楽×マリー『オネガイ』その後   作:高橋徹

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小野寺。第40話「クビスジ」

デートは続く。

少し、日が傾く時間帯になっていた。

 

「なあ、万里花。最後に…あそこ、行かないか?」

「…あ」

楽が指差したのは、少し遠くに見える、ボンヤリランドの観覧車であった。

 

万里花が、アプローチ方法を変えることを決意するきっかけになった場所。

楽の想いを聞いて、お互いの呼び方も変えることになった場所。

そして、初めて(素面で)お互いの体に触れ合った場所。

色々な思い出が、詰まりすぎるくらいに詰まっている場所であった。

 

「…はい♪」

万里花は、嬉しそうに頷いた。

 

道中、と言ってもせいぜい数百メートルだが、その間、二人はどちらから言うでもなく、手を繋いでいた。

時々、ふと目が合っては、にこっ、と微笑み合った。

「ああ、やっぱり、俺はこの人が好きだ…」

手を繋ぎながら、楽はそう思っていた。

 

観覧車の近くまで来たところで、万里花が急に何かにはっと気付いた顔をした。

「?万里花、どうした?」

「らっくん、すみません、お手洗いに行ってよろしいですか?」

「ああ、いいよ?」

妙に真剣な顔をする万里花に、少し不思議な感じを覚えながら、楽は了承した。

小走りで動きながら、万里花は考えていた。

「…デートの最後のお化粧直し~!!これは、絶対外せませんわ~!!」

燃えていた。

 

「…さて、いよいよ勝負時だな…」

楽は楽で、この後のことを考えて、燃えていた。

すると。

 

「…あれ、一条君…?」

 

「…小野、寺…?」

 

楽の前に、小野寺が現れた。

「ど、どうしたんだこんな所で?」

「は、春と遊びに来てて、はぐれちゃったんだ!あの子すぐ迷子になっちゃうから…あはは」

「そ、そうなんだ。確かにそうだったな…」

 

それを遠くから見つめる4人。

「小咲…やるわね」

「小咲ちゃん…う、上手い…」

「それに比べて、お嬢と言い私と言い、なんたる様でしょう…」

小野寺を称賛し、自分達を責めていた。

 

楽と小野寺で少しだけ他愛も無い話をしていると、小野寺が急に携帯を見た。

「あ…春から電話だ!ごめん、ちょっと出るね!…うん…うん…そうなんだ、わかった、じゃあ30分後にね!」

そう言って、電話を切った。

「春ちゃん、何て?」

「それがね、迷子になった先で買いたいものを見付けたから、少し買い物するって。場所は聞いたから、そこに30分後に迎えに行くことになったんだ」

「そうか、それは良かった…」

楽は安心した表情を浮かべた。

「(…ごめんね一条君、ウソついちゃって…。あと、春もごめん…!後でお菓子おごるからね…!)」

もちろんこれは小野寺の演技である。

春の性格や特徴を見事に利用していた。

別に春本人は何も知らないので、言わなければそれまでなのだが…小野寺の性格がそれを許さないのか、何かしらの償いを考えていた。

 

「それでね…一条君、ここからその場所までは歩いて5分もかからないんだ。それでこの観覧車…今は全然待ち時間が無いし、一周20分くらいでしょ?たしか。良かったら…一緒に乗ってみない?」

小野寺が振り絞った、精一杯の知恵と勇気だった。

「…!!」

正直なところ、楽の心は今までで一番揺れ動いた。

今は恋心が完全に万里花に向いているとは言え、彼女を見て楽が魅力的だと思うと言う事実は、今も、何ら変わりは無いのだ。3年程抱いていた恋心は、そうたやすく、綺麗に吹き飛ぶようなものではない。

 

だが、それだけの想いを抱いていた小野寺に対してであっても。

「…ごめん、今日は万里花と来てるんだ。だから、一緒には…乗れないんだ、ごめん。」

優しく、だがはっきりと、告げた。

「…そっか。…そっ、か…。」

話しながら、徐々に俯く小野寺。

「お、小野寺…?」

楽が心配そうに小野寺の様子を窺う。

すると。

 

「(勇気を出せ、小野寺小咲…!!)…んっ」

「!?」

小野寺が、楽に、自ら抱き付いた。

「…ごめん、1分だけ、好きにさせて…」

「!?なに…を…」

抱き付いたまま、楽の首筋に優しく口付けをした。

そしてそのまま、優しく舌を這わせる。

「う…お…お、小野寺…」

楽は言葉が出なかった。

1分だけとは言え、万里花以外の女の子にこんなことをされるのは、何よりも万里花に見てほしくない。

だが、この人は、自分がずっと想いを寄せていた人。

そう考えると、無下に引き離すことが出来なかった。

もし、ほんの少し前に今と同じことをされていたら、躊躇わず抱きしめ返していただろう。そして、あなたのことが好きだと、叫ぶように告げていただろう。

でも、今は万里花への想いが何より大切。

そう考えて、夥しいほどの葛藤の末、楽は、ただただ、動けず、動かずにいた。

 

1分程経つと、小野寺はゆっくり、すっ、と離れた。

「…えへへ♪今までで一番勇気が必要だったよー…」

笑いながら言っているが、顔はどこか切なそうだった。

その表情を見て、楽はきゅん、と胸が締め付けられた。

「じゃ、じゃあね、一条君!また、月曜日に!」

「あ、ああ、またな。」

そう言うと、小野寺は真っ直ぐ、小走りでボンヤリランドの出入り口に向かった。

「…あれ、春ちゃんの所に行くんじゃ…?」

小野寺のウソに気付かない様子の楽は、仄かに疑問を抱く程度で考えるのをやめた。

 

 

「らっくん、お待たせしました!」

万里花が戻ってきた。

「ああ…おかえり」

「?どうしました?…あら、あの後ろ姿は…小野寺さん?」

楽の視線の動きに気付き、その向きに目をやると、小走りで遠ざかって行く小野寺の後ろ姿を捉えた。

「ああ、今さっき小野寺が通りがかってな。…この観覧車に乗らないかって言われたんだけど、万里花と来てるからって断ったんだ。」

「そ、そうなんです…か…」

万里花は複雑な表情を浮かべた。

以前この観覧車に乗ったときの、楽が小野寺のことを好いていると言う発言を思い出していたのである。他の2名でも内心かなり動揺しているところで、最後に小野寺が来たと言うことに、万里花の心の内は激しいショックを受けて、色んな感情がぐちゃぐちゃに混ざってしまっていた。

そんな表情を見て、楽はある行動に出る。

「…万里花!」

「え…あっ」

優しく、全身を包み込むように、抱きしめた。

そして言葉を続ける。

「俺、さっき小野寺の誘いを断った後、1分間だけじっとしててって言われて、こんな風に抱き付かれて、首筋に口付けをされたんだ。…しかも、結構じっくりと。」

敢えて、先程の出来事をありのままに話す楽。

「正直、最近になって万里花に気持ちが傾くまで、俺はずっと小野寺を好きだったってことを考えたら、振りほどけなかった。だからせめて、この後万里花にありのままに伝えようって思ったんだ」

「…は、はい…」

万里花の顔は、切ないような、泣きそうなような、色々な感情が混ざった表情を浮かべていた。

「それで、同じことを、俺が、万里花にしよう、って。今からでもまた、二人の頭の中をお互いのことだけでいっぱいにしようって思った。…んっ」

「ひゃっ…」

楽は言葉を終えると、万里花の首筋に優しく口付けをした。

そしてゆっくり、ゆっくりと、舌を這わせる。

 

「もう、俺はおまえのことしか考えない。おまえの頭の中も、俺のことでいっぱいにしてやる」

「ん…ふあ…は、はい…っ」

楽はそう言うと、その後数分間、万里花を抱きしめ、口付けを続けた。

 

そして数分後。

「…んっ…ふうっ…んっ…んんっ…ら、らっくん…」

「どうした…んっ」

万里花の言葉に応じながらも、舌を這わせるのをやめない。

「あ、あんまり続けられると…も、もう、おかしく…なっちゃいま…んんっ…!」

「…あっ」

楽は気付いていなかったのだが、少し前から、万里花は数秒に1回程の頻度で度々ひくついていた。

楽としては、先程の言葉の通りお互いの頭をお互いのことで埋め尽くすつもりでやっていたのだが、行為自体は性的なものである。当然の結果だった。

「わ、わりい!つい夢中になって…」

「…もう、らっくんったら♪」

「はは…そろそろ、行くか?」

楽は万里花から離れると、穏やかな口調で言った。

「…はいっ♪」

そして、二人は手を繋いで、観覧車へと向かった。

 

 

一方その頃。

小野寺は4人と合流していた。

「…はあっ…はあっ…ただいま!」

「よくやった…よくやったわ、小咲。あんた頑張ったわ…!!」

るりが号泣している。

普段あまり感情を表に出さないるりの行動に、一同は驚いた。

「しかし、小咲ちゃん…やるわね。演技も自然だし、やることが大胆だし。」

「そうですね。わ、私など、勢いに任せて…あわわ…」

鶫は自分の行動を思い返して、顔を赤くしている。

「そ、そんなことないよ…ただ、ずっと好きだった一条君に、どうしたら私に気を向けてもらえるか、一生懸命考えただけだから…♪」

そう言った小野寺の笑顔は、達成感によるものか、きらきらと輝いていた。

「う…ま、眩しい…!!小咲ちゃん、まぶしいよ…!!」

「え、え、ええ?そ、そうなの…?」

「そうですよ、小野寺様!今の小野寺様は、いつにも増して輝いています!!」

千棘と鶫の二人が、全力で褒めちぎる。

「あ、ありがとう…。」

たはは、と笑いながら、小野寺はお礼を言った。

「よーし、じゃ、最後はあの観覧車を覗きに…って、あれ、宮本さんと舞子君は…?」

千棘が振り向くと、そこには小野寺と鶫しかいなかった。

「あれ?ついさっきまでここに居たのに…あ、で、でも今は取り敢えず観覧車を見に行こうか…?るりちゃんと舞子君なら心配要らないしね♪」

「そ、そうですね!では、3人で向かいましょう!」

「よーし、行ってみよー!」

そう言って、千棘・小野寺・鶫の3人は観覧車に二人の様子を覗きに向かった。

 

 

 

続く。




なんか妙にシリアス感が出ているような感じになりました。
早くゴリライジりしたいなあ←
しかし、絶対必要な描写なので、出来るだけしっかり書きました。

今回の千棘・鶫・小野寺の3人の勇気ある行動は、今後の展開に必要だと思い書きました。今は切ない!今は!!
3人がそれぞれショックを負って悩むよりは、スクラムを組んだ方が何かと前向きになりやすいなと考えたのもあり、今回のような展開となりました。

次回はいよいよーーーいよいよだーーーー
ちなみに前回と今回のお話は、日曜の時点で予約投稿したものです。ナレーション部分がすいすい書き進められました。勢いが出るときってあるもんですね。


それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!
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