兄の潔高に変わり、原作の伊地知ポジションで頑張る話。
本編が終了し、主人公が死亡偽装して逃亡しなかった時間軸のif
本物の伊地知さんが、仕事で高専にやってきたらのお話。
・オリキャラ出ます
・激しい捏造、妄想含みます
・ネタまみれです
・原作が終わったあとのif時空(五条と七海生存)
高専の外から、今日は一般人のお客さんが来る──そんな話は、朝の時点で聞いていた。
渋谷事変の後、日本政府は呪霊の存在を公表した。
おかげで、最近じゃ“要人”が海外から定期的にやって来る。
呪霊、呪力、そのへんの未知のエネルギーを利用して技術革新だの医療応用だの──まあ、要するにボロ儲けの種を探しにきているわけだ。
この手の話、正直珍しくもなんともない。
今日来るのも、たしか海外の製薬会社の人間だったか。
何かの提携とか下心とか付き合いとか、まぁそんなところだろう。
で、そこで僕の出番ってわけ。
特級術師として「立ち会え」って、上からお達しが来た。
前より上がマトモになったとはいえ、……こういう雑な命令は、相変わらずめんどくさい。
とはいえ、今回のは一応ちゃんとした理由もある。
だからサボるわけにもいかず、あくびを噛み殺しながら、高専の玄関でその人物の到着を待っていた。
黒塗りのハイヤーが、高専のロータリーにゆっくりと入ってくるのが見えた。
ナンバープレートで、日本政府が手配した車だとすぐにわかる。間違いない、あれだ。
たしか、世界的な製薬会社の人間が相手だったはず。
……とはいえ、本来、来る予定だったのは、その会社の役員クラスのはずだった。
けれど、今の東京は例の“羂索の1000万呪霊”の影響で、一般人の立ち入りが制限されている。
そんな中、役員本人の来日なんてできるわけもなく──結局、代理として通訳の日本人だけが来ることになった……はず。
「断れないジャパニーズピーポー、貧乏くじだね。かわいそ」
皮肉まじりにそう呟いた頃、ハイヤーのドアが開いた。
黒いスーツ姿の男が降りてくる。
身長は……174、5センチってところか。
黒の短髪をセンター分けにして、アンダーリムの眼鏡。骨ばった輪郭のせいか、全体的にシャープな印象を受ける。
......どこかで見たような気がした。
妙な既視感が、胸の奥をかすめた。
その男は、ハイヤーの運転手──ではなく、よく見れば高専の保助監督の1人に案内されて………
日本政府からの依頼で運転手まで補助監督の仕事か…と内心で呆れた。
とにかく、こちらに向かってきた。
「初めまして。A社より参りました、EA担当の伊地知潔高と申します。
本日は何卒、よろしくお願いいたします」
「……伊地知?」
聞き覚えのある苗字に、思わず眉をひそめる。
いや、それ以上に──なんだ、この既視感。
まじまじと男の顔を見れば、僕が知ってる伊地知...潔乃にどこかしら似ている。
空気の張りつめた感じも、あの真面目さも、眼鏡越しの目元も……うん、もし潔乃が男だったら、多分こんな感じになる。
すると、男が少しだけ遠慮がちに口を開いた。
「あの……失礼いたします。五条悟さんで、お間違いないでしょうか?
いつも、妹の潔乃が大変お世話になっております。私、彼女の双子の兄です」
「……はぁっ!?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
双子? 兄? 潔乃に? 双子の──兄?
たしかに、潔乃から「兄がいる」と聞いたことはあった。
でも、こうして実際に対面してみると──いや、想像以上にそっくりだった。
真面目そうな空気も、無駄のない動きも、表情筋のかたさも、どことなく見覚えがある。
まだ髪をベリーショートにして、金髪にする前の頃の潔乃にそっくりだ。
少し地味で、温厚そうな人の良さを隠しきれない、まっすぐな目をしていた、あの時期の彼女に──。
「……いやマジで、双子か」
思わず、そんな言葉が口をついて出た。
そんな僕を見て、伊地知(兄)は穏やかに微笑む。
「妹は、聞かれないことには答えないタイプですからね……すみません。
妹の知り合いと会うたびに、私たちが双子だとその時に初めて知って驚かれるので...」
困ったように頬をかく仕草も、これまた本気で潔乃にそっくりだ。
そのくせ、すっと居住まいを正して、真面目な顔に戻るあたりまでそっくりで、なんか妙におかしかった。
「妹が高専職員ということで、今回、私に白羽の矢が立ちまして。どうぞよろしくお願いいたします、五条さん」
「……そういや僕のこと、知ってるの?」
「ええ。高専時代から“白髪の偉丈夫・五条さん”という先輩がいると聞いておりましたので。お姿を拝見して、すぐにわかりました」
応接室へと歩きながら、僕たちは並んで話を続けていた。
案内役なんて普段は放り投げるところだけど、今回はちょっと興味が勝った。
だって、あの潔乃の兄だぞ?根掘り葉掘り聞いてネタにするしかないでしょ?
「妹はずっと、見えていたようで。どこで情報を知ったのか知らないのですが、
中学に入る頃には、呪術師や呪霊という、意味を知ってたようですね」
そう言って、伊地知(兄)はふと苦笑した。
「私のほうは、まったく見えなかったので……話を聞いても、正直ピンと来なくて。
ただ、見える人間が少ない中で、早い段階で高専側から接触があったそうです」
廊下に射し込む光を一瞥しながら、伊地知(兄)は一呼吸おいて続けた。
「そして高専に入った後は──あの、少し言いづらいのですが……
『日本は、呪霊的に危険だから、家族ごと海外に移った方がいい』と。帰省で帰ってくるたびに助言を受けました」
再び苦笑しながら、少しだけ肩をすくめる。
「へぇ……てことは、今は海外在住?」
「ええ。妹を除いた家族は全員、すでに移住しています。妹だけがこちらに残った形ですね」
少しだけ、苦笑を浮かべたその表情が、なんだか印象的だった。
「……ずいぶん肝が据わってるよね。家族が全員移ったのに、自分だけ残るなんて」
そう言いながらも、僕はもう理由を察していた。
......未来視があったからだな。
未来を見たから高専に入った。
そして、それが『本当に起こること』だと知ったから、家族だけは安全な場所に逃がした。
それでも自分は、ひとり戦場に残った。
……相変わらず、肝が据わりすぎててイカれてる。
けど、それが潔乃らしい。
「妹は……言い出したら聞きませんから。頑固で、頑固で……」
苦笑しながら肩をすくめるその姿は、どこまでも穏やかで丁寧で、文句のつけようがない“きちんとした社会人”って感じだったけど──
……あれ? なんか聞き覚えあるな、その言い方。
語尾の柔らかさとか、間の取り方とか、控えめそうに見せかけて絶対譲らない感じとか──
……猫かぶってるときの潔乃じゃん、これ。
“外向けモードの潔乃”そのまんまだ。
でも伊地知(兄)はこれ、素でやってんな。
…………素でそれやるの、反則でしょ……
じわじわと込み上げてくる笑いを堪えきれず、口元を手で押さえる。
「……っ」
やっば。似すぎでしょ、あんたら!
思わず吹き出しかけた僕に、伊地知(兄)はきょとんとした顔を向けてきた。
「……どうかされましたか?」
「いえ、すみません。なんでもありません」
潔乃が猫かぶってるときは、業務中以外なら茶化して崩せばよかった。
でも、目の前のこれは“素であれ”だからタチが悪い。
「……潔乃さんは、家族には頑固、かもしれませんが、高専では、とても……よくやってますよ」
今の立場はあくまで「外部の来客に応対する高専職員」。ふざけてる場合じゃない。
言葉を選びすぎて、自分でも驚くほど噛みそうになる。
「ありがとうございます。身内が評価されると嬉しいですね」
妹のことをお世辞でも褒められて嬉しいのだろう。柔らかい顔を綻ばせる。
「五条さんのことは妹から、何度も聞いてます。
いつも“五条さんは頼れる方だ”、”あの人ほど、すごい人はいない”と申しておりました」
「……へぇ? ……へぇ〜……?」
思わず顔を出しかけた本音を、全力で笑顔に変換する。
口角だけ上げた、見た目だけのやつ。
全然ごまかせてないけど、伊地知(兄)はまったく気づいてないようだった。
どの口が言ってんだ、あの
後で問い詰めよ。
祓除任務に同行して、山の中にこもっていた数日。
予想以上に呪霊の根が深くて手間取り、ようやく片がついたのは、夜中のことだった。
これ最初から七海さんや五条さんに依頼まわすべきだった。
私は今回、「昇給の査定」のために派遣されていたので、実質見学者。
手出しはできない。できないが、時間を食う現場を見るだけっていうのも結構しんどい。
補助監督の時は送り出す辛さだけだったけど、力を手に入れてしまってからは「私がやったほうが早い」という感覚が出てきてしまった。
五条が何でもかんでも抱え込む気持ちが少しだけわかってしまった。
これは……昇格は見送りだな
そう思いながら、麓のビジネスホテルで朝まで仮眠を取ることにした。
シャワーを浴びた後、プライベートのスマホの電源を入れる。
スマホの通知が一斉に届いた。
まず目についたのは五条からの、くだらないLINEの山。
一応中身を確認してみる。
……やっぱりくだらない内容だったので、既読だけつけて即スルー。
夜中の3時とかについてるけど、ほんと寝ろ。ショートスリーパーにもほどがある。
歌姫からの飲み会の誘いは申し訳なかった。
家入から状況は聞いてるだろうけど、丁寧に次は参加しますと返す。
そして最後に、兄の伊地知潔高からのメッセージが目に入った。
『xx月xx日、仕事で東京高専に行くことになった。潔乃は忙しいらしいけど、高専にいたら会おう』
「…………えっ?」
通知を二度見する。読み返す。スクロールする。何度見ても内容は変わらない。
xx月xx日って今日じゃん!!!
「えっ、うそ、ちょっと待って──」
そのまま反射でホテルの部屋を飛び出し、
寝ぼけ眼の術師を車に叩き込み、高専に急行する。
脳裏によぎる、さっきスルーしたばかりの五条のLINE。
『今日、海外の製薬会社の人が来るらしいんだけど、その人適当にあしらうから、終わったら甘いもの食べに行こー』
……最悪だ。
五条がいる場所に
この組み合わせがどれだけヤバいか、本人たちは微塵もわかっていない。
早く帰らないと!
アクセルを踏み込み、法定速度ギリギリの車で駆け抜けた。
法定速度ギリギリで高専の坂を駆け上がり、車を適当に駐車場に停めた。
普段の位置を守ってる余裕すらない。本来は自由に止めていいはずだから今日だけは許せ
報告書の提出も後で良い、靴音を高らかに鳴らして応接室まで一直線に走る。
廊下を曲がり、息を整える余裕もなく、そのままドアを一気にバン、と開け放った。
中では、兄と五条が、静かにお茶を飲んでいた。
整然とした応接室の空間。
低く抑えられた会話。
柔らかなティーカップの音。
そして微妙に追い詰められた顔で座っている兄と、それをにこにこと追い詰めている五条。
原作やん。
空気感が、まんま“原作でよく見るやつ”だった。
「でさ、その時どう思ったの? やっぱ『この国終わったな』って感じ?」
「いえ……その、私は職務上、そういう判断を──いえ、否定するわけではなく……ただ、当時の状況と──」
「いやいや、真面目だなぁ! いいね、潔乃の兄さん!」
「恐縮です、って潔乃?」
……うわぁ。
飛び込んだ私に兄が驚いた視線を向ける。
五条はニヤニヤとした楽しげな視線。
先程の様子からして、兄が完全にペースを握られてる。
どうにか均衡を保とうとしてるけど、五条の会話スピードに対応しきれていない。
全体的に“静かに詰んでる”空気がすごい。
私は精神を立て直し、私は応接室に一歩踏み込んだ。
「五条さん!」
「ん?」
「客人相手に何をやってるんですか!」
「え、普通に歓談してたけど?」
「その“普通”が全然普通じゃないんです!」
五条の手には優雅に持たれたティーカップ。
一見、微笑を浮かべて談笑しているようで、
その実、会話の主導権は100%五条にあり、兄は目に見えない重圧にじりじり押されていた。
...のが会話を聞かなくてもわかる。なぜって?五条と
「そして──潔高!」
「……はい?」
「あなたも振り回されないでください!」
「いえ、私は別に……その、失礼がないように──」
「すでに空気で押されてる時点でアウトです!!」
ピシッと指を刺したら
五条はというと、にやにやしながらこちらを見ている。
「ねぇ潔乃、やっぱり似てるね、君たち」
うっせーわ。伊地知トレース歴何年と思ってんだ。ベテランぞ?
似てて当たり前なんだよ。
そんなことは言わずに、五条の発言を無視。
「対応が遅れてしまい申し訳ありません。
東京高専、補助監督兼・一級術師の伊地知潔乃と申します」
立ち姿を正し、声色も完璧に“業務モード”へ切り替える。
どこからどう見ても、非の打ちどころのない職員対応だろ。
「ここからは、私が引き継いで対応させていただきますね。
まずは学長のところへご案内いたします」
五条がこらえきれないというように、爆笑し始める。
おい客人相手だぞ。私の
ジトリと睨みつけるが効果がない。
「伊地知さん、失礼しました。ご案内いたします」
「あ、はい。よろしくお願いします」
さすがだ。トレース元は完璧だわ。
あれから、爆笑する五条を放置……もとい、別れ、
それが終わると、すぐに今回の目的──技術連携に関する課題について話を始めた。
本来は五条や学長がやる予定だったが、今回は急遽私が対応することになった。
兄相手だからね…
兄妹ということもあって、ところどころでぶっちゃけトークを挟みつつも、交渉の手は抜かない。
むしろ、お互いに“ここだけは譲れない”というラインが明確だからこそ、やり取りはかなりバチバチだった。
こちらが弱いと判断したポイントを、ほんのわずかな沈黙や表情の変化から察して、的確に突いてくる。
理屈が、まるで事前に考え抜かれたプレゼンのように隙がない。
……まぁ、私もやり返したけど。
具体的な数字のブレを指摘し、呪力運用面での実戦的な差異を提示して、
向こうの理詰めに対して、現場のリアリティで応戦した。
たぶん、最終的にはイーブンの状況に持ち込めたんじゃないだろうか。
相手が
逆に、
……やっぱ、めんどくさい相手だな
けど、そう思った自分の表情は、たぶん少しだけ笑っていた。
「……仕事は終わったので、早速本国に戻らなければなりません」
立ち上がりながら、
「え?もう帰国するの。ブラックだねぇ、潔高も」
「仕方ありません。この話を早く持っていかないと上司が暴れだしそうで……」
返ってくるのは真面目な苦笑。
上司が暴れるって、五条と同じタイプと仕事してる?
可哀想に…
「……ところで、せっかくなので見学などさせていただくことは可能でしょうか?」
ふと思いついたように
以前から高専を見てみたいと言ってたしな。
ちょっとくらいならいいだろ。
「機密区域以外なら大丈夫。
私の同僚とか、会ってみる?みんな色々と濃いけど」
「ええ。せっかくですので、ぜひお願いします」
嬉しそうな兄をみて、さてどこからと考えながら歩き出した。
最初に案内したのは保健室だった。
どこに誰がいるかわからないが、ここなら誰がいるかわかる。
それに、高専の空気に慣れてもらうには、まず“この人”に会わせるのが一番だと思った。
扉をノックして開けると、いつも通りのんびりと書類に目を通していた家入が顔を上げる。
「あ、おかえり。って、そっち……伊地知に似てない?」
こちらを見るなり、目を見開いている。
そこまで似てるか?と少しだけ思った。
「私の兄です。今日は別件で高専に来てまして、少し案内を。
こちら、先輩の家入硝子先生。医師免許持ちの、本物の女医さんです」
家入がゆるく片手を上げて、にこっと笑った。
「あぁ、例の製薬会社の。伊地知の兄さんだったんだ。
私は家入硝子。伊地知とは高専からの付き合い──しかしそっくりだねぇ」
「初めまして、伊地知潔高と申します。妹が、日頃お世話になっております」
ぺこりと丁寧に頭を下げる兄。
真面目さが服を着て歩いてるような挨拶に、家入がまた笑った。
「ほんとそっくり……特に伊地知が猫被りしてる時に」
……あ、この人も五条と同じタイプだったわ。
初見で一切の容赦がない。
兄が美人の家入を前にして、ぼーっとしてるのを確認し、これ以上弄られる前に逃げようと判断する。
私は兄のその腕を引っ張った。
「じゃ、次行きますね」
「あ──はい、すみません。お時間ありがとうございました」
家入は笑いながら手を振る。
「またねツインズ」
私は無言で歩き出し、兄を引き連れて保健室を後にした。
廊下を歩いていると、向こうから七海と日下部が並んで歩いてくるのが見えた。
確か、あの二人はこれから合同で任務だったはずだ。
1級術師が二人同時に呼び出される案件なんて滅多にない。
見れば、どちらも顔がピリついている。
まさに“戦闘モード”前の空気。話しかけるのはやめておこう──そう思った、その瞬間。
ふっと、と。
二人の視線が、同時にこちらに向いた。
「「は?」」
異口同音で同じ言葉を発したかと思うと、
そのままの勢いで、一直線にこっちに歩いてきた。
──あ、完全にロックオンされた。
「伊地知さん、隣の方は?」
七海の声が、ほんのわずかに困惑している。
「……私の兄です。本日は別件で高専に来ていまして、少し案内を」
「双子の兄の、伊地知潔高と申します」
兄が丁寧に補足する。
「あぁ、製薬会社の人が伊地知さんのお兄様だったんですね」
なるほど、といった様子で頷く二人。
「伊地知にはいつもお世話になっています」
「えぇ、とても優秀な方で。助かっています」
大人としての最低限の挨拶を交わしたあと、二人とは別れた。
五条や家入と違って、多少は取り繕って対応できる大人二人。
常識人枠の七海と比較的常識人側の日下部は安定感があって助かる。
◇◇◇
日下部は、伊地知兄妹の背中を見送ったあと、ぽつりと呟いた。
「……双子にしても、そっくりすぎだろ。びっくりだ。
髪型と性別以外ほぼ全部一緒って、完全にコピーだったじゃねぇか……」
「異性一卵性双生児という話ではなさそうですね。呪力的にも別人でしたが……
呪力と性別以外、容姿もそうですが、背筋の角度、歩幅、姿勢、喋り方……違和感が一切なかったですね」
「並んで立ってると、若干ホラーだな……」
分別のある大人二人のため、本人たちを目の前にしては言わなかった。──大正解である。
これがもし、目の前で好き放題に発言されていたら、
ちょっとした経費申請のミスすら──
普段は潔乃が黙って修正してくれているそれを、
しばらくの間、全件却下の刑に処せられていたに違いない。
あのあと、虎杖たち“植物トリオ”──虎杖、伏黒、釘崎とも顔を合わせたが、
やはりというか当然というか、全員そろって「似てる似てる!」と驚いた様子だった。
私は今は金髪なので、「伊地知さん、また髪の毛伸ばして、黒くして、お兄さんと並んでみてよ」と、
悪気なく言ってくるのがいかにも虎杖らしい。
その言葉に、
当然、その後は釘崎と伏黒のセットツッコミが待っている。
「アンタそれ、遠回しに『どっちか見分けつかない』って言ってるようなもんでしょ!?」
「言い方ってものを考えろ」
ああ、ほんとに、こういうところが、可愛いんだよな、この子たちは。
「そうですね。黒はともかく、別の色に染めてもいいかもしれません」
と私が言えば、
「兄としては……あまりド派手すぎるのは、心配なんですが……」
と、
「アラサーなんだから、シスコンは卒業して欲しいんですけどねぇ……」
「アラサーなんだから、もう少し落ち着いてほしいんですけどねぇ……」
まさかのアラサー同時ぼやき。
虎杖たちが一斉に吹き出した。
「ぷっ……あっははははっ!」
「いや今の、完璧な漫才だったでしょ!?」
「タイミングばっちりすぎる……!」
「「違います」」
今度は、揃ってツッコミ返した。
笑い声が響く中で、
「……似てるって言われる理由が、少しわかった気がしました」
可愛い虎杖たちと別れたあと、私たちは高専の廊下を静かに歩いた。
正門を抜けてロータリーへ向かうと、そこに停まっていたはずの車が見当たらなかった。
近くにいた職員に話を聞くと
「運転手から連絡があって、念のため給油に出たそうです。20分ほどで戻ると」
「なるほど。ありがとうございます……じゃあ、少し休んでいきましょうか」
風が冷たくなってきた、もう夕方だ。
自販機の横にある、古びた木製のベンチ。ここは私が高専に入学した時から変わらない。
それを
缶コーヒーを二つ買って、ベンチに腰掛ける。
「……術師の皆さんは、体が大きいですね。
五条さんも七海さんも日下部さんも、あの虎杖君や伏黒君も。
やはり、フィジカルが強い方が有利なんでしょうか」
「正解。呪力の操作や術式が優れていても、
最終的には肉体の頑丈さがものを言うこと、結構あるから。
釘崎さん華奢に見えるでしょ?でも、ああ見えて、彼女もタワマンの屋上から飛び降りても平気なくらい、肉体鍛えてるからね」
「えっ......なるほど……」
若干引き攣ったような表情浮かべながら、兄は少しだけ視線を落とした。
「……潔乃は、もともと補助監督で入ったはずですよね?
途中から術式に目覚めて、今は術師としてもやっている……で、合ってましたっけ」
「うん」
「……ちゃんと、やれてるんですか?」
その声には、
「……私を心配して、高専をやめさせようとしてる?」
「バレてましたか」
やっぱりそうだったと軽く睨みつけると、困ったように苦笑する。
「……引き抜きの話も、実はあります」
「ふぅん、ていうか、こっちがメインでしょ?」
「……身内が鋭いのも、困りものですね」
そう言って笑った後、
完全に“仕事”の顔だった。
「潔乃は、もともと薬学系の勉強もしたいと言っていましたよね。
今なら、会社から研究費も、大学進学の補助も出せます。
制度の整った場所で、安全に──自分の能力を使って生きることも、できるんです」
その言葉に、私は言い返さず黙って耳を傾けた。
まぁ、魅力的なのは確かだ。
「調べさせてもらいました。……身内の贔屓目を除いても、あなたは優秀です。
術式の適応性、学習能力、現場判断……どれを取っても、会社として、
そして本国としても、欲しい人材だと判断しています」
あー、やっぱこの人の調査スキル、本物だわ。
私は未来の知識があるぶん、有利な立場にいるけれど、
この人は“素”で、同じところまで辿り着く。ほんと嫌になる。
……うちの
的確で冷静。
まさに、“外の社会”から見た私の評価と、それに基づく現実的な提案だった。
「でもそれよりも──」
「……家族として、この国に残ってほしくないんですよ」
その一言だけは、まるで温度が違った。
提案でも、論理でもなく──ただ、
あぁ、これが“本音”か。
少しだけ、胸が詰まった。
「……んー、どうしようかな。ぶっちゃけ、魅力的」
自販機の缶をパッケージをなんとなく見つめながら、あえて軽い口調で返す。
「でも、私は頑固なんだよねぇ...」
「ええ。変わってませんね、そこは」
すぐに返ってきた、穏やかな声。
責めるでもなく、諭すでもなく、なんかもうこう答えるのがわかってたという声色。
「潔高こそ、相変わらず真面目で優しいよね」
小さく笑い合って、しばしの沈黙が落ちる。
遠くから、エンジン音が近づいてくる。
どうやら、車が戻ってきたようだ。
私は最後の一口を飲み干して、空き缶をゴミ箱に投げ入れた。
カシャン、と乾いた音がして、一発で入った。気分がいい。
もう一度だけ兄の方を見た。
「……行こうか」
「ええ……今日はありがとう、案内してくれて」
「こちらこそ。来てくれて、ありがとう」
兄を見送ったあとは、報告書を出して、通常業務をひと通り片づけた。
気がつけばもう日も暮れていて、私はそのまま寮の自室に戻った。
スーツを脱ぎ捨てて、シャワーを浴びる。
湯に打たれながら、なんか──思ってたより、疲れてたなと気づいた。
風呂上がりの髪をざっと乾かし、Tシャツに短パン姿で、冷蔵庫から500mlの缶ビールを取り出す。
YouTubeをスマホで流しながら、ソファにどかっと座り──グビッと一口。
……あぁ、生き返る。
と、思ったその瞬間──
カチャリと音を立てて、玄関の扉が勝手に開いた。
ドアをノックせず勝手に入ってくるのは、もう、五条しかいない。
私は特に反応もせず、スマホから視線も上げないまま、
缶ビールをもう一口飲んでから、淡々と言う。
「甘いものはいつもの引き出しの中。コーヒーは自分で作ってください」
ソファに沈みながら、YouTubeの画面にぼんやり視線を落としていた。
気配が近づいてきたなと思った次の瞬間。
「ちょ──、ちょっと、なに……っ」
ビールの缶を持ったままの私を、五条が上から押し倒した。
正確には、ソファの上に乗ってきて、私の脚を挟み込むようにして、跨る。
そのまま、重さをかけずに、両手を背もたれに突いた姿勢で、私を見下ろしていた。
……近い。
息が触れそうな距離で、アイマスクの奥から、目だけがじっとこちらを見ている。
「辞めるの?」
あ、あの話聞いててたのか。
「盗み聞きとはいい趣味だと思うんですけど…五条さん近い」
ビールをテーブルの上に置いてから、突っ張ろうとするが、このゴリラ全くびくともしやしない。
「僕じゃないよ。近くにいた職員が話聞いてたのを、たった今聞いた」
心の中で思いっきり舌打ちする。
あの職員、次の査定でマイナスつけてやる。
「それで、ここに押しかけてきたと…」
それの何が悪いと言った感じで見下ろしてきている。しょうがないなぁ。
「……辞める気は、ないんですよ」
そう言った瞬間、目の前の白髪男が、案の定、「で?」という顔で、顎をしゃくってくる。
続きを言えと言わんばかりの無言の圧。五条の圧はきついんだよ…
「授業料無料で、薬学の勉強できて、ちゃんとした研究機関に所属できる……って、
正直、魅力的だなぁとは思いましたよ。普通に」
素直な本音を口にした瞬間──
「じゃあ僕が金出す」
即答だった。
「……は?」
思わず間抜けな声が出る。
言葉の意味を飲み込む前に、次のセリフがかぶせられる。
「勉強したいんでしょ? 授業料って話なら、僕が出すよ。
てか、そういう理由なら全然アリ。むしろ歓迎」
声に冗談めいた色は微塵もないのが怖い。
「いや、何で五条さんが出すの……」
「優秀な人材は逃したくないんだよ。わかる?」
真顔のままで、五条は言う。
「そもそもさ。お兄さんは“日本が危ない”って言ってたんでしょ?」
「まぁ……それは、確かに」
五条は肩を軽くすくめ続け、
「でもさぁ、他の国に行ったら、そっちの方がよっぽど危ないよ。
日本人の術師はどこの国の人間も狙ってるし、
潔乃は術式的にも宝石の件でも、誰もが喉から手が出るほど欲しい人材だからね」
あまりにもストレート現実を突きつけてくる。
「あと、日本だと“高専の守り”と“僕の守り”があるから、こっちの方が安全だよ?
って、お兄さんに伝えといて」
それはそれで居心地が悪い。
「いや、堂々と“僕の守り”って言われても……」
「だって事実でしょ?特級の僕の庇護下にいる人間が、どれだけいると思ってんの?」
即答&正論すぎて何も言えなかった。
「研究したいなら、資格取った後、高専でやれば?
研究職なんて人手不足だし、医者でも薬剤師系の免許取ってもらえたら、高専としても正直かなり助かるし
高専が嫌なら五条家で雇うから」
さらりと放たれたその言葉に、私の思考は一瞬、止まった。
「……囲い込みがエグい」
ようやくそれだけ返すと、五条は微笑みすら見せず、淡々と続けた。
「当たり前でしょ。
前にも言ったけど、高専やめる時は五条家で雇うって言ったじゃん?
あれ、冗談で言ってると思ってた?」
「……うん、まぁ、冗談だと。あと断りましたし」
口答えをした途端、ペシンと軽く額をデコピンで弾かれる。
「いった……」
「断ってんじゃないの!
残念ながらめちゃくちゃ本気。それくらい評価してんの」
顔を近づけて、アイマスク越しに視線をまっすぐ落としてくる。
「だから──黙って、僕の手の届く範囲にいろ。それだけ」
そう言い切ったあと、ようやく五条はソファの背もたれにかけていた腕をはなし、少しだけ身を引いた。
それでも、私の両脚の上に跨ったまま。距離はほとんど変わらない。
あまりに一方的すぎて、反論の余地もない。
いやー、ほんと、あの、
ただ、
あぁ、無料で色々勉強できるの!すごい!
職場も斡旋してもらえるの?いいなぁ。夢ありますよね!
――そのくらいの温度感だった。
軽口。雑談。うっかり口を滑らせた“適当”な類い。
それをなんで、五条がぜんぶ叶える前提で話を進めてくるのか。
わけがわからない。
真顔で詰められ、物理的にも精神的にも追い詰められた末に、私はようやく口を開いた。
「五条さん、私――辞める気ないって最初に言いましたよね?」
彼は一拍置いて、あまりにも当然のように返す。
「うん。でも、いつか気が変わったときのために、準備はしておくでしょ?」
……だから話がこじれるんだと思う。
ため息しか出ない。
「五条さん、どいてください。ビールがぬるくなっちゃう」
ぐいっと腕を突っ張ると、さすがに今度は彼も抵抗せず、素直に身を引いた。
テーブルの上で汗をかいていたビール缶を取り、
若干ぬるくなったビールを一気に飲み干す。
……やってらんない。アホらし
突き詰めたらきっと勝てないのはわかってる。
だからもう、思考放棄。
「……とっとと寝るに限る」
「ちょ?潔乃???」
五条を放置して一人ベッドに入った。
その後を追いかけるように五条がベッドに入ってくるのを、阻止しながら深々とため息をついた。
こんな時くらい一人でゆっくり寝かせてくれ…
主人公
兄がやってきてコンパチ扱いされた人。
最終決戦を生き残った後、補助監督兼、1級術師として働いている。
術師なんていつまでもやってられないだろうし、年取ったら大学また通おうかなぁとは思ってたので
兄の誘いは魅力的だった。まぁ、でも高専を止める選択肢はなかった。
補助監督としての仕事はブラックだけどやりがいはあるし、日本という国や仲間たちにも情があるので。
なお、ベッドにはいつものように忍び込まれて、抱き枕にされた。
五条悟
主人公の双子の兄を見て猫被り潔乃じゃんと爆笑した人。
主人公が引き抜きされかけて、ちょっと面白くない。
主人公の希望を叶えて囲えばいいじゃんとなってる。
ちなみにいまだに主人公とはくっついてないし、そういう感情もあるのかないのか自覚してない。
自覚して告白して口説け。主人公を囲うなら、多分その方が早い。
なお、ベッドにはいつものように忍び込んで、抱き枕にした。
伊地知潔高
とうとう現れた本家。
主人公のトレース元。猫被りの元なので、そりゃー全く同じ言動をする。
それが五条の腹筋を刺激し続けてることに気がついてない。
今回、高専側との交渉もそうだが、それ以上に主人公の引き抜きがメインだった。
あっさりと交わされて、まぁそうだよねと。
高専でよくしてもらってるみたいだし、日本にいても大丈夫かな?と思ってる。
今後何度か日本に来るが、その時に呪霊に襲われて、呪力に目覚める未来があるかもしれない。
その他高専関係者
伊地知さんにマジでそっくり。喋り方も同じ。
コンパチじゃん!格闘ゲームも2Pカラーじゃん!!
新宿書くためにコミックス見返しててそれがきついわーとなって筆が止まってたところ、
数話前のコメントで「伊地知潔高とあったら皆が、猫被りの潔乃だと笑う」という話が出たので、
これだ!となり、逃げで書き始めた記憶。
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