空が崩壊する前に 作:極楽浄土
イイオンナ姫子と、あんま良くない女
このクラスになって、二度目の席替え。叶うなら廊下側の席がいいな、心の中で何度も祈って、くじを引いた。
恐る恐る紙を開いて、でてきた数字は、17。微妙。別に良くも悪くもない席。廊下側でもないし、窓側でもない。本当に微妙だ。
心の中で少し落胆して、私は自分の席に戻った。
隣は誰だろ。出来れば喋れる人がいい。ペア活動の時とか喋らない人いるから気まずいんだよな。
そわそわとするクラスの皆はとても楽しそうに見える。くじを引いて、キャーと甲高い声をあげる女子生徒達。きっと、アリーナかな。うおっ、とか、まじかよとか声に出しながらくじの結果を見せ合いっ子する男子生徒。まさに青春って、感じ。
私にも、友達がいれば少しは学校に馴染めたのだろうか。
いつまで経っても、学校に馴染めない私を心配する親には申し訳ない。
「皆くじ引いたな。それじゃあ、荷物もって移動ー」
先生の合図と共にみんなが動き出す。私も同じように、席を立って、予め出しておいた荷物を持った。元の席にさよならを告げて、3歩くらい歩いた時だった。ふと、思い出した。
あ、机に落書きして消すの忘れてた。
⋯⋯まぁ、次使う人にはごめんだけど、もう時間もないし、そのままでいいや。
ちらっと机を見てみれば、本当にグラフィエ学院の生徒ですかと疑う程に下手な落書き。やばい消したくなってきた。
時すでに遅し。私の元の席に、キラキラオーラを放つ女子生徒が座った。
あ。もうどうでもいいや。
くじで引いた席に荷物を置いて、席に座る。隣を見てみれば、空席。あぁ、そうだった今日は休みが多いんだ。
じゃあ、目の前の人は。
⋯。
まじかよ。
「まじまじ!」
「もうほんと最悪なんだけど! むり!」
まさか、あの姫子サンが前の席だなんて。
水に滴る彼女を見ながら、席替えのことを思い出した。
天真爛漫で、100人中100人が、美人と答るほどに美しい。そんな姫子サンが、川に落ちてるなんて、私でも情けない声を上げてしまうほどにびっくりした。後輩にも同級生に慕われてて、みんなの憧れ姫子サン。水に滴るいい女、という言葉は、まさにこの人のために作られたのだろう。絵になるなぁ。
私がぼーっと見つめていたら、姫子サンは微笑んだ。
「そんなに見つめられたら、顔に穴が空いちゃう。ふふっ」
すき。
何この人ちょーかわいい。なんで今まで気づかなかったんだろう。めっちゃ近くにいたよね。前の席に座ってた。めっちゃいい匂いさせながら、めっちゃいい女の雰囲気出しながら、私の前に座ってましたよね。字もめっちゃ綺麗で、運動神経も良くて、絵も上手くて、所作全て美しい姫子サン。ずっと怖いって思ってたけど、全然そんなことないんだ。可愛い。
私が思う姫子サンは、ぶっ飛ばしていくぜ! とか。エンジン全開で、止まる時は絶対になにかにぶつからないと止まらなさそうって思ってたのに。
なんだ。ただの可愛い女の子じゃん。
てか、私姫子サンのことよく見てるな。自分でも、気色悪いなと思ってしまった。
「あ、ハンカチドウゾ」
「ありがとう。⋯あんたの方は大丈夫? 胸倉を掴まれてたでしょう?」
「大丈夫⋯⋯」
私がチンピラに絡まれているところを、ちょうど姫子サンが通り、チンピラ共を鳩川に投げ落とした。だが、姫子サンも落ちてしまった。
私は何ともなかったが、姫子サンは全身びしょ濡れになって、水も滴るイイオンナとなったのだ。
「ありがとう。無量塔さん⋯」
こんな陰キャの私を助けてくれるなんて。姫子サンはオタクに優しいギャルほど生まれてくる確率が低そうなのに、私ってラッキーだな。
そうだった、昔から運だけは良かった。
「どういたしまして。ハンカチ洗って返すわね」
「もういらな─⋯洗わなくだいじょ─⋯⋯⋯ありがとうございます」
べ、べべべ別に、姫子サンの肌に触れたハンカチが欲しいとか思ってないしー。
「つかぬ事をお聞きしますが、無量塔さんの家ってここから近い⋯⋯ですか?」
「えぇ、ここから五分くらいかしら。⋯別に敬語じゃなくていいわよ。私たち、クラスメイトでしょ? それと、無量塔さんじゃなくて、姫子って呼んで欲しいわ」
「姫子⋯」
「ふふっ、よくできました」
───ダメだ。この人といると情緒がおかしくなりそう!
イイオンナは陰キャに近づいちゃいけないんだ。
殺しに来てる。確実に私を殺しに来てる!
メロメロになる前に逃げなきゃ!じゃなきゃ死ぬ!
「その本当にありがとうございましたそれではさような───」
「──待って」
「へっ、」
「連絡先交換しましょ?」
「な、なんで?」
「あんたともっと話したいから」
「話したいから⋯⋯」
「そう。スマホスマホ⋯⋯あっ」
「ま、まさか⋯⋯⋯⋯」
「水没しちゃって電源つかないみたい⋯残念だけど、連絡先はまた今度ね 」
「弁償させてくださいッ!!」
すいませんしたァァァァアアア!!!!!