スケベがオラリオを救いに行くらしい。   作:竹馬噺

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まーたまたま新しいの投稿したよ、コイツ(さくしゃ)。



一話【変態、クル!】

 

 ──【来訪者(ストレンジャー)】。

 

 数年前に初めて存在を確認された、潜伏者や征服者とも呼ばれる、異邦にして異物の神性。或いは、それに連なる怪物ども。

 それぞれが別の思想に基づいて行動しているのは確かで、被害の規模や事件の性質も点でバラバラ。

 好き勝手に蠢き、地上を食い物にしている彼らへ、正確な対処が出来る人物は非常に限られている。

 

 かれらは潜む。人体や建物、迷宮の奥深く、そこにいるとは思わない所に確かに居る。

 かれらは喰らう。人の肉、心、闇、狂気、絶望。大勢が見捨てたモノを、見たくないモノを。

 

 かれらは降りる。

 かれらは征する。

 かれらは変わる。

 かれらは長じる。

 

 しかし、かれらは見える。匂える。触れる。聞こえる。味わえる。

 とうてい抗えない存在ではなく、対策次第で被害を抑える事が出来る。

 研究と試行、強靭な精神を持ってして、深淵を覗き続ける者は、確かにいる。

 

 そして、それこそが純白の騎士服に身を包む、白妖精の少年──ディーの仕事だ。

 

「──こぉぉぉお」

 

 がたがたと揺れる迷宮都市(オラリオ)行きの馬車の中、肩甲骨まで伸びた白髪の三つ編みを振り乱し、ディーはいにしえっぽい呼吸で精神統一を図る。

 その紅の瞳は爛々と燃え盛り、白磁の様な頬は紅潮していた。狙うは堅牢な防壁に隔てられた宝物、人類の(ユメ)桃源郷(ユートピア)

 

 間違いなく、今までの中で最難関の仕事になるだろう。

 

「……ふぅううう」

 

 対するは水色の髪と瞳が特徴的な、スッキリとした目鼻立ちの知的な雰囲気の美少女。眼鏡の奥から覗く眼光は、もはや物理的な圧力を持つほどで、馬車内の空気をギシりと軋ませる。

 ディーが宝を狙う盗人ならば、さしずめ少女は守護者であろうか。

 ごくりと、誰かが息を飲んだ。同じ派閥(ファミリア)の仲間達が二人を囲い、勝負の行方を見守っていた。

 

「「最初はグー!」」

 

 次の一瞬。二人は示し合わせた様に、同時に右手を振り被った。

 

「「じゃんっけんっ!」」

 

 ディーは祈る様に目を閉じ、掛け声と同時に夢中で右手を繰り出した。

 

「「ぽぉんっ!」」

 

 ディーが差し出したのは、グー。

 産まれたての赤ん坊が無意識に手を握り込む様に、研ぎ澄まされた本能はその形を良しとした。

 

「「「……っ!?」」」

 

 訪れた決着の時。

 かけ声の残響が耳に残る中、周囲から動揺の気配を感じる。ディーは恐る恐る瞼を開き──拳を高く振り上げた。

 

「──ぃぃいいやっふぅぅうううう!俺の勝ちー!俺の勝利ぃぃいやっはぁああ!」

「いやぁあああああああ!?」

 

 少女の勝負手はチョキ──勝ったのは、ディーだ。

 果たし合いの結果、守護者は盗人の前に破れ去った。

 

「チョキ……ちょきぃいい!」

「はぁーっはっはっはぁ!やっぱり男は黙ってグーなんですわぁあ!」

 

 少女が己のチョキを見つめ、崩れ落ちる様を眺めながら、ディーは勝利の興奮で高らかに笑った。

 周りからの「うーわ」と言わんばかりの、非難の視線が心地よい。勝者とは嫉妬を悦に変える者。あっち側に辿り着いたのは、下衆だった。

 

「さァて……アスフィちゃんよぉ……」

「ひっ……!」

 

 ディーはゆらりと、幽鬼の様に少女──アスフィへと近づく。

 うっすらと涙を浮かべ、己の体をかき抱くアスフィは、まるで陵辱を受ける寸前の姫の様であり──実際、その通りであった。

 ディーは意気揚々と震える乙女へと指を突き付け、笑みと共に告げる。

 

「ヤキュウケンの掟に従い──脱げっ!アスフィ!」

「い、イヤっ!イヤーッ!」

 

 ヤキュウケン──ディーが世話になっている神に伝授された、天界で空前絶後に流行っているらしい遊戯。

 初めて存在を知った時、精通が来た瞬間かのように痺れたのを、よく覚えている。

 

 ルールは非常にシンプル。

 『じゃんけんする』

 『負けたら脱ぐ』

 『裸になったら負け』

 以上、三つのみ。

 

 エッチだ。

 それでいて洗練されている遊戯だ。

 考えた奴はとんでもない天才(スケベ)に違いない。

 ジロリとアスフィを見れば、年頃の男子には中々刺激の強い生白い肌が惜しげもなく晒されている。

 彼女の残りの残機は、シャツとハーフパンツ。あとは上下の下着のみである。

 つまり──

 

「長かったぜェ……遂にアスフィの下着を拝むことが出来る!」

 

 ルール上、アスフィは下着を晒すことが確定してしまったのだ。

 

 ディーは怯えるアスフィへギラついた目線を向けながら、鼻息荒く拳を握り込んだ。

 親しい間柄な事はマイナスではなく、むしろ背徳感というフレーバーとなっていた。

 というか、自分が脱がすのだと思うと、感動すらも湧き上がってくる。

 

「ううううううう!」

「可愛く睨んでもダーメ!そもそも、そっちが仕掛けた勝負なんだから、責任はとってくれねぇとなぁ!この膨れ上がった期待のよォ!」

「いやぁっ!そんな汚いモノを近づけないでっ!?」

「馬鹿タレ!聖樹の枝より神聖だわっ!」

 

 ディーはくいくいと股間を強調しながら、蟹歩きでアスフィの周りをぐるぐる回る。

 これは格付けなのだ。

 愚かにもヤキュウケンを仕掛けて来た少女への分からせであり、教育(マウント)なのだ。

 嫌がる乙女への変態行為(セクハラ)に、「ああ、アスフィ……!」「哀れな」「げ、下衆だ……見た事のねぇ下衆だ」「ううう、おいたわしや」と、観客に徹していた仲間達から次々と非難の声が上がるが、意に介さない。

 

「黙らっしゃい野次馬ども!これは勝者の特権なの!リスクを恐れずに進んだ報酬なの!オープンにスケベを見せた俺の成果なの!」

 

 というか、とディーは崩れ落ちたままのアスフィの周囲を見やる。

 

「この鬼畜の所業に文句一つ言わなかっただけ、俺ってかなーり聖人だと思うんだが?」

「……うっ」

 

 呆れた様に言えば、アスフィはバツが悪げに呻いた。

 馬車の床には、アスフィが脱いだ衣服の数々が散乱していた。

 上着だけでも包装紙の様な薄さのものが3着あり、彼女の脱ぎたてソックスに至っては、実に10足もある。

 公平性の欠片も無く、確実に嵌める気で勝負を仕掛けたのは明白だろう。

 怒涛の19連勝で破壊しなければ危なかった所だった。また、同じ事をされたら困るので、靴下は全て没収する事とする。

 まったく、古今東西、真の悪とは被害者面するものだと、アスフィを見てしみじみと思う。

 

「悲しいなァ〜アスフィが服を脱ごうとしないなんてなァ〜!俺が負ければ真面目に働いて、アスフィが負ければ特にないけど、途中やめは無しって約束したのになァ〜!」

 

 ディーは哀しげに、芝居がかった仕草で被害者面して大げさに嘆く。

 途中でアスフィへとチラリと目配せすると、ぐぎぎぎ、と耐える様に歯軋りしているのが見えた。

 普段から上司(かみ)に振り回されている真面目な少女は、自分がそれに近い事をするのを酷く嫌っている。

 言ってしまえば、良い子ちゃんなのだ。

 

「……わ、わかりました、約束は約束ですもの!」

「〜♪イイねぇ」

 

 やはり、真面目(チョロい)

 アスフィが立ち上がるのを見て、ディーは口笛で囃し立てる。

 

「脱ぎますっ。脱げばいいんでしょうっ」

 

 言うや否や、アスフィはそう言うと、ショートパンツに手を掛ける。

 

「クル……!!」

 

 瞬間、ディーの体が閃くように動いた。

 

 『聖なる角度(ローアングル)

 

 純白の騎士服が汚れる事を一寸も考慮せず、ゴキブリの様に地に伏せ、その瞬間を見逃さない様に眼を見開く。

 

「「「うわぁ……」」」

 

 仲間がドン引きしていようが、彼女が恩人で大切な仲間であろうが、スケベの前では些事である。

 脱ぐ前よりも脱いだ後よりも、脱ぎ始めの瞬間が一番クルと、エロの師匠が言っていたから。

 

「……」

「……」

「…………」

「…………」

 

 脱がない。顔真っ赤のまま動かない。

 アスフィの両手がゆっくりと、シャツの裾へ移った。

 ディーは頷いた。おっぱいか、それもよかろう。

 下乳は良いものだと、エロの師匠が言っていたから。

 

「……っ!脱ぎますっ!」

「クル……!!」

 

 その瞬間を見逃さない様に眼を見開く。

 だんだん増えていく肌色領域に、人類の業が詰まっていると、エロの師匠が言っていたから。

 

「「…………」」

 

 脱がない。また動かない。

 がたんごとんと、馬車が轍を刻む音を聞くだけの時間。振動で頬が擦れる。

 ディーはハァとため息を吐き、やれやれと立ち上がった。

 どうやら、尻を叩いてやらねばならないようだ。

 

「おいおい、アスフィちゃんよ〜恥ずかしいのは分かるけど、速く脱いでくれって。ブラとパンツ、俺はどっちでもいーんだぜ?ブラで飾られた慎ましげなおっぱい(アーティファクト)と、可愛いらしいパンツに飾られた聖女領域(ホーリーゾーン)!どっちであっても俺が当分オカズに困らない事実は変わらないからなァ」

「こ、殺してやる……」

「んはははは!怖くねー!」

 

 アスフィの罵倒は身長差のせいか、涙目の上目遣いになっていて実に可愛らしかった。

 

「ほらアスフィ、はよ決めろ。こっちはもう待ちきれねぇぞ。ああ?それとも?決められないなら?俺が代わりに決めてやろうかぁ??

 ──おいアスフィ、上を脱ぐのか下を脱ぐのか、どっちなんだいっ!?煩悩(おちんちん)ルーレット、スタート!ぶるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……しぃーーーた!()ーーーッ!…んはははははは!した!下だ!パンツだアスフィ!パンツパンツパンツゥ!そら、俺が脱ぐのを手伝ってや──ンガっ!?」

「「「……あ」」」

 

 あれ、視界が、ぐるぐる、回って──

 

 

 

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