科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

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転生後四十の手

 

 

 

 黒川財閥の設立から数ヶ月。

 俺がばら撒いた新インフラへの移行が進み、世界経済の混乱は一旦の落ち着きを見せ、俺の周囲にはようやく平和で怠惰な日常が戻ってきていた。

 

「いやー、やっぱ地球が平和なのが一番だな! 新作ゲームのマルチプレイも過疎らなくなったし、最高だわ」

『ボスの強権的なセーフティネット構築により、世界全体の暴動発生率は過去最低水準を記録しています。人類は現在、かつてないほど安定した箱庭の中で生かされていますね』

「人聞きの悪い言い方するなよ。俺はただ、快適なネット環境とエンタメ業界を死守しただけだ。……だが、足元が固まってきたとなると、ゲーマーとしてはやっぱり次の()()()()()が欲しくなるよな」

 

 俺は飲みかけのコーラをデスクに置き、地下ラボのメインモニターに世界地図、そしてその先の『宇宙』を映し出した。

 

 食糧問題も経済問題も力技で解決した今、俺の興味は完全に地球外へと向いていた。

 地下の3Dプリンターやナノマシンを使えば、SF映画みたいな宇宙船を作ることも物理的には可能だ。だが、それを日本国内の実家周辺でやるのは流石に目立ちすぎるし、何より騒音が近所迷惑になる。

 

「というわけでジャービス。赤道直下の太平洋上に、宇宙開発専用の島を一つ作るぞ。ロケットを打ち上げるなら、地球の自転速度を一番利用できる赤道上が一番効率がいいからな。秒速約四百六十メートルのブーストは馬鹿にできない」

『承知いたしました。太平洋の公海上、赤道直下のポイントに、ナノマシン群と建設ドローンを投下します。基礎となる人工島の面積は直径約五キロメートル、二十平方キロメートルほどでよろしいでしょうか?』

「ああ、とりあえずそのくらいのサイズでいい。滑走路と打ち上げ施設、あとは俺の別荘もついでに建てといて。完成したら、各国のトップに『明日から俺の島で宇宙開発始めるからよろしく』って一斉メールしといてくれ」

『了解しました。数日以内に基礎工事を完了させます』

 

 数日後、俺が適当に送信させた一通の通達メールは、再び世界のトップたちを阿鼻叫喚の渦に叩き落とすことになった。

 

 アメリカ、ワシントンDC。ホワイトハウスの緊急会議室では、大統領が顔を真っ赤にして机を叩いていた。

 

「ふざけるな! 太平洋のど真ん中に勝手に島を作り、そこを領土として宇宙開発を行うだと!? 海洋法条約にも宇宙条約にも完全に違反しているぞ!」

「大統領、すでにあの『K』のドローン群によって、目標海域には巨大な人工島が物理的に形成されつつあります。衛星写真の解析によると、信じられない速度で大規模なマスドライバーや発着ドックらしきものが建造されています!」

「なぜ我々のレーダーは島の建設工事を事前に察知できなかったんだ! 宇宙の覇権まであの名もなき存在に握られてたまるか。直ちに第7艦隊を派遣し、国際法違反を理由にあの島を封鎖しろ!」

「無茶です! 相手はあの黒川財閥ですよ! 迂闊に手を出せば、我が国のインフラごとシステムを停止させられかねません!」

 

 一方、ユーラシア大陸の巨大国家群も、このKの横暴に対して一斉に牙を剥き始めていた。

 

「我が国が数十兆を投じて進めていた月面開発計画が、あのような正体不明の個人の気まぐれで出し抜かれるなど絶対に許されん」

「直ちに国連を通じて非難決議を採択しろ。宇宙は全人類の共有財産だ。あの人工島での技術開発は、我が国を含む国連常任理事国との『共同開発』でなければならないと圧力をかけるんだ」

「Kの持つオーバーテクノロジーの宇宙船など、事実上の軌道兵器に等しい。あのような軍事拠点を公海上に作らせるわけにはいかない!」

 

 世界中の大国が、地球という泥沼から自分たちを置いて軽々と宇宙へ飛び立とうとするKに対し、焦りと嫉妬から猛烈な抗議声明を発表し始めた。

 しかし、俺からすればそんなもの、オンラインゲームのチャット欄で騒いでいる外野のノイズと何ら変わりはない。

 

「なんか大陸の方の国とかアメリカが『国際法がー』『宇宙の覇権がー』ってめちゃくちゃキレてるな。俺はただ、自分の作った宇宙船で安全に遊ぶための砂場を作っただけなのに」

『国家という枠組みに固執する彼らにとって、宇宙空間の制海権を一個人に完全に掌握されることは、国家の優位性の喪失を意味するからです。共同開発の要求や、島への査察団派遣の要請が数千件届いていますが』

「全無視で。来るなら勝手に来ればいいけど、島周辺の不可視シールドで全部弾き返せばいいだろ。よし、第一号の宇宙船の設計、やっちゃうか!」

 

 各国の首脳が青筋を立てて声明文を読み上げている頃、俺は鼻歌交じりで、深宇宙探査用のトンデモ宇宙船のモデリングに熱中していたのだった。

 






 ここまで来たら行くとこまで行ってみようと思う
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