科(化)学系チート持ち転生者のお話   作:金属粘性生命体

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 さぁ闇堕ちルートのはーじまーりーだー


闇堕ちルート
転生後闇堕ちの一手


 

 

 

 

 目が覚めた時には、既に孤独だった。

 

 薄暗く、常に酸っぱい悪臭が漂う路地裏。ひしゃげたトタン屋根を叩く汚れた雨の音だけが、世界との唯一の繋がりだった。

 自分の正確な年齢など分からない。発育不良で骨と皮だけになった細い腕や、濁った水たまりに映る幼い顔の輪郭から推測して、おおよそ五歳前後といったところか。

 親の顔も知らない。ただ、この掃き溜めのようなスラムの生態系を観察する限り、母親は日銭を稼ぐために春をひさぐ娼婦(しょうふ)であり、俺はただの望まれぬ副産物として産み落とされたのだろうと、極めて客観的に察している。そこに悲哀や寂寥感は一切ない。ただ、事実としてそうであるというだけだ。

 

 俺の脳内には、前世と言うべきかつての穏やかな日本の記憶と、それに付随する形で異常なまでの『情報』が詰め込まれていた。

 

 人類がこの先数百世紀(せいき)をかけて到達するであろう、あらゆる未来科学の知識。さらには、フィクションの産物でしかない空想科学すらも現実に構築できるという、文字通りの()()()()だ。俺の自我は極めて強固に保護されており、どれほど異常な情報量や残酷な現実に直面しようと、精神が焼き切れることも、発狂することもない。

 

 だが、今の俺にとって、そんなものは何の役にも立たなかった。

 

 如何に脳内に完璧な反重力エンジンの設計図があろうと、ナノマシンによる細胞再生の数式が浮かんでいようと、それを形にするための「力」と「設備」がなければ無力だ。

 現に俺はこの数年間、スラムのゴロツキどもに日々の僅かな食料を奪われ、抵抗する間もなく蹴り飛ばされてきた。餓死寸前の脆弱(ぜいじゃく)な幼子の肉体では、大人の暴力に対して反撃の糸口すら掴めない。

 どんなに高度な知識も、物理的な力とそれを振るう環境がなければ、ただの頭の中の妄想に過ぎないのだということを、嫌というほど思い知らされた。

 

 それでも――知識がなければ、この理不尽な()()に対抗する術すら永遠に失われる事もわかっている。

 

 もし俺がただの五歳の子供であったなら、とうの昔に栄養失調か感染症で道端のゴミに変わっていたはずだ。脳内にある知識から「絶対に飲んではいけない水」を判別し、「最低限のカロリーを摂取できる虫や雑草」を選別できたからこそ、今日まで泥水を啜りながらも生き延びることができた。

 

 だから俺は、決して諦めない。

 この不快で非合理的なスラムという概念そのものを、俺の持つすべての知識を使って徹底的に蹂躙(じゅうりん)し、俺の生存を脅かすあらゆる障害を物理的に排除するために戦い続ける。

 

「……まずは、手持ちのカードで盤面をひっくり返すしかないな」

 

 俺は痛む肋骨を押さえながらゆっくりと立ち上がり、冷たい酸性雨が降り注ぐスラムの奥へと歩き出した。

 向かう先は、今の俺でも辛うじて手を出せる、スラムの外れにある巨大なゴミ溜めだ。

 

 鼻をつく強烈な腐臭(ふしゅう)と、錆びた鉄の匂い。都市部から不法投棄された産業廃棄物が山を成すその場所は、他者からすれば疫病の温床でしかない地獄だ。

 だが、いまの俺にとっては唯一の希望が眠る宝の山だった。

 

「ここで何かしらの道具を作れたら……」

 

 独り言を呟きながら、俺は何のためらいもなく悪臭を放つ泥水の中に両手を突っ込んだ。

 

 狙うのは、廃棄されたモーターに巻き付いたエナメル線、使い古された磁石、そして微かに化学反応を起こせるかもしれない液漏れしたバッテリーと、頑丈な鉄パイプだ。

 高度な設備など必要ない。俺の脳内にある数億の設計図の中から、今の劣悪な環境と材料でも作れる、最も原始的で、かつ最も確実に『人間の肉体を破壊できる』道具の構造を検索し、引っ張り出す。

 

 【手回し発電式による高圧スタンガン】。そして、【廃材と火薬を用いた使い捨ての密造銃】。

 

 殺しに洗練さなど求めていない。確実に対象の命を奪い、俺の身の安全を担保する『牙』さえ手に入ればそれでいい。

 冷たい雨に打たれながらゴミを漁る俺の心は、極めて冷静で、微かな高揚感すら帯びていた。

 

 世界を焼き尽くす悪魔の胎動は、この名もなき泥に塗れたスクラップの山から始まるのだ。

 

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