科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

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転生後二十三の手

 

 

 

 首相官邸の地下深く、内閣情報調査室の特別分析班。

 

 分厚いファイルが長机に投げ出され、数名の分析官たちが疲労の色を濃くした顔を上げた。

 

「――以上が、現在ネット上で『天才科学者(笑)』を名乗る個人の、直近一週間の行動プロファイリングです」

「結論から言おう。彼は思想犯でも、テロリストでもない。極めて知能の高い、しかし精神的には極めて怠惰(たいだ)な一般の若者だ」

 

 室長はホワイトボードに、Kが投下した技術のリストと、その「使用目的」を並べて書いた。

 

 常温超伝導は「PCの排熱音がうるさかったから」。

 視線追従OSは「指で画面を触るのが面倒だったから」。

 

「彼の行動原理は『自己の快適性の追求』のみ。国家転覆などという面倒なことには微塵も興味がない。しかし、彼が欠伸(あくび)を一つするたびに、世界のパワーバランスが崩壊する」

「では、我々はどう対処すべきと? サイバー警察を総動員して、彼のアカウントを凍結し、身柄を拘束しますか?」

「馬鹿を言え。空間を湾曲させてワープする男をどうやって留置場に閉じ込める気だ。我々にできるのは『何もしない』ことだ」

 

 室長はホワイトボードのリストを指先で叩いた。

 

「いや、正確には『彼が不快に思う要素を、国家権力で人知れず排除する』のだ。海外の諜報機関が彼に接触する前に、国内の防諜網を最高レベルに引き上げろ。彼は『機嫌の良い神様』として、日本国内に留まらせておくのが最善の国防だ」

 

 

 

 

 

 一方、日本の経済界は未曾有のパニックに陥りつつも、一つの「台風の目」を前にひれ伏していた。

 

 国内主要企業のトップが集まる、経団連の緊急極秘会合である。

 

「……数ヶ月前に突如として現れた『黒川テック』。あの黒川社長の正体は、依然として不明なのか?」

「経歴は全てダミーです。しかし、彼らが市場に放った製品は()()だ。昨日発売された『常温超伝導モーター搭載の家庭用扇風機』……価格はたったの二万九千八百円。電気代はほぼゼロで、可動部の摩擦すら存在しません」

「うちの家電部門は昨日で死んだよ。黒川テックの下請けとして、扇風機のガワを作るだけの工場に成り下がった」

 

 重鎮たちの間から、深いため息が漏れる。

 

「我々が何百億円も投じた次世代プロジェクトが、あそこから毎週発表される『日用品のアップデート』のせいで次々と粗大ゴミになっている。あの黒川という男は、ビジネスマンではない。既存の市場を破壊して遊んでいるだけの化け物だ」

「だが、抗う術はない。彼の会社が特許のライセンスを格安で公開したおかげで、それに乗っかるだけで莫大な利益が出るのも事実だ。我々は黒川テックという巨大な神輿(みこし)を担ぎ、彼が次に何を放り投げてくるかを待つしかないのだよ」

 

 

 

 

 

 そして、海を越えたアメリカ合衆国。

 

 ペンタゴンの地下戦略会議室では、星条旗を背負った将軍たちが青ざめた顔でスクリーンを見上げていた。

 

「……信じられるか? 我々の戦略防衛システム(SDI)が、たった一人のハッカーに掌握され、五分間も『テトリス』の処理に使われたのだぞ」

「『日本の化け物』……。現在、CIAもNSAも、彼の特定を完全に放棄しています。彼が世界中にばら撒いた『無線給電レシーバー』の理論は、我々の最高の物理学者たちが徹夜で解読しても、三パーセントも理解できていません」

 

 国防長官が、重々しい口調で告げた。

 

「日本政府に圧力をかけ、身柄を引き渡させる作戦はどうなった?」

「不可能だと判断されました。彼は空間を湾曲(ワープ)させる技術すら保有しているとの情報があります。特殊部隊を送り込んだところで、海底の火山(マグマ)の中に転送されて終わりでしょう。そもそも、世界中のスマートフォン数百万台のOSを瞬時に書き換える存在を、どうやって軍事力で脅すと言うのですか」

 

 スクリーンに映し出された、笑顔のアイコン。

 

「あの島国は、核兵器など児戯に等しい『生きた抑止力(オーパーツ)』を手に入れたのだ。我々にできるのは、あの化け物がアメリカに牙を剥かないよう、日本にすり寄ることだけだ」

 

 世界は今、一人のオタクの怠惰な日常を守るために、必死に回り始めていた。

 






 泊まり勤務中なのでこれ以上の更新は今日はできンゴねぇ
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