科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

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転生後二十一の手

 俺は、地下の秘密基地(ラボ)の中央コンソールに腰掛け、空中に展開したホログラムディスプレイを指先で弾いていた。

 

 画面には「絶対封印指定(ブラックリスト)」と名付けた真っ赤なフォルダが表示されている。

 

「ジャービス。俺の脳内にある『作れてしまうが、絶対に作ってはいけない技術』のリストを、データとして出力してまとめるぞ。データベースの領域を空けておけ」

『承知いたしました、ボス。しかし、ボスの並列処理能力であれば、わざわざ外部の記憶媒体に頼る必要はないのでは?』

「頭の中にあるとはいえ、こういった危険指定の情報は外部の媒体に視覚化(ラベリング)しておいた方が、論理の整理がしやすいんだよ。それに、万が一俺の判断力が鈍った時や、俺の技術を盗もうとする馬鹿がいた時のための『警告標識』でもある」

 

 俺はキーボードを叩き、最初のファイルをフォルダに放り込んだ。

 

「まずはこれだ。某『バイオハザード』シリーズに登場するような、菌類やウイルス系の生体改造兵器(BOW)。『特異菌(メガミセテ)』や『Tウイルス』の類だな」

『自己増殖と変異を繰り返すバイオテクノロジーですね。ボスのナノマシン制御技術を応用すれば、ウイルスの変異を意図的に固定化することも可能かと』

「物理法則と違って、生物の自己保存本能(バグ)は予測不能なエラーを吐きやすいんだよ。もしこの技術が世間にバレてテロリストの手に渡ったらどうなる? 爆弾と違ってウイルスは無限に増殖する。パンデミックが起きて世界の物流網が崩壊したら、俺の下に一生ピザの配達が来なくなるだろ。論外だ」

 

 俺はため息をつきながら、二つ目のファイルをリストに追加した。

 

「次はこれだ。『仮面ライダー一号』のショッカーがやっていたような、不可逆的な人体改造(サイボーグ)技術」

『有機的な神経網に、直接機械の人工臓器やリアクターを埋め込む技術ですね。兵士や労働者の生存率は飛躍的に向上します』

「絶対にやらないね。まず俺自身が痛いし、メシが不味くなる。さらに、これが国家や軍に知れ渡れば、人間を『交換可能なハードウェアの部品』として扱うディストピアが完成する。効率化の名の下に国民全員の胃袋をタービンに換装し始めたら、人類の食文化が終わる。美味い飯が食えない世界なんて守る価値がない」

 

 ホログラムの画面上に、次々と「DANGER」の警告マークが付与されていく。

 

『なるほど。では、機械化を伴わないアプローチはどうでしょう? MARVEL作品のキャプテン・アメリカを生み出した『超人血清(スーパーソルジャー・セラム)』のような、シンプルな人類の肉体改造薬であれば問題ないのでは?』

「あれは対象の『性質』まで増幅させる副作用があるからな。俺に使えば俺の性格の悪さが増大して親に勘当される。それに、もし一般社会に流通してみろ。その辺のチンピラや独裁者が全員キャプテン・アメリカの身体能力を手に入れたら、警察機構が機能不全に陥って毎日がアベンジャーズの市街地戦だ。安眠できたもんじゃない」

 

 ジャービスの提案を一蹴し、俺は四つ目のデータを引っ張り出した。

 

「次、『猿の惑星:創世記』に登場した『ALZ-112』。脳細胞を修復・活性化させ、動物の知能を人間レベル、あるいはそれ以上に引き上げるウイルス薬だ」

『知能の向上技術の、何が危険なのですか? 補助AIである私から見れば、人類および生物全体の知能の底上げは非常に合理的に思えますが』

「あのな、人間以外の種族に人権と知性を与えたら、確実に地球の支配権を巡る種族間戦争が起きるんだよ。近所の野良猫が徒党を組んで『チュール配給の義務化』を法的に要求してきたり、カラスが量子力学を用いて俺のゴミ袋のパスワードをハッキングし始めたら、防ぎようがないだろ」

 

 俺は「ALZ-112」のデータに、ひときわ大きなバツ印を付けた。

 

「知能ってのは、持つべき奴が持ってるからいいんだ。……さて、最後だ。今はまだ俺の演算でも再現には至っていないが、未来のいつか必ず直面するであろう究極技術」

 

 俺はコンソールの中央に、一つの架空の概念図を表示させた。

 

「『時間転送(タイムトラベル)』、およびそれに類する『因果律の操作(パラドックス・ハック)』だ」

『ターミネーターなどの作品で描かれる、過去や未来への干渉技術ですね。歴史の最適化が可能になります』

「だからこそ危険なんだ。時間を弄るっていうのは、宇宙というOSの基幹コードをバックアップなしで複数人で書き換えるのと同じだ。もし世間の連中がこの技術を持ったら、自分に都合の悪い歴史を消すための『編集のイタチごっこ』が始まって、宇宙のタイムラインが修復不能なバグを吐いてクラッシュする。過去の俺が母親に怒られた事実を消そうとして『俺自身が産まれない』バグを踏むのもごめんだ」

 

 俺はそこまで入力し終えると、ホログラムのウィンドウを空の彼方にフリックしてデータベースをロックした。

 

「物理法則を書き換えるのは『アップデート』だが、生物の理や時間を弄るのはただの『破壊』だ。俺はオタクとして、自分が快適にゲームをしてピザを食う世界を維持したいだけだからな」

『……しかしボス。既に空間の湾曲や常温超伝導を世界中にバラ撒いている時点で、社会への影響力は彼らと大差ないように思えますが』

「俺が配ってるのはただの便利な道具だ。使い道を間違えなきゃ世界は豊かになる。……あ、ヤバい。そろそろ夕飯の時間だ。母さんに怒られる前に、家の玄関の空間座標に転送しろ!」

 

 秘密基地の地下深く。

 

 宇宙の法則をハッキングする天才は、今日も自ら定めた絶対封印指定のリストを眺めながら、母親の雷という日常の脅威から逃れるために空間跳躍の準備を急いでいた。

 

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