翌日、俺はディストピアと化した日本の惨状(主に俺の精神的ダメージ)を重く受け止め、黒川財閥のシステムを根底から書き換えていた。
意味のない監視業務は今日で全廃だ。あんなものを続けさせたら、国民全員が俺を崇拝するカルト信者になってしまう。俺が求めているのは、俺が何もしなくても勝手に面白いアニメやゲームが生産され、美味い飯屋が営業している自立した社会なのだ。
「というわけでジャービス、雇用の第二フェーズに移行するぞ。名付けて『人類、さっさと自立して俺を楽しませろ』プロジェクトだ」
『非常に分かりやすいネーミングですね。具体的にはどのような業務をアプリに追加しますか?』
「まずは『翻訳者』だ。俺がばら撒いた義手やら人工臓器やら農業プラントは、オーパーツすぎて一般人には使いこなせない。だから、それを社会に落とし込むためのサポート業務を全部人間に丸投げする」
画面上に、新たな職業のリストが次々と生成されていく。
最新義手のリハビリをサポートする専属トレーナー。配給される栄養ブロック(通称:謎肉)をいかに美味しく調理するか研究し、ネットでレシピを公開する料理研究家。無人ドローンが飛び交う前提の、新しい都市交通網をデザインするプランナー。
「コアな技術と設備はこっちで用意するから、あとはお前らで勝手にマニュアル作って、勝手に社会に馴染ませろってことだ。これなら神からの施しじゃなくて、真っ当な仕事になるだろ」
『なるほど。インフラの移行期間におけるラストワンマイルを、人間自身に担わせるのですね。彼らが新しい技術に適応し、民間のサービスとして完全に定着した時点で、財閥は支援から手を引くことができます』
「そういうこと。俺はいつまでも人類のお守りをする気はないからな。……で、もう一つの目玉がこっちだ」
俺はエンターキーをッターン!と無駄に勢いよく叩き、とっておきのプログラムを全世界のネットワークに放流した。
「全世界の暇を持て余した失業者に向けた、超絶クリエイティブ支援ツール群だ。脳波デバイスと連動して、誰でも頭に思い描いた通りの3DCG映画や、フルダイブ型のゲームが作れるようになる」
『労働から解放された彼らのエネルギーを、文化と娯楽の創造へ向けさせるのですね』
「当たり前だろ! みんなが働かなくなって一番困るのは、新作のゲームやアニメが出なくなることなんだよ! 暇なら作れ! 誰でも神ゲーを作れる環境は俺がタダで配ってやるから、お前らの有り余ったハングリー精神で俺を全力で楽しませろ!」
財閥の莫大な資金を使って、面白いコンテンツを生み出した奴には無条件で莫大な賞金と「超高級霜降り肉の現物」を叩きつける評価システムも組み込んだ。
人間は、パンのみにて生きるにあらず。腹が膨れれば、次は娯楽を求めるのが生き物としての
「この二つの仕事で新しい経済圏が回るようになれば、いずれ黒川財閥のセーフティネットなんてなくても世界は勝手に回るようになる。そうすれば俺は、晴れて『ただの平和な引きこもりオタク』に戻れるってわけだ」
『完璧な展望です、ボス。……ちなみに、たった今リリースしたクリエイティブ支援ツールですが、公開から三秒で日本のSNSトレンドを完全に席巻しています』
「はやっ。やっぱみんな、不安なだけで根っこは何かしたかったんだな」
『現在、元アニメーターや失業したプログラマーたちが狂喜乱舞しながらツールをダウンロードしています。三日後には、ボスの処理能力すら超える数の新作インディーズゲームが市場に溢れ返る予測です』
その報告を聞いて、俺は口元がにやけるのを抑えきれなかった。
ディストピアの神様なんて、冗談じゃない。俺はただ、快適な部屋でコーラを飲みながら、一生遊びきれないほどの神ゲーに囲まれて暮らしたいだけなのだ。
「よし。じゃあ俺は、三日後の大豊作に備えて積んでるゲームを消化しておくわ。監視業務の撤廃と新アプリのアナウンスは、適当に政府の奴らにやらせておけ」
『承知いたしました。良きゲームライフを、ボス』
こうして、人類を熱狂のカルトから引きずり戻すための「一億総クリエイター&サポート化計画」は、俺の極めて個人的な欲望を原動力にして幕を開けたのだった。
なんか求めてた方向性と違う……