科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

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転生後闇堕ちの五十六手

 

 

 

 巨大ラボのさらに地下深く。強烈な消毒液と、金属が焼け焦げる嫌な臭いが充満する広大な『製造ライン』。

 そこには、マッシブ・ダイナミクス社のスパイ部隊を全滅させたあのデストラップハウスよりも、さらに悍ましく、さらに冒涜的な光景が広がっていた。

 

 天井から吊り下げられた無数のレール。そこを、ベルトコンベアのように一定の間隔で流れていくのは、全裸に剥かれた屈強な男たちである。

 彼らは皆、スラムの抗争で捕らえられた敵対ギャングの生き残りや、カルテルに借金を作って売り飛ばされてきた哀れな債務者たちだった。

 

「……おい、サイエン。いくらなんでも、こりゃあ悪趣味が過ぎるんじゃねえか?」

「そうかい? 俺からすれば、これほど無駄がなく美しくて、合理的な生産ラインは他にないと思うけど」

 

 見学デッキの上で、葉巻を握るカルロスの手が微かに震えている。

 彼が見下ろす先では、レールに吊るされた男たちが自動手術用のアームによって次々と解体され、()()()()へと組み替えられていく作業が淡々と進められていた。

 

 麻酔などという高価なものは使われていない。

 男たちは激痛に目をひん剥き、猿ぐつわ越しにくぐもった絶叫を上げている。だが、巨大な丸鋸が彼らの四肢を切断し、代わりに工場用の油まみれの油圧シリンダーや、分厚い鉄板を溶接しただけの粗悪な義手が乱暴にボルトで打ち込まれていく。

 

「先日遊びに来てくれたマッシブ・ダイナミクス社の部隊は、確かに強かった。一人数千万ドルもする高級なカーボン装甲に、精巧な人工筋肉。……でも、そんな高級品を揃えても、結局は俺たちの罠の前じゃ五分で全滅するオモチャでしかなかった」

 

 白衣の青年は、眼下で行われている人体改造の惨劇を、まるでオモチャ工場の見学でもしているかのようなキラキラとした瞳で眺めている。

 

「だから俺は考えたんだ。一体数千万ドルもするエリートサイボーグを五人作るより、スラムのゴミ山から拾ってきた廃材と鉄パイプで作った『百ドル以下のサイボーグ』を、五百人送り込んだ方がコストパフォーマンスが良いんじゃないかってね」

「百ドルの、サイボーグだと……? ふざけるな、あんなクズ鉄みたいな義手や義足をくっつけただけで、まともに戦えるわけがねえだろうが」

 

 カルロスが吐き捨てるように言う。

 確かに、今まさに製造ラインで生み出されているのは、サイボーグなどというカッコいい代物ではない。人間と鉄クズをガムテープとボルトで無理やり繋ぎ合わせたような、不恰好で醜悪な肉塊だった。

 あんな重くてバランスの悪い鉄の塊をくっつけられては、激痛と拒絶反応で立ち上がることすらできないはずだ。

 

「普通ならね。だから、彼らの脳髄には()()()()()()()()()()を施してあるんだ」

 

 青年はタブレットを操作し、製造ラインの最終工程の映像を空中にホログラムとして展開した。

 そこでは、極細のレーザーメスを持った機械アームが、男たちの頭蓋骨に容赦なく穴を開け、脳の一部を直接焼き切っている。

 

「恐怖を司る扁桃体と、痛覚の電気信号を受信する大脳皮質の一部を、レーザーで完全に切除した。ついでに、生存本能や躊躇いといった邪魔な感情も全部ゴミ箱行きさ」

 

 青年の涼しい声が、防音ガラスに反響する。

 

「彼らはもう、自分が撃たれようが、腕をもぎ取られようが、一切の痛みを感じない。死に対する恐怖もない。ただ、脳に直接埋め込まれた『敵を殺せ』という単純な命令に従って、バッテリーと心臓が止まるまで永遠に突撃し続ける。……名付けて、『CYBERPSYCHOSIS Unit(サイバーサイコシス・ユニット)』。痛覚と恐怖を削ぎ落とした、最強の量産型使い捨て兵士だ」

「……狂ってやがる。お前は人間の心を物理的に切り刻んで、ただの鉄砲玉の部品に変えちまったってのか」

「部品だよ。最初から最後まで、彼らはただの安い資源さ。マッシブ社のエリートどもが『戦術』で来るなら、俺たちは『暴力の数』で押し潰す。それが一番安上がりで、確実な報復だからね」

 

 ホログラムが消え、眼下のラインから最初の『完成品』たちが次々とコンテナへと放り込まれていく。

 麻酔なしの手術と脳の切除を終えた男たちは、先ほどまでの絶叫が嘘のように静まり返っていた。瞳孔は完全に開ききり、口の端から涎を垂らしながらも、彼らの肉体は異常な興奮状態にある。

 

 重すぎる鉄の義足が自身の骨を砕こうと、粗悪なモーターの熱が自身の皮膚を焦がそうと、彼らは全く痛みを感じない。

 ただ与えられた命令のままに、ギギギ……と不気味な駆動音を立てながら、コンテナの中で整然と直立不動の姿勢を保っていた。

 

「……これで、今月分の五百体は完成だね。さあ、出荷の準備をしよう」

 

 青年は満足げに手を叩き、コンソールルームの通信マイクをオンにした。

 

『リカルドさん、聞こえるかい? 商品の箱詰めが終わったよ。ダミー会社の輸送船を使って、太平洋の向こう側まで配送をお願いできるかな』

『……ああ、手配は済んでいる。マッシブ社の複数の兵器工場や研究施設に向けて、それぞれコンテナを投下する手はずだ。しかし、税関はどう誤魔化す?』

 

 スピーカーから、胃薬を噛み砕く音と一緒にリカルドの疲労しきった声が返ってくる。

 

『問題ないよ。コンテナの書類には、フィリピン政府公認の『医療廃棄物』とでも書いておけばいい。大統領府のシステムは俺たちが握っているんだ、適当に偽造パスポートと輸出許可証を出力しておいて』

『分かった。……神様、俺はいったいどれだけ地獄への切符を買えば気が済むんだ』

『神様なら、あの白黒のランドメイトを着てマニラ市街をパトロールしているよ。俺たちは悪魔なんだから、大人しく地獄の底まで付き合ってよね』

 

 通信を切り、青年は大きく背伸びをした。

 たった百ドルで作られた、痛みも恐怖も知らない五百体のサイバーサイコたち。それが夜の闇に乗じて、世界の海を渡ろうとしている。

 

「さて、と。彼らが海の向こうで暴れ回ってくれる間に、俺たちは次の仕掛けの準備をしようか」

 

 青年は、コンソールの脇に置いてあったルービックキューブを手に取り、カチャカチャと器用に面を揃え始める。

 

「暴力で施設を破壊するだけじゃ、一流の企業戦争とは言えない。物理的に叩き潰したあとは、彼らの財布とネットワークそのものを内側から食い破ってあげないとね」

 

 見学デッキの冷たい照明の下。

 人間の心を部品として切り売りする悪魔の少年は、次なる惨劇のシナリオを思い描き、世界で一番楽しそうにクスクスと笑い声を漏らした。

 

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