科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

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転生後二十九の手

 

 

 

 モニターに映る『実家周辺』の青いドットたちが、律儀に同じルートを回っている。日本政府が誇る公安警察の精鋭たちだ。

 山奥のボロ工房の地下、その最深部にある『王座』という名のゲーミングチェアに体を沈めながら、俺はポップコーンを口に放り込んだ。

 

「あいつら、本当に真面目だよな。でも、このルーチンはプロの軍隊やテロリストからしたら『どうぞ隙を突いてください』って言ってるようなもんだぜ」

『ボス、彼らも公務員ですから。マニュアルを逸脱した不規則な動きは、組織内での評価を下げるリスクがあるのでしょう。情報の要塞を自称するには、少々心許ない「盾」ですね』

 

 ジャービスの冷静なツッコミに、俺は鼻を鳴らした。

 日本政府を番犬にしたのは悪くない判断だったが、あいつらには「法」という名の重い足枷がついている。相手がルール無用のバケモノだった場合、あの程度の装備では家族の安全は保障できない。

 

「やっぱり他人に自分の命を預けるなんて、オタクの美学に反するわ。よし、政府のパトロール網の裏側で、俺独自の『非合法』防衛システムを構築する。まずは実家を中心に、半径数キロの空域を完全に支配するドローン網を配備だ。光学迷彩と高出力EMP、指向性エネルギー兵器を積んだ死神を数千機ほど滞空させろ。蚊一匹、許可なく俺のテリトリーに入れるな」

『了解しました。配備と同時に、自衛隊のレーダー網からも認識されないよう電子的な死角を設定します。地上戦力の拡充についても、プランを策定しておきますか?』

「ああ、いつかはこのラボで眠っているアンドロイドたちを表に立たせるための『警備会社』を設立したいところだけど……まあ、それはまだ先の話だな。将来の『黒川セキュリティ』構想として、ニーアオートマタみたいな優雅で強靭なアンドロイド軍団の設計だけ煮詰めておいてくれ。ネジ一本まで独自規格、解析しようとしたら爆発するようなオーパーツ仕様でな」

 

 俺は空中に浮かぶ「未来の社員」たちの設計図を眺め、愉快な気分になった。

 今はまだ、迷宮を深く、厚くする時期だ。焦って正体を見せる必要はない。だが、物理的な暴力に対する「切り札」だけは、今この瞬間から用意しておく必要がある。

 

「それと、一番の懸念は家族が外出する時だ。母さんが買い物に行く時や、親父が仕事に行く時、パトロールの隙を突かれるのが一番怖い。……よし、トランスフォーマー技術の開発を開始するぞ」

『車両型変形ユニット、興味深い試みです』

「だろ? 普段は実家の愛車や、黒川テックの営業車として振る舞っているけど、緊急時には巨大な人型ロボットに変形して、全力で家族を保護する。ボディには俺が開発した自己修復合金と、空間湾曲シールドを搭載しろ。核爆弾が直撃しても、中の家族はコーヒーをこぼさないくらいの絶対的な安らぎを提供するんだ。まずは親父のミニバンのデータから解析を始めろ」

 

 俺はワクワクしながら、重厚な金属音と共に車体が組み替わるシミュレーションを走らせた。

 情報支配、物理防衛、そして究極の個人護衛。これらが揃って初めて、俺の怠惰な生活は真の完成を迎える。

 

『ボス、非常に過保護な……失礼、万全の構想ですね。おっと、報告です。地上の実家では、本日の夕飯が完成した模様です。お母様が「揚げたての天ぷらが一番よ!」と息巻いております』

「うわ、今日は天ぷらか! 揚げたてのサクサクを逃すわけにはいかないな。ジャービス、今の防衛ドローンの配備を即座に実行に移せ。トランスフォーマーの開発はバックグラウンドで回しておけ。俺は帰る!」

 

 俺は慌ててゲーミングチェアから飛び起きると、地下ラボの超高速昇降機へと駆け込んだ。

 世界を裏から支配し、最強の軍事力を構築する男も、夕飯の天ぷらが冷めることだけは許容できないのだ。

 

 地上へと浮上し、夕闇に溶け込む光学迷彩仕様のバイクで実家へと疾走する。

 玄関を開けると、ふわりと胡麻油の香ばしい匂いが鼻をくすぐった。

 

「ただいま! 間に合った?」

「おかえり学。ちょうど今、海老が揚がったところよ。ほら、今日はあんたが最近肉ばっかりで胃がもたれるって言ってたから、山盛りの天ぷらにしたわよ。地元の野菜もたっぷりなんだから、しっかり食べなさい」

 

 食卓には、芸術的なまでに薄い衣を纏った天ぷらが山のように積まれていた。

 母さんの「健康も大事にしなさい」という、過保護だが確かな愛情がそこにはあった。

 

「最高。天つゆに大根おろし、たっぷり入れていい?」

「ああ、好きにしなさい。そういえば学、最近この辺りのパトロールの車がよく通るわね。警察の人たちが熱心で、母さんも安心して買い物に行けるって喜んでるのよ。ありがたいことねぇ」

 

 親父が満足げに茄子の天ぷらを頬張りながら言った。

 そのパトロールのさらに上空に、一撃で軍艦を沈められる不可視のドローン網が展開されているとは夢にも思っていないだろう。

 

「へえ、いいことだね。……あ、この海老、身がぷりぷりでマジで美味いわ」

 

 俺はサクサクの天ぷらを口に運びながら、密かにほくそ笑んだ。

 実家のガレージで眠る親父のミニバンが、実は惑星一つを滅ぼせるほどの火力を秘めたトランスフォーマーに改造されつつあることも、空中に数千機の見えない死神が舞っていることも、家族は知らなくていい。

 

 この平和で、ちょっと贅沢な食卓。それさえ守れれば、俺は何度でも世界を書き換え、神にだってなってみせる。

 俺は二つ目の海老を天つゆに浸しながら、明日はどんな過剰な防衛を仕込もうかと、愉快に考え始めていた。

 

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