【本編完結】とある転生者の役割交代   作:kotedan50

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伊地知ポジション成り変わった主人公が、原作沿い(?)で五条を救済した後のお話。
オリジナル設定てんこ盛り。
後日談の後日談

途中からギャグ。
キャラ崩壊もいいところなので、本当にお気をつけください!!!
この話の最大の被害者は……

・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)ものです
・五条、七海の生存ifです
・主人公と五条は本編・後日談終了後の、婚約状態です
・ギャグ(下ネタ含む)です。苦手な方はご注意ください
・妄想とネタまみれです


後日談:転生者、至る

五条悟と──気がついたら婚約者になっていた。

 

あの男の、普段の軽薄さが一切ない、真剣そのものの告白(プロポーズ)に。

戸惑いながらも、絆されて、流されて……気づけば受け入れてて。

その流れのまま、2年後には結婚という約束まで、やや強引に取り付けられていた。

 

その頃、私はすでに高専を退職済で、いわゆる無職だった。

この告白を受ける1日ほど前に、呪術界に復帰する話を五条としてだが──

最終的に決まったのは、彼の運営する会社(ペーパーカンパニー)への就職。

そこから高専に“派遣”という形で出入りするスタイルだった。

『形式上は五条家の人間として扱われるから、うるさい奴らも黙ると思うんだよね』という五条の言葉を信じて。

 

……これ、今になって思えば、五条の中では最初から『囲い込みコース』が出来上がってたんじゃね?

 

完全に失敗だったかもしれない。くっそ。

 

あれから数ヶ月経ったが、今の仕事内容?

──メインは五条の世話係だけど?

 

五条専任の補助監督として任務に同行し、

五条が派手に壊した器物破損や自然破壊の後処理をこなし、

五条の高専に提出する書類と経理、プライベートで処理する書類と経理を捌き、

場合によっては、五条家の当主業務の補佐、

ついでに所属する五条の会社(ペーパーカンパニー)の業務も拾いながら、

五条のハードスケジュールの全体管理。

さらに、呪力を込めた宝石製造とその管理。

あとは、私の術式をどうしても使いたいという依頼があった時だけ、尋問や記憶操作目的で任務依頼が、五条経由で来る。

そのへんも、必要に応じて対応。

 

……あれ?高専時代と変わらなくない?

 

いや、でも──これでもだいぶ仕事量は減ったんだよね。

高専時代はこれに加えて、

五条以外の任務同行、補助監督全体の管理、高専運営、高専の経理、夜蛾学長の補佐などもこなしていた。

流石に1人はやばいと思って去年から分散できるような体制はコツコツ作っていったけど、それでも私がやること多かったもんな。

 

ちなみに、術師としても再登録されていて、いまは一応『1級術師』になっている。

とはいえ、基本は五条家からの派遣扱いだから、五条がOKを出した任務しか受けない。そこは本当に助かってる。

 

ただ──1級に認定されたときは正直驚いた。

半年前までは、宝石がなければ3級呪霊の祓除すら精一杯だったのに。

 

「私の実力なんて、準1級くらいだと思うけどなぁ」

ってボヤいたら、五条にだいぶ強めに怒られた。

 

体術やら呪力強化は自体は並でも、それを補う術式と宝石の汎用性の高さ、

それだけで1級上位レベルだと。

さらに、それを使って『五条を相手にした模擬戦( 五条相手にジャイキリ成功しかけた件)』が影響したらしい。

 

「国家転覆も可能では?」と特級術師に認定されかけたけど、

それはいつものように、五条特権で抑えたらしい。

 

………………それは知らなかった。すみません。

 

でも、国家転覆は無理だと思います。物量(宝石)が足らんよ。

 

それにしても私、やっぱり社畜極めすぎじゃないですかね?

呪術界、マジでブラック!!!

労働はクソ!!!

 

だがしかし!羂索のせいというか、おかげというか、あいつのやらかしで、呪術や呪霊の存在が世間に公開された。

 

実は、呪霊が見えたり術式を持っていながら、ずっと黙って潜んでいたマイノリティー諸君──

私たちは、君のような才能あふれる者を求めている。

 

おいでよ呪術界。

人手不足だから、どんな不況でも就職できるぞ!

 

──命の保証はないが、給料は一般企業よりはいいぞ?

 

………………話がそれた。

 

まぁ、とにかく──仕事が減ったのはいいとして。

問題は、完全に囲い込まれていること。

 

すべてが五条に始まり、五条に終わる。

 

もう、呪術界を離れる気も五条のそばを離れる気もないけど、流石に色々と重い。

今私の全ての生命線は五条に依存してる…

 

ちなみに、今住んでいる家も五条のマンション──あるいは、高専の『家族寮』。

どちらにせよ、五条と二人暮らしだ。

 

「高専って、家族寮なんてあったっけ?」と一瞬思ったけど、どうやら違った。

 

いつものように、五条の特級&五条家特権で高専側に強引に話を通し、

あとは五条マネーで、独身寮の部屋を2つぶち抜いてフルリフォームしていた。

 

……金持ちって、怖い。

 

ちなみに、基本的に個人での出張とか、徹夜での任務とか──そういった特別な事情がない限り、夜は必ず「お互いがいる方の家に帰る」っていうルールがある。

 

たとえば、私がマンションに先に帰っていたとしても、五条がそのまま高専の家族寮に泊まるのはNG。

逆も同じ。どっちかが先に帰ったなら、もう一方がそっちに合流するのが鉄則。

 

──必ず、ふたりで同じ場所に帰ること。

 

これは、五条が口をすっぱくして言ってきた“絶対のルール”らしい。

しかも、たとえ一時的な仮眠でも仮眠室を使うのはNG。

徹底してる。ちょっと引くくらいに。

 

ウヘェ……めんどくさい。

 

だから囲い込み、えぐいって。

 

 

ちなみに──婚約したことは、五条が速攻で呪術界中に広めた。

家族寮の件もあったから、いずれは公表せざるを得なかったけど……いや、行動が早すぎるって。

まだ心の準備も整理もできてないのに、気づけば周囲には全バレしてた。

みんな最初は「えっ」って顔をするけど、次の瞬間には「あ〜〜ね」って感じで妙に納得されるのが、解せない。

 

「五条が伊地知に妙に当たり強かったのは、好きの裏返しか。小学生か?」

「だから、ずっと側に置いてたのか。フーン」

「それで伊地知さんの部屋に入り浸ってたんですね。普通なら事案です」

「伊地知さんは、その押しに負けたのね。可哀想」

 

口々にそう言われ、生暖かい視線を浴びた。

五条には聞いてないが、多分、概ねあってるから困る。

 

特に、身近な家入や七海の反応がえげつない。

だから言っただろ?というふうに鼻で笑われたあと、

 

「あの距離感で、今まで付き合ってなかったほうが不思議」

「諦めて五条さんの手綱を握ってください」

 

とか、言い出す。

添い寝の件を話してたとは言え反応がひどい。

 

 

そういえば、うちの実家にも、五条が勝手に電話して挨拶を済ませていた。

 

しかも、あっさり許可まで取り付けてた。伊地知さん(兄さん)が泣いて喜んでた。

こっちは何も聞いてない。

知った瞬間、白目剥いたよね。

そして──五条家はというと

五条が決定事項として、私と結婚すると告げた途端、一族が揃って泣いて喜んだらしい。

これまで結婚の話題が出るたびに逃げ回っていた五条が、突然「結婚する」と言い出したこと。

そして、その相手が『私』だったことが、この上なく刺さったらしい。

 

──は?なんでよ。

 

私はといえば、一般家庭の出身で、名家の嫁に持ち上げられるような覚えはない。

首をかしげる私に、五条は笑ってこう言った。

 

「だって、お前の術式は有能だし、宝石の件でも五条家に利益と名声をもたらしてる。

僕の個人の事務方として、五条家と接点があって優秀なのも知ってる、

渋谷の時は真っ先に俺の救出を訴えて動いて、インフラが死んでる中、東京から五条家に最短時間で来た。

優秀で忠義も厚い、僕といい勝負できるほど強い術師の女。

そんな人がよそにいかれると、五条家的にも困るんだよね」

 

──なるほど。

色々今までの行動全てで評価してもらえてるのか。

……それなら、少しは誇ってもいいのかもしれない。

ただ、困ったことがある。

 

五条家からなぜか「精がつく食べ物」が、定期的に送られてくる。

 

うなぎ、にんにく、山芋、牡蠣、ニラなどなど。

 

……え、何?子作り圧?旧家こわ

 

五条は涼しい顔して

「子供はいつできても良いだって。というか、婚前でもいいから早く作れって。まぁ、僕子供できづらいからってのもあるかな。僕はいつでもいいんだけどね?」

 

いやいやいやいやいやいや

ちょっと待て、尻を撫でるな!絶妙に硬くなってる下腹部を当てるな!

五条も含め……囲い込みエグいってば。

何なの。マジでなんなの???

 

 

 

さっきから何なの何なの?って言いまくってるけど、

五条の愛情は、どうやら本物なのはわかってる。

 

朝晩、あの芸術品のように整った顔を、あの綺麗な青い瞳を、

私への好意で蕩けさせて、愛を伝えてくる。

……参るよ、さすがに。

でも、人間って慣れる生き物なんだよね。

五条からの好意、愛情表現を、その熱い抱擁と濃厚な口付けを、

当たり前のように受け入れてる自分がいる。

 

習慣って、怖い。

 

お綺麗な顔とは正反対の、筋肉質で分厚い男の体。

私よりもはるかに大きな身体で、毎晩、優しく包み込んでくる。

 

五条は、夜寝るとき香水をつけない。

私の匂い、特に夜寝る時の風呂上がりのが好きらしく、それが霞むのが嫌なんだとか。

 

──えーっと、変態? 匂いフェチ?最初聞いた時は、頭ぶん殴ったのを許して欲しい。

だからなのか、私が香水をつけるを基本的に嫌がる。特に夜。

 

付き合いはじめて、さすがに少しは女らしくした方がいいかなと思って、

寝る前に、ワンプッシュだけ香水をつけてみた。

ほら某有名なハリウッドのセクシーな女優とかも、『夜寝る時に身につけるのは香水数適だけ』とか有名な話あったから。

五条そういうのそういうの好きそうじゃん?

だから同じ香水買って試してみたら──

 

「………ダメ」

 

って即言われて、再度シャワーに連行された。

 

……えーーーなんでよ。

 

まぁ、とにかく毎晩、私は五条の逞しい腕の中に絡め取られて、甘い拘束から逃れられない。

五条は、私の髪に顔を埋めて、首筋に鼻を押し付けて、深く深く息を吸い込む。

そして幸せそうにホッと息を吐く。

 

……ちょっと恥ずかしいからやめてほしいけど、あまりにも幸せそうなので、言えない。

 

そのまま、顔中にキスの雨を受けた後、甘い言葉と一緒に濃厚な口付けを交わす。

そして、私より高い体温を感じながら、身体を擦り寄せて眠るのが日課なんだけど──もう、慣れた。

 

……って、添い寝に関しては、これ、付き合う前からだったな。

 

五条とは、ここ1年ほど添い寝。いわゆる“ソフレ状態”だったし。

 

ただ──五条とは、男女としては、まだ寝ていない。

 

付き合い始めてすぐ、五条は早速ことに進もうとしたのだけれど、

──いや、ちょっと待ってくれと。

 

こっちからお願いして、止めてもらった。

 

流石にもう五条のことを『漫画のキャラ』とは思ってない。

けど、10年以上の付き合いがあって、完全に『恋愛対象外』だった。

男性と認識はしてたけど、性的対象の異性として認識していなかった。

私の痩せっぽちの身体を「鶏ガラ」とか言ったやつだよ?

本気ではないが、アイアンクローにデコピン、ビンタまで飛んできて、愛のある可愛がりは日常茶飯事。

そんな相手に、いきなりそういう感情持つの無理くね?

急にスイッチ切り替えろっていうのが無理で。

五条を好きという感情はある。五条からの好意は確かに嬉しい。

五条に応えてあげたいとも思う。

でも、こっちの心の準備が、いろいろ……正直、追いつかない。今はキスで精一杯。

 

「お願いだから、もうちょっとだけ待って」って泣きついたら、

五条はちょっとだけ苦笑して、ちゃんと引いてくれた。

 

「……あまり待たせすぎないでね? オマエがいいって言うまで待つから」

 

──意外にも、『待て』ができる男だった。

 

だから、申し訳なくなって、毎晩の添い寝の解消を申し出た。

いや、ほら。

生殺しじゃん? そこまで私は鬼じゃないと思って。

 

……そしたら。

 

「絶対やだ!」

 

の一言で却下。添い寝は、今も続いている。

 

いやー、辛いとは思うんだけどな。

でも本人がそれでいいって言うなら……まあ、いいか。

 

 

……まぁ、こんなんだけど、日常生活は基本的に距離感は昔のままだ。

相変わらず可愛がられるし、雑な仕事は当然のように振られる。軽薄な態度で煽ってきて、こっちの地雷を踏み抜くのも日常茶飯事。

私は私で、呆れつつ塩対応。仕事量にキレ、理不尽には噛みつき、全力で抗議する。

でも、家に帰れば、毎晩抱きしめって添い寝する。

 

……なんだかんだで、そういう日々が今も続いている

 

 


 

 

朝食の時間、五条のスマホが鳴った。

ちらりと視線を投げ、ワンコールで即出るあたり──どうやら仕事の話らしい。

口調は抑え気味だが、微妙に不機嫌そうな声が聞こえる。

 

私は気にせず、トーストを一口。

コンビニで買った安物の食パンだが、五条のトースターはいいやつなので、表面サクッと中ふんわり──本当に美味しい。

追加でバターを塗って、もう一口。ちょうど齧ったところで、五条が電話を終えて戻ってきた。

 

片手で頭をガシガシとかきながら、面倒くさそうに口を開く。

 

「ねえ、今日の午後なんだけど、七海の仕事、手伝ってくれる?」

 

パンを咥えたまま、ぽかんと五条を見る。

珍しい。五条が私を『他人の任務』に行かせるなんて。

 

私の反応を予想していたのか、彼はため息をひとつ。

 

「七海の任務、呪詛師の捕縛なんだけどさ。どうも他にも呪詛師が絡んでるらしくて、根が深そうなんだって」

「……なるほど。記憶見て、早めに片付けたいわけですね」

「そういうこと。申し訳ないんだけど、七海手伝ってくれる?」

 

五条は基本的に、私が他の術師と任務に行くのを嫌がる。

形式上は高専に出向しているとはいえ、あくまで『彼専属』としての契約で動いている私。

しかも今は婚約者となれば、無理もない。

自分がいない任務に出すこと自体、気が進まないのだろう。

 

けれど、七海、日下部、虎杖、乙骨、秤……

基本的に『新宿決戦を生き延びた仲間』、つまり『自分が認めた術師』からの頼みであれば、

渋々ながらも首を縦に振る。そういう男だ。

 

「承知しました。五条さんの任務はそうですね。

1人で行ってもらって報告書だけ夜に私に回してもらえますか?

移動の補助監督はこちらで調整つけます」

 

返事もなく、不機嫌そうな顔のまま、五条は、ぼちゃん、ぼちゃんとコーヒーに角砂糖をぶち込んでいた。

その様子に内心で苦笑しつつ、あとでご機嫌くらいは取ってやるか。と思いながら、食事を中断。

五条のむくれ顔はスルーして、さっさと仕事の調整に取りかかった。

 

 


 

 

 

予定通り、七海と合流。

軽く段取りを確認したのち、私たちは呪詛師の潜伏している廃ビルへと足を踏み入れた。

 

私の術式で、七海と自身の存在を一時的に消す。

私たち自身に「呪詛師が認識できない」を書き込む。

敵に認識されないようにする、いつものやつ。

 

死滅回游の頃から幾度となく使ってきた手口だ。

この戦法に限って言えば、五条よりも七海とのほうが断然回数が多い。

突入のタイミング、配置の把握、倒すべき敵の分担......

視線一つで連携が取れるようになって久しい。

 

術式の効果で、廊下を進む足音すらない。

七海の目が鋭くなる。

次の瞬間、彼が一歩前に出て、視界の端で動いた人影を殴り倒した。

術式を使うまでも無い、ただの呪力強化した拳での攻撃。

相変わらず七海の攻撃力はえげつない。

 

気絶──よし。

 

私は倒れた呪詛師の側に膝をつき、記憶を読むために手を伸ばした。

 

「……めんどくさ」

 

声に出たのは、それだけ。

七海が訝しげな視線を寄越すが、説明する暇もなかった。

 

来た。

 

物音を聞きつけた呪詛師が、奥の部屋から4人。

 

七海がすぐさま駆け出し、前の2人を文字通りなぎ倒す。

 

残りの2人、こっちは私がいく。

瞬間、脚に呪力を回して踏み込む。

まずは右の敵に、勢いを乗せた飛び蹴りを叩き込んだ。

 

──黒閃。

 

着地後、そのまま体をひねって、左の敵に掌底。

 

──黒閃。

 

「……!」

 

七海の気配が止まり、驚きの視線がこちらに向けられるのがわかった。

私自身も、数秒間動けなかった。

 

は?黒閃?2連続?

 

なんで? なんで今日こんなに調子いいの?

呆然としながら、手をパーにしたりグーにしたりを繰り返す。

ちょっと浮かれているのが自分でも分かる。

 

「伊地知さん、黒閃の余韻に浸るのも良いんですが、何が見えました?」

 

七海の低い声。

気づけば、真剣な眼差しがこちらを真っ直ぐに捉えていた。

そうだ見た記憶を伝えねば。

 

「呪詛師たちはもうここにいないようです。郊外の雑居ビルにうつったようです。めんどくさい…」

 

そう伝えながら倒した呪詛師たち一人一人に、術式にて5時間は目覚めないと書き込んでいく。

 

「こいつらの回収は高専に任せましょう。今、連絡を入れます」

 

スマホを取り出し、迅速に報告と位置情報を送信する。

 

七海が呟く。

 

「……急ぎましょう。逃げられると厄介だ」

 

短く頷いて、私は立ち上がる。

 

「はい。行きましょう」

 

私たちは廃ビルをあとにした。

 

 


 

 

補助監督の運転する車内。

私は手をグーパーと開いたり閉じたりしていた。

 

──黒閃。

あれを決めたのは、五条との模擬戦以来だ。

 

あの時は五条の顔面を殴り飛ばすのに必死で、よく分かっていなかったけれど、

今回は違う。

確かに、自分の呪力が“芯”に触れた感触があった。

 

……思い出すのは、五条と宿儺の戦い。

たしか、五条も黒閃を二回連続で叩き込んで、ボルテージが上がって心底楽しそうに笑っていた。

あのときの五条のテンション。

正直、唐突に感じて、理解できなかった。

でも──いまなら、分かる。なるほどこういうことか。

身体の奥底が、じんわりと熱を帯びる。

ただの興奮とも違う。

呪力を全て理解した……そんな感覚。

 

──呪力の核心に触れるって、こういうことなのか。

 

ふと、ここ最近なんとなく形になりかけていた『あれ』が、

もしかしたら今なら掴めるかもしれないと思った。

 

そっと、隣の七海に目をやる。

 

「七海さん」

呼びかけると、彼がわずかにこちらへ視線を向ける。

 

「このあと……ちょっと試してみたいことがあるんですけど、

協力してもらえますか?」

 

七海は何かを察したように、小さくため息。

 

「無理はしないでください。五条さんが面倒です」

 

 


 

 

恒例のように術式を用い、私と七海は郊外の雑居ビルへと潜入した。

建物の中は静まり返り、人気もない。

気配を探る限り、一般人の存在はなかった。いるのは呪詛師たち、9人。

 

「……多いな」

思わず小声で呟く。

 

七海が頷き、奥の部屋で控えていたリーダー格と思しき2人に近づく。

術式も使わず、音すら立てずに──ただの打撃で昏倒させた。

いつもながら、手際がいい。

 

私はその間に肩を軽く回し、足首をほぐす。

 

「もし、失敗したら……後始末、お願いします」

 

「できれば全部やって欲しいんですがね」

 

七海の声は、皮肉とも激励とも取れるトーン。

 

「多分、大丈夫だと思うんですけど」

 

私は振り返らずに言う。

 

「……私のそばに、いてくださいね」

 

そして、右手を胸の前へ。

拳を軽く握るような掌印を結ぶ。

 

──深沙大将印(じんじゃだいしょういん)

 

横に立つ七海が、かすかに息を呑む気配が伝わった。

私は静かに言葉を紡ぐ。

 

「領域展開」

 

偽典図書寮 (ぎてんとしょりょう)

 

次の瞬間、世界が──静かに塗り替えられる。

 

音が消える。

空気の重さが変わる。

周囲を満たすのは、ほの暗く、冷たい静寂。

 

目の前に広がったのは、無数の書架が並ぶ空間。

重厚な蔵書の匂い、ろうそくのような淡い照明、奥行きのない図書館。

 

 

他の呪詛師達が流石に異変に気づいて騒ぎ出す。

だがもう遅い。

 

この空間で、“記憶”は逃れられない。

対象の過去を読み取り、呼び出し、必要とあらば上書きし、命令すら刷り込む──私の術式が、必中となる領域。

 

「では、始めます」

 

 


 

 

領域展開解除後、目の前に広がるのは、惨状としか言いようのない光景だった。

 

「いやー私の領域展開ってこんな感じになるんですね」

 

昏倒している呪詛師。

いきなり仲間内で殺し合いを始め、瀕死の呪詛師。

泣き叫んでいる者。笑い転げている者。

嘔吐し、泡を吹いている者──その横で、七海がそっと額に手を当てた。

 

「……あなた、何をやったんですか。この惨状」

 

声には、明確な呆れと怒気が混じっていた。

私が口を開くより先に、七海の眉間に青筋が浮かびはじめる。

 

あ、これさっさと言わなきゃ駄目なやつだ。

仕方ないので、早々に説明することにする。

 

「まず、1人目はシンプルに『意識を失って昏倒する』いつものやつです」

「……それはまあ、あなたのいつもの定番ですね」

 

「2〜4人目は、『お互いを敵として認識』させる書き込みをしました。

そしたら勝手に殺し合いを始めまして……」

「なるほど。まぁ、呪詛師ですし、そうなりますね」

 

「5人目は、『人生で一番つらかった記憶』をエンドレス再生。

6人目は逆に、『人生で一番幸せな記憶』をエンドレス再生で、精神攻撃」

「……天国と地獄を隣に配置しないでください」

 

「で、7人目は……ええと」

 

さすがにこれはちょっとネタが過ぎた。言い淀む私に、七海が『言え』と無言の圧をかけてくる。

この人の無言のプレッシャー、五条と別ベクトルでキツいんだよな。

 

観念して、なるべく丁寧な口調で説明を始める。

 

「その、田所さん的な……野獣先輩的な……真夏の夜の淫夢、的な?

114514で、まずいですよ! 的な? それを無限ループで、脳内再生させました」

 

一応、ぼかして説明する。

七海相手に通じるわけがないのに補足まで入れてしまった。

嫌がらせに何が最も精神ダメージを与えるか考えた結果、反射的に出てきたアイデアだった。

深くは考えていない。

……本当に考えてない。

 

言い終えた瞬間、七海のこめかみにくっきりと青筋が浮かぶのが見えた。

やべ、更に説明しないとダメかと思った瞬間

 

「……妙齢の女性が、ゲイポルノを精神攻撃に使わないでください」

 

声色は冷静だが、語尾に宿る怒気の圧がえげつない。

とりあえず、聞き流せばいいものを口が勝手に動く。

 

「………………あれっ? 淫夢、知ってるんですね七海さん」

 

「……………………」

 

沈黙。

 

怒気どころか、呼吸すら消えた七海。やっべ……

私はすっと視線を逸らして、後処理のため高専に連絡をとり始めた。

見なかったこと、聞かなかったことにしよう。色々と。

 

 


 

 

初めて領域展開を行った七海との任務から数日後、

私と五条は、その日は業務予定が早く終わったため、保健室に顔を出した。

ちょうど家入が手を空けていたので、雑談ついでに「そろそろ恒例の宅飲みでも開くか?」と話を振る。

「五条、金と酒はお前の担当な」

などと軽口を交わしていたところに、扉が開く音がした。

 

七海だった。

書類を抱えているので家入に何か用事があったのだろうか。

私と五条の姿を認めた七海は、一瞬だけ五条をチラリと見て──明らかに、イラついたような目をした。

 

「……五条さん」

 

「ん?どうしたの、七海?」

 

「妙齢の女性に、変な知識を吹き込まないでください」

 

「は?」

 

言われた意味がわからず、五条が目を瞬かせる。

 

「伊地知さんが、あなたの影響で『淫夢』を知ったんだとしたら──私は本気で怒ります」

 

「……んぐ!げほっ!?」

 

家入に出されて飲んでいた麦茶が、盛大に気管に入った。激しくむせ返る。

今ここでその話になる????

 

「淫夢て何? なんかの呪具?」

 

「……知らないんですか?」

 

「だから何? 僕ほんとに知らないけど、『淫夢』ってなんの術式? 名前的に催淫系?」

 

「では、『田所さん』という苗字に聞き覚えは?」

 

「え、田所さんって誰? 呪術師? 高専関係者にそんな人いたっけ?」

 

「……」

 

無言の七海。その視線が徐々に冷めたものになっていく。

完全に『ああ、こいつは何も知らない』という目になった。

 

「何? 僕、なんか地雷踏んだ?」

 

「……伊地知さんに、妙な知識を植えつけた犯人が貴方でないとすれば──」

 

困惑する五条を無視して、ゆっくりと、七海がこちらに向き直る。やべ……

 

「……では、どこで覚えたんですか?」

 

「……そ、そりゃあ……ネット社会ですし……うん。履修は……自己責任的な?」

 

気まずさを誤魔化すように曖昧に答える。

ふいに爆発音のような笑い声が響いた。

 

「ぶはっ……! ちょ……マジで!? 七海がそのツッコミ入れるの!?」

 

家入だった。

腹を抱えて机に突っ伏し、肩を震わせながら笑っている。

 

「淫夢!? 田所さん!? いやいや、アンタら……もう宅飲みのネタ全部決まったわ……!」

 

笑いすぎて涙まで浮かべている家入を、私は半眼で見つめながらぽつりと呟く。

 

「え、家入さんも淫夢知ってるの? 意外」

 

「当たり前でしょ。ネット文化のたしなみってやつ」

 

悪びれる様子もなく、涼しい顔で返す家入。

「だから」と、七海が低い声を挟む。

 

「妙齢の女性が2人そろって、そんなネタで盛り上がるのはやめてください」

 

眉間に皺を寄せ、疲れたように額を押さえている。

だがすかさず、私は追い打ちをかけた。

 

「知ってる七海さんも同罪ですけどね」

 

「…………」

 

沈黙。再び、微妙な空気が場を満たす。

 

そのやり取りを呆然と見ていた五条が、とうとう限界に達したように叫んだ。

 

「誰か説明してよ! 田所って誰!? 淫夢って何なの!? 僕、全然ついていけてないんだけど?」

 

むっすりと叫ぶその姿は、普段の余裕などどこへやら。

完全に情報から取り残された人間の顔だった。

 

 


 

 

主人公

 

五条にしっかり囲い込まれている。

その甘い檻からは逃げるつもりもないが、たまに重いわーってなってる。

特に五条家からの期待がハンパなくてうんざり気味。食べ物は美味しくいただく。

 

領域展開は、ここ最近、なんかできそうな感覚はあった。

そんなところに黒閃2連出たことで、術式の解釈が進み一気にできるようになった。

掌印の深沙大将 (じんじゃだいしょう)は、砂漠で危難を救うことを本誓とする鬼神で、病気を癒し、魔事を遠ざけるらしいです。

 

「領域展開・偽典図書寮(ぎてんとしょりょう)

領域展開の効果は対象者を選択し、記憶の書き込み、記憶の呼び出しを必中で行う。

トラウマなどの呼び起こしで精神攻撃したり、唐突に数式を書き込んだりもできる。

連続して行うF5アタック的なことも可能。

つまり、別ベクトルの無量空処に近いことができ、記憶過負荷による精神的クラッシュを狙える。

 

この度、淫夢を知っていることが発覚した。

好きでも嫌いでもないが、流行り物として見たことはあるのでネタは分かる。

この度、無意識で七海を背後から撃ちまくった。ごめんね。

 

 

 

五条悟

 

主人公を囲い込んでもう絶対に離さない。

早く抱きたいけど、主人公がまだ戸惑ってるので我慢してる。

右手がお友達。待てができて、えらい。

香水は嫌いなのではなく、香水をつけた主人公が色っぽくて、そそられてやばいから。

夜にモンローのNo.5それつけるってもう、そういう意味じゃん!!

ねぇ、襲っていいの?違うの??

完全に煽られまくってて勘弁してくれと。

このままだと理性が持たないとシャワーへ押し込んだ。えらい。

 

領域展開については、主人公が領域に至ったことを素直に喜んだ。

ただ、その後、なんで僕と一緒の時にやらないのさ!と拗ねた。

もちろん領域見せろと騒ぎまくって後日見せてもらう。

領域の効果を聞いて、自分の領域の効果を棚に上げ、怖い術式だといいつつ

本来戦闘向きではない術式を、解釈によって攻撃に使ってること自体すごいと以前から思ってたのに、

それをさらに昇華したことを、心の底から称賛した呪術オタク。

 

淫夢ネタは流行った当時が仕事が忙しすぎて、全く知らなかった。

後で、家入と主人公から教えてもらって把握。

気持ち悪いオエー、くだらないと笑い、その後、七海をいじり倒す。

 

 

 

七海建人

 

今回の被害者。

主人公の初めての領域展開に付き合った人。

落ち着いた図書館のような空間で、主人公の人となりらしいと思ったが、

その効果を聞いてドン引きした。そういや気性粗いところもあって、苛烈なやつだったと。

 

淫夢を知ってることがバレた。

なぜ知ってたかというと、証券会社時代に会社の先輩達と徹夜明けの時に一緒に見させられた。

チーム全員、大型M&A案件対応の徹夜明けで疲れてた。

客の無茶振りがあたったりすると同僚達の間で「〇〇さん!?ちょっと、まずいですよ!」、「暴れんなよ…暴れんなよ…」などが飛び交う職場だった。

正直くだらないと思ってたが、付き合いで全シリーズ見させられてしまっている。

 

数年後にその黒歴史がバレて女性陣からは温かい視線をもらい、五条にいじり倒されてかなりイラついた。

 

 

 

家入硝子

 

入院患者の容態監視などで徹夜が多く、眠気を覚ますためにネットでいろんなものを見てた。

結果、淫夢も履修済み。

興味なく知らなさそうな七海のツッコミが耐えられずに爆笑した。

他人の不幸は酒がうまい。

 

 




作者は知らなかったんだけど、主人公の領域展開がチェーンソーマンのハロウィンとpixivでの感想でいただいて爆笑した記憶。
未だにチェンソーマン履修してないので、そろそろ読まないとと思ってる。

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