オリジナル設定てんこ盛り。
転生者、巡る呪いの終わりを見る
からの分岐の別パターン。
原作通り五条が死んだ別パターンのお話。
・伊地知ポジション成り代わり(伊地知の双子の妹)ものです
・オリキャラ出ます
・激しい捏造、妄想含みます
・若干「モジュロ」の内容、ネタバレを含みます
・五条が原作通り死んだ後で重っ苦しい話です。苦手な方はご注意ください
戦闘中は、常に術式で呪力を抑えていた。だから気づかなかった。
そのことに思い至ったのは──全てが終わり、五条の葬式も済み、四十九日も過ぎた頃だった。
楽巌寺と庵歌姫が言う。「五条悟の残穢が、未だに消えない」と。
理由は人外魔境・新宿決戦。初撃──200%の虚式・茈。
至近距離にいた彼らは、その時に五条の呪力が焼き付けられたのだと。
家入からその話を聞き、「一番近くにいた伊地知はなんでないんだ?」と問われた時、ようやく思い出した。
──ああ、そうだ。私、呪力隠蔽の術式を掛けっぱなしにしていたんだ、と。
宿儺戦の終盤、宿儺に存在がバレたので全員に認識できるようにはしたが、有利なので呪力を抑制──私の呪力が認識しづらいように隠蔽したまま、戦闘を続けていたのだった。
日常で困らないので、そのまま掛けっぱなしにしていた。
試しに術式を解いた瞬間──場の空気が一変した。
まるで五条悟がそこに立っているかのような圧。
圧倒的な存在感を放つ残穢が、私を中心に押し寄せる波のように溢れ出す。
私は、あの時、結界を展開するために、最も五条に近い位置に立ち、至近距離で「茈」を見届けた。
術式で覆い隠されていただけで、決して例外ではなかったのだ。
──私もまた、五条の残穢まみれになっていた。
もちろん上から下への大騒ぎになった。
高専の警報のアラームが盛大に鳴り響く中、
家入は持っていたチュッパチャップスを手から落とし、
高専内にいた日下部と七海が刀やナタをむき出しにして、すっ飛んできた。
生徒たち──虎杖や乙骨なんて半泣きで「五条先生!!」と部屋に飛び込んできた。
入ってきて、残穢まみれの私を見てポカンとしたのは、全員共通だった。
……いや、私でごめん。
五条の残穢にまみれすぎて、呪霊が全く近寄ってこない。
最初のうちは正直、ラッキーだと笑っていられた。
だが、笑っていられたのは最初だけだった。
楽巌寺と歌姫は三ヶ月も過ぎる頃には残穢が抜けきったが、私の身体にまとわりついた五条の残穢は、いっこうに薄れる気配がない。
あまりに強力な残穢のため、私が歩き回るだけで低級の呪霊は瞬時に消滅し、等級が高い呪霊は半径百メートル以内に近寄ろうとしない。
──完全にチートだった。
本来なら高専を退職し、一般人として静かに社会に戻るつもりだった。──というか、すでに退職済みだった。
けれど、あまりにも現場は忙しそうで、事後処理も山のように残っていた。
「自分の術式を使えば、いざとなれば逃げられるからな……」
そんな仏心を出して残っていたのが、間違いだった。
残務をこなしながらも「残穢が抜けてからでいいだろう」と思っていたが、一向に消える気配のない五条の存在感。
そしてそれを当てにして、特殊な任務が次々と舞い込むようになった。
首都移転に伴い、東京の各政府施設に放置されたままの資料や公文書の回収。
国内外の要人が東京23区内の危険地域を視察する際には、私が“安全装置”として随伴した。
──私が歩くだけで低級呪霊は消え、強力な呪霊ですら近寄れない。
呪術界も、日本政府も……私を見る目が明らかに変わっていくのを、ひしひしと感じていた。
一年経っても、まとわりつく五条の残穢は薄れることはなかった。
新宿決戦の跡地──“グラウンドゼロ”。
そこもまた五条と両面宿儺の残穢にまみれ、いまだに呪霊が寄りつかない。
渋谷駅副都心線地下5階も同じだ。
短期間ならともかく、これが半永続的に続くとしたら……
私は内心で顔を顰めた。
──これは厄介なことになった。
やがて、周囲で呪詛師が騒ぎはじめ、海外からの極秘の引き抜きの誘いが増えてきた頃。
呪術総監部を通じて、国から話が来た。
「身柄を保護させてほしい」と。
──保護なんて名目で、実際は監禁だ。
私自身、自分の今の重要性を理解している。
歩くだけで低級呪霊を祓いまくる“人間呪霊清浄機”を、国が放置するはずがない。
死滅回游で疲弊した国内、弱まった天元の結界。日本を立て直すのは急務だった。
「術式で全部投げ出して逃げた方がいい」
かつての仲間たちは異口同音で、そう説得してきた。だが私は、その声をただボンヤリと聞き流した。
こんな時、五条ならどうした?
呪術が大好きで、術式を行使することを心底楽しそうにしていた呪術オタク。
上層部への愚痴は絶えず、適度に仕事をサボり、わざと人を苛立たせるような態度を取る、軽薄が服を着て歩いているような男。
けれど──術師としてのあり方は、誰よりも真摯だった。
呪霊を祓うのは当然。
力なき一般人を守るのも当然。
そのことに、一切の疑問を抱かない。
仕事量への文句は絶えなかったが、それでも彼はどれだけ疲れていても、自分にかかってきた仕事の電話にはワンコールで出ていた。
「弱い奴が負けるし、祓えないのは仕方ない。僕にまで電話が来るってことは、そういうことでしょ?」
夏油のように“そうあろうとした”のではなく、五条にとっては”それが当たり前”だった。
最強として生まれ、その力を行使することを、疑問にすら思っていなかった。
──まるで無意識のノブレス・オブリージュのように。
まぁ、だから、自分に見合わない任務を嫌がらせでバカスカ入れられると、怒ってたんだけどね。
あれは五条も可哀想だった。
でも全方位360度で喧嘩を売る態度も悪いから仕方ない。
おかげで私がどれだけ苦労したことか。当時を思い出して小さな笑いが溢れる。
やれる人がいないなら、やるしかないだろ。
内心でため息をつきながら、曖昧に笑う。
そして私は、国の職員に連れられ、高専を後にした。
国の職員に連れてこられた場所は、遷都先の国の中枢に当たる場所だった。
そこの地下にて「半永久的に待機してほしいこと」を伝えられた。
ほらきた、監禁。こうなると思ったよ。
私はそれに対して幾つかの条件を出して同意した。
監禁先での生活は正直、快適だった。
なぜなら私に求められているのは、そこに存在することだけだった。
何も仕事をしなくていいのだ。
空調の効いた綺麗な部屋、規則正しい生活。
元々オタクの引きこもり属性だ。インターネットとゲーム、本や漫画、楽器など、インドアで過ごせるものがあれば全く困らないタイプだ。
私のためだけに簡単なスポーツジム並みのトレーニングマシンもある。
病気で早死にされたら困るからね……適度に運動し、用意された食事を食べ、ゲームやSNSを見て笑う。
今までのクソッタレな労働からの解放がここにはあった。
七海ごめん、ある意味天国かもしんない、ここ。
そんな話を面会に来た兄や、元同僚たちにしたら微妙な顔をされた。
そう、私が求めた条件の一つが「かつての同僚や家族には自由に会わせろ」。
監禁じゃなくて保護ならいいでしょ? と押し切ったのだ。
今日の面会は乙骨憂太だった。
私の話を聞いて、呆れたように笑っている。
五条家の当主代理となった乙骨は忙しいにも関わらず、月に何度も面会に来てくれている。
その度に「逃げたくなったら言ってください」と言うものだから、私の護衛と監視を兼ねた使用人の目が鋭くなってる……勘弁してくれ。
「今までが忙しかったからね。ここでの、のんびりした生活には満足してるんです」
「さすが伊地知さんというかなんというか……」
「外に出て酒飲み歩けないのが残念なくらいです」
「伊地知さんがウワバミって噂は本当だったんですね」
当たり障りのない話をしていたところで、乙骨が話を切り出してきた。
「ずっと考えていたんです。伊地知さんだけ、なんで五条先生の残穢が消えないのかって」
「新宿や、副都心線のホームは消えてないでしょ?」
「無機物は残っていますね。有機物……人間で五条先生の残穢が消えてないのは、あなただけです、伊地知さん」
「………………」
「もしかして、何か心当たりがあるんじゃないですか?」
「うーん、心当たりないんですよね……」
首を傾げて唸った後、私はコーヒーカップを持ち上げながら、話題を変えた。
「そういえば、私の居場所が変わるって話、聞きました?」
「え! そうなんですか!」
乙骨が素っ頓狂な声を上げ、背後の使用人が一瞬だけ焦った顔を見せる。
私はその視線を捉えて、静かに睨む。──沈黙。
『私が』面会に来ていいと判断した人間には、この情報は伝えていい。
そういう取り決めだ。文句は言わせない。
こういうふうに人を使うことに慣れてきた自分に、ふと五条に似てきたかもと感じて、苦笑した。
「ほら、両面宿儺の残骸に含まれていた天元様を、日本各地の重要結界に配置してるでしょう? 天元様の結界を維持するために」
「はい、そう聞いてますね」
「その中心──東京高専の薨星宮本殿。そこに移るの」
「え? なんでですか?」
「天元様の結界に合わせて、この“五条さんの残穢”を日本中にばら撒けないかって」
「は?」
「なんか結界術が得意な術師がいて、五条さんの残穢と天元様の結界を合わせられるかもって。
んで、広まれば、日本中から呪霊が減るという目論見らしいよ。
というわけで、その実験のために薨星宮本殿に移動します。
……うまくすれば東京高専から近くなるので、みんなと会いやすくなりますね」
乙骨が口に手を当て、考え込む。
「……いや。確かに、うん、可能性はあるか?」
思考の沼にどっぷり浸かっている様子に、私は苦笑し、使用人に追加のコーヒーと焼き菓子を頼んだ。
「うまくいけばですけどね。
ま、せっかく来たんです。その話もいいですけど、外の様子も聞かせてください」
──あれから十年経った。
乙骨に話した作戦が、完全にではないにしろ思ったよりうまくいき、私の監禁場所は薨星宮本殿になった。
そして、五条の残穢はというと全く消える気配はない。
今までなかったことなので、呪術関係者も首を傾げているが、原因は不明だ。
現状これでうまく行っているので、今更、五条の残穢が消えても困るんだけどね。
国も呪術界も、最初は私がいつ逃げ出すか、いつ自害するかと、かなりピリピリしていたようだ。
この話は、後に楽巌寺から聞かされた。
「いや、そんなことしませんよ」
と、私は呆れたものだ──私は、生き汚いのだ。
楽巌寺は上層部ながら、私のこの扱いに最後まで反対していたことは知っている。
昔のままのロジカル規律マンの方が苦しまなかっただろうに……この人も大概お人よしだ。
私は自分の仕事から逃げるつもりはないし、それなりに楽しくやっている──そう伝えると、
「そういえばお前は、五条のお気に入りだったな」と苦笑された。
解せぬ。
ちなみにこの十年の間に色々あった。
なんと乙骨憂太と禪院真希が結婚したのだ。
マジかマジか! 原作後の世界の話聞けるなんて、激アツじゃん。最高じゃん。
二次創作で乙骨の女だったりした人は可哀想だけど、私はもうこの世界の人間で彼らを漫画キャラと思ってないので盛大に祝福した。
なお、もちろん結婚式には行けないので拗ねた。
使用人がご機嫌取ってきて、私、五条さんみたいなことしてるなと思って反省した。
この使用人ともこの十年で、だいぶ気安い関係になったものだ。
すっかり薨星宮本殿の主となった私は、いつの間にか政府関係者、高専関係者からは「潔乃様」と呼ばれている。
ただそこにいるだけの、置物なのにね。五条の威を借りまくってるだけなんだが。
昔からの知り合いは、今まで通り気安く呼んでくれるのがありがたい。
四十も近くなり、私もいつ体に何があってもおかしくない年齢になってきた。
え? 若いって? 知ってるか? 四十って「初老」なんだよ。
この前、目尻に皺を見つけて悲鳴を上げたら、使用人がすっ飛んできて怒られた。
スキンケアきちんとしてるのに! 昔と違って規則正しい生活してるのにと泣きついて呆れられた。
うん、とにかく順調に歳を取っている。
なので私が死んだ後は、この肉体を呪具化して安置するように伝えてある。
使用人は泣き、その話を聞いて乗り込んできた家入と七海に倫理観について説教された。
いや、だってしょうがないじゃん。
そうすれば多分、今と同じ効果がしばらくは続くんじゃないかな?
……知らんけど。
私が死んだ後、自分の死体がどう使われようとかまわない。
ただ、悪いことには使ってほしくないかな。
そう伝えて、家入と七海が持ち込んだ酒と、使用人に用意させた肴で、その日は珍しく三人で吐くまで飲んだのを覚えている。
皆口を揃えて「思ったより逞しくやっててよかった」と言う。
ニコニコと笑い、それを受け取る。
みんな私のことを気にしてくれて、よくしてくれて、私は『幸せ者』だ。
夜になり寝る前。
四六時中張り付いている使用人も部屋から出て行き、一人の時間。
私はこの時間が一番好きだ。
私以外誰もいない部屋。
布団の中、目を閉じれば五条の存在を感じる。
体温もない、匂いもない、あの低い声もない。
それでも五条の腕の中で添い寝してた、あの時と同じ気配を感じる。
まやかしだとわかってる。ここにあるのは、あくまでただの五条の残穢にすぎない。
でも、私はこの瞬間が一番好きなんだ。
乙骨に過去に聞かれた五条の残穢が消えない理由──そんなの判りきっている。
私がそれを望んでいるからだ。
私が私自身を呪った。過去に囚われている。
だからいつまで経っても、五条の残穢が消えない。
誰かは「五条が私のことお気に入りだったから、気合い入れて守ったんじゃない?」と言ったが、五条が呪ったみたいじゃないか。
五条は来るもの拒まず去るもの追わず。
あの夏油ですら自ら葬った男だ。
身内には甘いが、個人を極端に特別扱いはしない。
そういう男だ。
だから、私なんかのせいで五条の評価が下がるのは困る。
私が五条の代わりに頑張らねば。
そう思いながら眠りにつく。
そして朝目が覚める時──その時が一番嫌いだ。
目を開けると五条の暖かな気配は消えて、ただの残穢になってしまうから。
布団の中で5分ほど悪あがきをした後、ため息をつきつつ目を開ける──それが日課だ。
さらに時が過ぎた。
私自身は結婚どころではなかったから子どもを持つことはなかったが、皆が子どもや孫を連れてくるので寂しくはなかった。
そう、私はすっかりおばあさんだ。
健康的な生活のおかげか、思った以上に長生きしてしまった。
まさか生徒の方が先に逝くとは──ちょっと前に真希が亡くなったと聞いたが、今度は乙骨まで亡くなったらしい。
あの夫婦、仲が良かったからなぁ。乙骨は真希のこと、本当に好きだったし……。
黒々として、実はちょっとだけ自信のあった髪も、いまでは真っ白。
顔も手もしわくちゃで、腰もすっかり曲がり、背も縮んでしまった。
幸い足腰はまだしっかりしているので、薨星宮の中をゆっくり散歩するのが日課になっている。
まぁ、それだけ長生きしたということだ。
記憶の中で若いままで止まっている、死に急いだ野郎ども──見たか!
私は長生きしてやったぞ、人生謳歌してやったぞ、ザマァ!──と、高笑いしてみる。
それにしても、ゴールのない人生に興味はないと思っていたけど、本当に“おばあさん”になりすぎて、鏡を見るたび笑ってしまう。
前世では後期高齢者になる前に死んだから、これは未体験ゾーンで毎日が新鮮だ。
今日も『幸せ』だった。
さて、もうそろそろ寝る支度をしないと、使用人がうるさい。
私についてくれて60年ほどになる彼女も、もういい歳だから無理せず引退していいと言っているのに、やめようとしない。
老老介護みたいで怖いな、と思っていたら、彼女の孫娘が付き人見習いとして入ってきた。
──良かった……と胸をなで下ろしたのは、数年前のことだ。
いつものように布団に入り、目を閉じる。
瞼を閉じると、私にまとう残穢があの頃の気配に変わる。
すっかりおばあさんになってしまったのに、その気配は優しく私を包み込む。
五条は若い子が好きだろうから、残穢とはいえ申し訳ない気もする。
まぁ、でも年寄りのわがままだと思って許してほしい。
そう思いながら眠りに落ち──
「あれ? ここは?」
気がついたら私はどこかのベンチに座っていた。
頬に片手を当てて思案する。
「確か、布団に入って……」
周りを見渡すが、誰もいない。
でも、『人のざわめき』が聞こえる。
キャリーの車輪が転がる音、アナウンスの残響、コーヒーの香り。
この風景、どこかで見たような気がする。けれど、はっきりとは思い出せない。
記憶のどこかに、あるようなないような。とにかく現実味が薄い。
ガラス張りの窓の外には、驚くほど綺麗な青空が広がっていた。
雲ひとつない澄んだ空──ふと気づく。
「ここ空港か!! 私、死んだのか!」
ポン、と手を叩く。
あちゃー、夜寝てて心筋梗塞でも起こしたかな?
昨夜まで普通に元気に夜ご飯も天ぷらを食べたから、突然死で間違いない。
朝起きてびっくりするだろう使用人に悪いことをしたと思う。
「どうしよう。私、半世紀以上飛行機とか乗ったことないんだけど……」
科学の進歩は進み、前世のアニメや漫画で見たような近未来が現実になっていたが、薨星宮に引きこもって60年弱。
私はそこらに果てしなく疎い。2020年前後でそこらのリテラシーは止まっている。
前世ではこんな発展の仕方してなかったし!
「どうしよう。視力も落ちてて電光掲示板よく見えない。メガネ持ってくりゃ良かった!」
これだから歳をとるって嫌だ。近くも遠くもろくに見えやしない。
私、白内障の手術受けてないのよ。薨星宮から出れなかったから!
近くの人に聞いた方がいいかな──そう思って、誰かの姿を探そうと空港の中を歩いてみる。
ベンチにも、カフェの席にも、やっぱり誰もいない。
というか、本当に人っ子一人いない。
……それなのに、『人のざわめき』だけが聞こえる。
足音、荷物を引くキャリーの音──実際にはないはずの音が、さっきからずっと耳に届いている。
「うーん、死後の待合室。たぶん縁がない人たちと共通ってことかな」
伊達に長生きはしていない。外には出られなかったが、知識だけは大量に蓄えてきた。
さらに前世の知識、原作知識と合わせれば、だいたい想像はつく。
ふと、見知らぬスマートウォッチをはめていることに気がついた。
パネルに人差し指でそっと触れると、空中にeチケットの3Dが浮かび上がった。
「おぉぉぉ! ハイテク! 近未来!」
思わず声が出る。ちょっと喜んでしまった。
スターウォーズとかでで出てくる空中に浮かび上がるアレじゃん!
すげぇ、未来ってこうなるんだなぁ。
地味に感動していると、不意に館内アナウンスが響いた。
『イジチ・キヨノ様』
「……え?」
思わず顔を上げる。
無機質な女性の声が、静まり返った空港内に響き渡った。
──『イジチ・キヨノ様。お手元のeチケットをお持ちのうえ、ゲートNo.7までお越しください』
英語、さらに多言語でも繰り返される。
久しぶりにフルネームで名前を呼ばれて戸惑ってしまった。
「はいはい、行きますよっと。年寄りを急かさないで」
よいこらしょ、と腰を上げる。杖がないのが不安だが、しょうがない。
足腰が丈夫とはいえ、杖は私の相棒だった。90歳近いお婆さんだからしょうがないの!
「7番ってどこ? 年寄りの視力じゃ見えないんだよなぁ……」
辺りをきょろきょろ見渡しながら歩いていると、足元が疎かになった。
「あっ──!」
つんのめって体勢を崩す。
よりによって和装の私は踏ん張りも利かず、床に叩きつけられる覚悟をした──が、衝撃は来なかった。
代わりに、温かな何かが私をしっかりと受け止めていた。
反射でぎゅっと閉じた瞼を恐る恐る開くと──
真っ白な髪が目に入った。
瞬間息を呑む。
眩いほどの白髪。見上げるほどの長身。無駄のない所作。
青い光をキラキラと反射させる青い瞳。
何十年以上振りに見る、変わらぬ姿。
胸が痛くなるほど懐かしい。
呼吸が止まるような、圧倒的な存在感。
「……ありがとう。お兄さん」
かろうじてそう口にして、抱き止めてくれた男──五条からそっと身を離す。
動揺した自分を気取られないように、にこりと笑ってみせる。
全く変わらない、あの頃のままの姿。
──確か、新宿で宿儺と対峙していた時の五条だ。
懐かしさに目を細めながらも、知らんぷりを決め込む。
こんな皺だらけのおばあちゃん、彼が気づくはずもない。
おそらくここでは彼の六眼は機能しないはずだ。あれは現世に1人しか与えられない奇跡の目なのだから。
だから彼は気づかない。
私と彼の間に流れた、六十余年という途方もない時間を思えば……
「……僕を舐めるなよ、潔乃」
「っ!」
その名を呼ばれた瞬間、心臓が跳ねる。
次の瞬間、腕をぐいっと取られ、そのまま五条の胸に引き寄せられた。
「僕がお前を見間違えるわけないだろ」
低く、怒りを押し殺した声。
腕は強く、けれど震えている。
耳元に押しつけられるように響く声。
六十余年という途方もない隔たりを、たった一瞬で飛び越えてきた。
「あんなことになるなんて……思わなかった。
──置いていって、悪かった」
その言葉に、胸がいっぱいになった。
怒られているのに、不思議と涙がこぼれてくる。
私は泣き笑いを浮かべて、震える声で答えた。
「……うん。大丈夫。私は『幸せ』だったよ」
長く生きたことも、なんだかんだ最後まで人に囲まれていたことも。
彼とこうして再び会えたことも──全部含めて、本当に幸せだったのだ。
五条の腕に力がこもる。
もう二度と離さない、とでも言うように。
「……っ」
耳元で押し殺した声が漏れた。
顔を見上げると、五条が歯を食いしばり、必死に涙を堪えている。
「何が……幸せだよ……っ」
強がるように吐き出しながらも、声は震えていた。
六十年前と全く変わらぬ姿のままで、子どものように涙をこらている。
「あんな籠の鳥で、幸せなわけ……ないだろ……」
五条の涙なんて初めて見て、呆然とした。
青い瞳から一粒こぼれ落ちた涙が、じんわりと私の着物に染み込んでいく。
胸を締めつけた。
私は五条の背に、皺だらけの手をそっと回す。
抱き返す力はもう弱いけれど、それでも伝えたい。
「……ほんとだよ。私は幸せだった」
しわくちゃの顔で泣き笑い、どうしようもなく情けない顔をしながら必死で伝える。
「結構楽しくやらせてもらいましたよ? だからほら、こんなにしわくちゃになるまで生きられましたし」
五条の背中を、私はトントンと叩きながら笑う。
「確かにな……可愛いおばあさんだな」
涙を拭いながら、五条の大きな手が私の頬に添えられる。
懐かしい感触に、胸がきゅっとなる。
「五条さんは若いままですねぇ。いいなぁ」
笑いながら、今度は私が五条の両頬に手を添えて顔を覗き込む。
髪はツヤツヤ、きめ細やかな肌、つるぷやの唇──相変わらず世の女性に喧嘩を売っている。
あ、ムカつくこの感情久しぶり。
「ここ、好きな姿をとれるぞ? ほら」
言うなり、五条の姿がふっと揺らぎ──高専時代のものへと変わった。
あまりの自然さに、私は思わずポカンと口を開ける。
「……つまり、私も?」
「なってるぞ。高専時代の格好。相変わらず痩せっぽちだな」
慌てて胸を見下ろすと、懐かしい高専時代の制服になっている。
慌てて内ポケットに手を入れ、いつも持っていたコンパクトを取り出す。
そこに映ったのは、皺ひとつない顔、つややかな黒髪、きらきらとした瞳──若い自分。
「わっ……! 肌ふっくら!! 髪の毛もツヤツヤ!!」
思わず歓喜の声を上げると、五条が呆れたように笑った。
「ったく……死んでもお前は変わんないな」
笑いながらも、その横顔は優しくて、私はとても懐かしい気持ちになった。
「みんな待ってるぞ。お前マジで長生きだから長かったわ。何万回大富豪とUNOやったかわかんねーわ」
「それは飽きますね……」
「あいつら今モノポリーやってるから、ちょっとここで話してから行こうぜ」
五条は自販機でコーラを買い、私にブラックコーヒーを渡して肩に腕を回し、ベンチに座らせる。
「つまり五条さんは真っ先に負けたから、私を迎えにここに来たんですね。あ、痛い痛い、やめて!」
グリグリとこめかみをゲンコツで挟まれて、即降参する。
……相変わらず暴力的な意味で手が速い。
「あ、夏油さんいます?」
解放され、こめかみをマッサージで揉みほぐしながら尋ねると、五条が不機嫌そうに見下ろしてきた。
「いるけど、何だよ」
「百鬼夜行の時に後始末でムカついたので、パイルドライバー決めたいです」
「潔乃、格闘技の経験ないだろ。死ぬからジャーマンスープレックスにしておけよ」
「それも死亡事故あったやつですよね?」
「傑なら大丈夫だろ。あのゴリラ」
二人して吹き出し、バンバンとお互いの肩を叩く。
──この感じ、懐かしい。
お互い腹筋が引き攣りかけるほど笑っていた。
主人公
原作通り五条が死んでしまって、かなり落ち込んだが新しく人生を歩もうとしていた、そのタイミングで、五条の残穢の件が発覚した。
悲壮な監禁生活になると思いきや、持ち前の交渉力で監禁されていながらも、自分が納得できるようにことを運び、それなりに人生をエンジョイした。
メンタルが逞しすぎて、やっぱりイカれてる。
主人公が逃げなかった理由は、やれる人がいないもあるけど、逃げるとなると術式で呪力を隠蔽する必要がある。
そうすると五条の残穢も消えてしまうのが、嫌だったから。
五条悟
原作通り死んであの世から、現世をテレビで見てたら、主人公が自分の残穢で監禁されて呆然とした。
五条の残穢が消えなかった理由は、主人公は自分がそれを望んだから、と判断してたが、五条も「こいつは呪霊で死んでほしくないな」って言う想いが無意識のうちにあったから。
誰かが言った通り「五条が潔乃を気に入りだったから」が半分正解。
なお、死後、強まる念的な感じで五条の想いが強まったから、あの強烈な残穢になった。
そのため、五条が生きてた時はこんなことにならなかった。
ちなみに潔乃が死んだ時、本当にモノポリーで時間潰してて、五条は1位だったけど全資産をビリだった灰原に押し付けて、主人公のところへすっ飛んできた。
愉悦成分が高い話を書きたい欲が炸裂して、書いたのを裏アカで先行でUPしたら評価が真っ二つ。
これはハッピーエンドじゃない?or悲しすぎるBADな話!という見事なメリーバッドエンド。
前者はだいたい型月履修者で、型月を履修してきた奴らだ。面構えが違う!ってなりました。
この後、意地になって……もとい、型月履修者たちが納得できる、「あなたの考える最悪の不幸せは?」選手権をひとりで開催して、納得の不幸認定をもらえたので満足しましたw
私の作品内での五条の最高の不幸な話は書いたので、そのうちUPします。潔乃の場合は尊厳破壊系R-18 胸糞確定なので、流石に書けないってなりましたw
話変わるけど、こいつらこんだけいちゃついておいて、ソフレで付き合ってないんだぜ……
そして、なんでこんな乃が書きたくなったのか、未だにわからない
本編完了しましたが、番外編後日談などどれが読みたいですか?
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本編終了後の後日談
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本編時間中の日常話
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if系(√分岐、原作通り五条死亡など)
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R-18 の下ネタギャグ
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全部