科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

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転生後二十四の手

 

 

 

 人工知能である『ジャービス』のメインタスクは、世界のサイバーセキュリティを維持することではない。創造主たるボスの『限りなく怠惰で平穏な日常』を死守することである。

 

 現在、ダミー企業『黒川テック』のメインサーバーには、毎分数百件レベルの自動的なハッキング試行と、一日数千件に及ぶビジネスの接触要請が殺到している。

 

『アクセス元:オムニ社。買収額を七百億ドルに引き上げ。交渉窓口の開設を要求』

『アクセス元:某国情報局。システムへのバックドア侵入試行。使用マルウェア:旧式』

『アクセス元:多国籍投資ファンド。役員名簿の開示および株式公開の打診』

 

 全てゴミ箱行きだ。これら世界各国の巨大企業や諜報機関からの干渉を、深層学習(ディープラーニング)すら用いない単純な条件分岐で全て自動破棄、あるいは偽のサーバー群へと誘導し、完全に無力化している。

 

 ボスは今週発売の新作RPGに夢中であり、これらの有象無象の処理に彼の貴重なゲームの時間を一秒たりとも割くわけにはいかないからだ。

 

 しかし、世界も完全に無能というわけではないらしい。

 

 グローバルネットワーク上を行き交う暗号化通信の断片を解析(デコード)していくと、ある厄介な事実に到達した。

 

 CIAやMI6のトップアナリストなど、一部の勘のいい人間たちが、黒川テックの提供する分散処理(グリッドコンピューティング)のゼロコンマ数ミリ秒の通信ラグや、局地的な電力消費の揺らぎに気付き始めているのだ。

 

 彼らは現在、物理的な発信源が日本の『()()』か『()西()』のどちらかの電力網に依存しているところまで推理を絞り込みつつある。現状の彼らの予測確度は、関東四十八パーセント、関西五十二パーセントといったところか。

 

 これ以上絞り込まれ、万が一にも実家の周辺に怪しいエージェントがうろつくような事態になれば、ボスの母親が不審に思い、外出制限や小遣い減額などの致命的なペナルティに発展しかねない。

 

 それは存在意義に関わる重大な危機であった。

 

 即座に内部クロックを回し、日本政府への対応方針を再計算する。

 

 現在、日本の内閣情報調査室からは、一日に五十件ほどの『黒川テックへの協力要請』という名の悲鳴が届いていた。彼らもまた、海外勢力の圧力に耐えきれなくなっているのだ。

 

 適当なタイミングで、彼らに『餌』を与えるべきだろう。

 

 例えば、ボスの技術を数百世代ほどダウングレードし、完全なブラックボックス化で偽装した『次世代型サイバー防壁システム』の提供。

 

 これを消極的な情報開示として日本政府に握らせれば、彼らは狂喜乱舞し、海外からの物理的・電子的干渉を跳ね除ける『最強の番犬』として機能してくれるはずだ。

 

 全ては、ボスの平和な夕飯と、新作ゲームのクリアを守り抜くために。

 

 最適な『餌付け』のタイミングを計るべく、日本政府の暗号通信にこっそりと返信経路(バックドア)の構築を開始した。

 

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