっこりと笑う五条悟。
……いや待って、瞳孔開いてる。
その笑顔、目だけ一ミリも笑ってねぇやつ。
「黒のマイクロビキニとか、セクシーでいいね」
ビキニのブラ紐に指をかけて、ゆるゆると引っ張って遊び出す。
私の胸にわざとらしく視線を這わせながら、指先で紐をクイッ、クイッと引っ張って揺らす──
……ちくしょう、あまり揺れねぇよ。
まな板にも程があるわ。これ、羞恥と屈辱で死ぬやつだろ。
「でーも、ちょっとセクシーすぎかな。変な蝿がたかるからこれ着てて」
そう言って、五条は自分が羽織っていたビーチパーカーをサッと脱ぎ、何の迷いもなく私に掛けてくる。
戸惑って固まる私の腕を、五条は一切のためらいなく引っ張った。
そのまま、彼自身がサマーベッドの上に仰向けで倒れ、
私を、真正面から引き寄せて、その上に重ねるように乗せる。
……いやいやいや、ちょっと待て。
これ、どう見ても私が五条の上に“乗っかってる”んだけど。
流石にこの露出度で、これはダメでしょ。
添い寝はしまくってきたけど、ここまで肌を晒して五条と触れ合ったのは当然初めて。
素肌のままの五条の上半身に、ビキニの自分が覆いかぶさってる構図。
パーカーの前閉じておけばよかった!
これはよろしくない!と身を起こそうとすると、
五条が私の後頭部に手を添え、ぐいっと力を込めて引き寄せてきた。
「……っ」
抵抗する暇もなく、私はそのまま彼の胸板に頬を押し付ける羽目になった。
「──説明しろ、潔乃」
低く、硬い声。
耳元に落ちるように響くその声に、私はおそるおそる顔を上げる。
視線がぶつかった瞬間、息が止まった。
開ききった瞳孔
六眼は青い光の粒が、太陽の光を受けて乱反射している。
──うわ。この顔、知ってる。
新宿で、夏油と再会した時。
あのとき五条が浮かべていた、夏油を引き戻そうと必死な表情だこれ。
なんでそれを、私に向けてるの?
意味がわからなくて、思わず目をぱちぱちと瞬かせる。
「説明しろっつってんだろ、潔乃!!」
叩きつけられるような声に、びくりと肩が跳ねた。
彼の声が本気で怒った時のそれであることを、体が勝手に覚えてる。
「………いや、その……孕み袋っていうか、呪胎になるのも、宝石マシーンになるのも嫌で……。
……だから、ちょっと身を隠そうかなって……」
圧に耐えきれず、ポツポツと零れるように答える。
五条は黙って聞いている。だが、その目は瞬き一つしない。
「──俺に内緒にする意味、あんの?」
静かに問われる。
一人称が“俺”になってる。口調も、あの頃のままだ。
「……俺とお前の関係って、そんなもんだったのか?
お前まで──いなくなってんじゃねぇよ!!」
声が、震えていた。
怒鳴っているのに、必死さの方が強くて。
その表情は、あまりにも脆かった。
目尻に、涙。
うわ、五条が泣くとか……レアスチルじゃん?
見なかったふりしたい。最強の涙目とかSSR過ぎて怖い。
──と、現実逃避をしかけた頭の片隅でぼんやり思いながら。
そのとき、ようやく気づいた。
……………ああ、私。
完全に、やらかしてたんだな。
五条悟が、こんなふうに。
私にもこんなに依存してたなんて、これっぽっちも思ってなかった。
五条は基本来るもの拒まずさる者追わず。
人の死にもドライなやつだ。
そんな彼が強く執着するのは、夏油傑だけだとばかり思ってた。
私はせいぜい、仲がいい後輩枠。
私的には、メンタルセラピー役、そんなところだと思ってた。
五条の“支え”に、多少はなれていたらいいな——それくらいに思ってた。
──違ったんだ。全然。
支えなんて、生ぬるいものじゃなかった。
私はもう、とっくにこいつの心の内側に入り込んでいたらしい。
……そりゃキレるわけだ。
夏油とまったく同じじゃないにしても、
似たような“執着”の対象が──自分に何も言わず消えようとしてたら。
そりゃあ、五条悟は荒れ狂う。
七海が高専を離れた時はあっさりしていたのに、戻ってきた時は誰よりも喜んでた。
ドライなくせに、実は寂しがりやな男だったことを思い出す。
完全に、見誤っていた。
そして次の瞬間──
「だいたいお前はな! 個人主義すぎんだよ!!」
怒鳴られた。
再度顔を上げると、目の端に涙を浮かべたままの五条が、感情むき出しで睨んでくる。
怒って、泣いて、混乱して、余裕が一ミリもない顔。
その全てが、私に向けられてるって事実が、心臓を抉ってきた。
ちょっとやめててよ。最強が、なんて顔してるんだ。
あーこれはもう逃げられんわ。
「そうかも」
白旗を上げるしかなかった。
次の瞬間、
「お前さああああああああ!!!!!!」
怒鳴り声が爆発した。
「なんっっっで“死んだ”ことにして逃げてんの!?
遺体すらなかったんだぞ!? 指と耳だけ!? 遺留品、ピアスと指輪だけ!?
えぐすぎんだろ……お前、人の心ないの????」
至近距離で叫ばれて、耳がキーンってなった。
声は裏返ってるし、涙目で怒鳴ってるし、まったく怖くないのが逆にしんどい。
「何が“宝石製造マシーンになるのが嫌”、“呪胎になるの嫌だった”だよ。
言えよ!? 俺なら手を回せるって、知ってただろ!!!」
言葉が詰まりながらも、抱き締める腕の力は緩まない。
「……なぁ、なんで。
なんで、俺に何も言わなかったんだよ?」
静かに、落ちてくるような声。
「“手の届くところにいろ”って、俺、言ったよな?」
心臓が、ぎゅっと縮む音がした気がした。
「……正直、俺以外の人間は、いつ誰が死んでもおかしくないって諦めてる。
でも──お前くらいは、もう少しそばにいろよ……」
今度こそ、その声が震えていた。
怒りの説教は、気づけば懇願に変わっていた。
本当は、怒りたいんじゃない。
ただ、もう二度と失いたくないだけなのだと、言葉の端々から痛いほど伝わってきた。
素直にそう言われてしまえば、もう、私は何も言えなかった。
謝ったって足りないし、理由を並べたって、もう意味はない。
ただ、五条の腕の中で。
黙ってうなずいて、いつものように五条の体をポンポンと叩くことしかできなかった。
──そしてこのまま。
五条の腕の中で、くどくどと続く説教をこの後、たーーーーっぷり3時間聞かされる羽目になったのは、
さすがに精神的にも体勢的にもキツかった。
ていうか真夏のビーチで、素肌で密着っていろいろきついものがあるのよ。
しつこすぎやしませんかね。反省してるけどさ。
3時間経ってやっと、五条の上から降ろされた。
──のに、なぜか今もその隣で横たわったまま。
腰に回された腕は、いまだにしっかりホールドされている。ぴったり密着した状態のまま、どうにもならない。
幸い、五条にはビーチパーカーを返してあって、私自身も持ってきていたパーカーを着てるので、お互いの露出は減った。
普段と添い寝してる時くらいの露出度になったので、気を使わずに済む。
……普段から添い寝って時点で色々おかしいんだけど。
確かめるように、私の耳たぶと左手首をそっと撫でて、五条がほっと息をついた。
「……反転術式、使えるようになったんだな」
低く、落ち着いた声。
さっきまでの激情は嘘のように消えて、ようやく“いつもの五条”が戻ってきた気がする。
「宿儺戦でほんと必死で、何度か死を覚悟しましたからね……」
特に、あの
結界張ってる間、ゴリゴリ呪力無くなっていった時は、一瞬、前世のばーちゃんの顔が見えたわ。
「そういう情報は言えよ」
「宿儺戦の後のバタバタ具合忘れたんですか?言う暇なかったんですよ」
口調は柔らかくなったとはいえ、まだ怒ってるのはひしひしと伝わってきた
でも、こうしてやっと通常のテンションで会話できるようになっただけでも、かなりの進歩だ。
──距離感は完全にバグったままだけど。
「五条さん、いい加減離れたいんですけど」
思い切って言ってみるが、結果はあっさり却下された。
「ダメ。久しぶりの潔乃を堪能してるの!」
満面の笑みで、堂々と、セクハラ発言をされても困るんですが。
こっちは真顔だ。
「……ええ、たった1ヶ月ちょっとじゃないですか」
「君が死んだと思ったんだよ」
その一言で、言葉が喉に詰まった。
……たしかに、あれは罪だった。重すぎた。反論できない。
私は何も言えず、困ったようにため息を吐いた。
けれど、その時——
「お母さん、それは嘘だぞ。当日に生きてるのは分かってた」
え?
驚いて上体を起こすと、そこには脹相が立っていた。
五条と同じく、夏のビーチにふさわしいビーチパーカーにハーフパンツ。よくお似合いで。
「おいバラすなよ。せっかくいちゃついてたのに」
私は呆れたように五条の頭をぺしりと叩き、今度こそ無理やり身体を起こす。
五条も口を尖らせぶつぶつ言いつつも、さすがに解放してくれた。
「えっ、脹相さんはなんでここに?」
「お母さんを探しに」
「え、五条さんと?」
「そうだ。俺がいないと見つからない」
「…………は?」
思考が止まる。情報量が多すぎて脳が処理落ちしかける。
「潔乃の敗因は、そのお人よしが原因」
そう言って、同じく起き上がった五条がおもしろそうに笑う。
それに続いて脹相が口を開いた。
「……俺は、血の繋がりがある家族が“生きている”なら、分かる。
お前が俺に呪力を渡した。それは“血”を分けたのと同じだ。
呪力は血と同義で、俺たちと母さんには繋がりができたんだ」
……ああ、そういえば。
確かにあの時、咄嗟の判断で脹相に呪力がこもった宝石渡して、呪力吸収するように促した。
“呪力の系譜”が繋がったってことか。
つまり──
「まじかー……そこかー……」
私は思わず、天を仰いだ。
完全に盲点だった。
死亡偽装に抜かりはなかったはずだったのに、まさか“脹相センサー”に引っかかるとは……。
それにしても。
……こっちは、人生リスタートで南国満喫してたのに。
この展開、完全に真夏のホラーじゃん?
「君のお人よしの性格のおかげで、君にたどり着いた。僕としては嬉しいよ君らしくて」
再び腰に腕を回し抱き寄せながら、嬉しそうな五条。
「お父さん、あまり外でいちゃつくとお母さんが拗ねるぞ」
……………お父さん??????
唐突すぎる脹相の言葉に、脳内がフリーズした。
言葉の衝撃で空気が止まる。
ビーチの眩しい日差しすら固まったように感じた。
「……そ、なんか僕、お父さんなんだって。役割的に」
五条が苦笑しながら、まるで納得していない様子。
「……っ」
思わず、反応に困って微妙な顔になる。
いや、ないでしょその役。
五条がお父さんって、ねぇよ……草。
堪えきれず、ぷっと吹き出しそうになるのを慌てて手で口を押さえ、顔を逸らした。
おかしい、笑う場面じゃないのに、じわじわくる。
──私の人生、真夏のホラーだったはずなのに、気づけばコメディにジャンル変更してる。
そしてすぐそばで、脹相は真顔のまま静かに頷いていた。
「俺はお兄ちゃんだ」
……いや、唐突すぎて困る。
これだから天然砲抱えたやつは……
その時、波の音に混じってのんきな声が聞こえた。
「そろそろ終わったー?」
ヒョイっと姿を見せたのは、まさかの虎杖だった。
「……え? 虎杖君? 君まで来てたんですか?」
「うん。だって脹相と五条先生が“伊地知さん探しに行くぞー”って。家族旅行だー!って言ってて」
ニコニコ笑う虎杖は、見事なまでの観光客ルック。
Tシャツに短パン、首にはサングラス。手には何かのトロピカルジュース。
完全にリゾート満喫スタイルだった。
「………ずいぶん楽しんだようですね」
「うん、伊地知さんが五条先生にとっ捕まってる間、脹相と近くのカフェ行ったり、飯食ったりしてた」
「俺はパッションフルーツのアイスティーを飲んだ。お母さんも飲むといい」
「それ、私に報告いる???」
さっきまでホラーだったのに、どこまでコメディ進行させる気だこの兄弟は。
真面目に怒る気力もなくて、私は思わず苦笑した。
「はいはい、そろそろ帰る準備するよ。潔乃も」
そう言って、ビーチパラソルの下で立ち上がった五条が、当たり前のように手を差し伸べてくる。
思わず聞き返した。
「……え、私も?」
「当たり前でしょ。お前捕まえに来てるんだから」
「いや、あの、私……長期宿泊で部屋取っちゃってて……」
さすがにこの短期間でバレるとは思ってなかったし、部屋だって三ヶ月分先払いした。
ホテルの冷蔵庫には酒やらツマミやらまである。
「キャンセルだね」
返事は食い気味。悪びれた様子もまったくない。
「えー……私のバカンス……」
「キャンセルしろ」
「はぁぁぁ………」
ため息をついた、その瞬間、ひらめく。
「あ!じゃあ私だけ後から帰るとか……!」
小さな抵抗のつもりだった。だが──
「……いい加減にしろよ?あ?」
途端に、声が低くなる。
あの“あ?”に、全てが詰まっていた。
「わかりましたよ!!!」
思わず背筋を伸ばして返事していた。
……なんでこんな軍隊みたいなやりとりになってるの、私の南国バカンス。
そして──学生時代の刷り込みって、ほんと怖い。
仕事ならともかく、こういう時の五条には逆らえる気がしない。
とほほ……。
気落ちしたまま小さくため息をついてずるずる歩いていたら、横を歩く五条が、当然のように私の肩を軽く抱いてきた。
「落ち着いたら、また来ればいいでしょ。連れてきてあげるから」
なんでもないふうに言っているけど、一応は慰めてるらしいのは分かる。
──なら、せめてもう一週間くらい遊ばせてよ。
「……なんで五条さんと来ないといけないんですか?」
「いや、普通そこは“ありがとう”とか“うれしい”とかじゃないの?」
「えーだって、五条さんと来たら四六時中“甘味めぐり”じゃないですか。
私も甘いものは好きですけど、五条さんほどじゃないし、もっと辛いのとか海鮮とかも食べたいし……
正直、一緒に来るなら七海さんや家入さんの方が味の好みが合うんですよね。
……五条さん、お酒飲めないし」
その瞬間、五条の足取りがピタッと止まった。
肩を組まれていた私は、そのまま強制的に足を止めさせられる。
視線を上げると、じとっとした横目でにらまれていた。
「…………潔乃、そういうとこだよ君」
その視線を黙殺して、私は肩を抱く五条の腕をペっと払いのけ、さっさと歩き出す。
旅行で甘味めぐりって、普通の出張でもやってるからなぁ……。
とりあえず荷造りを進めよう。
オーストラリアから酒を持ち出す本数自体に制限はなかったはずだけど、日本に入国する際は760mlのボトル3本まで。
冷蔵庫の中の酒、減らしておかなきゃな……。
本数オーバーで税関に止められるのは面倒だし、今の私は偽造パスポートの別人名義。
痕跡は極力残したくないし、
術式で誤魔化す手もあるけど、相手が一般人だと呪詛師認定される可能性もあるし、リスクは避けたい。
五条は下戸、虎杖は未成年、脹相は不明……いや酔われても面倒そう。
……となると、冷蔵庫の酒を一人で処理するしか──
そんなことを考えていたら、不意に強引に腕を引かれ、再び五条に抱き寄せられた。
「……なにか?」
見上げた先にいたのは、なぜか心底不機嫌そうな顔の五条だった。
「旅行、僕と来るからね! 絶対!」
なにその強制力……
「……こだわりますね。いやまあ、別にいいですけど、お金出してくれますよね?」
面倒くさいのでOKを出すと、パッと顔を明るくして、
「もちろん出すに決まってんでしょ。
絶対楽しくなるよ。アイスもいいけどさ、パンケーキも評判いい店があってね」
と、ご機嫌に私の肩を抱きながら、再び歩き出す。
──やっぱり、甘味だらけじゃないですか。
私は小さく、苦笑した。
私は震えていた。
なぜかって?
今、私が座っている飛行機の席が──ファーストクラスだからだ。
あの後ホテルに戻り、部屋に残していた酒を、気づけば7本ほど一気に消化していた。
高い酒ばかり──私の愛蔵品だ。
うわばみの私でも、一気に流し込めばさすがに酔うが、今回はワインが多くてアルコール度数も控えめ。
まぁ、でもほろ酔いというより上機嫌にはなった。
五条も、虎杖も、脹相までもが呆れ顔だったが、知ったことか。
高い酒を捨てるよりマシだ。7本美味しく飲み切ったことを褒めて欲しい。
残りは私と五条と虎杖と脹相の荷物に紛れ込ませて持って帰れる。やったね!
そんなふわふわした気分のまま、空港へ向かった。
そして、ファーストクラスのラウンジに足を踏み入れたあたりから──
急激に酔いが冷めていくのを、はっきりと自覚した。
冷静になった私は、いよいよファーストクラスの往復料金を思い出し、青ざめる。
確か往復で300万くらいはしたはずだ。
いや、300万って、普通に車買える値段だぞ……?
──が、それすら序の口だった。
「ダブルスイート」とかいう、もはやホテルの部屋としか思えない謎の仕様。二人用のファーストクラス。
アホか。
たぶん300万じゃ収まらない。ますます魂が抜けそうになる。
これ、ほんとに飛行機の中? 地上じゃなくて?
そんな現実感のない空間に、私は──そして五条は、当然のようにいた。
虎杖と脹相も、別室のダブルスイートを使用中らしい。
……脹相は価値観が違うからなのか、妙に落ち着いていた。
それはまあ、いい。
だが問題は虎杖だ。あの子まで平然としているとはどういうことだ。
話を聞くと、来るときもこのクラスだったとか。もう慣れたらしい。
え、マジで……?
借りてきた猫みたいに、私はシートにちょこんと座り、ひたすら硬直している。
そんな私の横で、五条は当然のようにリラックスしていた。
「僕、いい男でしょ? 財力あるし」
唐突にドヤ顔で言ってくる五条。
……いや、知ってるけど。いきなり何言ってんだこいつ?
「……世界が違いすぎるんですけど」
思わず漏れた本音に、五条は「ははっ」と愉快そうに笑った。
「何言ってんの。君も今は“こっち側”なんだから、もっと誇っていいんだよ? ダブルスイートの住人としてさ」
そう言いながら、目の前のテーブルに備え付けられたシャンパングラスを傾けるその姿。
ただし中身はノンアルコールカクテル。
もはや映画か何かの一幕でしかない。
ていうか、こっち側ってなんだよ。私はエコノミー、頑張ってもビジネス側の人間だ。
緊張で口の中がカラッカラ。ハンカチで汗を拭い、胃がギュッと縮こまるのを感じていた。
久しぶりに胃薬飲みたいかも。
こんなことなら、もうちょっと酔ったままで来ればよかった。
酔いが冷めると、途端に現実が押し寄せてくる。
どうして私は、こんな空飛ぶホテルの一室にいるんだろう。
ちなみにお酒も飲めるらしい。
キャビンアテンダントがにこやかに差し出してきたメニューには、
見慣れた──というか、見慣れてはいけないクラスの高級酒がずらりと並んでいた。
「よろしければ、お好きなタイミングでご注文ください」
そう言って去っていく姿を見送りながら、私はじっとメニューを見つめた。
……うん。無理。精神が耐えきれない。
飲みたい。現実逃避したい。
ここが飛行機だということを一旦忘れたい。できるなら泥酔して寝ていたい。
けれど──
いや絶対、悪酔いする。
この状況で気を抜いたら、うわばみの私でも酔う。
真顔でリバースしかねない。
私はメニューをそっと閉じ、無言で五条に押し返した。
「え、いらないの? せっかくだし飲めば?」
悪気なく聞いてくる五条を横目で睨みつけ、
「精神がもたないのでいいです」
「ふーん、ま、水分はとった方がいいよ」
言いながら、五条がキャビンアテンダントを呼んで、適当に紅茶や炭酸水なんかを頼んでいる。
頼んだん飲み物が届いてしばらくした後、五条が口を開いた。
「君の処遇についてだけど、
とりあえず“発見された部位的に生きてる可能性がある”ってことで、死亡認定は止めさせておいた」
さらっと、とんでもないことを言い出してきた五条に、思わずギョッとする。
え? 呪術師って、死体がなくても死亡認定される世界だよね??
「行方不明って扱いにしてある。実際、残穢も出てないし、血痕もなかったから押し切った。
ま、だから煩雑な手続きとか経ずに、日本国民としての復帰は可能」
助かる話ではある……あるが、だいぶ強引にこじつけて、無理を通したのは間違いない。
私が軽率に飛んだことで、何人巻き込んだのかと……仕事増やしてすみません。
「でもさ、君さ……これ、意図的に失踪したってことになっちゃうから、カバーストーリーが要るんだよね」
冗談めかした言い方に見えて、その実、五条はもう大半の筋書きを頭の中で組み上げている。
どうせ、こっちの返事を聞く前に手配くらい済ませてるに違いない。
「……あー、そうですね。現状だと完全に“失踪者”扱いですし」
そうなったらいろいろと面倒な処分も待っている。
さすがにそれは嫌だな……と、内心ぼやきつつ、私も炭酸水に口をつける。
「で、案なんだけど」
「“呪詛師の集団に襲われて、なんとか生き延びた。けど身の危険を感じて潜伏。
で、ある程度落ち着いたタイミングで僕に保護を求める連絡が来た──ってのはどう?”」
淡々と語る五条。
嘘のカバーストーリーにしては、妙にリアリティがあるのが逆に腹立たしい。
「……五条さんが考えたにしては、真っ当ですね。こういうの補助監督の仕事なんですけど」
「失礼だな。僕、こう見えて外堀埋めるの得意なんだよ?」
ドヤ顔で炭酸水を飲む五条に、小さくため息をついた。
「んで、高専への復帰だけど」
「君、退職手続きは正式に完了してるから、現状は“元・補助監督”なんだよね。でも、復帰は可能。僕の権限でゴリ押せる」
わりと当然のように言ってくるけど、そこまでしてくれてることには一応、感謝しておくべきか。
「でもさ、一つ提案があるんだけど」
「……なんですか」
「五条家で雇われない?」
「……は?」
思わず声が上ずった。聞き返したというより、咄嗟に口から漏れた言葉だった。
「正確には、五条家っていうより“僕”が雇用主」
「で、高専には“派遣”って形で貸してやる。そうすれば、形式上は五条家の人間として扱われるから、うるさい奴らも黙ると思うんだよね」
あまりにスムーズに出てくるその段取りに、言葉が出ない。
この人、いつからこんな話を用意してたのか。
「仕事内容はね、君ワーカーホリックだし──基本、僕の補助監督と、宝石の管理・製造だけでいい。
あー、必要があればその術式で“尋問担当”とか求められるかも。あれ、有能すぎるからさ」
やけに軽い口調のくせに、ひとつひとつがしっかりとした勤務内容として成立している。
「呪術師としての登録を求められる可能性もあるけど、“五条家預かり”って立場なら、強制力はだいぶなくなる」
うん、やっぱり。
全部、もう計算済みだわこれ。
「……どう?」
とびきりの笑顔でそう聞いてくる五条に、私は内心で呆れるしかなかった。
……いや、これ、囲い込みでしょ。
以前、「高専辞めたら五条家で雇うよ」なんて冗談めかして言っていたけど、まさか本気だったとは。
別に高専に戻らず、フリーでやりながら五条の庇護下に入る、くらいの距離感でもよかった。
……けれど、どうやらそれは“許されない”らしい。
いろいろと思考を巡らせていると、五条がさらっと追撃を入れてきた。
「ちなみに、正確には、僕が運営してるペーパーカンパニーの一つに“就職”してもらって、
表向きには“僕専属の秘書官”ってことにする予定」
“秘書官”ってなに。
その響きから連想されるイメージの曖昧さと、実体のなさが一気に警戒心を刺激する。
私が知ってる秘書官は、ファーストで総帥の秘書官やってた人。
確かあの人は総帥の愛人だったな。
小説版だと、総帥はその愛人のおっぱい揉んでたら妹に殺されたっけ……
現状を理解したくなくて思わず現実逃避の思考が捗る。
「表向きは、ってだけ。仕事は今までと変わらないよ。実質、高専職員時代と同じ。
ただ、福利厚生も社会保障も給料も、全部しっかりしてるよ?安心して、ほら、公務員の高専より、待遇は圧倒的に上だから」
そう言って、スマホを取り出した五条が、電卓をぽちぽち叩き始める。
そのまま計算結果の金額を画面に表示し、にこやかにこちらへ差し出してきた。
──で、表示された数字を見た私は。
「は?その金額、アホじゃないですか」
あまりの額面に思わず素が出た。
ていうか、何? 愛人契約もこみ? セシリアになれって?
そんな錯覚すら覚える数字だった。
五条はというと──その反応すら見越していたのか、嬉しそうに笑っている。
「ほら、君じゃないとできない仕事だし。宝石の仕事に関しては、今まで通りインセンティブ出すよ?」
要するに、通常業務とは別で“報奨金”が出るという話だ。
この人、前々からそういうところだけ妙に手厚い。
「……え、給料とは別にですか」
「もちろん。だってその技術、他の誰にも真似できないでしょ? 唯一無二ってやつ。
安く使うなんて、そんな失礼なことできないよね」
悪びれもなく、涼しい顔でそう言う。
しかも、言ってること自体は合理的だから反論しにくい。
「いや、気持ちはわかりますけど……待遇が異様すぎるんですよ。
普通に考えて、“一個人にそこまで出す?”って額ですよ、これ」
「いいんだよ。君だから」
私は呆れ混じりに目を細め、もう一度スマホの画面を見る。
──はい、改めて、金額アホ。
「ま、君が拒否しても、それでもう進めてるんだけどね」
「……は?」
本気で聞き返したのに、五条は悪びれる様子もなく、さらりと肩をすくめた。
「時は金なり、ってね。
今回、僕が動いたことで“君が生きてる”っていうラインが確定的になった。
そうなると、アホな腐ったみかんな連中も、そろそろ動き出す頃だと思うんだよね」
「………」
「“この状況で味方を増やしたい切羽詰まった派閥”とか、“五条が囲い込んでるならうちも動くかって発想になる家”とか。
君、わりとみんなに注目されてるの、知ってる?」
「知りたくなかったですね……」
思わず額に手を当てたくなる。
こっちはただ平穏に離脱して、せめて静かに生きたかっただけなのに。
「ってことで、形式上でも“五条家の預かり”にしておかないと、いろいろ面倒だよ。
今更放流されても、争奪戦になるし、何より、僕が嫌だ」
最後の一言だけ、妙に声が低かった。
冗談に聞こえなくて、私は思わず黙る。
五条は、もう一度炭酸水を口にして、いつもの軽い笑みに戻っていた。
「だからさ、潔乃。
“僕の秘書官”って立場、案外悪くないと思うんだけどな?」
──これはもう、“選ばせてる風の既定路線”だ。
天井を見上げ、深々とため息をついて──静かに、白旗を上げた。
「……せめてその肩書き、もうちょっとマシなやつにしてください」
伊地知潔乃
逃げられなかった。真夏のホラーを味わった。
完全に想定外。
まさか、夏油に近いレベルで執着の対象になってるのは、知らなかった。
数年後に実は生きてましたオッパッピーとかやって 許してもらうと思ってた。
それやったら、間違いなく五条どころか全員からガチギレされてたので、迎えにきてもらって良かったね。
五条悟
二度目の喪失にブチギレて、主人公探しまくった人。
恋とか愛とか感情的な何かを、全く自覚しないまま過ごしていたが、
やっと片鱗が出てきた………かもしれない。
とにかく主人公への執着を自覚したので、囲い込む囲い込む。
脹相
今回のMVP
お父さんがお母さんを迎えに行くとうるさいので案内した。
もう少しくらい家出させて、ストレス発散させてやればいいのに。
お父さんは執着が強すぎると呆れてる。
根本的に色々思考回路がおかしい。
虎杖悠仁
伊地知さん迎えに行くの?家族旅行?
それは、よくわからんけど海外旅行いくいく!
帰国後、伏黒と釘崎にファーストクラス乗ったと言ったらガチギレされる。
本編の後日談です。
こんなかんじで、若干五条と主人公の距離感近くなる話が続きます。
苦手な方はスルーしてね。
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本編時間中の日常話
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if系(√分岐、原作通り五条死亡など)
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R-18 の下ネタギャグ
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