そして、土曜日。
運命の、デート当日。
楽は待ち合わせ場所の噴水前に居た。時刻は9時半である。
「…1時間前から来ちまった…暇すぎる…」
明らかに気持ちが急いていて、尋常でないほど早く来てしまっていた。
「うう…早く、会いたいな…」
楽がそんな風に思っていると。
「らっくん、おはようございます♪お待たせしました!」
万里花の声がした。
楽は待ち焦がれていたため、即座に反応して振り向く。
「お、万里花、おはよ…」
楽は言葉を止めた。
万里花の服装は白のワンピースにピンクのカーディガンだった。
割とオーソドックスな服装ではあったが、何分着ているのが万里花である。
お嬢様で美少女ということもあり、とんでもなく、似合っていた。
「?らっくん…どうしました?」
楽は明らかに呆けていた。
「万里花…子供は何人ほしい?」
「えええ!?らっくん、朝から段階飛んでますよ!!」
「…はっ!す、すまねえ、見惚れすぎてなんかもう頭の中が8年くらい先に飛んでた…」
えらく具体的な数字を出す楽。
「も、もう…。あ、着替えるときは本田に預けますので大丈夫ですから♪」
そう。
楽は前日に万里花に連絡をしていた。
最初に、服を買いに行きたい、と。
自分が選んだ服でデートを共にしたい、と。
「…自分で言っといてなんだけど、この感じ…ああ、やっぱりずっと見ていたいな…」
「うふふ♪…これから、何度でも着てあげますから、大丈夫ですよ♪」
そう言って、万里花は優しく微笑む。
「…朝から俺はもう幸せだわ」
「♪では、行きましょうか♪」
「ああ」
そんな会話をして、二人はデートへと出かけた。
この様子を、少し遠くから見守る5人がいた。
「…なんで、舞子君がいるのかしら…?」
「まあまあ、細かいことは気にしないで~♪」
「じゃあ、順番は前日に打ち合わせした通り、私、鶫、小咲ちゃんの順で行こう。大丈夫?」
「はい、大丈夫です!」
「うん、大丈夫。」
千棘・小野寺・鶫の3人は、それぞれのタイミングで二人の仲に割って入ろうとしていた。
5人でそんな話をしている頃、楽と万里花は服屋に着いた。
「せっかくだから、色々試着してみますね♪」
「ああ。じゃ、これとこれと…あ、これもいいな!…あ、これもいけるかも…」
「あ、ら、らっくん…?」
万里花を着せ替え人形にしようとしているのかという程の勢いで、次々と試着するスカートを選ぶ楽。
「あの、お客様…試着でしたら一度に4着くらいまでが程よいかと…」
店員が見かねて声をかけてきた。
「あ、す、すみません!そ、そうですよね、あははは!」
無理に笑う。
「もう、らっくんたら…♪じゃ、まずはこれを着てみますね♪」
「ああ」
そう言うと、万里花の試着ショーが始まった。
ちなみに、そのスカートに合う上の服も一緒に検討することになった。
15分後。
「じゃあ次は…これ!」
「おお…これはこれでまた…」
「次は…どうでしょう!」
「うおお…」
こんなやりとりを繰り返すこと、約20回。
「うーん…これが、一番良いかな!」
「はい♪」
先程まで着ていた服と同様のピンクと白の、オーソドックスでかわいらしい組み合わせに決まった。
「えへへ…どう…ですか?」
「…」
顔を少し赤らめている。俯いているのかと思ったら、視線がやや下を向いている。
「…もう!らっくんたら!」
「…は!わ、わりいわりい!」
万里花の、普段あまり見ることのない太ももを凝視してしまっていた。
「普段はロングスカートだろ?万里花のこの部分って、その、夜しか見たことねえし、さ…」
「も~!朝からそんなこと言わなくていいです~!」
ぷんすかと怒っている。
「(…怒ってるのもかわいいな…)ご、ごめんな…」
「…うふふ、いいんですよ♪…これから、いくらでも見てくださいね…?」
そう言うと、にこやかに微笑んだ。
「…!!」
一瞬抱きしめそうになったが、場所を気にして全力で我慢した楽であった。
「じゃあ、お会計してくるわ」
そう言うと、楽は万里花の服をレジに持って行く。
「あ、い、いいんですか?」
「このためにがんばったから、ここは…な♪」
そう言って、にこっ、と笑った。
「…あ…はい…」
ぽーっ、とする万里花。
「(…わざわざ私のために…はああもーーらっくんたらかっこよすぎますううう…!!)」
楽がお会計をしている間、ひたすら悶えていた。
「会計終わったぞー。じゃあ早速…っておわっ!?」
「…♡♡♡」
たまりかねて、全力で楽に抱き付く万里花であった。人目も憚らず。
「ありがとうございます♪一生、大切にしますね。」
本田に着ていた服を預けると、にこやかに微笑んだ。
「…後で人気の無い所に行き次第抱きしめさせてくれ」
悶えるを通り越してどんどん欲求を露にする楽。
「…もう…。…いいですよ♪」
「…ぬああああああああ…!!!」
「らっくん!?」
結局、悶えた。転げ回って。
「じゃあ、次は…」
時間はお昼時の少し前くらいだった。
「あ…らっくん、あそこ、いいですか?」
万里花が指差したのは、ゲームセンター。
「?別にいいけど、なんかやりたいゲームでもあるのか?」
「えへへ…前見たとき、プリクラがあったのを思い出しまして!いいですか?」
「!オーケー、行くか!」
そんなこんなでプリクラを撮ることに。
「えーっと、ここを押して、次はここ…んで、これで良いのか…よし!」
そんなことを言いながら、操作を順調に進める。
「じゃ、ポーズを…つっても、何したらいいかわかんねえなあああ!?」
言葉の途中で急に大声を出す楽。
万里花は楽の腕にしっかりと抱き付いていた。
「ま、万里花、当たって、当たってる!!」
「…当ててるんですわ…♪…きゃっ!」
パシャッ、と言う音がする。
出てきた写真は、万里花のかわいさに耐え切れず、楽から思い切り抱き付いた写真であった。
結局この後、もう一度普通に(と言っても、先程同様に万里花が胸を当てているが)撮ったのであった。
「えへへ…♪」
万里花は幸せいっぱいの表情で2通りの写真を眺めていた。
「普通の方は携帯の待ち受けにして、枕元に置いて、あとはお手洗いのところにも置こうかな?それでらっくんが抱き付いてる写真は学校の机の右上に貼り付けて…」
「わーーー待て待て待て!前半はいいけど後半はやばい!!」
楽の必死の制止が入る。
「えー?せっかくらっくんが本能をむき出しにしてくれたんですから…♪」
そう言って笑う万里花には、小悪魔のようなかわいさがにじみ出ていた。
「そろそろお昼時か…あそこ、行ってみないか?」
楽が提案したのは、最近出来たばかりの、カップル客で賑わうオープンカフェだった。
「はい♪」
「はい、らっくん、あーん♪」
「ちょ、ちょっと…恥ずかしいな…」
パラソルが差してあるとは言え、堂々と外であーんすることには流石に躊躇う楽。
「もー!私とご飯を食べるという時点でこうなるのはわかっていましたでしょ♪さあさ、あーん♪」
「うう…それもそうだよな…あーん!」
何とか決心をして、楽は応じた。
「あの高校生カップル、お熱いねー♪」
「ねー。ていうか女の子、超かわいくない?」
「ホントだー!まったく、羨ましい限りだねえ…」
「…!!」
そんな声がどこからか聞こえてきて、更に赤くなる楽なのであった。
「じゃあ、らっくん、今度は逆で!あーん…♪」
「お、おう。…。……。」
「?らっくん、どうしました?」
「…い、いや、その…万里花が口を開けて目を閉じた顔、なんかすげえエロいなって思って…」
まさかの着眼点。しかし、男なら必然の反応とも言える。
「!!もーーーー!こんな場所で恥ずかしいこと言わんでー!」
あーんは出来ても、こっち方面の話題は時間帯的に乗れない万里花であった。
「あれ、食後のコーヒー頼んだけど、まだ来ないな…」
「じゃあ、私が確認してきますね♪ついでにお手洗いにも行ってきます(お化粧直ししなくちゃ…)」
「ああ、わかった。ありがとな」
そんな訳で、少しだけ楽が一人の時間が出来た。
「…ふう。…楽しい、な。歩いてるときにあいつの胸元とか足をあんまり見ないように注意しないとな…変態みたいになっちまう」
一人プチ反省会をしていた。
と、そこへ。
「…あれ、千棘?」
「あ、あら、ダーリンじゃない!」
万里花が離れてから現れたのは、千棘だった。
「き、き、奇遇ね!あはは!」
「桐崎さん…演技ど下手ね…」
「演劇のときは雰囲気すごい出てたんだけどね…」
「お嬢…ファイトです…!!」
遠くから鶫・小野寺・るり・集が見守る。
「どうしたの、こんなところで?」
「い、いや、ちょっとな!(…万里花と来てるなんて言えねえよなあ…うおおどうしよう…)」
内心、慌てふためく楽。
「ふーん(そこは隠す訳ね…)…あ、あの、さ」
「ん?」
「も、もし良かったら、だけ、ど…まだお昼くらいだし、その…一緒に、遊び、行かない…?」
「…え」
千棘からの突然のデートの誘いだった。
「(勇気を出せ、私ーーー!!!)だ、だめ…かな?」
そう言って、楽の前にしゃがみ込み、上目遣いで、恥ずかしそうに顔を赤らめながら楽に迫る。
「(な、なんだよ千棘…いつもと感じがちがう…か、かわいいな…。)…なんか、いつもと雰囲気ちがって、かわいいな」
「えっ」
楽の思わぬ言葉に、千棘は動揺する。
顔は更に赤くなっていた。
万里花と度々接するごとに、徐々に自分が思う正直な気持ちを臆面なく言えるようになっていた。
しかし、それでも。
「ごめんな。今日は…万里花と来てるんだ。」
万里花、と言う呼び名も、千棘の前で初めてちゃんと口にした。
「…あ、そ、そうなんだ!そそ、それじゃしょうがないよ…ね!うん…」
そう言うと、千棘は言葉に詰まった。
「ど、どうした、千棘…?」
「(ううう、やばい、泣いちゃいそう…楽に心配かけたくないのに…で、でも、何か、爪痕を残さないと…)」
「…あ、そうだ」
ふと、何か閃いた千棘。それと同時に顔が真っ赤になる。
「?千棘、どうした…?」
「…ら、楽!…んっ」
「!?」
千棘は、楽の額に優しく口付けをした。
「…じゃ、また、月曜日にね♪」
「…え、あわわ、え、え、えーーー!!?」
顔を真っ赤にして、全力で戸惑う楽であった。
だだだだだっっっ
千棘が、猛ダッシュで帰って来た。休日の昼下がりに見ることはあまり無いであろう、全力ダッシュである。
「はあ…はあ…ただいま…」
「千棘ちゃんおかえりー!」
「うう、だめだったわ…で、でも、最後は頑張ったよ!」
「うん、あれは…すごいわね。桐崎さん、ナイスファイト。小咲も鶫さんも、断られたとしてもこの方法ならばっちり爪痕を残せるわよ?」
「えええ!!?そそそんな、私が一条楽の身体の一部にねちっこく口付けをー!!?むむむ無理ですー!!!」
千棘の勇気ある行動の一部始終を見ていたためか、妄想がトップギアに達する鶫。
「誰もそこまで言ってないでしょ…小咲、行けそう?」
「う、うん…千棘ちゃんが頑張ったんだし、私も…が、がんばる!」
と、ここまで言ったところで、ぼんっ!!と言う音を立てて、小野寺の顔から湯気が吹き出した。
「ど…どどどどうしよう…想像したら急に恥ずかしくなってきた…」
「…あんたね」
ここまででもかなりの勇気を振り絞っている小野寺にとっては、更に口付けまでしようと言うのは中々大変な決断である。真っ当な反応だった。
「お待たせしました♪…あれ、らっくん、どうしました?」
「あ、ああ、万里花!!(ある程度は正直に話そう…)い、いや、万里花が離れてる間に、千棘とたまたま会ってな。どこか行かないかって誘われたんだけど、万里花と来てるからって断ったんだよ」
「へー、そうなんですの…」
楽の言葉を聞いて、万里花は考えていた。
「(…それだけだったら、こんなに慌てませんわよね…?ようし…)」
「…で、別れ際に急に口付けされた訳ですか♪」
「うえ!?な、なんでそれを…あ」
万里花のかまかけに、ものの見事に引っかかる楽。
「(まさかの大当たりですわ…流石に唇にはしないでしょうから…)例えば、額に…とか?」
「うええ!!?な、なんでそれを…あ」
一度ならず、二度までも。
「むうう…らっくん」
「?…お…あ…!?」
万里花は楽に顔を近付けると、額を一度軽く拭って、負けじと口付けをした。
しかも、一箇所をねちっこく、舐め回す。
「ば、ばか、万里花!こんな…場所…で…」
ぴちゃっ…ぴちゃ…ぴちゃっ…
周りの目も気にせず、一心不乱に続ける。
「…あ…うあ…」
楽も、万里花も、徐々に目がとろん、としてきた。
楽の鼻筋を万里花の唾液がつうっと伝う。
そのとき。
「わあ、見てよあのカップル…大胆…」
「しかも普通のキスじゃないわよ…なんかエロくない?」
周りのひそひそ声が聞こえてきた。
「…わー!!ま、万里花、お会計しよう!な!?」
急に我に返り、万里花を引き離してお会計に向かう。
「あん…もう」
万里花は少し残念そうにしていた。
「はあ…はあ…ったく、なんであんなことを…」
オープンカフェから少し離れたところで、楽が切り出す。
「だって…せっかく二人きりのデートなのに、あのままじゃらっくんの頭の中に桐崎さんが入ってきちゃうじゃないですか!それが…悔しくて」
「…万里花…」
万里花は少し思い詰めたように話す。
「それに、桐崎さんが本当に偶然通りかかって、急にそんなことするでしょうか?…まだ、こういった攻めが終わらないかもしれませんわ…油断出来ません。」
万里花はそう言うと、目をぎらりと光らせた。
「お、おう…(まだ終わらないって…?また千棘が来るとか?いやそんなはずは…)」
当の楽は、今自分の周りで起きている動きに皆目見当がつかない様子だった。
「…万里花、こっちに来てくれるか?」
「え、らっくん…きゃ!」
万里花の腕を掴み、人気の無いところに連れて来た。
「…あの、私、下着を脱いだ方が…?」
ぶぼばっっ
「!!ば、ばか、ちげえよ!…その、俺も、頭の中、万里花でいっぱいにしたいから…」
「ひあっ!?…あ…」
万里花の額に優しく口付けをする。
頭の両脇を手で固定して、徐々にねちっこく舐め回して行く。
「…あ…うあ…ん…ん…っ…んあう…」
甘い声が段々と漏れ出してくる。
「(…や、やべえ、勢いでやってみたけど…興奮で死にそうだ…)」
万里花の甘い声を聞いて、どうしようもないほどの昂揚感を覚える楽。
人目を気にする必要が無かったこともあり、万里花からしてきたときは数十秒も経たないうちにやめてしまったが、今度は数分に渡って口付けを続けた。
「…ぷはっ…」
「…あ…もう、やめてしまうんですの…?」
そう言った万里花の表情はとろけきっていて、目は潤んでいた。
「!!…。」
「あん…あはっ♡」
その表情に我慢が出来なくなり、再び額に口付けする楽であった。
ちなみに、千棘がオープンカフェから4人が待つ場所を戻ってきたとき。
「あ、橘万里花が戻ってきましたよ…何か二人で話して…ほわあ!!?」
双眼鏡を使っていた鶫から、突然湯気が吹き出す。
万里花の口付けを目撃してしまったようである。
「(あれ、これどこかで見たことがあるような…)ちょ、ちょっと鶫!?どうしたの…ほわああ!!!」
「鶫さん、千棘ちゃん!?どうした…の…」
三者三様に湯気を吹き出して、倒れた。
こんな状況になっていたので、その後の楽からの口付けの場面まで尾行することはできなかった。
続く。
千棘、頑張りました。
このデート編、後日談や「あのとき実はこんなことが!」みたいな話を加えると、恐らく5~6話に跨りそうです。ちょっと長いですが、どうぞお付き合いください(^^)!
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!