第44話「テレテレ」
デート明けの月曜日。
朝、学校へ行く準備をしながら万里花は考えていた。
「ああもう、昨日一昨日となんて楽しかったのでしょう…!!これで私とらっくんは晴れて恋人同士…!」
ありったけ浮かれて転がっていた。
しかし、不意にぴたりと止まった。
「恋…人…?あれ…私、学校ではらっくんとどう接したらいいのかしら…?あれ、なんだか急に恥ずかしく…あれ、あれれれ…!?」
二人きりのときは嬉しさが先行して深く考えていなかったのだが、いざ学校で他の人がいる前で楽と接する、と言う状況は、正直どうしたらいいかが分からなかったのである。
お互い初めて出来た恋人なのだから、当然と言えば当然なのだが。
「はわ、はわわわ、どうしましょう…」
途方に暮れながら、学校へ向かった。
そして教室に。
楽は既に教室に来ていた。
「万里花…早く来ねえかな…。…あ、今はそれより、あいつらと会ったときどう接したらいいんだろう…?」
楽は、万里花とのデートとの際に千棘、鶫、小野寺から思わぬアプローチを受けたことを思い出していた。
鈍いにも程がある楽からしても、あのときの3人の行動は自分にあるからとしか考えられなかった。
万里花と二人きりのときはそのことを一度完全に忘れていたのだが、ここに来て色々と冷静になったのである。
「…な、なんか、逆ギレでぼこぼこにされる気がしてきた…」
今までのことを考えると、割と有り得そうな予想であった。
そのとき、教室のドアが開いた。
「あら、おはよう、ダーリン」
入ってきたのは千棘だった。
「お、おう、おはよう」
楽はどんな態度で臨めば良いか分からず、浮ついた返事をする。
「ふふ、どうしたのよ?朝からそんなふわふわして」
それを見た千棘は、ふふっ、と笑った。
「(あ、あれ、なんか普通だな…)だ、だってお前、土曜日のとき…」
戸惑いながら、歯切れ悪く言葉を口にする。
「ああ、そのこと?ばかねえ、そんなに気にすることないのに♪」
「…!」
にかっ、と笑ったその笑顔に、楽は少しどきっとした。
そして、千棘の表情が、穏やかながら真剣なものに変わる。
座っている楽の下に歩み寄り、顔をすいっと近づけた。
「…私がやりたいからやった、ってだけよ。…いや、だった?」
切ない表情だった。
「…あ、いや、別にいやとかでは…ないけど…」
戸惑って、顔を赤らめながら答える。
「…そ、なら良かった♪じゃ、今日もよっろしくー!」
ばちーん、と楽の肩を叩いた。
「いってえ!ったく、なんなんだよ…おう。」
ころころ変わる千棘の表情に、終始振り回される楽であった。
がららっと教室のドアが開く音がした。
「おはよう、一条楽」
入って来たのは、鶫だった。
「お、おう、お、おはよう」
先ほどの千棘との会話もあってか、更に浮ついた返事をする楽。
「…ふふ、どうしたんだ?そんなに慌てて」
鶫がにこやかに微笑む。
「(んなっ…千棘と言い鶫と言い…どうしちまったんだー!?)」
内心、慌てふためく楽。
「い、いや、ほら、さ、土曜日のとき…万里花に連れて行かれた後、お前の様子を見れなかったけど…大丈夫だったのか?」
「ああ、そのこと…か…」
話しながら、鶫の顔がみるみる真っ赤になる。
「…あ、あのときは…危うく、何かに目覚めそうになった…あ、いや、なんでもない、なんでもない」
「え、何に目覚めかけたんだ?」
何が起きたかも分からない楽にとって、自然な質問だった。
「え、あ、その、…えいっ」
「んがっ!?」
穏やかな口調のまま、楽の首に手刀を打ち下ろす鶫。
「いや、なんで急に襲ってくるんだよ!?」
「あ、その…記憶、飛ばないかなー、と思って…」
さらりと恐ろしいことを口にする。
「飛ばねえよ!下手すりゃ魂が飛ぶわ!!…万里花とのことも聞きたかったけど、その前の…あれはなんだったんだよ?」
鶫の、楽に対する濃厚な責めについて触れる。
質問を聞くなり、更に真っ赤になる。
「あれは元々やろうとしていたことがおまえを前にして舞い上がりすぎたことにより更にひどいことになってしまったのだしょうがないだろうやりたかったのだからさあ記憶を飛ばせー」
「んがっ!?だから手刀すんなっつの!あとすげえ饒舌にカミングアウトしたな!?」
動揺しすぎたのか、ありったけ正直に答えてしまった。
「…せいっ」
ぼごすっっ
「おふうっ!?」
楽の肩と首の繋ぎ目に斜めの角度で手刀を振り下ろすと、逃げるように去った。
「な、なんなんだ…よ…がふっ」
撃沈。
「…はあ、やっと落ち着いた…ったく…」
首を抑えてため息をつく楽。
そこへ。
「お、おはよう、一条君!」
小野寺が現れた。
「お、小野寺。おはよう」
少し浮ついた挨拶をしてきた小野寺を見て、楽は少し落ち着いた。
「…」
「…」
一瞬、お互い沈黙する時間が入る。
「お、小野寺」
「な、なに?一条君…?」
小野寺はそう言うものの、実際のところ、何を聞かれるかはわかりきっていた。
「ど、土曜日のことなんだけど…」
戸惑いながら尋ねる楽を見て、小野寺は顔を赤らめて俯く。
「…って」
「…え?」
小声で、恥ずかしそうに、ぽそぽそっと何かを呟く小野寺。
思わず楽は聞き返した。
すると、小野寺はすっと顔を上げた。
笑顔。しかし、どこか覚悟を滲ませた顔だった。
「…もうちょっと、自分の気持ちに…正直でいようと思って。」
「…!」
小野寺の言葉に動揺する楽。
「…えへへ、ごめんね、急にこんなこと言って♪じゃ、今日もよろしくね、一条君!」
「あ、ああ…」
戸惑う楽を尻目に、小野寺はその場を後にした。
「…な、なんだ、俺の周りで一体何が起きてるんだー!!?」
心の中で叫び声を上げる楽であった。
「なんでみんな…このタイミングで…?」
楽が悶えていると、万里花が入ってきた。
「お、おはようございます…らっくん♪」
「(あれ…?)おはよう、万里花。」
楽は万里花の様子が少しおかしいことに気付く。
ちなみに、日曜日一日一緒に過ごした際に、呼び名はもう、人目を気にせずに固定することにしていた二人。
この呼び名の違いに、千棘・小野寺・鶫の3人はしっかり気付いていた。
「万里花…どうしたんだ?なんか元気ないぞ?」
楽はそう言うと立ち上がり、万里花に近づく。
すると万里花の顔はみるみる赤くなった。
「ななななんでもないですわ、らっくん!ほーら私、この通りぴんぴんしておりますよ♪」
そう言って腕をぶんぶんと振る万里花。
確かに、ぱっと見ではそんなに健康を損ねているようには見えない。
「(なんかこの仕草もかわいいな…)そうか…ならいいんだけど」
「なによ、あんたたち?いつもなら万里花が抱きついて、楽をぶっとばす流れでしょ?」
千棘が会話に入って来た。
「そんな辛いテンプレートになってたのか!?」
千棘の言葉にすかさずツッコミを入れる楽。
「(は…!そ、そうですわ、いつも通り振る舞いませんと…!)」
千棘の言葉を聞いて、なんとか誤魔化そうと考える万里花。
「わ、わ、わ、わかってますわよ…らっくん♪えーいっ!」
「うおわっ!?」
ばたーんっっ
慌てたように万里花が楽に突っ込んだため、二人は一緒に思いきり倒れ込んでしまった。
「ちょ、ちょっと大丈…ぶ…」
「…うーん…うおえ!!?」
慌てて千棘が駆け寄ると、楽が足を開いて状態になっていて、万里花の顔が楽の股間の前にある状態になっていた。
「はわ、ほわわわわ…」
万里花は両目をぐるぐるとさせながら、顔を真っ赤にしている。
「な、な、な…なーにやってんのよー!!!」
どかっばきっどこどこどこっっっ
「俺ーーー!!!?」
千棘の理不尽な攻撃をありったけ食らう楽なのであった。
「う、うう…らっくん、ごめんなさい…」
「いててて…いや、いいよ。気にすんな」
そう言って万里花の頭を優しく撫でる。
「…♡」
何も話さぬまま、万里花は楽を見つめながらぽーっと顔を赤くした。
「(…ああもう、かわいくてしょうがねえな…)」
ここが学校であることを、心底もどかしく思う楽であった。
休み時間。
「一条君、さっきのこの英文ってさ…」
「楽、あんたお昼はどうするの?」
「おい、一条楽、数学の宿題はやったのか?教えてやらんでもないぞ…」
「うお、ええ!?3人ともどうしたんだ!?」
小野寺・千棘・鶫の3人が三者三様に楽に話しかけてきた。
今までにない事態に、楽は戸惑いを隠せないでいる。
「ええっと、小野寺が何の話だっけ?ああ、この英文はな…」
「昼?(万里花とってさらりと言いづれえな…)どうすっかな…」
「あ、数学のは…後で1問だけ見せてくれるか!」
わちゃわちゃとした中で、なんとか応じて行く楽。
ふと、大事な人が足りないことに気付いた。
「(あれ、万里花は…?)」
楽がきょろきょろと辺りを見渡すと、楽の後ろの方でもじもじとしている万里花を見付けた。
「万里花ー?どうしたんだ?」
「!あ、らっくん、そ、その、なんでもないです…」
顔を赤らめて、しおらしく遠慮してしまった。
「(…話したいけど、ああいう万里花も普段とのギャップがあってたまんねえ…)」
内心悶える楽であった。
昼休み。
万里花の異変の理由を聞きたかった楽は、さりげなく皆から離れ、万里花と屋上へ来ていた。
「…ったく、どうしちまったんだ?万里花。ずっと様子がおかしいじゃねえか」
楽が頭をぽりぽりと書きながら、万里花に尋ねる。
外はぽかぽか陽気の、良い天気であった。
風も比較的涼しく、心地いい。
「ご、ごめんなさい、ご心配をおかけして…」
「体調が悪い訳じゃないんだな?」
「だ、大丈夫ですよ!♪」
「本当か?熱は…と」
そう言うと、楽は自分のおでこを万里花のおでこに当てた。
そして、万里花の目をじっと見つめる。
「ほわあっ!?」
楽の行動に対して、思わず驚きの声を上げてしまう万里花。
「!?ど、どうしたんだ!?」
「…あ、あんまり、見んでくれんね…はうう…」
顔を真っ赤にして俯く万里花。
「(…かわいすぎて死ぬ…鼻血出そう…)」
まだ原因が分かっていない楽としては迂闊に万里花に触れないと思ったのだが、万里花の仕草のあまりのかわいさに内心、興奮で爆発寸前だった。
「…こほん。…で、理由はなんなんだ?」
取り乱したもののなんとか体勢を立て直す楽。
もじもじとしたまま、万里花は答え始めた。
「す、すみません…その…今までは、らっくんのことが好きで好きで、でも周りにはかわいいライバルがたくさんいて…だからこそ、あの方たちに負けじと抱きついたり色々なことをしてたんですけど…今はもう、その、恋人になることが出来て…も、もう、らっくんのことが前よりもどんどん好きになってきて…本当に、好き…すぎて、他の皆さんがいる前でどうしたらいいかわからなくて…」
「…!!(なんだそのかわいすぎる理由はーーー!!?ここに来てそんなかわいさを出してくるとか反則すぎるだろーーーー!!!!!)」
楽の手がわきわきし始める。
許されるなら好き放題悶えて、屋上を転げ回りたかった。
そんな楽の葛藤に気が付かない万里花は、言葉を続ける。
「授業中も…その、らっくんの背中を見つめては恥ずかしくなってしまって…。でも、それでも見ていたいから見て、それでまた恥ずかしくなって…ど、どうしたら…」
「(誰か俺に、行って良いよって言ってくれ、頼む。かわいすぎる…!!!)」
心の中で悶えすぎておかしくなる楽。
しかし、なんとか心を落ち着けて、万里花の頭をぽんぽんと撫でた。
「やりたいようにやればいいだろ?俺とおまえは、恋人なんだぜ?フォローならいくらでもするからよ♪」
にかっ、と笑った。
それを聞いた万里花は、ぱあっ、と表情が明るくなった。
「そ、そうすると…私、皆さんの前であっても服を脱いでしまうし、らっくんを脱がせてしまうのですが…それでもよろしいので!?」
ものすごく意気揚々と聞いてきた。
万里花の目は輝いている。
「んなーーー!!?そ、それは流石に…まずい…」
戸惑いながら返事をする。
「…ふふ、流石にこれは冗談ですよ♪…もし、本当に言って頂ければいつでもしますけど♪」
「ちょっと待って後半何て言ったの気のせいかな」
万里花の言葉に激しく動揺する楽。
「うふふ♪…あなたがお望みであれば、いつでも、どこでも、どんなことでも、…どんなに恥ずかしいことでも、して差し上げますよ、と言ってるんです♪」
たまらない言葉を、かわいらしい笑顔で言われた。
「…ごめん、ちょっと鼻血が…」
「あら!大丈夫ですか?ティッシュを…」
当然の反応であった。
楽が鼻血を止め、ふと前を見たときそこに居たのは、元気を取り戻した、いつもの万里花であった。
「うふふ♪…こーんなに反応してくれて、万里花は嬉しゅうございます…♪」
そう言って微笑む万里花。
「…抱きしめていいですか…もう我慢出来ねえ」
「あら♪我慢なさっていたんですの?いくらでもどうぞ♪」
そう言って、二人は優しく抱きしめ合った。
時間帯は昼下がり。校庭でサッカーをして遊ぶ男子生徒の声が聞こえていた。
後日。
「らっくーん♪おはようございます♪」
だだだだだっっっ
ばきっっっ
「ぐほっ!?」
万里花が元気よく楽にタックル、もといハグをしてきた。
「こ、ここまで戻らなくても…」
楽は首が曲がったまま言う。
「うふふ♪私、らっくんにもっと好きになってもらいたいですから♪それに…これだけじゃ、ありませんよ?」
そう言うと、万里花は辺りを見渡し、誰もいないことを確認すると、楽にさらりとキスをした。
「…?…!?…えええ!?」
一瞬視界が塞がったこともあり、反応が遅れる楽。激しく動揺した。
「えへへ…♪これからは、隙を見て出来るだけキスしちゃいますね♪」
「んなーーー!!?…い、良いかも…」
まんざらでもないを通り越して、真っ正直に答えた。
「うふふ♪…先日のもじもじした私、いかがでしたか?」
不意に話を持ち出した。
「え?あ…正直、見慣れなさすぎてすげえ新鮮で…すげえかわいかった」
「…嬉しいです♪じゃあ、時々切り替えてみますからね♪」
「そんな器用なこと…」
「あら、見たくありませんの?」
「…見たいです」
「よろしい♪…んっ♡」
いつものやりとりをした後、もう一度だけ、キスをする楽と万里花であった。
続く。
気付いたら、楽がべらぼうに悶えてました(笑)
千棘・小野寺・鶫の行動も、今後に繋ぐための大事なポイントとなっています。
今週のジャンプで、良い意味で拍子抜けしました。まだしばらく続いてくれそうですね(^^)
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!