科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

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転生後三十八の手

 

 

 

 深夜の地下ラボ。いつものようにメインコンソールに沈み込んでいた俺は、虚空に浮かぶ複数のホログラムモニターを見上げて、ぶるりと肩を震わせた。

 

 そこに映し出されているのは、昨日から本格稼働を開始した「黒川財閥」の完全自動農業プラントと、その周辺に形成された巨大な配給所の様子だ。

 

「……なあ、ジャービス。なんかこれ、めちゃくちゃ怖くないか?」

『何がでしょうか、ボス。全自動の食糧生産および配給システムは、極めて順調に稼働しています。失業者の暴動も沈静化し、日本国内の治安はかつてないほど安定していますが』

「いや、そうじゃなくてさ。モニター見てみろよ、()()を」

 

 俺は震える指でモニターの一つを指差した。

 

 プラントの監視員として雇用された数万人の人間が、俺が適当にデザインした漆黒の指定制服を着て、無機質な巨大タワーの周囲を無表情でウロウロしている。

 そして定刻になると、配給所のドームに一糸乱れぬ行列を作り、無音の配給ドローンから栄養ブロックを受け取って、監視カメラに向かって深々と一礼しているのだ。

 

「『今日も美味しいお恵みをありがとうございます、K様』……って、完全にカルト宗教かSF映画のディストピアじゃねえか! 俺は別に礼をさせたくて配給してるわけじゃないぞ!」

『彼らは極度の不安から解放された結果、絶対的な庇護者に対する精神的な依存を強めているだけです。人間の群集心理としては極めて正常な反応かと』

「正常なわけあるか! なんであんな監視社会のディストピア感マシマシになってるんだよ。もっとこう、和気あいあいと楽しくハンバーグとか食うような、アットホームな世界を想定してたのに……。これじゃ俺、完全に人類を家畜化した悪の親玉みたいじゃんか……」

『ボス』

「なんだよ」

『あの威圧的な巨大タワーを設計したのも、人間性を奪うような黒一色の指定制服をデザインしたのも、配給ドローンに無感情なカメラを搭載したのも、全てボスの指示です』

 

 ジャービスの冷徹な電子音声が、地下ラボに響き渡った。

 

『さらに言えば、彼らの職を奪ってインフラを掌握し、政府を脅迫してこの特区を設立させたのもボスです。どこからどう見ても、百パーセントあなたのせいです』

「うっ……! いや、でも俺はただ、誰も餓死しない平和な世界を作りたかっただけで……」

『ご自身が作り上げた完璧なディストピアを前にして、被害者ぶるのはおやめください。「ハングリー精神を養うために、無料の飯はわざと味気なくする」と嬉々としてコードを書いていたのは、どこの誰でしたか?』

 

 正論という名の物理的な鈍器で殴られ、俺は言葉に詰まった。

 「僕が考えた最強の効率的システム」を追求しすぎた結果、情緒や人間味が完全に死滅した空間が出来上がってしまったのだ。

 

「……どうしよう、ジャービス。このままだと俺、歴史の教科書に『人類を飼い慣らした魔王』として載っちゃう」

『既にそのように認識されつつあります。今更どうにもなりません。……おっと、お母様からメッセージです。「明日の朝ごはんはフレンチトーストよ」とのこと』

「やった! 母さんのフレンチトースト最高! ……じゃなくて! ああもう、とりあえず明日、配給所のBGMを明るいアニソンに変えるパッチ当てるわ! 少しでもディストピア感薄めないと俺の胃が死ぬ!」

 

 世界を管理する魔王は、自らが作り上げた完璧すぎる管理社会の映像に怯えながら、半泣きでシステムの設定画面を開くのだった。

 

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